12月初旬、北朝鮮の金正恩委員長はドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)にクリスマス・プレゼントを贈るとしていたが、米時間25日を過ぎても米国側には何も届かなかった。
トランプはフロリダ州の別荘で、「ミサイルテストかもしれないし、美しい花瓶を贈ってくるかもしれない」とテレビカメラの前で余裕の笑みを浮かべたが、実際は胸をなでおろしていたかもしれない。
というのも米軍関係者の間では、北朝鮮の長距離弾道ミサイル(ICBM)が米国に向けて発射される可能性が取り沙汰されていたからだ。
地球観測衛星を手がけている米企業プラネット・ラボは今月、北朝鮮北西部の平城市に新たな長距離弾道ミサイルの生産関連工場が完成していると解析。ミサイルの移動式発射装置も確認していた。
クリスマス・プレゼントは北朝鮮の単なる挑発だったのか、それとも別の意味があったのか今となっては判別が難しい。
ただこの後も長距離弾道ミサイルが発射される可能性はあり、依然として脅威であることに違いはない。
トランプは過去3度金正恩委員長と会談し、政権の東アジア地域での外交目標である北朝鮮の非核化を求め続けてきた。
しかしここまで北朝鮮は核兵器を放棄するどころか、開発を継続している。
元米外交官で核軍縮専門家のアンソニー・ワイアー氏は北朝鮮の脅威は以前より増していると述べる。
「北朝鮮は(技術的に)進化し続けています。新しいミサイルを製造し続ける能力があり、米国と近隣諸国を威嚇しつづけています」
首都ワシントンにあるシンクタンク、戦略国際問題研究所のビクター・チャ上級顧問もフォックスTVで「基本的に北朝鮮は(長距離弾道ミサイルの)発射準備がすでにできています」と、クリスマス・プレゼントを贈ろうと思えば贈れたと分析する。
またマーク・ミリー統合参謀本部議長はクリスマス直前、米記者団を前に「日米韓は北朝鮮のどんな挑発にも対応できる準備を整えていますし、高度な警戒レベルを維持しています」と語り、金正恩委員長からのプレゼントが飛んできても対処できていたと述べた。
それは長距離弾道ミサイルを米国に着弾させた時は「交戦も辞さない」との態度とも受け取れる。
日本ではすでに北朝鮮による短距離ミサイルの発射には慣れたかのような空気が漂い、今回のクリスマス・プレゼントの一件も何ごともなかったかのようだ。
しかし北朝鮮からの脅威がなくなったわけではない。
ましてや核弾頭をすでに20発から30発(ストックホルム国際平和研究所の推計)ほど持つと言われる北朝鮮に、このまま核開発を続けさせるべきではないはずだ。
米シンクタンク、大西洋評議会スコウクロフト国際安全保障センターのロバート・マニング研究員とパトリック・オライリー研究員は共同論文の中で、北朝鮮の脅威が増大している点を強調している。
両研究員は北朝鮮から米国にまで届く長距離弾道ミサイルを発射するまでには技術的にまだ時間が必要との見立てだが、北朝鮮は米国や日本が望む非核化の道はとらないと分析する。
「これまで米国が採用してきた北朝鮮の非核化の道を金正恩氏はすべて無視するようにして、朝鮮半島を騒乱の渦に巻き込もうとしているかに見える」
「スティーブ・ビーガン北朝鮮担当特別代表が誠実で献身的なまでに北朝鮮を再び交渉の席につかせようと努力してきた」
「しかし金正恩委員長は戦略的な選択をしようとしている。それは北朝鮮がイスラエルやパキスタンと同じ実質的な核保有国への道だ」
北朝鮮の核問題はすでに国際政治の舞台で議論されてきた。
すでに保有する核弾頭を容認した上で「どうやって使わせずに廃棄させるか」という立場と、核保有の容認こそが北朝鮮の核技術を助長させることになるので、所有すら認めるべきではないとする立場だ。
後者は、容認すれば北朝鮮の核の脅しに屈することになり、交渉でも相手を有利にさせると捉える。
金正恩委員長は核保有をバネにして政治的優位性を保ち、さらに近隣国を威嚇し続けられる。
今年9月までトランプ政権の国家安全保障担当(NSC)補佐官だったジョン・ボルトン氏は、トランプ政権の過去3年の北朝鮮政策は前者だったとの立場だ。
米メディアとのインタビューで、トランプ政権は北朝鮮に核兵器を所有させないとする政策をとってきたが、それ自体「言葉だけの政策」に過ぎず、まやかしだったと述べた。
さらにトランプに北朝鮮を止めることはできないと喝破する。
「北朝鮮を封じ込めるため、最大限の圧力を使うという考え方は現実的ではありません」
「トランプ政権誕生以来、目に見える形での前進はありませんでした。特に核兵器を諦めさせるという政策は全く功を奏していません」
非核化に失敗してきただけではない。トランプは今年も北朝鮮に数多くの短距離ミサイルを発射させてきた。
トランプは短距離ミサイルを憂慮してはいないと言い続けているが、ボルトン氏は逆の意見を展開する。
「大統領は短距離ミサイルについては心配していないといいます。同盟国の日本や韓国、また同地域に駐留する米軍にも危険はないと述べていますが、もちろん多大なリスクがあります」
ボルトン氏は北朝鮮の核の脅威は以前よりも高まっていると述べ、かつての「ボス」を糾弾している。この点についてホワイトハウスはノーコメントである。
問題はボルトン氏が主張する強硬論が事態の解決に有効なのか、それとも北朝鮮の核と共存しながら抑止力を働かせいくべきなのかの結論が出ていないことである。
ボルトン氏の述べる強硬論を推し進めれば北朝鮮との交戦が視野に入ってくる。その場合の日本への影響は計り知れない。
いまは現実的な核容認論の中で、金正恩委員長を交渉の席に着かせながら、北朝鮮をどう封じ込めていくかがトランプ政権に与えられた現実的政策ではないだろうか。
何しろ北朝鮮が暴発しかねない国家であることは昔も今も変わっていないのだから。