2017年8月に韓国で行われた米韓軍事演習の様子(2017年8月23日、写真:AP/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)


 アメリカ政府、アメリカ軍関係者の一部の間で「防衛タダ乗り論」が叫ばれている。アメリカの同盟国が自らに見合う国防予算を支出せずに、アメリカの軍事力を“タダ同然”で自国の防衛に役立てようとしている、という批判である。


 防衛タダ乗り論に特に固執しているトランプ大統領は、NATO諸国をはじめ韓国や日本など同盟諸国に対して国防予算増額の圧力をかけ続けている。


米紙上で韓国に米軍駐留費増額を要求

 昨年(2019年)末には、トランプ政権が韓国に要求していた在韓米軍駐留費の韓国側負担割合5倍増に関する交渉が決裂した。アメリカは日本同様に大規模な軍隊を韓国に駐留させている。米側は5倍増要求は取り下げたものの、増額に関する米韓交渉は継続されている。


 そしてこのたび、トランプ政権の中枢であるポンペイオ国務長官とエスパー国防長官が連名で韓国の米軍駐留経費や国防費に関する意見を公表し、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(2020年1月16日)に掲載された。


 タイトルは「韓国はアメリカの属国ではなく同盟国だ」である。その内容は、「韓国政府は自国の防衛により多くの(資金や資源を)投入することができるし、そのようにするべきだ」というサブタイトルに集約されている。


 ポンペイオ国務長官とエスパー国防長官は、1953年以来続いている米韓同盟は「北東アジアの平和と繁栄の要であり、民主主義、法の支配、開かれた市場といった共通の価値観に立脚する同盟関係は、これまでにもまして必要不可欠なものである」と、米韓同盟の意義を強調する(米政府が日米同盟の意義を強調する場合と全く同様の表現である)。


それをふまえて、2019年度に国防予算を8.2%増額し今後5年間も毎年7.1%増額する韓国政府の国防努力を評価した上で、世界第12位の経済力を持ち、国防技術も持っている韓国は米軍駐留費を増額することができるし、そうすべきである、と主張していた。

消滅の噂もあるが、日米同盟と同じく歴史が長い米韓同盟
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「金を出す国が同盟国だ」

 上記論説によると、トランプ政権を満足させるだけの国防予算や米軍駐留費を支出しない国は「アメリカの軍事力に自国の国防を過度に依存する国」、すなわち「属国」であり、トランプ政権を満足させられる国防予算や米軍駐留費を支出する国が「同盟国」である、ということになってしまいかねない。そうした少々乱暴な分類には、米軍内からも疑問の声が出ている。


 しかしながら、「日本は主要NATO諸国や韓国のように、国防予算や米軍駐留費などを十分増額することができる経済力を持っており、同盟国として増額すべきである」といった意見を口にする米国務省高官もすでに現れている。


 このようなコメントは、直接的には2021年3月に更新が予定されている(更新は日本の義務ではない)在日米軍に対するいわゆる「思いやり予算」を、最低でも現状レベルを維持し、できれば増額に持ち込もうとする米国務省の意図の表明であろう。


 それに加えて、大統領再選キャンペーンに突入したトランプ政権が、NATO諸国に対して突きけている国防費GDP比率2%水準の達成要求を日本に対しても突きつける予兆の1つとも考えられる。


 日本の防衛費は、2020年度予算案によると5兆3133億円で前年比1.1%増加となっている。しかし、ポンペイオ国務長官とエスパー国防長官が取り上げている韓国の国防費増加率に比べると、増加率は比較にならないほど低い。加えて、2018年末のデータでは日本の国防費GDP比率は0.9%となっており、アメリカの3.2%はもとより韓国の2.6%に比べても「少なすぎる」国防予算ということになる。


このような数字を、国務省や国防総省の事務方から吹き込まれているトランプ大統領が、日本やドイツやカナダなど経済力のある同盟国に対して「防衛タダ乗り論」を振りかざすようになってしまうのは、トランプ大統領自身が軍事専門家ではない以上、仕方のない結果ということができよう。

「アメリカが守ってくれる」では属国のまま

 もちろん国防費はそれぞれの国が、少なくとも独立国であるならば、それぞれの地理的条件、地政学的条件、経済的条件、そして文化的条件などによって自ら決定していくべきものであり、トランプ政権がアメリカの都合によって「GDPの2%に引き上げろ」「前年比10%に増額せよ」と要求すべき筋合いのものではない。


 ただし、NATO諸国に対する2%達成の要求は、けっして無理難題というわけではない。アメリカが50年前よりも財政状況が苦しくなっていることは確かである。NATOという軍事的運命共同体全体の戦力レベルを維持するためには、財政状況が苦しくなったアメリカの相対的負担を減らす代わりにNATO側の負担増が必要である、という理屈にはそれなりの説得力がある。


 同様に、アメリカの負担が厳しくなってしまった分を日本の防衛努力を強化することによって日米同盟全体の戦力レベルを維持しなければならない、といった各種対日要求も、「日米同盟」という軍事同盟が存在する以上は無理難題というわけではないことになる。日本は「防衛の根幹は日米同盟である」と公言してはばからないのが現状なのだ。


 本来は、日本に必要な日本自身が準備し維持する国防システムを、日本の置かれている地理的・地政学的・経済的諸条件などから再検討し、日本自身の国防努力では達成できない分野を同盟関係によって補うのが、独立国としての軍事同盟に対する基本姿勢である。


 当初より「有事の際には米軍が守ってくれる」というスタンスで、アメリカ政府の機嫌を損ねないように、アメリカ側から突きつけられる要求には最大限応えようとする態度を続けているならば、たとえ日本がポンペイオ国務長官とエスパー国防長官が主張するようにトランプ政権の要求どおりの国防関連支出を負担したとしても、それでは「同盟国」とはいえず、金を出さない「属国」以下の「保護料を献上している属国」に留まり続けることになる。


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