競争と伝統で板挟み「自殺大国」韓国の憂鬱
Why Koreans are Killing Themselves in Droves
OECD加盟国で自殺率が最も高い韓国。芸能人も政治家も一般市民もなぜ自ら死を選ぶのか
いのちの電話 いのちの電話 漢江の麻浦大橋の欄干にある自殺SOSホットライン Lee Jae Won-Reuters
韓国では気がめいるような自殺のニュースが多い。体面を汚された芸能人や政治家が命を絶ったとか、大学受験に失敗した高校生が橋の上から身投げしたとか、老親が子供に迷惑をかけまいとして自死を選んだとか。
韓国人は仕事でも勉強でも恋愛でも成功し、家族の世話もしなければという大きなプレッシャーを感じながら生きている。こうした心の重荷が自殺率の高さにつながっているようだ。自殺率はOECD(経済協力開発機構)加盟国で最も高く、1日に約39人が自殺する。12年の死因で、自殺は4番目に多かった。
悲劇が多過ぎて感覚が麻痺しそうなところだが、それでも今月初めの事件は国民に衝撃を与えた。テレビのリアリティー番組に出演していた29歳の女性が、収録現場の家のバスルームで自殺。ヘアドライヤーのコードで首をつり、遺書を残していた。
放送局SBSには抗議が殺到。彼女が出演していた番組『チャク(パートナーの意)』は、若い男女約10人が一緒に暮らしてカップル成立を目指すという内容だ。今回の事件を受けて、番組は出演者たちに恋人を見つけることを強制し、心身共に傷つけていると批判された。思いを寄せる相手に振られた出演者には、外で食事を取らせるなど、ペナルティーを科していた。
自殺した女性の友人らによると、惨めな負け犬のような人物として描かれるのではないかと、本人は心配していたようだ。SBSは謝罪し、番組の打ち切りを決めた。
韓国では先進国の仲間入りをした過去20年の間に、自殺件数が3倍以上増えた(この2年ほどは漸減してきたが)。
米ペンシルベニア州立大学ブランディワイン校のベン・パク准教授(社会学)によると、急激な経済成長を遂げ、社会も変化した韓国では、人々の中に精神的な葛藤「文化的アンビバレンス」が生じているという。
言い換えるなら、新旧文化の対立だ。特に若者たちは、現代の経済的個人主義と儒教の伝統の間で板挟みになる。彼らは学業でも仕事でも厳しい競争にさらされながら、その一方で、家族は互いの面倒を見るべきという周りの期待に押しつぶされそうになっている。
自殺対策が逆効果に?
かつては家族がセーフティーネットの役割を担っていたが、今や核家族化が進み、市場経済による格差拡大の問題もある。政府の施策は不十分で、貧困に陥り福祉制度にも見放されて自殺する人がいれば、受験の失敗や失業を苦に自殺する人もいる。
そんななかソウル市は、12年に一風変わった自殺対策を開始。漢江へ身投げする人が多く「死の橋」と呼ばれてきた麻浦大橋に、自殺を思いとどまらせるような一計を案じた。夜間、橋の欄干に人が近づくとセンサーが働き、「一緒に歩こう」「愛しているよ」といったメッセージを書いた広告に光が当たるようにしたのだ。
「生命の橋」と銘打ったこの企画だが、広告を設置してからこの橋で自殺を図ろうとした人はかえって増える結果に。自殺の名所という知名度が上がったことで、逆効果になったようだ。
だがソウル市庁の広報は、実際に自殺を遂げた人の数は一昨年の15人から昨年は8人へと、ほぼ半減したと反論する。自殺未遂の件数が増加したのは、集計方法が変更されたためであり、「生命の橋」企画とは無関係だとも。以前は主に目撃者情報に頼っていたが、今は監視カメラや自殺ホットラインの協力を得て集計しているという。
いずれにせよ、自殺のニュースはもうたくさん、と韓国国民は思っているはずだ。
From GlobalPost.com特約
[2014年3月25日号掲載]
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