日本は「高学歴」とは言えない国、何が問題でそうなってしまったのか
あまりにも少ない修士、博士
現代ビジネス, 2022.06.05
日本は高学歴国だと思っている人が多いが、統計を見ると、先進国のなかでは低学歴国だ。とくに問題なのは、修士・博士レベルの学位取得者が少ないことだ。アメリカのプロフェッショナルスクールのような、高度な実務専門教育の充実が求められる。
日本人の学歴は、国際的にどの程度の水準か?
日本の大学(学部)進学率は、2021年度で54.9%だ(文部科学省、学校基本調査令和3年度)。これを他国と比べると、高いか低いか?
国際比較では、高等教育への進学率として、大学進学率でなく、tertiary eduction(第3期の教育)への進学率という指標が使われることが多い。
これを世界銀行のデータベースでみると、図表1のとおりだ(日本について2018年のデータまでしか得られないので、2018年のデータを示す)
日本は64.1%で、先進国の中では高いとは言えない。OECDの平均が75.6%。アメリカは88.3%だ。また、韓国が95.9%と、きわめて高い値になっていることが注目される。日本の数字は、韓国の1.5分の1、アメリカの1.4分の1だ。
なお、「第3期の教育」の正確な定義は、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)が決めている。大学の他、職業専門学校なども含む。primary education(初等教育)、secondary education(中等教育)のつぎの段階の教育課程だ。
「学校基本調査」によると、2021年度において、大学学部、短期大学本科進学率は58.9%であり、高等教育機関(大学学部、短期大学本科、高等専門学校)への進学率は83.8%である。
図表に示す値64.1%はこれらの中間になるので、専門学校の一部は含まれていないことになる。
図表1 高等教育への進学率
なお、図表1の数字は、総入学者数を入学適齢人口で割った比率であり、分子には浪人生や社会人、留学生など、適齢年齢以外の入学者も含む。このため、比率が100%を超える場合もある。
日本は学歴社会だと言われるが
日本は学歴社会だと言われる。会社の採用では学歴による区別がなされる。受験競争も厳しく、小学生からの塾通いも普通だ。こうしたことから、日本の高等教育進学率は他国より高いと考えている人が多いだろう。しかし、図表1のデータは、それを裏付けていない。
個人の立場から見ると、高等教育を受けていないために、能力を十分に発揮できない場合がある。だから、できるだけ多くの国民が高等教育を受けられることが望ましい。
また、国全体の立場から見ても、高等教育を受けて高度な能力を身につけた人材が多いことは、長期的な発展のために不可欠の条件だ。
このような観点からすると、図表1に見る日本の現状は、決して満足できるものではない。
OECD統計では日本の高等教育終了者比率は低くない
高等教育への進学率に関しては、別の指標を用いた統計もある。
OECDのEducation at a Glance 2018は、いくつかの年齢階層について、その年齢層の人口に対する第3期教育終了者の比率を示している。
同レポートの図表A1.2は、25歳から34歳の年齢階層のうち、第3期の教育を受けた者の比率を示している(2017年の計数)。
それによると、日本は約60%であり、韓国(約70%)、カナダについで、世界第3位だ。アメリカは約48%と、日本より大分低い。OECD平均は43%程度だ。
このデータは、図表1とはかなり違う姿を表している。なぜこのような違いが生じるのだろうか? それは、図表1の数字は2018年という直近の状況を表しているのに対して、OECD データにはそれより以前の状況も反映されているからだ。
例えば、34歳の人が大学に在学していたのは、いまから10年以上前のことである。その頃には日本の大学進学率は他国より高かったのだ。その後、日本の進学率があまり伸びなかったのに対して他国の進学率は伸びた。このため、図表1のように最近時点だけを評価すれば、日本の値が低くなるのである。
こうしたことを考えると、「OECDの統計では日本は世界第3位なのだから、学歴面で日本は大きな問題を抱えていない」との評価はできない。
なお、OECDのデータは、第3期の教育のうち、「短期の専門学校」の比率も示している。それによると、日本も韓国も、ほぼ20%で変わりがない。
「図表1のデータで韓国の数字が高いのは、短期の専門学校が多いからで、その意味で韓国の数字は水増しされている」と言われることがある。しかし、そうしたことはないことが分かる。
また、アメリカの場合に、図表1では比率が高いのにOECDの指数であまり高くないのは、分子に外国人留学生が多く含まれているからかもしれない。
日本では、修士・博士が少ない
さまざまなレベルでの学位取得者が人口あたりどの程度いるかの計測を、文部科学省、 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が行なっている。
前記OECDの統計が年齢階層別に比率を求めているのに対して、この計測では、ある年度の学位取得者を人口で割っている。だから、この指標が表しているのは、図表1と同じく、直近の状況だ。
この計測によると、2017年度において、人口100万人当たりの学士号取得者は、日本は4481人だ(日本全体では、56.2万人ということになる。これは学校基本調査による17年度の大学卒業生56.8万人とほぼ同じだ) 。
これは、韓国6594人、イギリス6312人、アメリカ6043人よりかなり低い。日本の数字は、韓国の1.5分の1、アメリカの1.3分の1だ。これは、図表1の場合とほぼ同じ比率だ。この計測で見ても、日本は先進国の中では低学歴国だということになる。
さらに問題なのは、修士・博士レベルの学位取得者比率が低いことだ。人口100万人当たりの修士号取得者は、2016年度で日本は569人であり、イギリス3694人、アメリカ2486人、ドイツ2465人より大幅に少ない。
博士号は、2016年度で日本は118人であり、イギリス360人、ドイツ356人、アメリカ258人に比べて大幅に少ない。
アメリカでは修士・博士の学位保有者が多い
上で見たように、アメリカでは、修士号、博士号の取得者が多い。これが研究開発の原動力になっていることは言うまでもない。
それだけでなく、実務の面でも、大学院レベルの教育が重要な役割を果たしている。これは、ロースクールやビジネススクールなど、「プロフェッショナルスクール」 と呼ばれているものだ。大学4年の過程を終了した後に、修士レベルの教育を行う。
従来の修士課程が学者養成のための教育で、博士課程の前段階と位置づけられていたのに対して、プロフェッショナルスクールは実務での高度専門家の育成を目的とする。
こうした機関での教育が、生まれた時の社会的階層を飛び越えることを可能にしている。
アメリカでは、女性や黒人など、これまでマイノリティーと考えられていた人々の社会的活躍が目立つ。
様々な階級出身の人々が重要な地位に就くことは、社会の活性化にとって大変重要なことだ。その際に重要な役割を果たすのが学歴だ。アメリカは、高学歴社会であり、それゆえに活力があると考えることができる。
博士だけでなく、プロフェッショナルスクールも重要
日本経済新聞は、2022年5月に、「揺らぐ人材立国」というシリーズで、日本で高度専門家の教育が不十分だと論じた。
ここで問題にされたのは、博士号レベルの保有者が少ないことだ。基礎的研究開発という観点から、もちろんこうした人材が必要だ。
ただ、それとは別に、プロフェッショナルスクールに見るように、修士レベルでの高度専門家の養成も重要だ。
日本でも、2009年に専門職大学院の制度が作られた。それから10年以上経つが、残念ながら、期待された機能を果たしているとは言いがたい。
なぜこうしたことになったかの原因を究明し、現状を改善していく必要がある。
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