演藝, 팻션

活動休止前にホワイトハウスを訪問したBTS、大統領との面談の「歴史的意義」

이강기 2022. 6. 23. 14:09

 

活動休止前にホワイトハウスを訪問したBTS、大統領との面談の「歴史的意義」

 

大統領とポップスターの邂逅をふり返る

 
 
池城 美菜子
音楽ライター
翻訳者
プロフィール
 
週刊現代,  2022.06.22
 
 
 
 

活動休止を発表し、世界中に衝撃を与えているBTS。数週間前には、ホワイトハウス訪問も大きな話題となった。ポップスターがホワイトハウスを訪れるとはどういうことなのか。歴史をふり返って見えてきた、今回の出来事の意味とは――。

 

米国大統領と地球規模でトップを走り続けるポップスター集団――。5月31日、BTSのホワイトハウス訪問が世界中のニュースのヘッドラインに踊った。第46代米国大統領ジョー・バイデン氏とBTSのメンバー7人が並んだ写真は、華々しい印象とともに若干の違和感を与えた。

 

2021年9月の国連訪問とスピーチに続き、圧倒的な影響力をもつ人気グループを為政者が国際政治の場で利用しているのでは? と構えた見方をしたファンは、日本と韓国では少なくなかったようだ。俳優やミュージシャンが政党支持や政治家との関わりを表に出すのが珍しい文化圏に住んでいると、今回のようなケースは政治家だけが利しているように映るのだろう。

 

大統領の公邸であり、政治の中枢でもあるホワイトハウスにはセレブリティ、とくに頂点に立つポップスターを迎え入れてきた歴史があり、そこに韓国人のミュージシャンが名を連ねた出来事だと捉えると、そこまで突飛ではなかったとの見方もできる。

 

本稿では、元非移民合法労働者(=労働ビザを取得してアメリカで暮らしていた)、非アーミー(=熱心なBTSファンではない)である筆者が、ホワイトハウスとポップミュージシャンの関係という切り口で、今回のニュースを考察する。まず、ホワイトハウスにおける、歴代の大統領とポップスターの邂逅をふり返ってみよう。

 

エルヴィス・プレスリーとリチャード・ニクソン

アメリカ政府の書類と歴史的価値のある資料を保存する、アメリカ国立公文書記録管理局(National Archives and Records Administration, NARA)で、もっとも閲覧数が多い写真がある。

 

1970年12月21日、人気復活中であった「キング」、エルヴィス・プレスリーが、第37代大統領のリチャード・ニクソンを訪ねた際のツーショットだ。

                                  エルヴィス・プレスリーとリチャード・ニクソン〔PHOTO〕gettyimages

 

今夏、伝記映画が公開されて再評価の機運が高まっているエルヴィスと、有能な政治家ながらいまひとつ人気がなかったニクソンの面会は、1997年にテレビ映画に、2016年には映画化されている。後者『エルヴィスとニクソン〜写真に隠された真実〜』はアマゾンの配給であったため、いまもアマゾンプライムで見られる。

 

歴史的には、大統領の執務室であるオーバルルームにおける、大統領とミュージシャンの面会のインパクトを初めて示した出来事となる。ただし、バイデン大統領側から招かれたBTSとは真逆で、違法薬物の蔓延など世相を憂慮したエルヴィスがホワイトハウスに押しかけ、麻薬危険薬物取締局の覆面捜査官としての任命を望んだという嘘のような背景があるのだ。

 

映画『エルヴィス&ニクソン』も、浮世離れしているキングと、迷惑がりながらも人気取りに利用しようとしたニクソン陣営の心理的な攻防戦が見ものだ。脚色されているとはいえ、コメディ映画として成立するほどおもしろい史実である。大統領と希代のスーパースターがどちらの影響力が大きいか、という今回のBTSとバイデンの会談につながる命題も盛り込まれている。

 

この後、ウォーターゲート事件で失脚したニクソンが、一枚の写真のおかげでポップカルチャー史で語り継がれているのは事実だ。共和党のニクソンのもとには、意外なところではゴッドファーザー・オブ・ソウルことジェームズ・ブラウンや、カントリーのジョニー・キャッシュも訪れている。共和党支持者の前者は応援のため、後者は刑務所の改革を話し合うための面会であった。

 

 

マイケル・ジャクソンとロナルド・レーガン

今回のBTS と近い形でホワイトハウスに招かれたのが、「キング・オブ・ポップ」のマイケル・ジャクソンだ。

 

1982年の暮れにリリースされた『スリラー』で人気の頂点に立ったマイケルは、第47〜48代の大統領を務めたロナルド・レーガンに1984年5月14日に招かれている。目的は、10代のあいだで増えていた飲酒運転撲滅キャンペーンのロールモデルとして称えられるためという、こじつけに近いもの。

 

