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米国との競争時代に入った中国の「弱み」
昨年から今年にかけて、米トランプ政権は国家安全保障戦略、国防戦略などを相次いで発表、中国を現状変更勢力と位置づけ、対抗姿勢を強めている。習近平国家主席のもとで一極化が進む中国は、経済や軍事、先端技術などの分野で着々と力をつけ、挑戦の機をうかがう。本格的な競争時代に入った米中関係は今後どうなるのか。日本総合研究所の呉軍華理事に聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)
党と政府が一体化
――中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が3月5日に開幕した。議題の中で、国家主席の任期を「2期10年」までに制限した規定を削除する憲法改正が注目されている。これはどんな意味があるのか。
「正式に発表されると少しの驚きはあるが、ほとんどの人は遅かれ早かれこういうものが来ると予想していただろう。私は、この一点だけを見るのではなく、他の点と合わせて考えるべきだと思う。
今回21か所の改正が提案されたが、注目される点の一つ目は中国共産党の指導が中国の特色ある社会主義の特徴であることが憲法本文の中でうたわれたこと。もう一つは国家主席の任期制限の撤廃、それと合わせて習近平氏の思想が盛り込まれたこと。それから、汚職の取り締まりにあたる国家監察委員会の新設だ。これは国務院や最高人民法院(最高裁)、最高人民検察院(最高検)と並んで国の最高機関の一つになる。
毛沢東の死後に最高実力者となったトウ小平(トウは登に、おおざと)の政治的な遺産は二つある。一つは国家主席をはじめに国家レベルのほとんどの職務に任期制を導入したこと、もう一つは党と政府を分ける党・政分離を改革の方向として打ち出したことだ。前者はこれまでしっかりと守られてきており、後者も1980年代にある程度進んだ。1990年代に入ってから、とくにその半ば以降、その区分があいまいになり、『看板は党と政府の二つを掲げても実際は同じ役所』の状態になった。今回、それが一歩進んで党・政の一体化が名実ともに大きく進むと見込まれる」
――党・政一体となった中国が目指すところは?
二つのことが考えられる。一つは権力を一層集中することであり、もう一つは行政コストを抑えることである。過去5年余り、習指導部は反腐敗をテコに中央と省のハイレベルの機関と軍を中心に権力基盤を固めてきた。その主役は党の規律委員会であった。今度新設される監察委員会は、これまでに規律委員会が共産党内でやってきた汚職などの取り締まりを末端の政府機関や企業の非共産党員を含むすべての人を対象に広げる。今回の全人代を通じて権力の集中を総仕上げすることになるわけだ」
「一極」となった習氏
――昨年秋の第19回党大会から今回の全人代までの間に、習氏への権力の集中がさらに進み、もはや「一強」ではなく「一極」との声も聞こえてきている。
「まさしくその通りだ。党の最高指導部である政治局常務委員会には習氏も含め7人の委員がいるが、一強と言われた時は、習氏の後に一歩か二歩下がって他の6人がくっついて出てきた。それが一極の時代になると、習氏が出てきて席に着いてから後の人が出てくる。一強の時はまだ他の人も視野に入ってきたが、今は一人だけしか目に入らない。
どれだけ高い能力を持っているかはともかくとして、習氏は責任感が強くガッツは断然あると思う。中国語では、『不信邪』という言葉がある。過去のしがらみがなく、怖さを知らず、わが道を行こうとする若い人の行動の特徴を表す時によく使うが、過去5年来の習近平指導部を理解するに当たってのキーワードの一つとしてあげたい。
習氏がここまで権力の集中を達成できた背景にいろいろの原因があるが、反腐敗はその内の最も重要な一つだ。腐敗に歯止めをかけることはそもそも必要であり、政敵を倒す最高の武器にもなる。今の中国では、公職にあるほぼ全員が腐敗しているといわれる。たたけばだれでもほこりが出てくる。要はたたくかどうかだ。結局、だれを、いつたたくのかを決めるパワーを強く持つほど、権力が強くなる」
――今の体制を中国国民はどう見ているか。
「表面的にはかなり静かだ。無関心が原因の一つだろう。とくに、底辺の人たちはほとんど関心を持っていないと思う。関心があっても、怖くて何も言えない。あるいは、言う勇気があっても公に声を上げることが難しいのが原因の一つかもしれない。ネット上でもいろいろなキーワードが監視の対象になっているようだ」
中国に対する見方に変化
――米国で中国に対する見方が厳しくなったのは、いつごろからか。
「大きな転換点に差し掛かったのは2015年だった。米国には、中国に対して厳しい態度で臨む『ドラゴンスレイヤー(龍を倒す人)』と中国に優しい『パンダハガー(パンダを抱く人)』と呼ばれる人たちがいる。多少の
