ニュータウンの夢が詰まった公園へ ガウディ建築巡り#3
文: 山田静
朝日新聞
2021.02.11
そろそろ遠くに旅したい!とうずうずしている人も多いのでは。旅行ライターの山田静さんがちょっぴり冒険できる旅を紹介するシリーズ、2019年3月に訪れたバルセロナでのアントニオ・ガウディの建築巡りを紹介しています。3回目は、引き続きバルセロナ内。グエル公園を巡ります。
(トップ写真はグエル公園の波打つベンチ)
※新型コロナウイルス感染防止のため、現在サグラダ・ファミリア聖堂をはじめバルセロナの主要な見どころは閉鎖されています。
■何回目かのひとり旅、ちょっとだけ冒険してみたい。そんな旅人のヒントになりそうな旅先や旅のスタイルを紹介している連載「ちょっと冒険ひとり旅」。京都で旅館の運営をしながら、旅行ライターとしても活躍する山田静さんが、飛行機やバスを乗り継いで比較的簡単に行ける、旅しがいのあるスポットをご紹介していきます。バックナンバーはこちら
斬新すぎたニュータウン・グエル公園
グエル公園はガウディと彼の後援者、エウセビ・グエルの事業家としての夢が詰まった場所だ。グエルは当時イギリスで提唱されていた緑豊かな計画都市「ガーデンシティー」風の住宅地を造成しようとバルセロナ北部の広大な土地を手に入れた。約60軒の住宅区画を擁するニュータウンを造り、富裕層向けに販売しようという計画だ。
サグラダ・ファミリア聖堂と並んでガウディの代名詞ともなっている大トカゲの像は、中央大階段にある。ここを中心に斜面を生かし自然とアートに囲まれた宅地が造成されたが、当時としては斬新すぎる発想と、市街地から外れた不便な立地でまったく売れず、結局、ガウディ本人などが購入した2軒のみ完成。
グエルの死後、この土地は遺族によってバルセロナ市議会に売却され公園となり、現在は世界じゅうの観光客が訪れる人気スポットとなっている。
世界一有名な大トカゲは、公園の泉の守り主だ。訪れたときは、「上にまたがらないように」という注意が各国言語で貼られていた
見どころのひとつ、高台の展望広場にある波打つベンチの装飾。破砕したタイルを貼り付けたブロックを数多く作り、現場で組み立てる工法で作られた。ランダムに貼っているように見えるが、ブロックごとに色や雰囲気が違い、バランスがとれるように巧みに設計されている
展望広場からは敷地内の不思議な建築物やバルセロナ市街が一望できる。青い塔は管理事務所、左側は守衛の家。お菓子の家と呼ばれている
斜面を活用した通路や橋があちこちにある。鍾乳石のような、怪物の爪のような造形がガウディらしい
「洗濯女の回廊」と呼ばれる通路。この上に通る道を支える強度をもたせるため、不思議なアーチ構造がとられている。園内にあるさまざまな形の柱は見どころのひとつだ
敷地内には市場も置かれる予定だった。ギリシャ風の列柱が神殿のような雰囲気をかもしだす。天井のモザイクは月と太陽をイメージした図案
中央階段に置かれたヘビの像。背景の茶色い丸はユーカリの実を表しているそう
木々が生い茂る公園の敷地は、ゆっくり歩いていると半日くらいかかる。ほかのガウディ建築に比べると広範囲にさまざまな見どころがあるので、事前にちょっと勉強して、ポイントを押さえて回るのがおすすめ
広大な公園内はチケットが必要な有料ゾーンと無料ゾーンに分かれている。広いので入場に行列するようなことはないが、人数制限があるので、事前にWebでチケットを購入しておくほうがいい。
アクセスは地下鉄かバス。2019年からは、地下鉄アルフォンス・デシモ(Alfons X)駅から事前Webチケット購入者のみ利用可能なシャトルバスが運行されている。小高い丘にあるので、往路はこのバスを使って上り、復路は散歩がてら最寄りの地下鉄レセップス(Lesseps)駅まで徒歩で15分ほど下って行くのもいい。後者の場合、パワーが残っていたら、もうひと頑張り歩いて最後の世界遺産、カサ・ビセンスまで徒歩で移動するのもいいだろう。グエル公園からカサ・ビセンスまで1.5キロほどだ。
※新型コロナウイルス流行の影響で、無料ゾーンは廃止され、現在は有料ゾーンのみ。シャトルバスは運休となっています
地下鉄レセップス駅への下り道。上り用のエスカレーターもある
訪れた早春の季節、アーモンドの花が桜並木のように咲いていた
道中で見つけた、かわいらしい壁アート
カサ・ビセンスに寄り道を
グエル公園と市街地の間くらいに位置するカサ・ビセンスは、ガウディが手がけたはじめての家。長い間個人の邸宅として使用され、2017年秋から内部見学が可能になった世界遺産だ。
1883年、当時30代前半だった若きガウディは、ビセンス氏のサマーハウスとしてこの邸宅を受注、のちのガウディ作品ではあまり使われなくなった直線的なデザインで、イスラム美術のエッセンスを取り入れた、彼としては珍しい建築だ。ほかの作品よりインパクトに欠けると言われるが、若き天才のスタート地点を知るには外せないスポット。
バルセロナ街歩きも楽しもう
駆け足でガウディの建築を紹介してきたが、バルセロナは街の散策じたいも楽しい。
旧市街のサンタ・エウラリア大聖堂、ピカソ美術館、バルセロナ五輪の会場になったモンジュイックの丘にあるカタルーニャ美術館やミロ美術館など美術館・博物館巡りはもちろん、街並みや市場散策も外せない。歩き疲れたらバルセロネータと呼ばれる海岸でのんびりしてもいい。できれば1週間くらい滞在して、その魅力を存分に味わうのがおすすめだ。
サンタ・エウラリア大聖堂。完成まで150年かけたという壮麗な聖堂だ。バルセロナの守護聖人サンタ・エウラリアが眠っている
ヨーロッパの旧市街は夜の陰影が美しい。治安が悪いと言われるバルセロナだが、人通りが多いところを選んで、財布や貴重品に十分気をつけながら歩けば夜道も歩ける
街のスイーツショップ。甘いもの好きにはたまらない街
街の中心にあるサン・ジュセップ市場。1830年代創設の歴史ある市場だが、いまは観光客でいっぱい。果物、スパイス、スイーツ、肉や魚となんでもある。テイクアウトしてつまみ食いするのもいいし、イートインできるバルを併設した店も多い
さて次回は、バルセロナから飛び出して、ガウディの最高傑作ともいわれるコロニア・グエル教会を訪れよう。多くの人々から信仰される「黒いマリア」がまつられるモンセラットとあわせて、バルセロナからの日帰り旅だ。
※新型コロナウイルス感染防止のため、現在サグラダ・ファミリア聖堂をはじめバルセロナの主要な見どころは閉鎖されています。
■グエル公園
https://parkguell.barcelona
■カサ・ビセンス
https://casavicens.org
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