中国とロシア、矢継ぎ早に経済協力体制構築
極東地域ばかりかロシア全土に、日本が参入できる余地はあるか
大坪 祐介
Japan Business Press
2018.9.18(火)
今年も9月11~13日の日程で東方経済フォーラムがロシアのウラジオストックで開催された。
同フォーラムはロシア極東地域の経済発展のために2015年にウラジーミル・プーチン大統領の肝いりでスタートした国際経済会議である。
ロシア側の参加者をみると、プーチン大統領はじめ主要閣僚、主要企業経営者が多数参加しておりロシア政府の同フォーラムへの力の入れ具合が窺い知れる。
中露関係親密化の勢い加速
今年は日本、中国、韓国、モンゴルの首脳が参加、開催前には北朝鮮の金正恩総書記の出席まで取り沙汰されたため、国際政治面での注目が高まっていた。
日露関係ではフォーラム前日の10日に日露首脳会談が行われ、共同記者会見では両国の政治、経済両面での関係進展が確認されたが、予想の範囲を超えたものにはならなかった。
日本のニュースでの中継画面をみると、東京から3時間で到着する安倍晋三首相に比べ、モスクワから8時間かかるプーチン大統領の疲労した顔つきが印象的であった。
11日には露中首脳会談が行われ、プーチン大統領は両国の今年の貿易額が1000億ドルを超えることを確信していると述べた。
中国当局が9月初に発表した本年1-8月の両国の貿易額は675億ドル、前年比+25.7%である。年末にかけて貿易額が増加することを考慮すると1000億ドルの大台に達するのは難しい課題ではない。
しかもロシアにとって好ましいのは同期間の対中輸出額が363億ドル(前年比+38.5%)と輸入額311億ドル(同+13.5%)を上回って推移していることである。
共同記者会見でのプーチン大統領の顔つきが心なしか柔らかくなっているように感じたのは必ずしも筆者の思い込みだけではあるまい。
12日の5カ国首脳による全体会合はプーチン大統領による「年内の(日露)平和条約締結」提案などもあり、なかなか見ごたえのある会議であった (筆者はネットの同時中継を視聴していた)。
ロシアにおける中国のプレゼンス拡大については前回の拙稿、ワールドカップ観戦記でも述べた通りである。
今回のワールドカップではFIFA公式スポンサーとして中国企業は8億3500万ドル、広告費全体のの3分の1以上を支払ったと言われる。
ロシアに多額のお金を落とす中国人
また大会期間中にロシアを訪れた中国人観光客は7万人とプーチン大統領は述べている。
実際、この期間のモスクワのグムやツムといった高級デパートには中国語の宣伝があふれ、高級レストランでは中国語メニューが用意されていたことからも、これらの観光客が多額のお金を落としていったことは間違いあるまい。
ロシア極東における中国の進出状況はどうなっているのだろうか?
トルトネフ副首相によれば中国はロシア極東における投資の7%を占めている(9月9日ヴェドモスチ)。
12日の東方経済フォーラムの全体会合では、プーチン大統領は中国による極東地域への投資は30件、総額2000億ドルに上ると述べた。
数字だけではピンとこないので、本年6月の露中首脳会談以降の両国の経済関連記事を改めて確認してみた。資源関係は日本でもある程度報じられているので、それ以外の分野に注目してみたい。
- 中国 Sinomec社はナホトカ肥料プラントにおけるメタノール、肥料製造のプロジェクトに参加表明。
- 中国Cofco Coca-Cola Beverage Ltdは極東およびバイカル地方でのミネラルウォーター製造工場建設に60億ルーブル(96億円)投資を計画。 同社は既にカムチャッカ州でミネラルウォーターを製造、中国国内で販売している。
- 中国 Dalian Wenlian Aquaculture社は極東において900ヘクタールの水産養殖に5億ルーブル(8億円)投資、極東開発ファンドからの出資を得て将来的には4000ヘクタール、50億ルーブル(80億円)を投資する計画。 同社は沿海州において1300ヘクタールのホタテ養殖を行っている。
- 中国Yantai Tongxiang Foods社は沿海州でナマコとホタテの養殖に13億ルーブルを投資、現状1100ヘクタールを5000ヘクタールに拡大。さらにサーモン養殖にも進出。
- Port Hebei(河北省)は沿海州で穀物積み出しのための港湾建設に投資。
- 中国 Harbin Dongjin Groupはハバロフスク地方に穀物積み出しのための河港を建設、投資額は2900万ドル。
- 極東海運会社FESCOとZIH(河南省)はウラジオストックと鄭州市を結ぶ定期貨物列車運行に合意。
