トランプのノーベル平和賞がジョークではなくなる日
イスラエル国交樹立のドミノ倒し、中東和平のカギを握る安倍特使
2020.9.13(日) 小川 博司
JB Press
ノーベル平和賞にノミネートされたトランプ大統領(写真:AP/アフロ)
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8月13日のUAE(アラブ首長国連邦)とイスラエルの国交樹立は、中東情勢に大きな影響を与えつつある。トランプ大統領は、この事実を理由として、2018年以来2度目のノーベル平和賞にノミネートされた。1度目は南北朝鮮の融和に尽力したことだったが、2回目の今回はこれからの展開如何では現実味が高まる。
両国の国交樹立は、いかにトランプ政権が追随を求めたとしても、他のアラブ諸国がパレスチナとの関係を重視して他国に波及しないというのが、これまでの世界主要メディアの報道であった。8月22日付拙稿「大統領選挙前にトランプ政権が放ったホームラン政策」で取り上げた「繁栄への平和プラン」に対しても懐疑的な報道を繰り返した。ちなみに、一般に世界主要メディアという場合には、日本勢では、日経子会社の英フィナンシャル・タイムズが含まれる。
ところが、9月11日、イスラエルのネタニヤフ首相とUAEのアブドラ外相がホワイトハウスで歴史的な調印をする4日前になって、バーレーンがイスラエルとの国交樹立を発表した。アラブ諸国ではこの1カ月間に何があったのだろうか。
イスラエル機の領空通過を承認したサウジとバーレーン
8月中旬、クシュナー米大統領特別補佐官は、中東アラブ諸国を回り、イスラエルとの国交樹立の意義を説いて回っていた。それに対して、世界のメディアは成果が出ることに懐疑的で、彼の訪問国別の反応を掲載する例も見られた。
しかし、同補佐官を支援する形でポンぺオ国務長官が8月24日にイスラエル、25日にスーダン、26日にバーレーンとUAE、27日にオマーンを歴訪。また、9月12日にはカタールを訪問した。これはすべての湾岸諸国、またはエジプトの南に位置するスーダン、既に国交を持つエジプト、ヨルダンを除けば中東のスンニ派イスラム教国すべてを訪問するということになる。
こうした努力が実りつつあることの証左は、9月に入って、サウジアラビアがUAEとイスラエルの商業フライトが自国の領空を通ることを認めたほか、バーレーンも両国のすべてのフライトが領空を通ることを認めたことにある。日本にいて、JALやANAがほとんどの国の領空を飛べることを普通に思う日本人にはわかりづらいかも知れないが、この意義はとても大きい。
多くの中東アラブ諸国がイスラエルと国交樹立をしていないということは、イスラエルの存在を認めず、これらの国の地図にはパレスチナが存在することを意味している。そこに、商業フライトに限るかどうかは兎も角、サウジとバーレーンが領空の通過を認めたということは、両国の地図にはイスラエルが国として描かれるということである。
この両国を含めると、イスラエルの周囲はレバノン、シリア、イラク、イランの4カ国の塊を除いて、イスラエルが自由に航行できる地域が拡がったことになり、中東のイスラム教国全体からすれば、コペルニクス的な展開が起こったことを意味する。
対イスラエル国交樹立のドミノ倒しは起こるか
ポンぺオ国務長官が8月最終週に歴訪した国のうち、バーレーンがイスラエルとの国交樹立を発表したことは、他のアラブ諸国も静かだが真剣に検討をしていることを示唆した。これは、「勝ち馬に乗り遅れるな」との発想を意味する。
しかも、7月にはイランのテヘランを訪問したイラクのカディミ首相が、先月にワシントンとエジプト、ヨルダンを訪問している。同首相はフセイン政権時代はドイツやイギリスに亡命しており、イスラム国が米国に封じ込められた2020年5月に首相に就いているため、イラクも対イスラエルとの国交樹立に動くのではないかとの見方も出始めている。
当然、これに対しては、パレスチナ自治政府やイランなどが強く反発をしているが、もう一つのイスラム教の大国であるトルコは、イスラム教国で最初にイスラエルを認めた国でもあり、オセロゲーム的に考えると、陣取り合戦では米国が仕掛けた戦略が奏功していると見るのが妥当であろう。
