新型コロナ感染は終息?「その後」に向けて動き始めた中国の実情
中国共産党建党100周年を祝いたい習近平政権。対米国で立場を逆転するという見方も
朝日新聞, 2020年03月31日
イタリアやスペインなど欧州で感染者と死者が増加し、米国でも感染者数が急増、日本でも東京都が「首都封鎖」をするかどうかという局面で、中国は新型コロナウィルスの終息を前提とした次のステップに進もうとしている。
武漢市の都市封鎖は4月8日に解除か
武漢市が都市封鎖を行ったのは、12月8日に初の感染者が出てから47日目の1月23日。そこから37日後の2月末には、各省の衛生部が、感染は終息に向かうとの発表をした。3月10日には、習近平主席が武漢を訪問し、武漢市での感染症コントロールがうまくいったことを印象付けてみせた。しかも、30日に浙江省を訪問した際には、一時的ではあるがマスクを取ってあいさつもしていた。
そして、終息見込み宣言をした2月末から39日目となる4月8日の午後零時に、武漢市の都市封鎖を解除する予定である。
つまり中国は、トランプ大統領の記者会見に同席している米国疾病予防管理センターのファウチ医師が説明した理想的な「初感染→ピークを小さくして(都市封鎖)→終息見込み宣言→封鎖解除」のかたちで、それぞれの期間が40~50日という均等の取れたなだらかな曲線を描いて、感染の「山」を各国に先駆けて降りるつもりなのだ。
中国の現有感染者数の山は、武漢市の都市封鎖直後の1月26日の2630人から1カ月後の2月17日の58097人をピークに、3199人まで減少しているという。各省の病院から武漢市に応援に行っていた医療支援団が、相次いで地元に戻り始めている。
これについては、中国内の医師やメディアからも疑問視する声が上がっているなど、中国の情報は信用できないとの声も少なくはない。だがそれでも、中国が国家として、新型コロナ対策で必死の他の国々を尻目に、「その後」に向かって動き始めたのは事実のようだ。本稿では、こうした中国の現状をどうみるべきか、論じてみたい。
「新型コロナウィルス感染予防ハンドブック」日本語版の完成
筆者のところに、「新型コロナウィルス感染予防ハンドブック」の日本語版が届いたのは、習近平主席が武漢市を訪問した翌日の3月11日だった。
これは、新型コロナがどういうものか、過去のSARS(重症急性呼吸器症候群)やMARS(中東呼吸器症候群)とどう違うのか、予防のためにどうすればいいか、マスクのつけ方、体調の自主チェックをする際の項目など、全体で80ページに及ぶ詳しいマニュアルだ。
中身を読むと、筆者が1月に見た原本(中国語版)をさらに詳しくしたもので、日本も新型コロナ感染を予防してパンデミックを乗り切るようにとの発想で編集されていることがわかる。
本稿執筆時(3月29日)現在、中国は、イタリア、イラン、ミャンマー、セネガルなどのアフリカ諸国などの友好国に医師団を派遣するだけでなく、日本や米国にもマスクを送るなど、世界が新型コロナとの戦いに勝つための支援を始めている。
今回の感染予防ハンドブック日本語版の作成もその一貫で、中国が世界を襲う新型コロナ・パンデミック対策でリーダーシップを発揮しようという気負いが感じられる。もちろん、「自分で種を蒔いておいて……」との批判もあるが、中国がそれを承知でやっているのは間違いない。
早い段階から万が一に対応?
