2017年10月、「水曜デモ」の際の金福童さん(中央)と尹美香(左。写真:Lee Jae-Won/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)


 正義記憶連帯(韓国挺身隊問題対策協議会[挺対協]から名称変更。以下「正義連」)をめぐる寄付金不正使用の疑惑はますます深まったと言えそうだ。


 これを最初に提起したのが元慰安婦による抗議活動で中心的役割を果たしてきた李容洙(イ・ヨンス)さんだけに、「正義連も多少反省をするのではないか」、「正義連に対する韓国国民の見方も変わって来るのではないか」、「正義連の影響力低下が日韓関係に肯定的な影響を及ぼすのではないか」と期待する向きもあるにはある。


 しかし現実はそのようにはならないようだ。


疑惑晴らさず、開き直り

 正義連は慰安婦問題において、絶対的な発言力を有してきただけに、正義連に対する批判は韓国の政界にも波及している。しかし、尹美香(ユン・ミヒャン)前理事長を比例代表に擁立して国会議員選挙で当選させた与党「共に民主党」「共に市民党」は、野党が尹氏の不正について問題提起し、批判するのは「親日勢力」であることを露呈するものだ、として「親日論争」に持ち込み、言い逃れをしようとしている。これが今の文在寅政権の体質とは言え、韓国国内の問題を日韓関係にすり替えて逆攻勢かけようとする姿勢に釈然としないものがある。


 前稿(「元慰安婦の告発が剥がす慰安婦団体元代表の化けの皮」)では、李容洙さんが会見で、「寄付金が元慰安婦のため以外の目的で使われた、元慰安婦は尹美香氏に利用されるだけ利用されてきた」と述べたことを紹介、さらに、正義連が慰安婦問題の解決を妨害してきたこと、尹氏は2015年の慰安婦合意を事前に知らなかったと嘘をついていることなどについて解説した。

(参考記事)元慰安婦の告発が剥がす慰安婦団体元代表の化けの皮
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60488


 しかし、寄付金が正義連幹部の利益にかなうように使われているのではないかとの疑惑に対する正義連と尹氏の釈明は、ひと言で言えば開き直りであり、真相解明とは程遠いものである。

 こうした対応を野党が批判すると、与党は野党の行動を「親日」と批判し、問題のすり替えを図ろうとしている。


筆者は、尹美香氏が韓国の国会議員に名を連ねたことで、今後の日韓関係に悪影響が及ぶのではないかと危惧していた。それが今回の騒動が起きたことで、尹氏の発言力は落ちてくるかもと予想したりもしたのだが、この新しい動きを見ればますます慰安婦問題の解決を困難にするのではないか、と危惧している。

 

寄付金の使途に対する疑惑

 正義連が公開した会計処理を見ると、一括記載が行われており、詳細が明らかにならないようになっている。その典型的例として、次の2つのケースが韓国のマスコミで批判されている。


 第1は、18年の挺対協の決算報告書では、「寄付金品の収入・支出明細書」項目の「国内事業支出処」に「(代表)支出処」として同年3月に亡くなった元慰安婦アン・チョムスンさんに4億7000万ウォン(約4128万円)余りを支給したとなっている。しかし、同年の挺対協の寄付金収入・支出月別現況によると同年1~12月支出総額は4億6908万ウォンであり、アンさんへの支給額は同年の支出総額よりも多くなっている。


 第2に、挺対協は2018年にある飲み屋で「募金事業」名目で3339万ウォン(現行レートで293万円)を支払った。これが正しければ、この年に受けた寄付金3億1000万ウォンの10%強を1日で支出したことになる。店側は「決裁した売り上げは972万ウォンで、その中から材料費などの経費430万ウォンを差し引いた残り542万ウォンは寄付金として返還した」としている。正義連は実際の決済額を8倍近く水増しして会計処理を行ったとことになる。


 正義連は、アンさんのケースでは国際協力、生存者福祉、水曜デモ、文化広報、国内連帯などの支出をまとめたと言い、飲み屋の支出についても、「その年に様々な場所で支出した募金行事支出総額をこれにまとめたという(以上、中央日報記事から)。


正義連は、このような形で寄付金を使っておきながら、「寄付金の内訳は透明性をもって管理されている」として、内容の内訳の公開を拒否している。逆に、詳細な内訳の公表を要求する声に、「世界のどの非営利組織が活動内容を一つ一つ公開し、詳細を明らかにしているだろうか」「各企業には何故要求しないのか・・・あまりにも苛酷だと思う」と開き直っている。このような会計処理をして開き直って通るのは法治国家として如何なものだろうか。

 

 営利を目的とする企業活動と外部からの寄付で賄う組織とは明らかな違いがあり、このような比較は適切ではない、との指摘が韓国内でも聞かれる。こうした状況を受け、行政安全部は連帯に対し、寄付金の募集状況や使途明細を記録した出納簿の提出を求める公文書を送っている。しかし、行政安全部が正義連を相手に公正を求められるか疑問ではある。


