南北首脳会談 非核化進展と見るのは早計だ
南北間の緊張緩和だけでは、北朝鮮の非核化につながらない。
韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が平壌で会談し、合意文書「平壌共同宣言」に署名した。
金委員長は記者発表で、朝鮮半島の非核化に向けて、「積極的に努力することを確約した」と述べた。これを、核放棄を決断したと捉えるのは早計である。
北朝鮮の核・ミサイルの脅威削減に関して、共同宣言に盛り込まれた措置は限定的なものだ。
東倉里のミサイル発射台とエンジン実験場の廃棄は、すでに着手済みで、関係国の専門家が立ち会うことを認めたに過ぎない。
寧辺の核施設の恒久的な廃棄には、「米国が相応の措置をとる」という前提条件を付けている。
核兵器を温存したまま、非核化の措置を小出しにして、米国から体制保証などの見返りを引き出そうとする戦術に変わりはない。
国際原子力機関(IAEA)は北朝鮮が核開発を継続していると警告を発している。金委員長は、核施設の稼働を停止し、全ての核兵器や関連物質の申告と核弾頭の廃棄を進めねばならない。
トランプ米大統領が、南北首脳会談の結果を手放しで評価しているのは気がかりだ。
非核化の停滞の一因は、6月の米朝首脳会談の合意が曖昧だったことにある。金委員長の求めに応じて再会談を拙速に行えば、同じ
金委員長は、近くソウルを訪問すると約束した。南北間の軍事的な緊張緩和策や、鉄道・道路の連結に向けた着工式の年内開催も、共同宣言に盛り込まれた。
韓国内の融和ムードが一段と高まるのは間違いない。北朝鮮への抑止力低下を招かないよう、細心の注意を払う必要がある。
懸念されるのは、南北の経済協力によって、北朝鮮制裁の抜け穴が広がることだ。韓国政府は、北朝鮮に現金収入をもたらす開城工業団地や金剛山観光事業の再開に前のめりになってはならない。
北朝鮮は、公海上で積み荷を移し替える「瀬取り」を通じて制裁を逃れ、石油精製品などの密輸を続ける。ロシアや中国の船舶の関与が指摘されている。
中露が国連安全保障理事会で、制裁の緩和を模索しているのは看過できない。米国が中心となり、北朝鮮包囲網の引き締めを図ることが求められる。