トランプ米大統領は毎日の記者会見で、新型コロナウィルスのパンデミックを「中国ウィルス」、「中国からの攻撃」と呼び、「対中戦争」を意味するような言葉まで使うほどに怒っている。背景には、中国が今年1月までの段階で米国からの研究者派遣を拒んだこと、1月7日に習近平国家主席が新型コロナのことが認知していたにも拘わらず、公表するのが遅れたこと、さらに中国からの拡散を防ぐ措置を、1月25日の春節開始以前に行わなかったことへの不満がある。
しかも、1月末には、中国の経済代表団が、貿易交渉の第一弾の合意のためにワシントンを訪れてもいる。とはいえ、それを言うなら、1月21日から24日まで開かれたダボス会議(World Economic Forum)に、多くの中国人が参加したことも事実で、当時はまだ、世界中にそれほど危機感なかったと言うべきだろう。
ここで経緯を振り返っておきたい。新型コロナのことが中国のメディアに載ったのは、筆者の知るところでは、昨年9月26日の湖北日報が最初だ。この時には、すでに中国では感染症の発生を想定した訓練が行われていたとのことだ。オフィスの誰もがマスクを付けるなどの練習をやっていたのである。
ちなみに武漢市では、この後、軍の運動会があり、米国を含む世界100か国以上から多くの軍人が訪れている。中国が、今回の新型コロナは米軍が武漢に持ち込んだと言う理由はこれである。
今では中国を含めて世界のヒーローとなった眼科医の故李文亮(Li Wenliang)氏が、関係者に新型コロナに対する警鐘を鳴らしたのが12月末だ。
今年1月5日には、復旦大学公衆衛生研究センターが、SARSと89.11%の同源性がある新型コロナを紹介し、WHCV(Wuhan-H-1冠状病毒)と命名している。これは、習近平主席の「報告を受けたのは1月7日」という発言と平仄が合う。実はこの段階で、中国では新型コロナを「武漢ウィルス」、または「WHCV」と名付けていた。とすれば、中国は、早い段階から、万一の場合の対応ができていたと考えるのが自然だろう。
そのゆえか、新型コロナウィルス感染症に対応するワクチンや治療薬の開発でも世界に先んじており、米国国立衛生研究所によると、すでにこれまでの研究データを同研究所に送るなどしているようだ。しかし、研究そのものは独自で行われており、開発競争は続いているらしい。
筆者としては、新型コロナに名前を付けるなら、命を懸けて最初の警鐘を発信した文氏の名前にちなんで、「Wenliang Virus」(文亮ウィルス)として貰いたい。
次のステップは共産党建党100年
中国では、新型コロナの感染拡大で多くの都市を封鎖する1年以上前から、景気の減速が懸念されていた。2019年3月7日付の論座の拙稿「日本からは見えにくい中国経済の本質」で説明したように、国家資本主義と呼ばれた成長戦略の終焉(しゅうえん)が近づいているなか、中国全土の国民の生活水準を引き上げ続けるための努力をしてきたのだ。
中国は、2021年に「共産党建党100周年」を迎える。建党記念日は7月1日なので、その前後に盛大な式典を行うこととなろう。延期となった東京オリンピック・パラリンピックが当初予定の1年後に開かれるとすると、中国としては、ほぼ同時期に二つの大きなイベントを迎えることとなる。中国としては、日本との関係を是が非でも良好にして、今回延期された習近平主席の国賓訪問を建党記念日前に実現するとともに、令和天皇を国賓として中国に迎えたい(少なくとも確定したい)ところだ。
一方、2010年のGDPを10年で2倍にするという目標については、今年1~3月の落ち込みを踏まえれば、ほぼ不可能となった。ただ、新型コロナ克服を理由に、むしろ国民の団結力が増し、さらなる経済成長に邁進する、というシナリオもありうる。そのうえで、2035年までの目標である「小康社会」(ややゆとりのある生活が出来る社会)の実現を目指すとする方向性を示すことも可能だ。
武漢市と15都市の封鎖解除の意味
この15都市は多くが武漢市の近くにあるが、中には西や西北にかなり離れた都市もある。これらの都市封鎖が解除されれば、湖北省が実質的に新型コロナ大流行から生還したといえるだろう。
中国の感染者数については、発表元によって違うという指摘、事実が発表されていないのではないかという指摘が広がっているが、政府発表の数字を見ると、3月29日午後5時の時点で8万2360人、このうち7万5601人が治癒、3306人が死亡していて、現在の感染者は3453人である。感染の疑いがある人数が174人で、感染者のうち国外からの流入は693人となっている。
