文學, 語學

ベトナム語ほど面白い言語はない

이강기 2022. 3. 20. 17:42

ベトナム語ほど面白い言語はない

【礒﨑敦仁のコリア・ウオッチング】

 

礒﨑敦仁

Jiji.Com, 2022年 3月 20日

 

 

同じ漢字由来、日本語・朝鮮語とも共通点

 国際政治を専門とする大学教員が英語を話せなかったり、仏文学者がフランス語を読めなかったりしたらどう思うであろうか。北朝鮮を研究対象とするにあたって朝鮮語(韓国語)の習得が欠かせないのは言うまでもない。

 

 私は帰国子女ではないし、下⼿の横好きではあるものの、さまざまな外国語にチャレンジしてきた。大学は英語ではなくフランス語で受験し、⼤学院受験に必要な⼆カ国語は、朝鮮語と中国語を選択した。全くモノにならなかったがロシア語を履修したこともある。

 

 しかし、どんなに勉強しようとも、使わない語学は錆びてしまうもので、4年近く滞在した中国の言葉も、⼝からスムーズに出なくなってしまった。現在、なんとか使えるのは朝鮮語だけである。

 

 コロナ禍で自宅にこもる時間が⻑くなったこともあり、今年に入ってからベトナム語の勉強を始めた。グループレッスンも個⼈指導もオンラインで多様な講座が⽤意されているもので、周りにベトナム人がいなくとも会話練習が可能な時代である。

 

 朝鮮語と中国語を学んだ者にとって、ベトナム語ほど⾯⽩い⾔語はなく、思いのほかハマってしまった。発⾳は難しいとされるが、語末子音(終声)が多様な朝鮮語と、声調のある中国語の特徴を双⽅掛け合わせたようなもので、何とか乗り切れる。

 

 ⽂法は、少なくとも⼊門、初級段階においては⾄極簡単。中国語と同じく孤⽴語という分類に属し、語形変化が⼀切ない。英語を学びはじめた時に誰もが苦労した、過去形の不規則活⽤を覚えるなどの労⼒は全く不要なのだ。

 

 日本人にとって最⼤の利点は単語の覚えやすさだろう。「⾼速道路」や「調味料」、さらには「微妙な三角関係」など、日本語でそのまま読めばソウルで通じてしまうほど、日本語と朝鮮語が似ているのはよく知られているが、ベトナム語もそれに準じている。音の高低を⽰す声調があるため日本語と完全に同じ⾳ではないものの、注意は「チューイーchú ý」、⾐服は「イーフクy phục」、楽観は「ラックァンlạc quan」と発⾳すればよい。

 

 これは、日本語も朝鮮語もベトナム語も漢字由来の⾔葉が多いことに起因する。朝鮮語は主にハングル(朝鮮⽂字)で表記し、ベトナム語は漢字を完全に廃⽌してアルファベットを活⽤しているが、根は同じ、漢字文化圏なのだ。日朝越中の四カ国語は、漢字由来の単語を抱えているからこそ、共通点が多い。

 

ベトナム語で「東洋半島」とは?

 例えば、これらの⾔葉を使う国々では四字熟語があるのをご存知だろうか。半信半疑は、中国語でも「半信半疑」(bànxìnbànyí)、ベトナム語ではbán tín bán nghiとなり、発⾳もよく似ている。半信半疑は、朝鮮語でもよく使われる表現だ。

 

 良妻賢⺟は、朝鮮語で「賢⺟良妻」、中国語では「贤妻良⺟(賢妻良⺟)」となる。全く異なる表現を⽤いるならともかく、なぜ同じ漢字を使いながらこのように微妙な違いが⽣まれてしまうのだろうか。⽇本では妻より⺟が⼤切だが、朝鮮半島では逆ということなのか。⽇本⼈は良妻を好むが、中国⼈はそれよりも賢さを求めるということか――探求しようとすればきりがない。似ているからこそ相違点を⾒出す意味があるというものだ。

 

 よく知られている違いとしては、「愛⼈」がある。⽇本語における「愛⼈」という艶めかしいニュアンスと、朝鮮語、中国語とのそれとは異なっている。朝鮮語で「愛⼈(エイン)」は⽂字通り恋⼈の意味。中国語では「爱⼈(愛⼈、àiren)」イコール配偶者であり、妻のほか夫という意味にもなる。その響きに後ろめたさはない。

 

 「東洋」も意味が異なっている。中国語の「东洋(東洋)」は⽇本を指しており中国自身は含まれない。たしかに中国⼤陸からすれば東の海に浮かぶのは⽇本列島だ。⼀⽅、Đông Dương[東洋]はやや文語的だがインドシナを意味する。ベトナムの位置するインドシナ半島をBán đảo Đông Dương[半島東洋]と⾔うのである。ベトナム語は⽇本語とは逆に修飾語が被修飾語の後ろに来るので、漢字を⽇本式に直せば「東洋半島」がインドシナ半島ということだ。

 

 同じ「東洋」に位置しながら、「近くて遠い国」となったままの朝鮮⺠主主義⼈⺠共和国を、わが国では「北朝鮮」との地域名で呼ぶのが⼀般的だ。しかし、北朝鮮⾃⾝は⾃国の略称が「朝鮮」ないし「共和国」であって「北朝鮮」ではないと主張する。

 

 ベトナム語では、韓国をHàn Quốc[韓国]、北朝鮮をTriều Tiên[朝鮮]と呼ぶのが公式的だ。ベトナムは北朝鮮や中国と同じく社会主義を標榜する国家であるが、南北朝鮮いずれとも友好関係を維持しているため、双方をともに尊重する略称を用いているのである。ちなみに、1992年に韓国と国交を樹⽴するまでは、韓国をNam Triều Tiên[南朝鮮]と呼んでいた。これらの事情は中国でも同じである。

 

 われわれも、将来北朝鮮との国交正常化が実現すれば、北朝鮮の主張に⽿を傾けて「朝鮮」と呼ぶことになる。

 

 しかし、⾃由⺠主党と⽇本社会党の合同訪朝団が北朝鮮と国交正常化交渉を開始することに合意したのは今から31年も前のこと。⼩泉純⼀郎⾸相と⾦正⽇国防委員⻑(いずれも当時)が「国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注する」ことに署名してから数えても19年が経過してしまった。われわれが北朝鮮を「朝鮮」と呼ぶ⽇は来るのだろうか。

 

 

【著者紹介】

礒﨑 敦仁(いそざき・あつひと)

慶應義塾大学教授(北朝鮮政治)

1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員(北朝鮮担当)、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。著書に「北朝鮮と観光」、共著に「新版北朝鮮入門」など。

(2021年11月15日掲載)

 

【過去記事】
金正恩氏から非難すらされない日本
「金正恩Tシャツ」の衝撃 神格否定「生身」の指導者演出か
対米交渉見据え布石か? 北朝鮮・金正恩総書記の思惑を読む
時代に翻弄された韓国書籍の名店
北朝鮮だました「モグラ」描く問題作 ドキュメンタリー映画「ザ・モール」