レーガンは大ヒットした曲名を散りばめながら「マイケル・ジャクソンは飲酒や麻薬を使わない人間がなにを成し遂げられるかの証のような人です("Michael Jackson is proof of what a person can accomplish through a lifestyle free of alcohol or drug abuse")」とスピーチ。

 

飲酒とドラッグに手を出さないからと言ってマイケルのような偉業はなかなかできないだろう、とつっ込みたくなる内容ではあるが、ファーストレディのナンシー・レーガンとマイケルが並んでいる様は優雅だ。YouTubeにある動画を見るとはりきっている大統領とは対照的に、ステージ衣装に身を包んだマイケルはひと言、お礼を述べただけに留めている。

                             ロナルド・レーガンマイケル・ジャクソンとナンシー・レーガン〔PHOTO〕gettyimages

 

マイケル・ジャクソンは、1990年にレーガンの次のジョージ・H・W・ブッシュ大統領に再び招かれ、「アーティスト・オブ・ディケード(この10年間でもっとも活躍したアーティスト)」という賞を受け取っている。マイケルの全盛期と共和党政権期が重なっただけで、彼は生涯を通じて支持政党を公にしていない。1993年のスーパーボウルのハーフタイムショーでは、人種の融合と世界平和のメッセージを放つなど独自のスタンスをもつ人だ。

 

一方、実業家だったドナルド・トランプ一家、とくに娘のイヴァンカ・トランプとは親しかった。マイケルが亡くなった7年後の選挙戦で、トランプはこの事実にたびたび言及して好感度アップを狙ったものの、マイケルの3番目の兄であるジャーメイン・ジャクソンが「(マイケルが生きていたら)トランプには投票しなかったはずです」とコメントしたり、娘のパリス・ジャクソンが反トランプを表明したりして牽制した。レガシーを守る役割を担う家族がしっかりしているポップスターの場合、政治利用も容易ではない例だといえる。

 

オバマ&フレンズ

アメリカでは支持政党をはっきりと表明して、積極的にサポートするミュージシャンも少なくない。

 

ソウルの女王、アレサ・フランクリンは熱心な民主党支持者で、1977年の第39代のジミー・カーターを皮切りに、第52〜53代のビル・クリントン、56〜57代のバラク・オバマと3人もの大統領の就任式で歌っている。2018年にアレサが逝去した際はクリントンが葬式でスピーチを12分も行って話題を呼んだ。

 

アメリカ建国以来初の有色人種の大統領であったオバマは、ブルース・スプリングスティーンからジェイ・Zとビヨンセのカーター夫妻まで数えきれないほどのミュージシャン、俳優たちから支持され、就任してからもセレブパワー絡みの華やかな話題に事欠かなかった。

                                             ビヨンセとバラク・オバマ〔PHOTO〕gettyimages

 

ホワイトハウスには1978年からはじまったイーストルームで執り行われるコンサートシリーズがあり、公共放送でテレビ放映もされる。音楽に造詣が深いオバマの政権時代はとくにプログラムが充実していた。オーバルルームを訪れたミュージシャンも多く、記念写真がよくSNSを賑わせた。

 

特筆すべきは、2010年にイギリス人のポール・マッカトニーが、長いあいだポピュラー音楽に貢献した作曲家・ミュージシャンに贈られるガーシュウィン・アワードをオバマ元大統領から受け取ったことだろう。これは、スティーヴィー・ワンダー、ポール・サイモンに続く3人目である。

 

 

オリヴィア・ロドリゴとBTSの起用

第46代大統領のトランプは、キッド・ロックや(一時の)カニエ・ウェストなどトランプ支持を表明したアーティストもいたものの、ミュージシャンからは不人気であった。就任式のパフォーマー探しに苦労したり、選挙で使う曲にもミュージシャン側から差止めが要求されたりしたニュースは記憶に新しい。

 

オバマ政権の副大統領であったバイデンは、コロナ禍での大統領就任であったため、就任式もバーチャルを用いた異例の内容だった。有名人を執務室に招くPR活動も控えていたなか、昨夏7月14日に招待したのが、当時18才のオリヴィア・ロドリゴだ。若年層へのコロナワクチン接種を促すという明確な目的があり、オリヴィアは大統領と感染症対策トップのアンソニー・ファウチ博士と面談したあと、シャネルのツィードスーツでスピーチをして完璧に任務を全うした。

                                           オリヴィア・ロドリゴ〔PHOTO〕gettyimages

 

今回、BTSが抜擢された理由は、ワクチン接種と同様に急を要する、アジア系アメリカ人に対するヘイトクライム対策のPRだ。「憎悪犯罪」と翻訳されるヘイトクライムは、特定の人種や宗教、性的嗜好をもつ人々に一方的に嫌悪感を抱き、それが敵意となって暴言を含む暴力をふるう犯罪行為である。

 