― 中国Dongfang Groupはハルピンから牡丹江を経由してウラジオストックに至る高速鉄道を建設中。中国国境の綏芬河からウラジオストックの180キロの建設コストは約70億ドル。
- 中国Pingmei Shenma Energy Chemical Groupとイルクーツク石油会社は天然ガス・石油コンビナート建設のためのJVを設立、コンビナート建設コストは57億ドル。
このように毎週のように中国企業による大小プロジェクトの報道がなされている。もちろん発表されたプロジェクトがすべて実現する保証はないのだが、投資の種は数多く蒔くにこしたことはない。
だが中国のロシア進出は極東に限られた話ではない。
ロシアと中国は2018-19年を両国の地方交流の年と定めている。今回の東方経済フォーラムにも9つの中国の地方政府、このパートナーとなるロシアの13地方政府が参加、極東同様に様々なプロジェクトが合意されている。
極東以外に地方交流が続々
- 中国Wuhuan Engineering社はサラトフ州において肥料工場建設契約に調印、投資額は14億ドル。
- 中国Haval社(Great Wall Motorのグループ会社)はトゥーラ州において年産8万台の自動車組立て工場を2019年に稼動、将来的には年産15万台目標。― 中国Meisenyuan社はオムスク州において露ExportLes社と製材工場を建設、投資額は2200万ドル。
筆者は十分にフォローしていないのだが、中国外務次官の発言によると中国とロシアには「北西中国とロシア極東」のほかに「ボルガ-長江」という協力プログラムが存在するらしい。
地方の発展を期待するロシア側と、「一帯一路」にロシアを取り込みたい中国側の利害が一致した結果であろう。
その実例の一つが「Russia-China Expo」である。
今年は5回目となる同博覧会がワールドカップの1次予選が終った7月初にウラル地方の工業都市エカテリンブルグで開催された。
しかもロシアで最大規模の産業展示会であるイノプロムと同時開催という挑戦的なセッティングである。
というのも、イノプロムには毎年パートナーカントリーが選定され、昨年は日本、今年は韓国であった。
パートナーカントリーは主パビリオンで大規模な展示を行うのだが、その隣で中国は189の企業・地方政府が参加して5000平米以上の展示を行ったのである。
昨年のパートナーカントリー日本は168社、4000平米であったので、まるでパートナーカントリーが2カ国参加するようなものである。
ロシアのEコマースへ中国企業続々進出
そして筆者が一番驚いているのは中国によるロシアのデジタルエコノミー分野への積極的な進出である。特に注目すべきはEコマース分野への中国企業の進出であろう。
今回のフォーラムでは中国のEC最大手アリババとロシアの大手インターネットサービスMail.RUグループ、それにロシア政府系投資ファンドRDIFがJVを組成することが正式に発表された。
同JV はロシアにおけるEコマースのプラットフォームとなることを目指している。
アリババ傘下のマーケットプレイスであるAliExpressは既にロシアで営業を展開しており、海外ショッピングでは
最も人気のあるサイトとなっている。
アリババはロシアのEコマースビジネスで最大のネックとなっているロジスティクスについてロシア側と協力して解決し事業拡大を図る方針である。併せてロシアの優秀な頭脳資源を活用してAI分野での事業開発も検討している。
他方、中国EC大手のJD.comもロシア市場への再参入を表明した。
同社は2015年にロシア市場に進出していたが、ロジスティクスや営業コストの問題で一時撤退を余儀なくされた。上述の通りロシアにおけるEコマースビジネスの最大のネックはロジスティクスである。
今回、同社はロシア国内最大手スーパーマーケットチェーンX5グループと事業提携する戦略で再参入を図った。
すなわち、X5グループがロシア全国に展開する配送網を活用、その1万3000店舗を商品受渡し拠点として利用するのである。同社の株主であるテンセントが展開するメッセンジャーサービスWeChatとの相乗効果も検討している。
日本企業の進出余地は?
Eコマース分野では、国内勢ではロシアのグーグルと言われるヤンデックスと国内銀行最大手ズベルバンクが共同してEコマースプラットフォームを目指すことを発表されている。
中国の2大Eコマース企業が本格的に営業を開始するなかで、国内企業がどこまで対抗できるのか注目したい。
また、ロシアには参入を見送っている米アマゾン・ドットコムが、こうした状況を見極めていつロシアに参入するのか(あるいは見送るのか)、興味は尽きない。
そしてロシア市場においてわが国のEコマース企業が参入する余地が残されることに期待したい。