NATOとロシアの衝突はあるか 北欧2国「加盟」の衝撃
時事通信, 2022年05月27日17時00分
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ロシアがウクライナに軍事侵攻し、世界の安全保障環境が大きく揺らいだ。かつて「東西冷戦の遺物」とさげすまれ、組織存続のためにロシアとの協力を真剣に模索する時期もあった西側の軍事同盟「北大西洋条約機構(NATO)」が、欧州の守りの要として再び最前線に躍り出る事態となっている。(時事通信外国経済部デスク・元ブリュッセル特派員 妹尾優)
200年ぶりに訪れた転機
「一つの時代が終わり、新たな時代が始まる」。北欧スウェーデンのアンデション首相は5月16日に記者会見を行い、NATOに加盟申請すると正式に表明した。
人口1000万人余りのスウェーデンは19世紀以来の中立国。20世紀に欧州で勃発した2度の世界大戦に参戦せず、冷戦中も非同盟を貫いた。ソ連崩壊後の1995年になって経済中心の欧州連合(EU)に加盟したが、NATOには入らず、軍縮や核不拡散を唱えてきた。
その国に200年ぶりの大転換を決断させたのが、東方の大国ロシアによる隣国侵略だ。特に、ロシア軍が武力攻撃を行ったウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどでおびただしい数の民間人とみられる遺体が見つかり、殺害前に残虐行為が繰り返されていた可能性が伝えられたことが、人権・人道を重視するスウェーデンの背中を強く押したとみられる。
記者会見するスウェーデンのアンデション首相=2022年5月16日、ストックホルム【EPA時事】
自国の国旗と同じ鮮やかな青い上下をまとって会見場に現れたアンデション首相。責任の重さを感じてか表情は終始硬かったが、「スウェーデンがNATO加盟国になれば、自分たちの安全だけでなく、NATO全体の安全も強化される」と説明。バルト海を挟んだ対岸、NATO加盟国のポーランドとリトアニアに囲まれたロシアの飛び地「カリーニングラード」ににらみを利かせ、脅威の封じ込めに貢献できる戦略的価値がスウェーデンにはあると訴えた。
核の傘
アンデション首相会見2日後の5月18日、スウェーデンは隣国フィンランドとともにNATOに加盟申請した。フィンランドは人口約550万人と、スウェーデンの半分程度の小国。1300キロにわたってロシアと国境を接する西側の最前線で、これまでNATOの門をたたかず、ロシアとの友好関係維持に努めてきた。
【図解】北欧3カ国地図【時事通信社】
ところが、2月に始まったウクライナ侵攻で世論は動揺した。フィンランド放送協会(YLE)によると、1月の時点で30%にとどまっていたNATO加盟の支持率は、5月4~6日の世論調査で76%に急増。わずか数カ月で、国民の4人に3人が賛成するに至った。
NATOのメンバーになれば、「一つの加盟国に対する武力攻撃を全加盟国への攻撃とみなし、集団的自衛権を行使して攻撃を受けた国を助ける」(北大西洋条約第5条)という集団防衛条項の適用を受ける。核兵器を持たない大部分の欧州の国々は、NATO加盟により米国の「核の傘」を享受できる。欧州諸国は通常戦力でも一国ではロシアに太刀打ち困難なため、米国をよりどころに各国が力を合わせる効果は大きい。
フィンランドの中道右派野党・国民連合党で外交政策顧問を務めるヘンリ・バンハーネン氏は、英シンクタンクの王立防衛安全保障研究所(RUSI)への5月24日付の寄稿で、もともとフィンランドには「いざとなればNATOに加盟申請する用意があった」としつつ、実際に申請が実現したのは、ウクライナがロシアに徹底抗戦したことで時間的な余裕が生まれたからだと指摘。「ロシアが(侵攻開始から)数日でウクライナの首都キーウに進軍していれば、フィンランドは非常に困ったことになっていた。好機を与えてくれたのはウクライナだ」と強調した。その上で、たとえトルコが難色を示しても、「フィンランドとスウェーデンがNATOの一員となる公算は極めて大きい」と予想した。
東方拡大、「世界最強」の同盟
NATOが設立されたのは今から73年前の1949年。前年には東欧チェコスロバキアで政変が起きたり、ソ連がドイツで「ベルリン封鎖」を強行したりと、東西冷戦の緊張が頂点に達しつつあった。共産圏の膨張を阻止したい米国と、2度の大戦で荒廃した国土を癒やし、経済を立て直したい欧州諸国の思惑は一致。やがて「世界最強」と呼ばれるようになる軍事同盟は、カナダやアイスランドを含む計12カ国での船出となった。
【図解】NATOの拡大【時事通信社】
発足3年後の52年にはギリシャとトルコが、55年には西ドイツが参加。さらに、ソ連主導の軍事組織「ワルシャワ条約機構」に名を連ねていたポーランド、ハンガリー、チェコの3カ国がソ連崩壊後の99年に仲間入りを果たす。2004年にはソ連構成国だったバルト3国、旧ユーゴのスロベニア、東欧ルーマニアなど7カ国が雪崩を打って合流し、「東方拡大」が飛躍的に進展。20年に旧ユーゴの北マケドニアが加わり、現在の30カ国体制となった。
脅威消滅で迷走
