集団自衛権報告書「異質の国」脱却の一歩だ
産經新聞
■行使容認なくして国民守れぬ 日本の安全保障政策の大きな転換につながる集団的自衛権の行使について、政府の有識者会議が憲法解釈の変更で容認することを求める報告書を安倍晋三首相に提出した。 首相は記者会見で「いかなる危機にあっても国民を守る責任がある」と述べ、本格的な与党協議に入る考えを表明した。 日本の平和と安全、国民の生命・財産を守るため、当然の政治判断がようやく行われようとしていることを高く評価したい。 早期に与党合意を取り付け、自衛隊法など必要な関連法の改正などに取り組んでもらいたい。
《緊張への備えは重要だ》 なぜ今、集団的自衛権の行使が必要なのか。それは、厳しさを増す安全保障環境を乗り切るため、日米同盟の信頼性を高め、抑止力を強化する必要があるからだ。 報告書は「一層強大な中国軍の登場」に強い懸念を示した。「国家間のパワーバランスの変化」から「特にアジア太平洋地域」の緊張激化を指摘した。
中国は東シナ海では尖閣諸島の奪取をねらっている。南シナ海ではフィリピンやベトナムを相手にスプラトリー(南沙)、パラセル(西沙)諸島などを奪おうとしている。力による現状変更を図る試みは受け入れられない。 東西冷戦の時代であれば、日本が個別的自衛権の殻に閉じこもっていても、米国は仮にソ連の攻撃があれば日本を守っただろう。 だが、今や米国に一方的庇護(ひご)を求めることはできない。オバマ政権はアジア重視の「リバランス」(再均衡)政策をとるが、国防費は削減の流れにあり、米国民も海外での軍事行動を望まない。 集団的自衛権の行使容認で日本が責任を分担する姿勢を明確にし、地域の平和と安定のため、今後も米国を強く引きつけておく努力が欠かせない。 朝鮮半島有事の際、日本人を含む各国国民を避難させる米軍の輸送艦を自衛隊が守ることは、集団的自衛権の行使にあたるため、現状では困難とされる。安全保障の法的基盤の不備から、国民を守ることができない。 米軍将兵は命をかけて日本の防衛にあたる。その同盟国が攻撃を受けているのに、近くにいる自衛隊が助けなければ、真の絆を強められるだろうか。日本の国際的信用も失墜しかねない。 集団的自衛権の行使を認めれば戦争に巻き込まれるといった批判がある。だが、むしろ行使容認によって抑止力が向上する効果を生むとみるべきだ。外交努力に加え、同盟や防衛力で戦争を未然に防ぐ必要がある。 過去の内閣法制局の憲法解釈を金科玉条のように位置付け、変更は認められないとの主張もある。だが、過去にも憲法66条の「文民」の定義で現職自衛官を外すなどの解釈変更は行われた。
《グレーゾーン対応急げ》 そもそも、憲法が行使を許す「自衛のための必要最小限度」の中に、集団的自衛権を限定的に含めるのは、国の守りに必要である以上、当然だ。危機を直視せず、十分な抑止力を使えない不備を放置すれば「憲法解釈守って国滅ぶ」ことになりかねない。 与党協議に向け、公明党は行使容認に慎重な態度を崩していない。だが、通算11年以上、自民との連立で政権を担当してきた。安全保障面でも国家や国民を守る責任を等しく負っている。行使容認への接点を探ってもらいたい。 容認に前向きな日本維新の会やみんなの党などと党派を超えた議論も加速すべきだ。 有識者会議の報告書のうち、武力攻撃手前の侵害である「グレーゾーン事態」への対応や、国連平和維持活動(PKO)での「駆け付け警護」を容認する点などは、公明党を含め多数の政党の理解が広がっている。 漁民に偽装した中国の海上民兵や特殊部隊が、尖閣に上陸して占拠しようとするケースもグレーゾーン事態だ。これに対応する領域警備の法整備は急務だ。 一方、国連安保理決議に基づく多国籍軍への自衛隊の参加などの提言を、首相が「海外での武力行使」にあたるとの従来の解釈に立ち、採用しない考えを示した点は疑問もないわけではない。 自衛隊の活動への強い制約を解くことが課題である。内外に表明している積極的平和主義の具体化へ、現実的対応を求めたい。 | ||
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