 こうした対応では、正義連が寄付金をいかに使ってきたか明らかにするのは不可能であり、李さんの指摘のように「元慰安婦のために使われていない」との疑惑は深まるばかりである。


尹美香氏による私的流用はなかったのか

 尹氏は自身に向けられている非難に対して「6か月間、家族や知人たちの息づかいまで暴きたてられた曺国(チョ・グク)前法務大臣のことを思い出す」と述べ、娘の奨学金に絡む収賄罪や青瓦台高官時代の職権乱用罪などで在宅起訴された曺氏を引き合いに出し反発した。


 尹氏は、メディアの記者が、娘の留学先であるカリフォルニア大学バークレー校に娘のプライベートな事情を聞いて回っていると不満を述べた。


 ちなみに娘の一年間の学費は4万ドル(約430万円)で、生活費まで合わせると留学には600~700万円が必要だ。しかし、尹美香氏とその夫の所得税の納付額から推定される年収は2人合わせて5000万ウオン(440万円)にしかならない。聯合ニュースが娘の留学費用について取材すると、尹氏は「娘は1年の全額を奨学金として支援される大学を選んだ」と説明した。しかし、米国の州立大学が外国人に全額奨学金を支払うケースはほとんどないとの指摘がある。すると尹氏は「スパイ捏造事件で一部無罪判決を受けた夫の刑事補償金などで留学費用を工面した」と説明を変えた。どう考えても納得のいかない説明ぶりである。



正義連は、このような形で寄付金を使っておきながら、「寄付金の内訳は透明性をもって管理されている」として、内容の内訳の公開を拒否している。逆に、詳細な内訳の公表を要求する声に、「世界のどの非営利組織が活動内容を一つ一つ公開し、詳細を明らかにしているだろうか」「各企業には何故要求しないのか・・・あまりにも苛酷だと思う」と開き直っている。このような会計処理をして開き直って通るのは法治国家として如何なものだろうか。

 

 営利を目的とする企業活動と外部からの寄付で賄う組織とは明らかな違いがあり、このような比較は適切ではない、との指摘が韓国内でも聞かれる。こうした状況を受け、行政安全部は連帯に対し、寄付金の募集状況や使途明細を記録した出納簿の提出を求める公文書を送っている。しかし、行政安全部が正義連を相手に公正を求められるか疑問ではある。


 こうした対応では、正義連が寄付金をいかに使ってきたか明らかにするのは不可能であり、李さんの指摘のように「元慰安婦のために使われていない」との疑惑は深まるばかりである。


尹美香氏による私的流用はなかったのか

 尹氏は自身に向けられている非難に対して「6か月間、家族や知人たちの息づかいまで暴きたてられた曺国(チョ・グク)前法務大臣のことを思い出す」と述べ、娘の奨学金に絡む収賄罪や青瓦台高官時代の職権乱用罪などで在宅起訴された曺氏を引き合いに出し反発した。


 尹氏は、メディアの記者が、娘の留学先であるカリフォルニア大学バークレー校に娘のプライベートな事情を聞いて回っていると不満を述べた。


 ちなみに娘の一年間の学費は4万ドル(約430万円)で、生活費まで合わせると留学には600~700万円が必要だ。しかし、尹美香氏とその夫の所得税の納付額から推定される年収は2人合わせて5000万ウオン(440万円)にしかならない。聯合ニュースが娘の留学費用について取材すると、尹氏は「娘は1年の全額を奨学金として支援される大学を選んだ」と説明した。しかし、米国の州立大学が外国人に全額奨学金を支払うケースはほとんどないとの指摘がある。すると尹氏は「スパイ捏造事件で一部無罪判決を受けた夫の刑事補償金などで留学費用を工面した」と説明を変えた。どう考えても納得のいかない説明ぶりである。


尹氏本人も、12日、自身のFacebookに「親日勢力の不当な攻撃が強まるほど、私の平和人権に向けた決意も泰山のように高くなるだろう」などと書き込み、「批判勢力=親日勢力」の図式を定着させようとしている。

 さらに閔丙ドゥ(ミン・ピョンドゥ)議員は、慰安婦被害者の生活支援は国の役割なので、「寄付金がおばあさんのために使われなかった」という保守陣営の問題提起は方向違いだ、と言い逃れする始末だ。


 こうした与党、革新系の人々の不正を庇う行動は、文政権になってから終始一貫行われてきたものであり、目新しい動きではない。曺国前長官の行動についても政府与党一丸となって隠し立てしようとしていたのだから。


 今回の尹氏とその周辺の行動についても客観的に見て納得のいかないことが多いのだが、4月15日の国会議員選挙で与党が圧勝しただけに、今回も力ずくで蓋をしてしまうだろう。


日韓関係に改善の兆し見えず

 そうした中、韓国政府は日本の韓国に対する戦略物資の輸出優遇措置の再開を求めてきている。しかし、日本が是正を求める、徴用工問題で日本企業の資産を差し押さえ、売却しようとの姿勢については依然として、そのままである。


 韓国政界は依然として反日を国内政争の具に用いている。これでは、当面日韓関係について展望は開けないだろう。