北朝鮮の1〜4月食料配給、過去最低水準に さらなる削減の可能性も

北朝鮮の朝鮮人民軍第810軍部隊の農場を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。国営朝鮮中央通信(KCNA)が公開(2017年9月30日公開)。(c)AFP PHOTO/KCNA VIA KNS〔AFPBB News

(川島 博之:ベトナム・ビングループ主席経済顧問)



 また、北朝鮮の食糧不足が話題になっている。このままでは飢餓が広がるとして、WFP(国連世界食糧計画)やFAO(国連食糧農業機関)が警鐘を鳴らしている。国際社会は援助に傾きつつあり、トランプ大統領も韓国が食糧支援を行うことに理解を示した。

 このような事態はこれまでにもたびたび起こっている。なぜ北朝鮮は頻繁に食糧不足に陥るのであろうか。ここでは、その本質について考えてみたい。


人間が生きてゆくために欠かせない穀物

 我々は何となく、北朝鮮があまりに軍事を優先して農業をないがしろするために食糧危機が起きるのだと考えている。それも原因の1つだが、それだけではない。ここでは日本、韓国との比較から北朝鮮の食糧問題を考えてみたい。


 図1、2、3に日本、北朝鮮、韓国における1年間の1人当たりの穀物消費量を示す(FAOデータに基づき筆者が作成)。米や小麦などの穀物は人間が生きてゆくために最も必要なものであり、その供給量から食糧事情を知ることができる。

図1 日本の穀物消費量の推移(単位:キログラム/人/年)
図2 北朝鮮の穀物消費量の推移(単位:キログラム/人/年)
図3 韓国の穀物消費量の推移(単位:キログラム/人/年)

(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56342




もし、エネルギーを穀物からだけで得るのなら、人は1年間に約200キログラムの穀物を食べなければならない。しかし普通はイモやマメ類、肉、魚、牛乳、卵、野菜、果物なども食べるから、穀物そのもの摂取は100キログラム以下でよい。

 穀物は人間が直接食べる以外に家畜の飼料として用いられる。肉や牛乳、卵を生産するには、餌として穀物が必要になる。


 現在、日本人は1年間に約300キログラムの穀物を消費している(図1)。日本では消費量は1980年代の中頃より減少しているが、これは肉を直接輸入するようになったためである。経済的な理由により畜産業が衰退し、それに伴い飼料の消費量が減少した。



穀物を輸入できない北朝鮮

 北朝鮮の人々は平均で約250キログラム程度の穀物を消費している。これはFAOによる推定であり、その精度には問題がある。日本人は国連の報告というと無条件で信じる習性があるが、国連が発表するデータはそれほど正確ではない。ここに示した北朝鮮の穀物消費量がよい例である。


 FAOは各国の報告に基づいてデータを作成している。北朝鮮のように信頼できない国についても、報告されたデータをそのまま掲載することが多い。一部の開発途上国では自国でデータが作れないためにFAOにデータ作成を依頼することもあるが、北朝鮮は自分でデータを作り、それをFAOに報告している。FAOは信頼性に欠けると思っても北朝鮮がそうだと言い張れば修正することはない。この辺りに国連という組織の限界がある。


 図2を見ると、北朝鮮の食糧供給量は大きく変動していることがわかる。特に、1990年前後に大きな変動が見られる。しかし、実際にこのように大きく変動したとは考えにくい。


 1990年代初頭、ソ連が崩壊して石油などの供給が急に止まったことから、北朝鮮の経済はパニックに陥った。その際に深刻な食糧危機に見舞われたが、北朝鮮はそれを素直に認めたくなかったようだ。過大な生産量を報告したのである。そして、今でもそんなデータが用いられている。



 信頼性には欠けるが、それでも図2はある程度北朝鮮の実態を表していると思う。最も重要なことは、日本や韓国(図3)に比べて輸入量が少ないことである。輸入量は相手国もあることなので、比較的正確なデータが報告される。

 これは食料自給率の議論にも関係することだが、日本や朝鮮半島は山が多く、また広い草原もない。そんなところで肉、牛乳、卵などを食べようと思うと、どうしても家畜の餌になる穀物を輸入しなければならない。その結果、国が豊かになって動物性たんぱく質の需要が高まると、穀物輸入量が増える。韓国も経済が発展するに従って輸入量は大きく増えた。2016年の韓国の穀物自給率は28%と日本の32%を下回っている。


 一方、北朝鮮の穀物輸入量は増えていない。これには2つの理由が考えられる。第1には、豊かになれなかったために肉や乳製品の需要が高まらなかったこと、そしてもっと重要なことは、外貨がないために穀物を輸入できないことである。


 北朝鮮の農業の効率はそれほど悪くない。FAOデータを信頼すると、現在、単位面積当たりの収穫量(単収)は4.0トン/ha(2017年)であり、これは日本の6.0トン/haや韓国の6.7トン/haに比べると低いが、インドの3.2トン/haより高い。もちろん、機械化が遅れるなど技術水準は高くないが、それでも単収は確実に上昇し続けている。


 そんな北朝鮮で度々食糧不足が生じる原因は、穀物を輸入できないことに他ならない。山が多く平地が少ない朝鮮半島では穀物を輸入しなければならない。それにもかかわらず、外貨がないために十分な穀物を輸入できない。だから悪天候で国内の生産量が減少すると、食糧事情が途端に窮屈になるのである。



国民の生活より政権の延命が大事

 ちなみに、穀物の貿易市場における価格は変動するが、トウモロコシは1トンが2万円から3万円程度である。コメや小麦はそれより少し高いが、それでも通常はその2倍にはならない。その結果、穀物100万トンを輸入するのに必要な代金は300億円程度でしかない。テポドン2号は1発が数百億円とされる。核開発のために使用している費用はもっと多いだろう。


 冷静に考えれば、核兵器やミサイルの開発などやめて、そのお金で食糧を輸入すればよい。テポドン2号の発射を1回思いとどまれば、食糧危機など一瞬にして解決する。


 日本としては、今年も食糧に困っているようだから人道的見地から援助してやってもよいと思うが、ミサイルを飛ばす一方で食糧を援助されることを恥とは思わない北朝鮮の指導部はまともな神経とは思えない(はっきり言って、頭がおかしい)。金正恩と軍部は自分たちが生き残ることしか考えていないようだ。政権の延命のためには国民の生活などどうでも良いと思っているのだ。


 現在、日本や韓国は豊かな食生活を楽しんでいるが、それは経済的に豊かであり、大量の穀物を輸入できるからだ。金政権の最大の被害者は、マイクの前で将軍様を褒めちぎっている北朝鮮の人々である。よほど政権の中枢にいる人でない限り、滅多に美味しいものを食べることもできない。皮肉であり、悲劇と言ってよい。


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