プーチンが「現代のヒトラー」に成り上がった6つの手口
プーチンウォッチャー・黒井文太郎が読み解く「プーチンの正体」(後編)
黒井文太郎
Friday Digital, 2022年05月31日NEW
<一介のスパイだったウラジーミル・プーチンは、瞬く間に権力のステップを駆け上った。祖国の暗黒時代を経験した彼は大統領になり、「大国ロシア」復権のために6つの手口を使って独裁者になった。ナチスドイツ、ヒトラーのプロパガンダと悪夢の再現を、黒井文太郎が読み解く>
スパイから大統領へ。権力の階段を駆け上ったプーチンが「してきたこと」は、ヒトラーのそれによく似ていた。軍事ジャーナリスト・黒井文太郎渾身のレポート 写真:代表撮影/ロイター/アフロ
プーチンは、生まれてから23歳までソ連共産党の全体主義的な価値観で育ち、37歳までKGB工作員として生き、人間性の基礎を形成した。
その後、47歳で大統領に就任するまで、サンクトペテルブルク市およびロシア大統領府の行政部門幹部としてスピード出世を遂げ、秘密警察「FSB」の長官、首相も経験した。それはちょうどエリツィン政権下でかつての超大国ロシアが見る影もないほど凋落した暗黒の1990年代で、彼はその屈辱を37歳から47歳という働きざかりの時期に体験している。
そんなプーチンは大統領就任後、かつての「大国ロシア」を取り戻すべく、矢継ぎ早に強権統治を進めていく。プーチンは今、2022年のウクライナ侵攻で急に強権的になったわけではない。彼はもともと強権的な体質の人間なのだ。
プーチンのとった6つの手口
大統領となったプーチンが進めた主な施策は以下のようなものだ。
① チェチェン侵攻で強い指導者のイメージを喧伝
プーチンは大統領就任前の首相時代に、FSBにチェチェン独立派に成りすました自作自演テロをやらせ、それを口実にチェチェンに軍事侵攻を強行した。同時にロシア国内ではチェチェン独立派全体を悪辣なテロ集団だと嘘の宣伝をし、「テロと戦う強い指導者」とのイメージづくりに成功した。
② KGB時代の仲間を重用して独裁権力を強化
プーチンは最高権力者になると、かつて若き日にKGBレニングラード支部でともに過ごした同世代の旧友たちを治安・情報機関の要職に次々と登用し、まずはそれらの権力組織を掌握。さらにそれらの組織の権限を強化し、大統領の手駒となる強大な権力機構をつくった。さらに彼らおよびサンクトペテルブルク副市長時代の腹心の手下たちを加えた側近たちで政権の要職を占めさせた。
③ メディアを支配して国民を洗脳
プ―チンは大統領に就任した翌月、「メディア王」と呼ばれていた新興財閥ウラジーミル・グシンスキーを逮捕し、そのメディア集団を支配する。その後も他の国内のほとんどの主要メディアを支配し、国内メディア全体を自らの宣伝マシンに作り替えた。また、インターネットのSNSにもFSBを介入させて愛国主義・民族主義を拡散させ、その「強いリーダー」としてプ―チン崇拝に国民を洗脳していった。
④ 最大のライバルである新興財閥「オリガルヒ」の追放
エリツィン時代に国家資産を不正に入手して強大な存在になっていた新興財閥「オリガルヒ」を、権限を強化した治安・情報機関の総力を挙げて摘発し、シベリア送りにしたり事実上の国外追放にしたりして排除した。それは、その時代に生活苦にあえぎ、オリガルヒに反感を募らせていたロシア国民から大きく支持された。ただし、プーチンはそれら旧オリガルヒの後釜に自らの側近を送り込んでいる。
⑤ 愛国主義を国家の指針と宣言して全体主義化
プーチンはソ連時代の社会主義の代わりに、排他的で偏狭な「ロシア民族主義」を喧伝し、極右的な群集心理を利用して支持基盤を強化した。また、「愛国主義」を国家の唯一の指針と宣言し、児童教育や軍内教育に愛国教育の制度を正式に導入。ロシア社会での全体主義の復活を進めた。
⑥ 米国など西側への敵視の扇動
プーチンは自らの宣伝マシンである官製メディアを総動員し、自分たち「偉大なるロシア」の敵は米国などの西側世界だとのプロパガンダをロシア国内で強力に拡散。国民に西側への敵視を植え付けると同時に、西側の価値観であるリベラルな「自由」「民主主義」「人権擁護」への不信感も拡散した。
ヒトラー同様、圧倒的なプロパガンダ力で
これらのプ―チンの手法は、かつてヒトラーが、生活苦に喘いでいたドイツ国民に「ドイツ民族の優位性」を説き、元凶は「外の敵だ」とアジ演説することで国民の熱狂的な支持を得て独裁権力をつかんだ手法と同じだ。しかも、権力奪取後はメディア支配して民衆を洗脳し、反対派を強大な治安・情報機関で弾圧した。これもナチスとまったく同じである。
このように、プーチンはロシア政権に登場した時点から危険人物だった。
彼は、最初はロシア国内で自らの独裁権力を強化し、「チェチェン独立派」や「エリツィン派のオリガルヒ」など、自らが設定した「敵」を強圧的手法で弾圧・殺害・追放して排除した。
そして、ロシア国内でまるで王様のような存在になった2010年代、ちょうど米国がイラク戦争のダメージから「世界の警察」の役割を放棄した間隙を衝き、クリミアおよびドンバス地方への侵略や、アサド独裁政権支援のためのシリア軍事介入、米国大統領選への大規模な情報工作など西側社会分断工作に大々的に乗り出した。G7諸国を中心につくられていた国際秩序を破壊する挑戦を、公然と始めたのだ。
プーチンにとってそれは、37歳から47歳に味わった屈辱を晴らし、「大国ロシア」を取り戻す戦いでもある。ただしその戦いは、彼と側近たちだけにしか通じない身勝手なものであり、そこに正義はない。プーチンの戦いはヒトラーの戦いと同じく、大勢の罪なき人々の命を理不尽に奪い、暮らしを破壊しつくすのだ。
そしてプーチンはヒトラーと同じく、自らの不正義におそらく気づいていない。しかし、国際社会から見れば、そこには強大な権力を握ってそれを振り回す「狂人」の姿しかない。
黒井文太郎:軍事ジャーナリスト。1963年生まれ。モスクワ、シリアなどで取材、プーチンの言動について長年にわたり分析を続けているプーチンウオッチャーとしても唯一無二。新刊『プーチンの正体』(宝島社新書)は、20年にわたるプーチン観察の集大成ともいえる。
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