この数字は、中国政府として、国内の感染拡大終息を見通すとともに、3月初めから本格化させた日本などからの入国制限、すなわち「水際作戦」が成功していることを裏付けるものだ。
ちなみに感染症の専門家が使う感染者数の予測は、初期感染者(C)と、基礎再生産数(R)、および感染期間(T)の三つによる「数式」で決まる。つまり、都市封鎖で「R」の拡大を防ぐことで、自国が発生源であった問題を解決したと判断した中国は、次は水際作戦で「C」の拡大を防ぐモードに入っていることになる。なお、「T」は「R」の大小を決める変数であり、これが大きくなれば、幾何級数的に新規感染者数が増えることになる。
中国以外では、感染者数58万4682人のうち治癒者が6万4794人、死者2万7567人、現在の感染者が49万2321人であることを考えると、中国での治癒者の多さが際立つ。これはWTOの発表数字だが、あえて中国政府発表のデータと比較すると、中国の治療が適切だということを暗に物語っているとも言える。
さらに政府発表の数を省別にブレークダウンした省別現有感染者数では、引続き湖北省が1731人とトップだが、うち武漢市が1726人と殆どを占めており、ピーク時には半数が1万人近く、残りも1千人以上だった他の都市は、現在、1名またはゼロまで減少している。これも中国の感染症対応が正しかったということを示唆する形となっている。
経済復興の成否を握る武漢市
以上のデータを正しいと受け止めるかどうかは読者次第だが、中国にとっては大事な意味がある。
中国共産党には五大聖地があるが、その中でも湖北省を挟んだ江西省の井崗山と陳西省の延安、そして北京に近い河北省の西柏坡を、習近平政権は重視している。ここで重要なのは、来年の建党百周年記念行事にからんで催される「まつりごと」を開く都市が、武漢市および湖北省の両隣にあり、これらを結ぶ流れが武漢市を通るということだ。
また、武漢市は揚子江の重慶と上海を結ぶ間にある水上交通の要所であるうえ、北京や上海、そして香港までの新幹線のほか、陸上交通が九つの省に繋がる重要な中継都市でもある。
つまり、中国にすれば、都市封鎖で停滞した経済活動をなんとしても復活させたいところだが、その際、武漢は復興の成否を握る重要な都市の一つなのである。従って、ここでの新型コロナは一刻も早く消し去って、パンデミックを再燃させないように十分に管理する必要があるのだ。
新型コロナで米中の立場が逆転?
習近平政権は、「中国製造2025」を掲げるなどした一昨年からの動きが、覇権を目指していると受け止められ、世界は、これに対する米国の出方と中国の対応に注目してきた。特に、ペンス副大統領が2018年10月に行った演説を境に、「米中蜜月時代」は完全に終わったとされている。これは、トランプ政権だけでなく、民主党陣営でも同様だ。
その中で、今年1月に締結した最初の貿易交渉合意は、中国にとって、今後の米中関係を改善していくためのステップとなるはずであった。
とはいえ、実情を見ると、中国は超大国である米国との対等な関係を築くまでには至っておらず、相手国が対等な立場になることを嫌う傾向のある米国の言うことを聞かねばならない、という立場に追い込まれつつあった。ところが、米国のシンクタンクなどでは、新型コロナによって米中のこうした立場が逆転する可能性が出てきたという見方も出てきた。
すなわち、米国がパンデミックの抑え込みにしくじり、この問題に引き摺られるうちに、中国が態勢を整えるというのだ。その結果、5Gに代表される通信技術で一段と差が開き、軍事的にも中国が追い上げるという。
これら米国のシンクタンクの中には、チャイナマネーが入っているところも少なくないため、注意は必要だが、トランプ政権が必死で行っているパンデミック対応が失敗した場合、その予想が当たらないとも言い切れない。
パンデミックからどちらが先に抜け出せるか
中国のメディアでは、すでに原潜の基地である三亜を要する海南島で、中国の若者が新型コロナから解放されて街に繰り出している様子が報道され始めている。また、南シナ海での新島建設のための準備を始めているとの噂もある。
当然、中国でも、米軍と同じように、人民解放軍の中で新型コロナ感染者が出ているはずだ。結局は、このパンデミックから素早く抜け出せるのはどちらか、また、お互いの終息時点の間にどれほど差が開くのか。これが重要なポイントとなるであろう。
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