91歳の英女王は公務・退位とどう向き合っている?
英国のエリザベス女王の91歳の誕生日を祝う式典が6月17日、ロンドンで開かれた。1952年2月、父王の死を受け、25歳で即位してから65年。英国最長の在位期間を誇る女王は、どのように公務と向き合っているのだろうか。また、英国での王位継承で、女性はどのように位置づけられているのだろうか。日本の皇室同様、国民から永く親しまれている英王室の公務のあり方などについて、読売新聞調査研究本部の大内佐紀主任研究員が公式ホームページから読み解いた。
世界で最も多忙な91歳
今年の女王の誕生日を祝う式典は、女王夫妻がロンドンの高層マンション火災犠牲者のために1分間の黙とうをささげるという、例年とは違った厳かな雰囲気の中で始まった。
それでも恒例の軍によるパレード「軍旗分列行進式(トルーピング・ザ・カラーズ)」は華やかに行われ、女王の孫ウィリアム王子のりりしい軍装には、沿道から一際、激しいカメラのフラッシュがたかれた。女王一家がバッキンガム宮殿のバルコニーに姿を現すと、待ちかまえた市民や観光客から歓声が上がった。
実は、エリザベス女王の誕生日は6月ではない。女王は1926年4月21日に生まれたが、「April Showers(4月雨)」という言葉があるくらい、ロンドンはこの月、雨が多い。パレードには不向きな天候になる確率が高いため、原則、6月の第2土曜日、場合によっては第3土曜日に女王の公式の誕生日を祝うことが慣例となっている。
女王の公務の一例として、英王室ホームページは「慈善事業や学校訪問、国家元首の訪問受け入れ、追悼や慶事において国の先頭に立つこと」を挙げる。
だが、最も大事なのは、連日のように届く政府文書に目を通し、必要に応じて署名することだ。議会で成立した法案も、女王の批准なしには発効しない。議会の解散は首相の要請を受けて女王が行い、開会も女王の出席の下で行われる。政府の施政方針演説も女王が読み上げる。もちろん、原稿は時の政府が用意するものの、演説するのは首相ではなく女王だ。また、国家元首として外遊し、叙勲式を主催し、ロンドンに駐在する各国大使の信任状を受け取る。女王は間違いなく、世界中でも最も多忙な91歳の一人だろう。
追悼や慰問の場では代行の動きも
女王は、最盛期には年間600件の公務に臨んでいたとされる。ただ、さすがに近年は、長男のチャールズ皇太子やその長男ウィリアム王子らロイヤル・ファミリーが代行することが増えている。
例えば、叙勲式だ。ホームページによると、英国では年約25回、1回につき50人以上が勲章をもらうが、王位継承順位1位のチャールズ皇太子、同2位のウィリアム王子、女王の長女アン王女の3人が女王の代理を務めることがある。叙勲について英王室は、「英国と英連邦(英国と旧植民地諸国などで構成される連合体)への貢献に、女王が『ありがとう』を言う機会」と位置づけている。女王の謝意を伝えられる代理者ということから皇太子ら3人が選ばれたのだろう。ちなみに、英国人の友人たちに聞くと、「もしも自分が叙勲されるようなことがあれば、もちろんほかの方ではなく、女王本人からいただきたい」というコメントが一様に返ってくる。女王人気の高さの表れだ。
追悼や慰問の場でも代行の動きが見える。5月22日に英中部マンチェスターのコンサート会場で発生した自爆テロの3日後には、女王の姿が現地にあった。負傷してベッドに横たわる少女を病院に見舞い、医師や看護師を激励した。だが、それから2週間もたたない6月3日にロンドン橋で起きたテロ後には、ウィリアム王子が負傷者を慰問している。
儀式を簡略化する動きもある。6月8日の総選挙を受け21日に開会した議会で、女王は恒例の儀式用礼服やマントではなく、普通の服で演説を行った。女王の頭上にあったのは王冠ではなく、帽子だった。儀式部分を短くして実務に入りたいというメイ首相側の事情もあっての簡略化だが、儀式用礼服は暑く、宝石をちりばめた冠は重い。これらを身に着けるのは、必ずしも快適ではないようだ。
女王が英政治で果たす役割はあくまで象徴的なものだ。だが、女王自身は英国の内政、外交に通じているという。女王は長年、政府文書に丹念に目を通している上、ほぼ毎週火曜日の夕方、時の首相が女王の元を訪れ、国が直面する内外の課題について説明している。ウィンストン・チャーチルから現職テリーザ・メイまで、女王にレクチャーした首相は歴代13人に上る。
在位65年、想定していなかった「即位」
65年間にわたる長き在位の間、女王は退位を考えたことはないのだろうか。
「短かろうと、長かろうと、私の全人生を皆さんへの奉仕にささげます」。即位前の21歳の誕生日、エリザベス王女(当時)が英国と英連邦の国民に向けて行った演説だ。<王位を継いだら、死ぬまでその責務を果たす>という決意表明で、この思いが揺らいだことはないとみられている。
背景には、81年前の事件がある。女王の伯父であるエドワード8世が、離婚歴がある米国人女性との結婚を選んで突然、退位したのだ。「王冠をかけた恋」と呼ばれた出来事で、多くの人生を激変させた。とりわけ女王には、エドワード8世の退位が、後継となった父ジョージ6世の寿命を縮めたのではないかとの思いがあるとされる。
