北朝鮮に発射準備の動きか? 韓国軍がミサイル施設を厳重監視

北朝鮮の国旗(資料写真)。(c)JOHN MACDOUGALL / AFP〔AFPBB News


 ベトナムのメリア ハノイ ホテル(先の会談の際に金正恩が滞在した)でこの原稿を書いている。今のベトナムは1960年代の日本によく似ている。経済成長の真最中であり、そこかしこで工事が行われている。たくさんのオートバイが行き交い、街は喧騒で溢れている。2人乗りも多いが、一昔前のように1台のバイクに3人も4人も、まるで家族全員が乗っているような光景には滅多にお目にかかれなくなった。一家に複数のバイクが普及したのだろう。自動車が増えたために、中心部では頻繁に渋滞が起こる。


 そんなベトナムは北朝鮮と友好な関係を有する世界でも数少ない国である。それは1957年にベトナム建国の父、ホーチミンが北朝鮮を訪問したことに始まる。翌年には、金日成が当時の北ベトナムを訪問した。その後始まったベトナム戦争において、北朝鮮は北ベトナムを積極的に支援している。その友好関係は60年以上にわたって続いている。


 そんなハノイで2月27、28日に、トランプ大統領と金正恩委員長の会談が行われた。その結果については、ここで述べる必要はないだろう。本稿では大の仲良しの北朝鮮とベトナムが、なぜこのように異なった道を歩むようになってしまったかについて考えてみたい。


案外民主的なベトナムの権力継承

 ベトナムも北朝鮮と同じくらい孤立していた。しかし、その後、1986年に「ドイモイ」と呼ばれる改革開放路線に転じて徐々に経済を市場化し、また海外との交流を深めた。ハノイで米朝会談が開催されたことからも分かるように、ベトナム戦争を戦った米国とも友好な関係を作ることに成功した。


 ベトナムと北朝鮮を分けたのは、権力の継承の仕方である。北朝鮮が血統による権力の継承を採用したのに対し、ベトナムは概して民主的な方法を採用した。それが、その後の国のあり方を決めた。



 ベトナムと北朝鮮は一党体制を採用している点において似ている。 しかし、ベトナムのトップの決定方式は意外にも民主的である。 たとえば、ベトナム国民議会の選挙は5年ごとに行われる。人々はそれぞれの地方から中央に送る代議員を投票によって選ぶことができる。


 ドイモイが始まって以降、書記長の任期は最大でも2期10年であった。1986年以降、今日まで6人が書記長を勤めており、その数は米国の大統領と同じである。


 米国の大統領は国民の直接選挙で選ばれるが(厳密には代議員を選ぶ選挙)、ベトナムの書記長は党内のコンセンサスによって決まる。その選び方は日本の自民党の総裁選びによく似ている。党内の選挙もあるが、選挙以前に行われる派閥間の駆け引きが重要である。まさに自民党政治と言ってよい。


 中国では権力が共産党のトップに集中するが、ベトナムでは権力は共産党書記長、国家主席、首相の3人が分掌する。党書記長といえども全てを1人で決めることはできない。そして派閥のコンセンサスで選ばれたトップは、日本と同じようにあまり強くない。これは中国には強い帝国が出現し皇帝に権力が集中していたこと、一方、ベトナムには強い王権が出現したことがなかったことを反映しているように思う。その政治感覚は、日本と同じようにコンセンサスを重視する村社会的である。


金正恩の重荷になっている“先軍政治”

 ベトナムは開発途上国にしては珍しく、軍が大きな政治力を保持していない。日本と同様に、経済的な利権を主軸として派閥抗争を行ってきたために、軍のプレゼンスが弱くなってしまった。現在のベトナムを見ていると、米国に勝利した栄光あるベトナム軍はどこに行ってしまったのかと思うほどである。この軍のプレゼンスの低下が北朝鮮とベトナムの明暗を分けた。


 北朝鮮では1994年に金日成が死亡した際に、息子の金正日が権力を継承した。これは儒教の影響が強かったためと思われるが、血によって政権を継承しても権力を維持することは難しい。カリスマ性のない金正日は政権の維持に苦慮した。その結果として軍の力を借りざるを得なくなり、“先軍政治”を始めることになった。



 それは成功したと言って良い。金正日は権力の保持に成功して、畳の上で死ぬことができた。しかし先軍政治を始めたことは、その後継者である金正恩の重荷になっている。軍が強い力を持ってしまい、路線変更ができなくなってしまった。


 軍に大きな予算を与え続けた結果、北朝鮮は原爆、そして水爆を持つことに成功した。その強い軍が担ぐ神輿に乗っていれば、権力者であり続けることができる。叔父や兄を殺すこともできる。


 しかし軍の意向を重視していると、国際的に孤立してしまう。国を発展させることができない。今回のハノイでのトランプ大統領との会談は、その矛盾を炙り出したと言ってよい。米国だけでなく中国も含めた国際世論は、北朝鮮が核兵器を持ったまま、経済成長路線に転換することを許さない。

特権的な生活を続けたい北朝鮮の軍部

 金正恩が最も恐れているのは北朝鮮の軍部である。JBpressにおいて右田早希氏は、金正恩が列車を使って60時間もかけてベトナムに行った理由を、飛行機を管理している北朝鮮空軍が怖いからだと書いている(参考:「北朝鮮、これから始まる『粛清の嵐』と『軍の台頭』」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55681)。もし、金正恩がトランプ大統領に対して大幅な譲歩を行えば、軍部は帰りの飛行機を爆破するかも知れない。金正恩は交渉において、少しでもフリーハンドを残しておきたいと考えて、列車で移動したのだろう。

金正恩氏が平壌に到着 国営メディア報道

ベトナム北部ランソン省のドンダン駅で列車に乗り込む前に手を振る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(2019年3月2日撮影、資料写真)。(c)Vietnam News Agency / AFP〔AFPBB News