理想のディスプレイではない液晶が
認められた理由
液晶テレビ。全世界で見ない日はない、世界標準ともいうべきテレビです。ところが、この液晶テレビ、実使用に耐えるのかはおいておくとして(実用上それなりなのは知っての通り)、ただテレビを知っている人から言うと、まぁ、理想とかけ離れたディスプレイです。
![](http://wedge.ismedia.jp/mwimgs/e/3/250/img_e3af47f13591f4c45f0f3b692265df54364417.jpg)
視野角が狭い、応答性が悪く、黒がでない。ここで黒が不十分というのは、他の色にも影響します。つまり、液晶テレビの色は悪いのです。
液晶テレビと言いますが、カテゴリーは平面テレビ。平面テレビの特長は、デジタル放送の目指しているものと一致します。それは「大画面」で「キレイ」に見ることができるということ。それまでのブラウン管は、ハイビジョン化もできました。しかも「キレイ」です。できなかったのは大画面。かなり大きくはしましたが、36インチで、約100kg。物理的に限界。家に入れると模様替えもできないです。
それに対し、平面テレビは全然軽い。50インチで30kgくらい。薄いので設置自由度が高い。大型にしても苦になりません。ちなにもハイビジョンは42インチが基本、4Kは60〜80インチが基本になります。デジタル放送の面白さを享受する上では、大型テレビ、つまり平面テレビがイイわけです。
では、なぜ液晶テレビで、対抗馬のプラズマテレビが出なかったのでしょうか? プラズマテレビは、自己発光型のデバイスですので、画質は液晶テレビより圧倒的に優れます。とにかく、黒がキレイなので、画が極めてナチュラル。明るいところの画は液晶でもキレイですが、やや暗めになると差はでてきます。また視野角、応答性の差も出ます。
しかし、液晶ディスプレイは、どこにでも使われます。PC、スマホ、家電。まぁ、今、ディスプレイ、特に小型ディスプレイで液晶を使わない所はないでしょう。プラズマの弱点は省エネ性です。が、単純に捉えてはいけません。夏など、見事、見事としか表現できないくらい熱くなるのです。これはエネルギーの変換効率が悪いためです。
冬は暖房がいらないと言った人がいますが、至言。その通りです。この差でしょうね。液晶テレビが順調に数量を伸ばしたのに対し、プラズマが伸び悩んだのは。画質、画質と盛んに書きましたが、欠点はドンドン補われて行きますし、見慣れると「OK」レベルかと問われると、許せる範囲です。
ただ、最後まで、プラズマテレビにこだわったパナソニックの名誉のために付け加えさせてください。画質は、プラズマに追いつくことはできませんでした。また、プラズマの省エネ性能も上がり、同時代の液晶テレビには差を付けられていますが、数年前の液晶テレビまで追いつきはしました。
そんな中、液晶に負けることがない自己発光デバイスを使ったテレビとして注目されたのが有機EL(現在のOLEDのこと。どちらも同じモノです)です。プラズマで出遅れたソニーは特にご執心だったデバイスです。2007年には、11インチ型ながら、「世界初!」で販売してます。21世紀に入ってから、20世紀と大きく変わったことがあります。
とにかく、基礎研究で成果がでなくなったのです。あの青色LEDも、無理ではないかと言われた基礎研究の一つですが、研究開始から数十年で一つの解答を得ることができました。
基礎研究は、その解答が得られてないものですからね。難易度のレベルが並みではありません。基礎研究(技術)が厳しいモノは、開発研究(技術)、生産研究(技術)、評価研究(技術)全部厳しいです。
日本の会社に欠落したモノ
昔のソニーは天上天下唯我独尊
ソニーは技術屋集団の会社と言われてきました。私からすると、表現が違いますね。昔のソニーは、天上天下唯我独尊。自分が持っている技術にとことんこだわった、極めて諦めの悪いメーカーでした。
![](http://wedge.ismedia.jp/mwimgs/b/5/300/img_b57a68319983cc542ad6e0b21d1bb44429550.jpg)
イイ例が、β VS VHSです。市場に詳しい人なら、当時の松下電器、現在のパナソニックがVHSに荷担した時点で撤退を考えます。が、当時のソニーはそうではないですね、諦めが悪い。S-VHSが出た当時でも、ED βで対抗しました。S-VHSは画質がスゴイ、髪の毛一本一本まで見える。βに引導を渡すんだと意気込んでいましたが、いざフタを開けると画質はED βの方が上。
天晴れな技術、そして諦めの悪さです。対して今はどうでしょうか? 経営が厳しいのは分かりますが、あまりにも諦めが良くないでしょうか? リーマンショック以降、日本メーカーは、皆諦めがよくなりましたね。
これは、その技術、商品を作り上げた者がいなくなり、サラリーマン社長になったことも大いに関係していると思います。が、先に書いた通り、技術の根幹は、時間が掛かるところです。時間が掛かるということは、人と金も掛かると言うことです。
こんな原則を、日本の会社が認めなくなったような気がしています。
なぜ、LGは頑張れたのか?
