ロシア市場が如実に示す日本ブランドの凋落
制裁下でも元気な韓国、米国、フランス、ドイツブランド
大坪 祐介
JB Press
2020.12.2(水)
ロシアの市場をみれば世界の動向が如実に分かる。写真はクレムリンの夜景
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新型コロナウイルスに翻弄された2020年もあと1か月で終わろうとしている。
12月と言えば、平常時ならロシアでビジネスが一番盛り上がる時期であるが、今年は国内感染者拡大に歯止めが利かない状況にあり、筆者の知り合いの多くも在宅勤務を余儀なくされている状況である。
頼みのロシア製ワクチン「Sputnik V」はその効果はさておくとして、大量製造が追いつかず供給がおぼつかない状況である。
ロシア人、特にサイエンティストのメンタリティには実験室で実現できるものは工場でも簡単に再現できるはずだという思い込みがある。
筆者の経験でも、彼らがモスクワの実験室で合成に成功した素材を日本のテストラボに持ち込むと、全く成果が得られないという場面に幾度も直面した。
1.フォーブス 「ロシアの50大外資系企業」
さて、ロシア経済は新型コロナウイルスの感染拡大前から難題を抱えていた。
それは2014年のクリミア紛争を発端とする欧米諸国による対ロシア経済制裁、その後の米国によるエネルギー分野を中心とする諸々の経済制裁である。
筆者はこれらの経済制裁がロシア経済に対して有効な制裁措置にはなっていないことは現地で感じていたが、これによってロシアで活動する欧米および日本企業にはどれほどの影響があるものなのか確たる認識がなかった。
そうしたなか、先頃、ロシア版フォーブス誌が発表した「ロシアの50大外資系企業」ランキングを眺めてみると、外資系企業の動向を即座に把握できることが分かった。
まず、このランキングの概要であるが外資の持ち分が50%以上(金融・保険業を除く)の企業を対象とし、ロシアにおける「売上高」が大きい順にランキングしている。
売上高は2019年の数字なので、新型コロナの影響は織り込まれていない。
結果は以下のとおりである。参考までに調査開始時の2015年(売上高は2014年の数字)の結果も掲載した。
(図表1)ロシアにおける50大外資系企業ランキング(2020年)
順位は左上から右に1-5 位、左下から右に6-10位(www.forbes.ru/rating/)
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2015年
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2019年の50大外資企業の売上高合計は7.1兆ルーブル(約9.9兆円)、前年比+3.9%となった。
2018年の同前年比は+10.2%であったので伸び率は大きく減速しているが、2018年→19年の実質GDP(国内総生産)の伸び率減少(+2.5%→+1.3%)を考えると無理からぬものがある。
しかし、個別企業の売上伸び率をみると、グーグルやマース(チョコレート)、シェル(石油)、BMW、ノバルティス(製薬)は2019年に20%以上の売上伸び率を達成しており、業種による浮き沈みが大きいことが窺える。
これは2015年との比較でも顕著である。
2015年にトップ10にランクインしていた小売関連企業オーシャン(仏大手スーパー)、メトロ(独大手スーパー)、イケア(瑞大手ホームセンター)は2020年には軒並みランクダウンしている。
オーシャンは2015年の本調査開始以来、昨年までトップの座を守り続けていた。
その一方で仏大手ホームセンターのルロワ・メルランは2016年にベスト10入りして年々順位を上げているのは注目である。
景気回復の遅れが長引く中にあって、内外同業他社との競争環境が一段と厳しくなるロシアの小売業界の姿を反映している。
2.米国企業は?
