(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)
洗浄装置シェア1位のスクリーンのその後
PCやスマホのプロセッサ、DRAMやNANDなどのメモリの製造工程は、500~1000工程以上にのぼる。その30~40%が洗浄工程である。
その洗浄装置市場では、SCREENセミコンダクターソリューションズ(以下、スクリーン)がトップシェアを占めていたが、そのシェアは2009年にピークアウトしたことを3年前に報告した(「半導体がこれほど普及したのは洗浄技術があったから」2016年12月2日)。
その主要な原因は、スクリーンがサムスン電子との合弁会社SEMES(旧K-DNS)を設立し、サムスン電子がスクリーンの洗浄装置技術を吸収した後、スクリーンがサムスン電子に1台も買ってもらえなくなったことにあることを指摘した(「スクリーンの洗浄装置が圧倒的トップに返り咲く方法」2016年12月5日)。
その上で、前掲記事では、スクリーンが低下するシェアを食い止め、再び増大させるには、ビッグデータの普及により、世界中に建設されているデータセンタのサーバーに使われるとてつもない数の3次元NAND用の洗浄装置市場を攻めるべきだということを論じた。
その後、スクリーンのシェアは、増大に転じたのだろうか? また、スクリーンから洗浄装置技術を吸収して成長し始めたSEMESの最新動向はどうなっているのか? 本稿では、『世界半導体製造装置・試験/検査装置市場年鑑(2016、2019)』(発行:グローバルネット)のデータを基に、洗浄装置の企業別シェアや出荷高を分析する。
結論を先取りすると、2015年から2018年にかけてメモリ市場が爆発的に成長するに伴って、SEMESが飛躍的に成長し、枚葉式洗浄装置の出荷台数ではすでにSEMESがスクリーンを抜いてしまうという衝撃的な事態となっている。
そして、メモリ不況が明ければサムスン電子が大規模投資を再開するため、サムスン電子傘下のSEMESが枚葉式洗浄装置の出荷額シェアでも1位になる日は近いと思われる。
バッチ式と枚葉式の2種類の洗浄装置
洗浄装置には、25~50枚のシリコンウエハを一度に洗浄するバッチ式(別名、ウエットステーション)と、ウエハを1枚ずつ洗浄する枚葉式(別名、スプレー式)の2種類の洗浄装置がある。
バッチ式洗浄装置は、ウエハからはがれた異物がウエハに再付着するという問題があるが、一度に大量のウエハを洗浄できるためスループット(処理効率)が高い。そのため、スループットを優先していた2009年までは、バッチ式が洗浄装置の主役だった(図1)。
(出所:世界半導体製造装置・試験/検査装置市場年鑑(2016,,2019)のデータを基に筆者作成)
一方、枚葉式洗浄装置は、異物の再付着の問題はないが、ウエハを1枚ずつ洗浄するため、スループットが低いという問題があり、2009年以前は、あまり普及していなかった。
ところが、枚葉式洗浄装置が、1台の装置内に、洗浄層を8カップ、16カップ、32カップと増やしていったため、問題となっていたスループットがバッチ式に追いつき、追い抜いてしまった。
すると、異物の再付着の問題を抱えているバッチ式洗浄装置を積極的に使う理由が無くなったため、2009年を境に、洗浄装置の主役は、バッチ式から枚葉式に移行した。要するに、洗浄装置において、パラダイムシフトが起きたわけだ。
その結果、2009年以降は、バッチ式洗浄装置の出荷額が1000憶円前後で横ばいであるのに対し、枚葉式洗浄装置では2018年にバッチ式の4倍以上の4291憶円を記録するに至っている。
以下では、洗浄装置の主役となった枚葉式の企業別シェアや出荷台数を見てみよう。
枚葉式洗浄装置の企業別出荷額シェア
図2に、2012年から2019年における枚葉式洗浄装置の企業別出荷額シェアを示す。2012年に53.4%で1位だったスクリーンは、次第にシェアを失い、2015年には29.3%まで低下させる。
(出所:世界半導体製造装置・試験/検査装置市場年鑑(2016,,2019)のデータを基に筆者作成)
これに代わって、2014年から2015年にかけてSEMESが飛躍的にシェアを増大させ、それまで2位だったTEL(東京エレクトロン、23.8%)と3位の米ラムリサーチ(14.7%)を抜いて、SEMESがシェア2位(25.9%)に躍り出た。2015年時点で、1位スクリーンと2位SEMESの差は、3.4%まで縮まっている。
2015年から2018年にかけては、2位SEMESのシェアが横這いであるのに対して、3位のTELが大幅にシェアを失い、その分、1位のスクリーンが39.4%と約10ポイントのシェアを奪還する。
ところが、2019年にかけて、1位のスクリーンが35.6%までシェアを下げ、3位のTELも9.9%に低下する一方で、SEMESが31.2%にシェアを増大させる。再び、1位スクリーンと2位SEMESの差は、4.4%に縮まる。
まとめると、2015年以降は1位スクリーンと2位SEMESの一騎打ちとなっており、いつ、トップが入れ替わってもおかしくない状態と言える。
そして、次節で示す企業別出荷台数の推移は、さらに衝撃的な結果となっている。
枚葉式洗浄装置の企業別出荷台数
図3に、2012年から2019年における枚葉式洗浄装置の企業別出荷台数の推移を示す。このグラフを書いたとき、にわかには信じられない思いがした。あまりにもSEMESの成長が凄まじいからだ。もしかしたら、データが間違っているのではないかとすら思ったほどだ。
(出所:世界半導体製造装置・試験/検査装置市場年鑑(2016、2019)のデータを基に筆者作成)
2014年には、1位スクリーン(290台)、2位TEL(182台)、3位ラムリサーチ(111台)、4位SEMES(99台)だった。ところが、2015年以降、SEMESが怒涛の快進撃をはじめ、2015年にはスクリーン(283台)、TEL(295台)、ラムリサーチ(153台)をごぼう抜きして、483台で1位に躍り出る。
2017年に、一度はSEMESの勢いが鈍り(479台)、追走してきた2位のスクリーン(375台)との差が104台まで縮まったが、2018年以降、再びSEMESが急成長する。そして、2019年には、1位SEMES(686台)と2位スクリーン(412台)の差は、274台に拡大する。
SEMESとスクリーンの2019年までの枚葉式洗浄装置台数の推移から考えて、今後、その差は、もっと拡大するかもしれない。すると、枚葉式洗浄装置の企業別出荷高シェアでも、そう遠くない日に、SEMESがスクリーンを抜いて1位に躍り出る可能性が高い。
2018年後半からメモリ不況に突入したが、2019年後半に、好況に転じる気配がある。すると、サムスン電子がDRAMやNANDに大規模な投資を行うだろう。そうなると、サムスン電子傘下のSEMESは、より大きな成長を遂げると考えられる。
本稿では、枚葉式洗浄装置の世界市場における出荷額シェアや出荷台数を分析した。現在集計中であるが、地域別の出荷額シェアや出荷台数は、さらに驚くべき結果となりそうである。その続報は、11月に配信するメルマガ(https://mall.ismedia.jp/index.php?dispatch=products.view&product_id=8764)で報じたい。
◎筆者からのお知らせ
米中ハイテク戦争に加えて日韓貿易戦争が勃発しました。その影響のためか、メモリ不況が長引く兆候を示しています。そこで緊急セミナーを開催し、先の見通せない時代を生き延びるために、どうすれば良いか、その処方箋を提言したいと考えています。
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