新型コロナウィルスが中国の武漢から始まったと報道されたことから、2020年から欧米諸国でとくにアジア系への嫌がらせが増加。2021年の2月にはジョージア州でアジア系が経営するマッサージ店を狙った乱射事件がおきてアジア系の女性6人と白人の男女一人ずつ、8人もの死者が出た。このとき、ハリウッドの俳優が声明を出し、アジア系コミュニティを中心に抗議運動が起きた。

 

だが、今年に入ってもアジア系住民が暴漢に襲われる映像がネットから流れてくるのが現状だ。コロナ禍で格差が浮き彫りになって分断が進み、治安が悪化しているアメリカ。多くの移民を受け入れて発展してきた大国には、社会的に上昇できずに不満をもつ層が、さらに移民として入ってきた順番が遅いマイノリティを相手にうっぷんを晴らしてきた暗い歴史がある。

 

BTSが刻んだレガシー

ジョージアの乱射事件のあと、「#StopAsianHate」「#StopAAPIHate」のハッシュタグとともに、ネットでもアジア系に対する嫌がらせとヘイトクライムを止めようとする動きが強まった。

 

BTSは3月末に英語と韓国語で声明を出し、大きな反響を呼んだ。そのなかには「自分たちもとくに理由もなく罵られたり、外見をバカにされたりしました」と具体的な経験談を織り込んでいたのには、驚いた。

 

このときの動きが今回のホワイトハウス訪問につながったと察するが、1年経ってもアジア系のヘイトクライムがなくなっていない事実を示唆してもいる。その間、バイデン政権が無策だったわけではなく、昨年の4月には新型コロナウィルス対策の予算の一部をアジア系へのヘイトクライムへの対策費用に充てると発表、12月にはより具体的に省庁をまたいだアジア系への支援策として地位向上プロジェクトを始め、2022年5月20日にはさらなる強化対策を施す法案に署名している。

#StopAAPIHate、もしくは運動の総称「Anti-AAPI Hate」(反アジア系ヘイト)に含まれるAAPIはエイジアン・アメリカン・アンド・パシフィック・アイランダーズの略語だ。アジア系と太平洋に浮かぶ島々の出身の人を包括したグループであり、近年はハワイ系先住民(Native Hawaiian)を含めてアジア系・ハワイ先住民・太平洋諸島系米国人(AANHPI)というまとめ方もあり、混在している。2017年のアメリカの国勢調査でAAPIに分類される人は5.4%、他人種も入っている人を含めると6.5%となりじつにアメリカ人の20人に一人以上がアジア系なのである。

 

5月はアジア・太平洋諸島系米国人文化遺産月間(Asian Pacific American Heritage Month)であり、2月の黒人歴史月間(Black History Month)などと同様、アメリカにおけるアジア系の歴史をふり返りつつ、理解を深めるためのイベントが行われる。

 

今回の訪問はこのアジア系アメリカ人に焦点をあてる5月の締めくくりに設定された。リーダーのRMが英語で、ほかの6人が韓国語でスピーチした全文はホワイトハウスの公式サイトで読める。また、5分間弱のヴィデオも公式YouTubeチャンネルに上がっている。ステージ衣装でのような格好で登場したエルヴィスやマイケルとは異なり、全員が髪を黒く染めスーツで臨んだあたり、彼らの礼儀正しさがよく表れていた。

 

重要なのは、バイデン大統領が「公民権運動の際、アーティストが大きな役割を果たした歴史があります」とメンバーたちに語りかけるシーン。公民権運動は、1950〜1960年代のアフリカ系アメリカ人の公民権適用と人種差別の撤廃を求めたムーブメントだ。サム・クックやジェームズ・ブラウン、そしてボブ・ディランの曲が大きな力を与え、実際の抗議運動にも加わって歴史を動かした事実に触れたのである。

 

現在のアジア系アメリカ人の状況が60年以上前の強烈な差別があった時代と完全に重なるわけではないが、人間の弱さから出た、理不尽で謂れがない暴力から身を守らないといけない点は同じだろう。

 

BTSの記者会見におけるスピーチは、招待への感謝、ファンへの心遣い、このイシューに対する思いなど過不足がなく、一連の話を7人で分けて行なっている。これも動画で上がっているのでぜひ確認してほしい。

 

もっとも重要なスピーチの総括部分を訳出して本稿を締めたい。

 

「(ほかの人と)違いがあるのは悪いことではありません。それぞれの違いに心を開き、受け入れることから平等は始まると思います(シュガ: It’s not wrong to be different. I think equality begins when we open up and embrace all of our differences.)」

 

「みな、それぞれの歴史を抱えています。今日のこの機会がすべての人に価値があり、尊重、理解される一歩となりますように(V: Everyone has their own history. We hope today is one step forward to respecting and understanding each and every one as a valuable person. )」