縮小する中国、1960年代以来初の人口減
予想よりかなり早い転換、インドに抜かれる日も間近
(英エコノミスト誌 2023年1月21日号)
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世界一人口が多い国としての長い君臨は恐らく終わりを迎えた。
「我々が最後の世代だ」
1月17日の統計発表で中国の人口が昨年、数十年ぶりに減少したというニュースが中国のソーシャルメディアを駆け巡ると、一部のコメンテーターはこうした不吉な言葉を使った。
この言葉は中国で特別な響きを持つ。
新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するために昨年上海で何週間もロックダウン(都市封鎖)が敷かれた際、怒った若い男性が、パンデミック対策の規制違反に対する罰則は家族を3代にわたって苦しめるぞと警告してきた防護服姿の警官に向かって、この言葉を吐き捨てた。
携帯電話で撮影された言葉は、即座にネット上で広まった。
そして今、その意味が本当に腑に落ちてくるなか、あのセリフを思い出している人たちがいる。
もう次の世代はない
中国国家統計局によると、中国の昨年末の総人口は14億1200万人で、年初より85万人少なかった。
中国が人口減少を記録したのは、毛沢東の「大躍進」によって引き起こされた人為的な飢饉(ききん)で数百万人が死んだ後の1962年以来初めてだ。
今回、人口減少の主な原因は不自然な死者数ではない。
中国は12月7日、3年近く続いた「ゼロコロナ」政策を廃止し、感染の急拡大と多くの死を招いた。
当局者らは1月14日、政策廃止以来、6万人近いコロナ関連の死者が出たことを明らかにした。
実際の数字はそれよりはるかに大きい(政府の公式数字には病院での死者数しか含まれず、コロナ感染による死は多くの場合、そのように記録されない)。
だが、当局者らは12月のコロナ関連の死者は人口統計には反映されていないと話している。
人口減少の理由は明らかだ。
子供を持つ願望が急激に薄れているのだ。多くの中国人にとっては、結婚している人でさえ、次の世代がいない。
人口ボーナスの終焉
しかし、ほんの数年前には、多くの中国人学者と国連は中国の人口が2030年前後にピークに達すると見ていた。
予想よりはるかに早く転換点に達したことに、中国の指導者は粛然とするはずだ。
人口減少は、中国がもはや、膨大な量の安価な労働力が成長を押し上げる人口ボーナスを享受できないことを改めて思い出させる出来事だ。
(中国の統計局は昨年の成長率が3%だったとしており、毛沢東時代の終焉以来、突出して低い水準になった)
そして今、中国は急激に高齢化している。
生産年齢人口は2012年に減少に転じた。最初に豊かになることもなく、また膨れ上がっていく高齢者層が必要とする医療その他のケアに十分なお金をつぎ込むこともないままで、日本や韓国といった国がたどった道のりを追いかけている。
中国政府は必死になってこれを是正しようとしたが、手遅れだった。
数十年来の一人っ子政策をあきらめたのは、2016年になってからだ。
2021年には、夫婦に3人の子供を持たせる政策に切り替えた。これは制限というよりは、むしろ願望で、それ以上の子供をもうけても罰則はない。
この政策緩和は現金支給から税制優遇、長い産休まで、子供を持つ様々な奨励策を伴って実施されたが、ほとんどインパクトがなかった。
出生率低下で国力に悪影響
直近の統計によると、2022年の出生数は956万人で、前年実績より10%近く少なかった。この出生数は1949年に中国共産党が政権を握って以来、最も低い数字だ。
今から10年前には、合計特殊出生率(現在の出生ペースで1人の女性が生涯に産む子供の数の平均値)は1.7人だった。
国連の数字によると、2021年には1.2人を割り込んだ(図1参照)。
移民の純増がなく、死亡者が変わらないと仮定すると、人口が安定するには、合計特殊出生率が約2.1人である必要がある。
子供を持つことが人気を失っている理由はいくつかある。
主な理由は子育てのコストだ。北京のシンクタンク、育媧人口研究所は昨年、1人当たりの国内総生産(GDP)比で見ると、中国の子育ての費用は米国を含む先進国数カ国を上回ったと報告した。
子供を持つのが中国以上に高くつく国として唯一、韓国を挙げている(韓国は世界で最も出生率が低い国だ)。
育媧は、中国の出生率低下は国の革新力と「全体的な国力」に「深刻な悪影響」を与えかねないと警鐘を鳴らした。
子育ての負担に加えて親の介護も
政府の給付金は、親にかかる負担をほとんど和らげていない。
広東省深圳市は1月10日、第3子(または追加の子供)を持つ夫婦に、子供が生まれてから最初の3年間で総額1万9000元(2800ドル)の補助金を給付することを提案した。
だが、国営メディアに発表された公式推計によると、これは総コストの約8%にしか相当しない。
中国不動産市場の最近の落ち込みにもかかわらず、住宅価格はまだ高い。
カップルは多くの場合、家を買うまで結婚を先送りする。中国の婚姻数は2014年以降、ずっと減少している。
出産に対するもう一つの経済的障壁が、高齢者の面倒を見るコストだ。
中国では現在、約3500万人が80歳以上だ。2050年までに、この数字は4倍以上に膨らむと見られている。
政府が介護に対する支出を劇的に増やさない限り、家族がその費用の大半を背負うことになる。
伝統的な価値観に変化
中国の一部の若者が結婚、出産を渋る態度は、伝統的な価値観が変わっている兆候でもある。
女性は結婚生活における男女不平等に反発している。
インターネットは、大家族を促す政府の努力に暗示される、女性が赤ん坊生産マシンになったという考えに対する嫌悪の言葉であふれ返っている。
一部の若者は、女性だけでなく男性も、自分を「ニラ」と呼ぶ。
国や企業の目標追求において収穫される(つまり利用される)ものと見なされていることへの反感を表した言葉だ。
「結婚して小さなニラを持つことは、私の個人的な発展を害し、生活の質を引き下げるだけだ」
あるユーザーは人口減少のニュースについて、中国版ツイッター、微博(ウェイボ)にこう投稿した。
インドに抜かれる日は目前
中国のネチズンの間では近々、人口減少のトピックに対する新たな関心の急増があるだろう。
国連はインドの人口が4月に中国の人口を抜くと予想している。逆転はすでに起きたと考えている人もいる。
世界で最も人口の多い国としての地位、中国が数百年間にわたって維持してきた地位の終わりは、中国のナショナリストを喜ばせない。
中国の急激な台頭の後塵を拝してきたインドが、まだ成長している生産年齢人口を利用して中国に追いつき、いずれ中国の力に匹敵することが果たしてあり得るのかと考えるはずだ(図2参照)。
今年は人口動態について頭を悩ませる1年になるだろう。
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