有機EL(OLED)は、2014年にパナソニックが諦め、ソニーが諦めました。
その前後に韓サムソンも撤退を表明しています。諦めなかったのは、韓LG(正確にはLGディスプレイ)です。なぜ、LGは頑張れたのでしょうか?
![](http://wedge.ismedia.jp/mwimgs/d/8/400/img_d8a6b32fec9f9171bdbdede0982d8b5b184733.jpg)
ここからは推測です。韓国総合家電メーカーのトップは、サムソンです。LGは二番手。お付き合いすると分かるのですが、サムソンはどちらかというと頭で考え、OK、NGを判断します。で、NGと判断すると、実際にテストとかしていなくても、その先に進めません(例外もあります)。
LGは、サムソンと比較すると、現地現物主義です。現地現物主義というのは、テストしてテストして、その結果で判断する方法です。そして韓国は財閥系ですからね。
その中で、助け合うことができます。日本の大企業と言えども、韓国の財閥のようなアクションはできません(日本の大企業が損得で動くなら、韓国の財閥は義理人情で動ける時があるという表現なら分かりやすいでしょうか?)。
![](http://wedge.ismedia.jp/mwimgs/c/9/250/img_c9bcbf1b311b700c2b2755655c64d31d405125.jpg)
世界初、日本メーカーもサムソンも諦めた技術。でも、今までで最も理想に近いディスプレイができるかも知れない。LGは総力を挙げたでしょうね。そして、65インチ型という今までにない大型OLED(有機ELディスプレイ)の量産、販売に成功したわけです。念のため言っておきますが、素材は自社生産ではありません。日本メーカーから買って、大型パネルの量産をするのに成功したのです。
それでも、これはスゴいことで、IFA 2015の基調講演、そのトップを飾り、「私は成し遂げた!」「OLEDは理想のディスプレイだ」という勝利宣言はあってしかるべきでしょう。実際、90分そう言い続けました。まぁ、それだけの価値のある開発であることは事実です。
画質勝負は、まだ先があることを示したパナソニック
そんな中、画質勝負は、まだまだ先があるというデモンストレーションをしたのはパナソニックです。LGディスプレイから調達したOLEDパネルに、自社の制御回路を付けた65V型で証明してくれました。
対戦相手は、プラズマテレビ。自信を持って販売していたプラズマテレビですから、OLEDは次世代と言い切ることができるわけです。実際、パナソニックのOLEDテレビの画質はスゴかったです。プラズマが肉眼で見た画とすると、OLEDはその画を「虫眼鏡で克明に見せてくれる画」です。一瞬、作りモノかと思ったほどの緻密画質ですからね。もう並みではありませんし、液晶云々いうレベルでもないです。比較にすらなりません。
パナソニックは、数十年、ハリウッドと画質の研究をしています。放送機器技術も含め、先行投資ですね。成果は、DVD、BDの画質など、いろいろな所に現れています。今回の65インチ型テレビも、ハリウッドのサポートが入ったように聞いています。メーカーが販売するのは商品であり、技術ではありません。商品は、技術の集積ですから、パネル製造メーカーよりも画質がイイのはある話です(液晶テレビもそうでした)。
![](http://wedge.ismedia.jp/mwimgs/f/4/400/img_f47b883ca4618f7682ef9e13f93cdbc7339114.jpg)
写真では分かりにくいが、黒がしまっている上に、濃淡の描き分けも
申し分ない。液晶テレビとは、完全に一線を画す画質を作り出している
ちなみに、個人的な感想を素直に言いますと、「お金を出しても欲しいテレビが出てきた!」です。
日本市場への影響
ここまでIFA、海外で評価されているOLEDテレビの日本市場への影響はどうでしょうか? 私はたちまちのうちには影響なしと踏んでいます。まず、日本の各メーカーはテレビ事業を立て直すために、4K化に必死に取り組んでします。4K自体、声高に叫ぶほどの魅力は少ないのですが、10年前に買ったテレビの買い換えとしては、値もこなれてきています。
一方、OLEDは……というと、高い。画質はイイのですが、1.5〜ほぼ倍の価格。しかもパナソニックの画質レベルならともかく、LGの画質では高すぎでしょう。かなり画質にこだわる人や、普通のユーザーでも、液晶4Kテレビの満足度が低いかというと決してそうではありませんからね。
ただOLEDテレビは、台数が出ると当然値も下がりますし、制御回路も改良されますので、画質も上がります。このため数年後、「液晶、古い古い。OLEDが当たり前だろう」と言われても、おかしくないと思っています。そういったポテンシャルがあるのは事実です。
その時に、日本メーカーはどの様な対応をいするのでしょうか? テレビ分野は、技術も、パネルも基本は海外。日本は調整回路で勝負。順当な線でしょうね。それで成功しているメーカーもあります。パソコン用にディスプレイを供給しているEIZOです。写真用、医療用他、パソコン系で高画質が必要な時は、必ず名前が挙がります。
ただ膨大なパソコンディスプレイに対し、EIZOのシェアはすごく少ないのも事実です。少なくともテレビの中で、日本メーカーが供給するテレビのシェアとは比較になりません。要するに、何社かは、脱落すると思います。
日本のテレビ技術とは何か? その根本的な問いに、メーカーとして答えなければならない時が来たように思います。