しかしもともとソ連に対抗してつくられただけに、ソ連崩壊後は迷走が続いた。NATOが1999年に向こう10年間を見据えて策定した行動指針の「戦略概念」は、冷戦終結で欧州の安全保障環境が一変し、「加盟国が通常兵器で大規模な侵略を受ける可能性は非常に低くなった」「核兵器の使用を検討せざるを得ないような状況は極めて起こりにくい」と明記。代わって、90年代の旧ユーゴ紛争でボスニア・ヘルツェゴビナに平和維持部隊を派遣した実績などを基に、紛争予防や危機管理といった集団防衛以外の仕事を「根本任務」に昇格させた。
実際、NATOは2001年の米同時テロを受け、欧州から遠く離れたアフガニスタンに国際治安支援部隊(ISAF)を派遣。設立当初に想定していなかった遠隔地での「域外任務」には、欧州の加盟各国で相次ぎ世論の反発が沸き起こり、「NATOは米軍の下請けなのか」といった批判が渦巻いた。
宿敵同士が笑顔で…
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、NATO・ロシア理事会に先立ち、談笑するメドベージェフ・ロシア大統領(左)、オバマ米大統領(中央)、サルコジ仏大統領=2010年11月、ポルトガル・リスボン【EPA時事】
ただ、本当の意味でこの軍事同盟が変わったのは、ポルトガルの首都リスボンで10年11月に開催されたNATO首脳会議の場だ。会議には、NATO側の招きでロシアのメドベージェフ大統領(当時)が出席した。宿敵同士のロシアとNATOの首脳が一堂に会し、笑顔で握手しながら記念撮影に応じる様子は、今では信じられない光景だが、それは当時も同じだった。
首脳会議は、ロシアとNATOの連携が「戦略的に重要だ」という認識で一致。さらに、双方がミサイル防衛や対テロ、海賊対策といった課題で「政治的な協議と実際的な協力を促進する」ことで合意したと宣言した。
首脳会議でラスムセンNATO事務総長(当時)は「(対ロシア)関係は転機を迎えている。われわれは重要な利益を共有しており、双方の安全保障は不可分だ」とまで言い切り、ロシアとの協力の重要性を強調。メドベージェフ氏も記者会見で「(NATOとの)困難な緊張関係は克服された」と語り、米欧の真摯(しんし)な姿勢をたたえた。
蜜月はつかの間
このころは、米国とロシアの関係はジョージア(グルジア)紛争(08年)で一時緊張したものの、「リセット(仕切り直し)」を呼び掛けるオバマ政権の下で雪解け。核軍縮条約「新START」への調印(10年)や、世界貿易機関(WTO)閣僚会合でロシアの加盟承認(11年)などもあり、一気に改善が進んだ時期だった。
しかしその後、NATOとロシアの距離が一段と縮まることはなかった。ミサイル防衛での協力は「絵に描いた餅」に終わった。NATOのミサイル防衛に対するロシアの理解が深まらず、NATOが提案した機密データの共有計画が実現することもなかった。そして、双方の亀裂はロシアによる14年のクリミア併合で再び決定的となり、現在に至っている。
NATOは6月末、スペインの首都マドリードで首脳会議を開き、新たな戦略概念を採択する。ロシアとの協力に関する部分は削除されるか、少なくとも全面的な見直しが加えられそうだ。
オーストリア、スイスは?
【図解】欧州のNATOとEU加盟国【時事通信社】
欧州にはスウェーデンとフィンランドのほかにも、EUに加盟しながらNATOに距離を置いてきた国がある。島国のアイルランド、キプロス、マルタ、そして内陸国のオーストリアの4カ国だ。四方をEU加盟国に囲まれ、EUとのつながりが深い内陸国のスイスもNATOに入っていない。歴史的な経緯から中立政策を掲げているケースがほとんどで、ウクライナ侵攻後も、NATO加盟の是非をめぐって世論に劇的な変化は生じていないようだ。北欧と違ってロシアから地理的に距離があり、侵略の脅威を国民が肌身で感じるほどではないという事情が大きいとみられる。
報道によれば、中立政策に対する国民の支持率はオーストリアで75%、マルタで60%台。中立放棄への賛成はわずかという。スイス大衆紙ブリックは4月中旬の世論調査で「NATOとの連携強化」を支持するとの回答が過半数の56%に達したものの、NATO加盟には33%の賛成しか集まらなかったと伝えた。
衝突の可能性は
仮にスイスやオーストリアが北欧に続いてNATOに加盟申請するようなことがあれば、ロシアに対する心理的なインパクトは相当なものだろう。現に、NATO拡大の阻止を目指すロシアは、北欧の動向を目の当たりにして猛反発。フィンランドがNATOに加盟することで「自国の領土をロシアとの軍事的対立の最前線に変貌させようとしている」(ロシア外務省声明)ことへの疑問を投げ掛けた上で、ロシアは自国の安全に対する脅威を阻止するため、「報復措置を講じざるを得なくなる」(同)と警告した。
もっとも、ロシアとNATOが直接衝突する可能性については懐疑的な見方が少なくない。米シンクタンク、ジャーマン・マーシャル・ファンドのシニア・フェローでワルシャワ支局長のミハウ・バラノフスキ氏はCNBCテレビで「ウクライナが攻撃されたのは、どの(軍事)同盟にも属していないからだ」と前置きしつつ、「ロシアの脅威に直面したスウェーデンとフィンランドに手を差し伸べなければ、ウクライナほどの規模ではないにしても(ロシアとの)衝突が起きる公算は格段に大きくなる」と予測。北欧をNATOに迎え入れ、集団防衛の保護下に置けば、衝突のリスクも低下すると断じた。
(2022年5月27日掲載)
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