北朝鮮に異変!平壌在住者が語る「進行中の危機」
東アジア「深層取材ノート」
2020.8.21(金) 近藤 大介
JB Press
韓国の国会議員の口からも「金正恩委員長の後継者に決まったのではないか」と指摘された金与正党第一副部長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
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「過酷な内外情勢が継続し、想定外の試練が重なっているのに伴い、経済事業が改善できず、計画されていた国家経済の長期目標が深刻に遅れ、人民の生活が明らかに向上できないという結果ももたらされている」
8月19日に平壌で開かれた朝鮮労働党中央委員会第7期第6回全員会議で、「朝鮮労働党第8回大会を招集するにあたって」と題した「決議書」が発表された。その中に、いつもの誇り高い朝鮮労働党の文書とは思えないような表現が飛び出した。それが前掲の一文である。
平壌駅も水没しかねなかった大水害
翌20日、韓国国会の情報委員会では、韓国政府の情報機関である国家情報院の最新報告が行われた。そして報告終了後、野党側幹事の河泰慶(ハ・テギョン)議員(未来統合党)が、会見を開いて気になる発言をした。
「金与正(キム・ヨジョン。金正恩委員長の妹で党第一副部長)が後継者に決まったのではないか。金正恩(キム・ジョンウン)が依然として絶対的な権力を持っているが、以前より少しずつ彼女に権限を委譲するようになってきている。金正恩は過去9年の統治によって、ストレスが相当溜まっているのだろう」
異変は、他にもある。日本時間の20日、1973年から北朝鮮と国交を結び、国交のないアメリカの利益代表も受け持っているスウェーデン大使館が、平壌(ピョンヤン)在住の外交官を、大使以下、全員出国させたことがニュースになったのだ。ドイツやイギリスなどに次いで、ついにスウェーデンも「国外脱出」を敢行したのである。
このように、北朝鮮の「何かがオカシイ」のだ。
北朝鮮で、いま何が起こっているのか? 改めて、平壌在住の人間に聞いた。
彼がまず挙げたのは、洪水問題だった。
「8月前半の平壌の豪雨は凄まじかった。2007年の夏にも豪雨があって、大同江(テドンガン)の水が周囲に溢れる洪水が起こったことがあった。だが今年の豪雨は、13年前よりも激しかった。(大同江の中洲の)羊角島(ヤンガクド)が1mほど水に浸かった。大同橋も、水没する寸前まで水が溢れた。坂の下手に位置する平壌駅も、あわや水没するところだった。平壌の郊外地域でも、深刻な浸水被害が生じた」
2007年の豪雨は、いまでも180万平壌市民の間で語り草になっているほどで、平壌を東西に二分する大同江の水が溢れ、付近一帯の住民が浸水被害を受けた。だが今夏の豪雨被害は、その時よりも激しいというのだ。
今年の収穫量は「史上最悪」の見込み
さらに洪水被害は、平壌にとどまらず、全国各地で甚大な被害が出たという。
「全国で最も豪雨被害が激しかったのが、江原道(カンウォンド 日本海側の韓国との国境地域)だった。なにせ、8月のわずか2週間あまりの間に、年間降水量の1.5倍もの豪雨が降り注いだのだ。豪雨によって、水没する地域が続出した。
江原道では、大規模な山崩れも起こり、多くの人が犠牲になった。道路や鉄道など、交通インフラも断たれてしまった」
江原道は、「朝鮮五大聖山」の一角で、かつて韓国と合同で観光事業を進めていた金剛山(クムガンサン)を擁する。本来なら、夏は金剛山の登山客が多数訪れるが、今年は豪雨で登山どころではなかったという。
「江原道の他にも、黄海北道(ファンヘプクド)と黄海南道(ファンヘナムド)でも、甚大な豪雨被害が起こった。この二つの地域は、朝鮮の穀倉地帯だ。秋の収穫はどうなってしまうのかと、大変心配だ」
北朝鮮では、毎年秋になると「農業闘争」と呼んで、国民総動員で収穫を行う。1800万国民が飢えないためには、年間650万トンの穀物の収穫が必要と言われるが、ここ数年は不作に見舞われている。
2017年に国連の経済制裁が強化され、翌2018年は最低レベルの490万トンに落ち込んだと報じられた。続く昨年は、旱魃や台風などが相次ぎ、さらに最低レベルの450万トンまで下がったと報じられた。
ところが今秋は、「史上最低」と言われた昨年よりも少ない収穫量が予想されるという。
コロナ対策で中朝国境を封鎖したことも食糧危機を深刻化
折から、北朝鮮は今年1月以降、中国で感染爆発した新型コロナウイルスが国内に流入するのを防ぐため、貿易の9割以上を占める中国との国境を封鎖してしまった。不作に加えて、中国との「交易ルート」が閉ざされたことで、北朝鮮の食糧危機に拍車をかけてしまったのだ。
そうなると、気になるのは、北朝鮮の配給である。「建国の父」金日成(キム・イルソン)元主席は、「全人民に白米と肉のスープを食べさせたい」と言っていた。それは実現しなかったが、社会主義の食糧配給の仕組みは整えた。
ところが、金正日(キム・ジョンイル)総書記の時代が始まった1994年後半から1997年にかけて、三年飢饉が発生。数百万人が餓死したと言われる中、北朝鮮の配給制度は崩壊していった。
だがそれでも、「核心階層」と呼ばれる選民のみが居住を許される「革命の首都」平壌だけは、細々と食糧配給が続けられてきた。ところが今年に入って、ついに平壌でも配給の遅配が起こってきたという。
「正直言って、4月と5月の配給は、ゼロになった。それで6月に3カ月分もらえるのかと思っていたら、6月にもらえたのは、ひと月の半分だけだった。7月、8月になって、また途絶えだした」
通常の年なら、9月後半の収穫後に、食糧不足は解決に向かう。そのため、「春と夏さえしのげば」という思いが、国民の間にはある。ところが今年に限っては、「秋の安らぎ」さえ望めない可能性があるのだ。
北朝鮮は、10月10日に朝鮮労働党創建75周年を迎える。そして来年1月には、第8回朝鮮労働党大会を開催することを、冒頭の朝鮮労働党中央委員会第7期第6回全員会議で決議した。
この決議の直後、金正恩委員長は幹部全員に、祖父・金日成元主席と父・金正日元総書記が眠る錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を参拝させた。幹部たちの引き締めを図ったのだ。
だが、北朝鮮の危機は、かつてないほど強まっているように思えてならない。
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