そのイランだが、9月10日にUAEとイスラエルの国交樹立を含むアラブ諸国の行動にイランが干渉したと非難したアラブ・リーグ(中東アラブ諸国の連合)の声明に対して反論を出している。ただ、中近東または世界全体で見ても、あまり大きく受け止められていない。
射程200キロでペルシャ湾をカバーできる短距離ミサイルの発射実験成功や、米国のイランが6カ国協議を守らなかったとする対イラン制裁を英独仏が拒否したことなどを報道することで、国内的には先鋭化の雰囲気を見せてはいるものの、ソレイマニ司令官殺害の損失は非常に大きいようで、外交面ではほとんど動きが取れないというのが現実のようだ。
これが、上述したイラクのカディミ首相の動きを黙認する結果に止まっているのだろう。この後、米国の大統領選挙日までの間に、湾岸アラブ諸国が相次いでイスラエルと国交樹立を行うかどうかは引き続き不透明ながら、UAEが開けた穴が大きくなったことは間違いない。
日本のレバノンへの支援が中東和平のカギ
一方、8月4日に大爆発を起こし、190人の死者と3000人の負傷者を出したレバノンの首都ベイルートでは、被災地の復興のための交渉が行われている最中の9月10日、再び大火災が起こった。大爆発も最初は小さな火災だったとの証言があり、今回の火災も再び大爆発に繋がるのではとの不安がベイルートに走ったらしい。
レバノンについてこの1カ月の間に事実となったのは、ベイルートの港には武器となる危険な物質が大量に保管されているということだ。今回の火災もそれに引火したと言われている。
再び大規模火災が発生したレバノンの首都ベイルート(写真:AP/アフロ)
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(写真:AP/アフロ)
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(写真:ロイター/アフロ)
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レバノン自体は、海外の専門家で構成された調査団による本格的な原因究明を受け入れてはおらず、引き続きすべては藪の中にある。しかし、同国がヒスボラの拠点としてテロ活動を中東地域で行ってきたことを考えると、それを支援する物質がここに集まっていたと考えることはあながち的外れではないだろう。
問題は被災地支援とともに、爆破原因を明確にしたうえで、危険物質の大量保管を止められるかどうかである。それが実現しなければ、ベイルートが再び中東のパリと言われることはないだろう。
現在、米国とイランの両国が、レバノン支援の中心勢力になろうと名乗りを上げているが、どちらがリーダーシップを取るかで揉めており、これも被災地であるベイルートの復興が遅れている理由となっている。
米政府から漏れてくる話では、レバノンと良好な関係があり、米国およびイランともに友好関係を持つ日本がこれを仲介すれば、被災地の復興と爆破原因の究明を進められるのではないかとの見方があるらしい。
日本政府の判断は筆者には全く予想が付かないが、仮に、この流れが本格化すると、レバノンでテロリスト勢力が力を失っていく可能性がある。この場合、ソレイマニ司令官殺害後に沈黙しているイランの動きとともに、中東の和平に近づくことが期待できる。
さすがに安易な予想はできないものの、ベイルート市民が復興支援を求めているということはアルジャジーラなどのメディアでも繰り返し報道されているため、米国もイランもあまり自分の意志だけにこだわり、復興支援が遅れることになれば、やがて世界の批判を浴びかねない。
「安倍特使」による中東和平仲介の可能性
安倍首相が辞任表明した日本は、政治的な空白ができたと言われているものの、一方で潰瘍性大腸炎という病状にもよるとはいえ、次の首班指名後に政府特使として外交力を活かすことができれば、安倍首相による中東和平の仲介への期待が盛り上がる。
いずれにせよ、バーレーンのイスラエルとの国交樹立で大きく傾き始めたアラブ諸国のイスラエルとの関係正常化は、レバノンでの復興支援の動きが米国と日本を中心に始まると、方向性は固まるというのが専門家の見方だ。
そうすると、トランプ大統領のノーベル平和賞受賞も今はジョークのようだと揶揄されつつも、あながち夢のまた夢ということでもなくなってくる。
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