英王室のホームページにある「女王の幼少期」の項目には「エリザベス王女の誕生時、本人も家族も彼女が君主になることは想定していなかった。王女は、恵まれているにはせよ、相対的には普通な生活を、仲むつまじい家族と共に送るはずだった。ところが1936年12月、伯父エドワード8世の退位ですべてが変わった」と記されている。
頑健ではなく、
父娘の仲の良さをうかがわせる手紙が同サイトに掲載されている。父王が結婚直後の娘に送ったものだ。
「(挙式が行われた)ウェストミンスター寺院で一緒に、長く歩む間、君のことを本当に誇りに思い、私のすぐそばに君がいることにわくわくした。君の手を大主教に渡した時には、とても大切なものを失ったと感じた。(中略)君が私たちのもとから去り、私たちの生活には大きな空白ができてしまった。君の前の家は、いまでも君のものだということを覚えていてほしい。できる時に、なるべく頻繁に帰ってきておくれ」
王位継承、男子優先から長子優先に
英国の王位は、女性にも継承権が与えられていたものの、国王の長男が継承するというのが基本だった。16世紀来、王子がいなかった場合、年齢の順番で王女が継承しており、現女王の前にも、メアリー1世とその妹のエリザベス1世、メアリー2世とその妹アン、そしてビクトリアの計5人の女王がいた。
今の王位継承は1689年の「権利の章典」と1701年の王位継承法が定め、王位に就く者の資格は<スチュワート家の血を引く、英国教会の信徒>などとされている。歴史に「もし」はあり得ないが、仮にエドワード8世が退位せず、嫡出の王子か王女が生まれていたならば、弟のジョージ6世や
今世紀に入り、男子優先から、男女にかかわらず長子優先に変更する改正案が慌ただしく英議会に上程された。ウィリアム王子とキャサリン妃が挙式した2011年のことだ。すでにスウェーデンをはじめとする北欧諸国やベルギーなど他の欧州の王室では長子優先がトレンドになっており、女王も事前に了承していたという。時のキャメロン政権には、男女同権を重視する姿勢を国民にアピールしたいとの思惑もあったとみられる。改正案は13年に成立した。
英王室のホームページが、「ロイヤル・ファミリー」として紹介する顔ぶれを振り返ってみよう。メンバーは、女王の夫フィリップ殿下を筆頭に、チャールズ皇太子夫妻、ウィリアム王子夫妻と二人の子どもであるジョージ王子(王位継承順位3位)とシャーロット王女(同4位)、女王の次男アンドリュー王子(同6位)、三男のエドワード王子(同9位)夫妻、アン王女(同12位)、チャールズ皇太子の次男ヘンリー王子(同5位)、女王のいとこにあたるグロスター公夫妻、ケント公夫妻、アレクサンドラ王女、マイケル王子夫妻だ。
エリザベス女王の王位継承者の中で、ウィリアム王子の長女シャーロット王女の順位4位を筆頭に、計8人が女性だ。ウィリアム、ヘンリー両王子を除く女王の孫6人は、いずれも王位継承順位16位以内で女王のいとこたちより上だが、「ロイヤル・ファミリー」としては紹介されていない。
王室予算は年間60億円…台所事情も公開
ところで、女王の「台所事情」はどうなっているのだろう。
ホームページによると、2015年4月1日から16年3月31日までの1年間の英王室予算は、4010万ポンド(1ポンド=150円換算で、約60億1500万円)。これとは別に、女王が個人として所有する土地である2か所の「公領」からの収益、さらに王室所蔵絵画などからなるロイヤル・コレクションの見学費などからの収入が計1390万ポンド(約20億8500万円)あった。
現在の王室費の算定方法は12年4月に導入された。
仕組みはこうだ。女王は、形式的にはロンドンの目抜き通りリージェント街や各地の森林など広大な「王室所有地」の持ち主だが、その賃貸料などの収入は国庫に入り、その総額の約15%が2年後の王室費として充てられる。13年4月から14年3月までの間に「王室所有地」から得られた純剰余金は2億6710万ポンド(約400億6500万円)で、これが15年4月から翌年3月にかけての4010万ポンドの計算の元になっているわけだ。
一方、15年4月~16年3月の支出総額は3980万ポンド(同約59億7000万円)だった。額が大きい項目として人件費1950万ポンド(約29億2500万円)、不動産維持費1630万ポンド(約24億4500万円)などがある。旅費は400万ポンド(約6億円)だった。
ホームページには女王の趣味を紹介した欄もある。「子どもの頃から動物好きで、最も熱中しているのが馬と犬」「田舎を散歩することと、愛犬と一緒に過ごすことが楽しみ」「あまり知られていないが、スコティッシュダンス(スコットランドの伝統的なダンス)も趣味」とある。
今回、ホームページを改めてながめながら、かなり多くの情報が公開されていると感じた。英王室は、公式ツイッターや公式フェイスブックでもエリザベス女王やロイヤル・ファミリーの活動を発信している。これもまた、国民に親しまれ、支持され続ける王室であるための努力の一環なのかもしれない。
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