英に課題山積、待ったなし 物価高、ウクライナ、対中―トラス氏、存在感示せるか
英に課題山積、待ったなし 物価高、ウクライナ、対中―トラス氏、存在感示せるか
Jiji Com., 2022年09月05日21時00分

5日、ロンドンで、笑顔を見せるトラス英外相(AFP時事)
トラス英外相が与党保守党の党首選で勝利し、英国で3人目の女性首相に就任する。良くも悪くもカリスマ性があり、パフォーマンスにたけていたジョンソン首相の後任として存在感を示せるか。トラス氏は待ったなしの内外の課題といきなり向き合うことになる。
◇やっと1位
3位、3位、3位、3位、2位―。党所属下院議員による党首選の第1~5回投票でのトラス氏の得票順位だ。スナク前財務相が全ての投票でトップを走ったのとは対照的に、トラス氏は下位で脱落した候補の支持票を少しずつ獲得し、全党員が参加した決選投票で初めて1位となり、党首の座をつかんだ。
スナク氏は7月初めに財務相を辞任し、今でも一定の人気を保つジョンソン氏の首相辞任への引き金を引く形となった。スナク氏に対する「アンチ票」や、インド系のスナク氏への「アレルギー票」もトラス氏に集まったとみられる。
こうした「消極的選択」も作用して当選したトラス氏をまず待ち受けるのは、ロシアによるウクライナ侵攻などを受けて市民生活を直撃している電気やガス料金高騰への対策だ。
「私は懸命に働く人の側に立っている」。トラス氏は8月31日に行われた最後の演説会で、減税を通じ景気回復を目指す考えを改めて強調した。しかし、現実は厳しい。
7月の英消費者物価指数(CPI)は前年同月比10.1%上昇と、約40年ぶりの伸びを記録。物価沈静化の特効薬は見当たらない。トラス氏は「減税を実施する。法人税を低水準に保ち、投資を呼び込む」と訴えるが、英経済は10~12月期からマイナス成長が見込まれ、財源問題などハードルは低くない。
新聞には「厳しい予算でもおいしく」と、自衛に走る市民に向けて食材の特売品を載せたスーパーの広告が並ぶ。下院の任期は2024年末まで。かじ取りを誤れば、トラス政権は2年余の短命で終わる可能性もある。
◇アピール力、未知数
「ウクライナ人全員が悲しんでいる」。7月7日にジョンソン首相が辞意を表明すると、ウクライナのゼレンスキー大統領はすぐに通信アプリで退陣を惜しんだ。ジョンソン氏は4月に、先進7カ国(G7)首脳で最初に、侵攻後のウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問。8月24日にはウクライナの独立記念日に合わせて首都を電撃訪問し、軍事支援を約束するなど、一貫して主導的役割を果たしてきた。
トラス氏も外相としてウクライナ支援に直接関わってきており「英国はプーチンに立ち向かう。プーチンが負けることが(民主主義にとって)必須だ」と訴える。路線は踏襲されるとみられるが、ジョンソン氏のように国際世論に巧みにアピールできるかは未知数だ。
安全保障のカギとなる中国への対応も課題だ。英国は昨年、中国の脅威を念頭に、オーストラリアの原子力潜水艦建造に協力する米豪との安保枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設した。英紙タイムズは、トラス氏が首相に就任すれば、中国を安保上の「脅威」に初めて認定する意向だと報じた。トラス陣営の関係者は「外相就任以来、中国への姿勢を厳しくしており、首相としてもタカ派的な立場を取り続けるだろう」と述べている。(ロンドン時事)