ここで気になるのは米国企業の動向である。
米国政府は対ロシア経済制裁の旗振り役となっている。では米国企業は政府の意向に従ってロシアビジネスから撤退しているのか、というと全くそのような気配はない。
前出の図表1でベスト10入りしている米国企業はペプシコだけであるが、全50社の国別社数を見てみよう(図表2)。
2020年の米国企業は9社とドイツと並んでトップである。しかも、JTI(本社はスイス)がスイスではなく日本に分類されるのであれば、フィリップモリスやコカ・コーラも米国に分類されるべきで、これらを加えれば米国企業は11社となり単独1位となる。
さらに注目すべきは、自動車メーカーがいない(かつてはフォード、GMがランクインしていたが、いずれも撤退)代わりに、アップル、グーグルという新時代のプラットフォーマーがランクインしており、着々とロシアに基盤を築いていることである。
GAFAは米国内においても政府との関係は決して蜜月ではないが、ロシアビジネスに関しても政経分離は徹底しているようで興味深い。
www.forbes.ru/rating/をもとに筆者集計。注:米国に含まれるべきと筆者は考えたがForbes誌の分類に従った
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3.ヨーロッパ、そして中国・韓国は?
では対ロシア経済制裁の言い出しっぺであるEU諸国はどうであろうか?
EU諸国の企業もロシアビジネスに関しては米国同様、政経分離を徹底しているようである。
ドイツがロシアと経済的なつながりが深いことは周知のところだが、トップ10の顔ぶれを見て意外であったのはフランス企業が3社も入っていることである。
しかも、この3社は他に比べてロシア市場への売上依存度が高い。
1位のルノーは10.8%、4位のルロワ・メルランは23.6%、そして5位のオーシャンが9.1%である。
EU首脳の中でも仏マクロン大統領がロシアに対して比較的融和的であるのもうなずける。
同じく意外なのは中国である。
露中の蜜月関係、特に経済分野における両国の活発な交流に鑑みると、もっと多くの中国企業の名前が挙がりそうだが、2020年ランキングではファーウェイ1社にとどまっている。
両国の越境ECの繁盛ぶりを考えると、来年の調査ではアリエクスプレスなどがランク入りするかもしれない。
逆に予想通りの結果は韓国である。
エレキ分野でサムソンとLG、自動車でKIAとヒュンダイがランクインした。
この4社のロシアにおけるプレゼンスは高く、街中至る所でその商品、広告を目にする。
毎年この時期に公表されるロシアのブランド好感度ランキング(図表3)では、サムソンは2011年以来、盤石のトップを維持している。
にもかかわらず、これら4社の売上高のロシア依存度は一番高いKIAで7.6%、サムソンでは1.6%にとどまる。
ロシアにおける韓国勢の今後のシェア拡大余地は大きいように思える。
(図表 3) ロシアのブランド好感度ランキング
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4.では日本は?
日本企業はトヨタの6位を筆頭に6社がランクインしている。自動車が4社、建機、そしてJTI(タバコ)である。
ロシアのタバコ市場は外資にも開放されていることから、JTI(7位・日/スイス)はじめフィリップモリス(2位・米/スイス)、ブリティッシュアメリカンタバコ(16位・英)、インペリアルタバコ(41位・英)が参入、いずれも大きな成功を収めている。
しかし、各社ともロシア市場への売上依存度が高く、特にJTIは22.3%と突出している。ロシア政府は禁煙政策を推進しており、先行き予断を許さない。
日系企業の2015年との比較では、社数に変わりはないものの、ランクダウンが否めない (トヨタ3位→6位、JTI 5位→7位、日産 9位→24位)。
日系企業が経済制裁を理由にロシアから撤退したという話は聞かないが、欧米、中韓企業がロシア市場から撤退することなく、互いに厳しいシェア競争を繰り広げていることが背景にある。
ブランド好感度ランキングにおいても、日本企業はソニーが6位にランクインしたのが唯一である。
しかもソニーは昨年から5位からランクダウンしている。
ソニーを抜いて5位にランクアップしたのは独ボッシュ、そして7位には昨年8位からランクアップした中国シャオミが迫っている。
かつてロシア市場では日本ブランドは絶対的優位な立場にあったが、そのアドバンテージは急速に失われつつある。
もちろん、企業の業績は売上ランキングや好感度調査だけで判断することはできない。
しかし、欧米諸国の対ロシア経済制裁が完全に解除されたとき、日本企業がこれまでのポジションを維持できるのか、楽観視することはできない。
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