「金正恩の死」を睨んで動き始めた世界
米CNNは4月21日(現地時間)、「米情報当局が金委員長が重体という情報を監視中」と、米情報当局者を引用して伝えた。
また、ソウル発のロイター電は、韓国の北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNK」の情報として、「金正恩氏は、今月11日の党政治局会議に出席した後、香山郡の病院に向かい、12日に心血管系の手術を受け、現在も近くの別荘で療養中という」と報じている。
体型などから見て、心臓疾患であることは首肯できるが、入院治療の理由から新型コロナウイルス感染をいまだ排除できないのではないか。
なぜなら、「北朝鮮では新型コロナ感染者は出ていない」と公式表明している立場から、心血管系の手術と嘘の情報を流している可能性も否定できないからである。
この情報に対する関係各国(米国、中国、韓国)の当面の対応などについて考えてみたい。
各国共通の対応
各国は「この世界的なコロナ禍という事態に、こともあろうに金正恩氏の死という事態は困ったものだ。できれば北東アジアの不安定要素が最小限になるよう穏便に後継体制が決まってほしい」と考えているはずだ。
そのうえで、各国は情報収集に注力しているところだろう。情報収集の重点は、
①金正恩氏の容態:「死亡」か「生存」か。生存の場合は「植物人間状態か」「判断能力・統治能力があるか(寝たきりであろうと車いすであろうと)」
②後継の行方:妹の金与正氏か、他の血縁か(伯父の金平一氏や兄の金正哲氏など)
③軍の動向:②と連動しクーデターの可能性はあるか
④「金正恩委員長が重体」説に対応する関係各国の動向は
特に米中は相互に監視し合うだろう。
もし、金正恩氏の治療に中国、フランス、ロシアなどの医師が関わっていれば、確度の高い情報が得られるはずだ。
中国の対応
米国よりも新型コロナ禍を早期に克服したと自負する中国は、引き続き北朝鮮に対する事実上の「宗主国」としての立場を維持できるように取り組むことだろう。
そのためには、中国主導で後継体制を安定的に確立させることを目指すはずだ。
レアなケースではあるが、中国が意図してきた後継者X(完全な親中派)がいるとすれば、強引に介入してXの元首擁立を目指すことも考えられる。
中国は、北朝鮮の体制崩壊などの混乱に対処できるよう人民解放軍の「北部戦区」(北朝鮮と隣接)に即応できる準備を命ずるだろう。
韓国の対応
文在寅大統領は、朝鮮半島の不安定化を防ぐことだ大方針だ。そのために、米中双方に働きかけ、北朝鮮に対する制裁の緩和を求めるだろう。
韓国自らも米国の反対を押し切ってでも、最大限の経済支援を行おうとするだろう。
金正恩氏が死んだ場合には、その弔問外交にも意を用いるはずだ。
1994年7月、金日成主席が死亡した時には“弔問”をめぐり南北関係は最悪の事態を迎えた。
当時の金泳三大統領はは金日成主席の死亡をいわゆる「主体思想派あぶり出し」の契機とするなど、大々的な公安政局を作り出したために、南北関係は回復できない状況に追い込まれた。
金泳三政権は当時、ビル・クリントン米国大統領が金日成主席の死亡に哀悼の意を示したことについても不快感を隠さなかった。
北朝鮮(後継者の金正日)はこれに対して「常識以下の不遜と無礼」「大犯罪」などの表現で猛烈に非難した。
北朝鮮の朝鮮中央通信は金泳三政権末期の1998年1月、「金泳三政権は最も凶悪な統一の敵」と非難し、南北関係は「史上最悪」と評価した。
このような故事を踏まえて、文在寅氏は、北朝鮮の歓心を買うことに最大限の努力をすることだろう。
万一の場合の発表
金日成が急死した時は、34時間(約1日半)後にその死が発表された。
だが、金正日が死亡した時は、は51時間(2日以上)あまりもかかっている。それは、後継者である金正恩への権力移譲がしっかりできていなかったからであると言われる。
後継体制の準備度から言えば、もし金正恩氏が死亡した際は、さらに遅れる可能性があろう。
日本の対応
我が国は、次期後継者が拉致被害者問題に前向きに取り組むよう、様々な機会をとらえ訴えることが、眼目だろう。
ただ、ある斯界通は、妹の金与正氏が政権を握ったら、安倍晋三総理に対しては冷たく、文在寅氏と連携して反日が強まるのではないかと懸念する声もある。
その理由は、安倍総理が2人に無礼な振る舞いをしたことに対して、遺恨を持っているからだという。
文在寅氏に対しては、日本での首脳会談時に安倍総理は尊大な態度で自分は立派な椅子に座り、文在寅氏を総理よりも劣る椅子に座らせ、その映像を世界に報道したことだという
。
また、金与正氏に対しては、冬季オリンピックの際、与正氏が競技場に入場し着席する際、各国代表は与正氏と文氏両名を拍手で迎えたのに対し、安倍総理はそっぽを向いて他の要人と話をしいた、と受け取られているようだ。
2人は、そのことでしこりがあるという。