北朝鮮、潜水艦発射ミサイルは真っ赤な嘘だった
写真と動画の分析から次々明らかになったトリック
北朝鮮(以後、北)は、2017年頃までに中長距離弾道ミサイル、2019年には、短距離弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)および超大型ロケットを発射した。
これらのミサイルは、発射・飛翔・誘導などについて、一応の成功を収めている。だが、SLBMとその発射母体である潜水艦については、不透明であり評価が異なっている。
例えば、潜水艦ミサイルの発射は、潜水艦から発射するのが当たり前のことである。その先入観から、水中から発射されたミサイル映像と海上に潜水艦が写っているというだけで、誰でもが潜水艦から発射したと思ってしまう。
しかしながら、その映像には、潜水艦から発射したとは考えられない多くの疑問点がある。また、潜水艦から発射したように見せかけたトリックの可能性もある。
そこで、北極星1・2・3号SLBMについては、本当に潜水艦から発射されたのかどうかについて、2015年の発射からこれまでの情報を改めて総合的に分析する。
北極星1号のトリック
北は、2015年5月8日に、北極星1号(KN-11)を発射したと写真で公表した。
金正恩氏の背後に浮かぶ新浦級潜水艦と水中から発射されたようなミサイルの写真(写真1参照)には、いくつかのトリックがあることが分かる。具体的には、
①水中で発射したのであれば、海面から出たばかりのミサイルから水しぶきが滝のように落ちるが、どの写真にもそのような様子はなかった。
②北が公表した多くの写真の中に、たった1枚の写真にだけ、発射位置の近くに浮桟橋(バージ)を曳行する船が映っていた。SLBMの発射には必要ないものだ。
③新浦港の潜水艦用バースには発射用のバージが新補級潜水艦と見られる潜水艦の近くに写っていた。
④金正恩氏の背後に潜水艦が浮いている。いかにもこの潜水艦から発射したのだと見せかけている。
⑤飛翔しているミサイル画像に、動きが見えず、ミサイル本体の写真が貼りつけられている合成写真のように見える。
ことなどがある。これらの情報を総合的に整理すると、発射していないにもかかわらず、発射したかのように見せるトリックがあるのではないのか。
そして、発射したとしても、水中からではなく、海面から発射したのではないか、と考えられる。北は嘘がばれないように、ミサイル発射状態を表わす動画を公開していない。
北極星1号を発射したように捏造した写真(2015年5月)
この発射について、北専門家のジョセフ・バミューデス氏は次のような見解を示している。
「潜水艦から弾道ミサイルが発射されたような印象を受けるが、私は懐疑的だ」
「水深数メートルに置いたバージ船からミサイルを発射したと推定される」
また、ウィネフェルド米軍統合参謀本部副議長(当時)は、「北が今月、放映したSLBMの水中発射実験とする映像は加工されたものだ」と述べた。その他の米国メディアも同様の情報を発表している。
ミサイルの発射を早期に探知する早期警戒衛星の情報を入手し、ミサイルが飛翔時に発するテレメトリー信号を受信し、ミサイル発射関連の電波情報を収集している防衛省は、防衛白書に、このミサイル発射の事象を発射記録に入れていない。
ということは、ミサイルが実際に飛翔したとする情報は、全くなかったということだろう。
これらの情報を総合的に集約すると、北が発表したこのSLBM の発射の写真は、水中に沈めたバージ型発射台からの発射を潜水艦から発射したように見せかけたものであったといえる。
あるいは、防衛省の情報を信じれば、発射していなかったとも判断できる。発射の写真については、前述の2人が述べた通りトリックだった可能性が高い。
次に、2016年4月の発射の写真には、2015年5月の写真と異なり、水面から出たばかりのミサイルには、水が滝のように落ちていた(写真2参照)。
しかし、この写真には、2つのトリックがある。
一つは、潜水艦から発射しているように見せかけているが、水中の写真に写る発射時のミサイル発射管と本物の潜水艦の発射管とは、異なっている。
実際であれば、発射管の蓋やその影、艦の一部が見えるはずだが、何も見えない。
潜水艦から発射しているものではなく、バージ型発射装置を水中に沈めて、そこから発射したものと思われる。
もう一つは、ミサイル発射の近くの背後に急峻な山々が見えることから、この海域は潜水艦がセイル部分まで沈んで発射できるほどの水深ではないと考えられる。
つまり、この時点では、水中からミサイルを発射する実力はあるが、潜水艦から発射することはできなかったものと評価される。
「北極星1号(KN-11)」の発射画像
北極星2号は陸上発射だった
潜水艦発射型あるいはそれに類似したミサイルに、北極星(Pukguksong)の名称がつけられている。
この北極星2号(KN-15)は2017年2月と5月に発射され(写真3参照)、高度500キロ、飛翔距離約500キロであった。
発射の動画映像から判断すると、潜水艦発射ミサイルの北極星2号がこのミサイルキャニスターに入っている。
メディアの説明では、このミサイルの発射方式が、コールドローンチ方式(まず、空気圧によりミサイルを発射管から放出し、その後ロケットエンジンを点火して飛翔する方式)だという。