私はその時、冷戦ではなく『冷和』という言葉を使った。米ソ冷戦の時代とは少し違う。かつての冷戦時代と違って、軍事力を伴う直接的な対決の可能性がほぼないものの、米中が政治から経済、そして軍事に至るまでのあらゆる面で
――昨年ぐらいから、中国が外国で影響力を行使する時の手法として「シャープパワー」が使われるようになった。市場や投資などの経済力や工作などを通じて、ある国の世論を操り、関係国の政策や関係者の行動に影響力を与えようとするのだ。こうした手法はどうやって生まれたのか。
「今までは軍事力(ハードパワー)で対決するか、文化と価値観(ソフトパワー)で勝負するか、だった。しかし近年、欧米では、中国がどうも別のやり方で影響力を及ぼそうとしているのではないかと気付く人が増えた。例えば、中国にあまりフレンドリーでないことを言うならば、ビザを出さない。これは中国を飯のタネにしている研究者などには致命的だ。米国が中国に同じレベルでやり返そうと思っても、限界がある。民主主義国家には、言論の自由や報道の自由など様々な原則があるからだ。ドイツや豪州などでは、寄付金などを通じた中国による政界への介入が問題になっている。
やがて、このハードにもソフトにも属さないパワーをシャープパワーと呼ぶようになってきた。中国が最初から計画的にやったわけではないだろうが、効果がわかると使うようになったのではないかと思う」
再び最先端の国に
――米国の中国に対する見方が厳しくなる中、中国の習近平国家主席は米国をどう見ているのだろうか。
「習氏はかつて米国にホームステイをしたことがあるが、そのころと比べると米国に対する見方はだいぶ違っているでしょう。国家戦略の観点から見ると、間違いなく米国をライバルだと思っている。中国はかつて最先端の国だった。今、最先端に立っているのは米国だ。いつかはわからないが、再び中国が最先端に戻るのが目標だ。
ただし、今、最先端にいる国と対決できる段階にあるのかというと、それはまだだと考えているのではないかと思われる。国力の面でまだそこまで行っていないと考えているのだろう」
――米トランプ政権は鉄鋼、アルミに高い関税をかけ、中国に「貿易戦争」を仕掛けているようだが。
「中国は表向き、怖くないと言っている。しかし、貿易戦争が勃発すると『両方が敗れて傷を負う』、つまりどちらも敗者となる。だから貿易戦争にはしない。このことは中国がまだ米国と対決する時ではないと考えていることの裏返しでもある」
的を射たトランプ政権の政策
――なぜ、そう考えるのか。
「特に問題なのが経済だ。今回の全人代の後には大規模な行政機関の再編があるが、その後の最大の課題は経済だと思う。中国経済の様々な指標は悪くないが、『黒い白鳥(発生する確率は低いが影響は大きいリスク)』や『灰色のサイ(発生する確率が高い上に破壊力も大きいリスク)』がメディアをにぎわせている。全人代前の大事な時期に、共産党政治局員の劉鶴氏を米国に派遣するほど、経済を絡めて対米関係にかなり強い危機感を持っているようだ。
昨年の国内総生産(GDP)の成長率は6.9%で、そのうち0.6%は外需が寄与した部分だ。前年の外需寄与分はマイナスだったので、昨年の高い成長率は外需に支えられたことがわかる。外需がなくなると、成長率は6%強になってしまう。しかも、地方政府の経済統計の数値には水増しが次々と発覚している。
また、中国政府はトランプ政権が進める税制改革(減税)にも強い警戒感を持っている。中国が成長できたのは、政府や国有企業主導で投資拡大に力を入れたからだ。これを可能にしたのは『豊かな政府』だった。米国が減税をした時に中国が追随しなければ、資金が米国の方に流れていく。逆に米国の歩調に合わせて減税すると、財政が厳しくなる。いずれの場合でも、中国モデルが成り立たなくなってしまう恐れがある。
面白いのは、トランプ大統領が中国を意識してこういうことをしたのではなく、直感でやっていることだ。結果的に的を射ている。だから、米国の内政問題にもかかわらず、人民日報は一生懸命、減税に反対している。人権問題を言われた方が中国としてはくみしやすい。国情や文化が違う、あなたに言われる筋合いはない、と言って終わりだ」
「ツキジデスの罠」に陥る可能性は?
――台頭する新興国と従来の覇権国の間で緊張が高まり、やがて衝突が起きるという「ツキジデスの罠」に、米国と中国が陥る可能性をどう見るか。
「短期的には米中衝突の可能性はほとんどない。まだ、挑戦する時ではないと中国がわかっているからだ。経済などの面で力が均衡してくる中期が一番危ない。
逆に長期的には衝突の可能性は低くなる。今のような一極体制は時間がたてば、いろいろな問題が出てくるだろう。少なくとも現時点においては、絶対的な権力は絶対的に腐敗するという法則はまだ生きているとみていいだろう」
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