この方式は、発射時の噴射炎の熱により発射台が破壊されないことから、「何発も次から次に発射できる」といわれている。
このミサイルは、スカッドBの次世代ミサイルで、元は旧ソ連の潜水艦発射弾道ミサイル「SS-N-6」のものを、陸上用に改造したものであることから、このような技術があっても当然であり、今、改めて驚く技術ではない。
北極星の名称がついていること、コールドローンチ発射方式であることから、本来は水中から発射してもよいのだが、実施されていないのが謎である。
おそらく、このミサイルを発射できる潜水艦が完成していないからであろう。
北極星2号の発射画像(2017年2月12日)
性能向上著しい北極星3号
(1)北極星3号(KN-26)は、これまでのものとは異なり、かなり進化したミサイルだ。
韓国軍の発表によると、北極星3号の飛翔距離は約450キロ、飛翔高度は約910キロであった。
防衛省は、通常弾道の軌道であれば約2500キロを飛翔したであろうと推測した。
飛翔距離だけから判断すると、北極星2号よりも少し性能アップした中国海軍の旧式SLBMの巨浪1(JL-1)とほぼ同じ性能だ。
だが、北が公開した写真から判断すると、少しの性能アップどころではない。
中国の新型で第2世代であるSLBM巨浪2(JL-2)に類似している。その根拠がいくつかある。
まず、直径がこれまでのものよりもかなり大きい。そして、そのミサイルが、海面から空中に飛び立つ時に、強い力で押し上げられ、水面がかなり持ち上がっている。
また、形状がJL-2に似て(写真4参照)、特に、ミサイルの先端部分が、比較的平べったく丸い。北極星1号・2号や中国のJL-1のように細く尖っていない。
北朝鮮北極星3号と中国JL-2比較
次に、長さがJL-2(全長約13メートル)よりも短い(7.8~8.3メートルの情報もある)ことである。
これは、弾頭部、ミサイル本体の直径、エンジン部分を代えずに、飛翔距離だけを短くするために、固体燃料を少なくし、本体の長さを短く代えた可能性がある。
交渉などの政治的な理由のために、意図的に短くしたものと考えられる。
北極星3号の潜在能力はどれほどのものか。
北極星3号の固体燃料の量を中国のJL-2と同等にすれば、その射程は、JL-2の約8000キロに近づく可能性がある。
日本海から発射すれば、グアムどころかハワイやアラスカまで飛翔する。つまり、これまで実験してきた北極星1号・2号と比較すると、格段に向上しているといえる。
(2)北極星3号発射には、北朝鮮が読まれたくない秘密がある
私は、北が、「正確に判別できる北極星3号の動画映像を公開していない」ところに大きな疑問を感じている。
北はこれまでに、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を水中から発射したのは北極星1号だけである。
北極星2号については、地上の移動発射台から発射したことはあるが、水中からは発射していない。
今回10月2日に北極星3号を水中から発射した。北極星3号は、これまで軍事パレードに出現したことがない。また、地上からの発射もない。
北は、これまでは、ミサイルが完成していなくてもパレードで行進させ、ミサイルを発射すれば、国営のメディアを通じて、移動発射台に載せたミサイル・発射直後・飛翔状態の写真などを堂々と見せつけていた。
「見せつけて自慢する」ことがこれまでの姿勢だ。合わせて、金正恩委員長が大喜びする映像も見せた。
だが、今回の実験の前に、このミサイルを見せつけるためのパレードや地上に配置するなどの公開はしていない。
38ノースの情報によれば、新浦級潜水艦を配置している埠頭には、海まで伸びた100メートル以上のテントを張って、この潜水艦が衛星から見えないようにしていたようだ。
停泊しているこの潜水艦が出港していないことが分かれば、潜水艦から発射したように見せかけるトリックが見破られてしまうと考えたのだろう。
他の衛星写真によると、岸壁に10メートル以上の円筒形の容器を載せた車両が停車していた。
おそらく北極星3号を収容した発射管だった可能性が高い。潜水艦から発射されるのであれば、発射管を準備する必要はないはずだ。
3)ミサイルは潜水艦から発射されていない
発射位置は、元山の北約17キロの元山湾水域であり、写真から判断できるように、水中から発射したものと評価できる。
これまでもそうだったが、ロシアがかつて使用していたバージ型のテストスタンドを海に沈めてそこから発射した(図1参照)ものと考えられる。
バージ型の発射台のイメージ図
そして、北が中国軍のJL2のような大型ミサイルを発射できる晋(ジン)級弾道ミサイル潜水艦(1万2000トン)を保有しているのかというと、そうではない。
現段階では、小型のミサイルしか発射できない新浦級があり、最近ではゴルフ級かロメオ級レベルのものを製造中だ。だが、このレベルの潜水艦では、大型のミサイルを発射することは極めて難しい。
大型のミサイルを搭載できる潜水艦を保有していないのに、ミサイル発射実験を行ったのは、極めてチグハグな行為である。
ということは、米朝交渉を有利にするためだけに、中国のミサイル技術を導入して製造したか、あるいは、中国企業が製造したものを分解して北に持ち込み組み立てたかのどちらかだろう。
そして、ミサイル実験だけを強行したと考えれば納得がいく。