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不正隠蔽のため検事総長切り、「腐臭」漂う韓国政界

이강기 2020. 12. 3. 21:05

不正隠蔽のため検事総長切り、「腐臭」漂う韓国政界

 

法務部長官による検事総長攻撃は「文在寅大統領を守るため」か

 

 

武藤 正敏(元在韓国特命全権大使)

JB Press

2020.12.3(木)

 

2017年6月19日、大統領就任1年目の文在寅大統領は、韓国最古の原発・古里原発1号機の運転停止記念式典で演説。ここで「脱原発」推進を宣言し、月城原発1号機の早期閉鎖にも言及した(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 

 韓国で、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官と尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長の対立が激化していることは、先日もお伝えした。しかし、この対立の図式は、おぞましい政権の不正を隠蔽するためのカムフラージュだった可能性が強まってきた。真相は長官vs.総長ではなく、文在寅大統領vs.検察の構図であることが徐々に明らかになりつつあるのだ。

 

法務部次官の陰に隠れ、自らは手を下そうとしない大統領

 

 文大統領はこれまで、秋法務部長官と尹検事総長の対立に関し沈黙を守り続けてきたが、それもそろそろ終わりになりそうだ。検察の組織を挙げた抵抗、世論の反発、そして決定的なのは行政裁判所が職務停止命令の執行停止を求めていた尹総長の申し立てを認めたこと、および法務部監査委が尹総長に対する職務停止命令・懲戒請求・捜査依頼がすべて不適切だと議決したことにより、文大統領はこれまでのように秋長官の影に隠れていられなくなっている。

 

 いずれにせよ秋長官も尹総長も任命したのは文大統領である。しかも対立の発端となったのが文大統領の行動である。それでも直接手を下さない文大統領に対して「中央日報」は「卑怯だ」と痛烈に批判している。

 

「検事総長切り」の発端は月城原発廃炉を促す文大統領の発言

 

 12月1日の「朝鮮日報」は「月城原発1号機関係者逮捕方針の直後に尹総長排除、その翌日に産業部を表彰・・・偶然ではない」と題する社説で、法務部と検察対立のそもそもの発端が文大統領にあることを指摘している。

 

 

 月城原発1号機とは、韓国で2番目に造られた原発で、1982年に稼働を開始している。設計寿命の30年をすでに超えたが、7000億ウォンをかけて改修・補修され、稼働期間を2022年まで延長することが決定されていた。

 

 その方針を覆したのが、2017年に大統領となった文在寅氏だ。「脱原発」を志向する文大統領は、月城1号機の早期閉鎖を明言。それを受けるように、2018年に運営会社の理事会が早期閉鎖を決定、2019年12月には韓国の原理力安全委員会が閉鎖を決定した。

 

 

月城原発「早期閉鎖」の根拠となった経済性評価は操作された数字

 

 ところが今年10月、韓国監査院は、早期閉鎖の根拠となった月城1号機の経済性評価について、過小評価があったと発表した。要するに、文大統領の「脱原発」の意向に沿うように、月城原発の運営会社「韓国水力原子力」の理事会に、政府の産業通商資源部が圧力をかけ、経済性評価をでっち上げさせた。そして本来はまだ閉鎖すべきでない原発を閉鎖させ、つじつまを合わせようとしたのだという。

 

 これらが事実とすれば、捜査機関が乗り出すのは当然だ。実際、韓国検察は動き出した。

 

 朝鮮日報の社説によれば、この動きが秋美愛法務部長官による尹錫悦検事総長排除の発端となったようだ。月城原発1号機の経済性評価不正疑惑を捜査していた大田地検が、監査途中の深夜に庁舎を訪れ、産業資源部の職員らを逮捕しようとしたというのだ。

 

 このことを、最高検察庁の反腐敗部は承認していなかったという。同部長は典型的な文在寅氏人脈だ。このとき反腐敗部は、「公務員の組織的証拠隠滅は捜査の本流ではない」としたという。

 

 しかし、経済性評価捏造は産業資源部職員による組織的証拠隠滅、露骨な監査妨害だ。当然ながら、尹総長は「補完捜査を行い、逮捕状を請求する」よう指示した。

 

 これを受けて大田地検は11月23日に反腐敗部に逮捕状を請求、24日には関連資料を反腐敗部に送った。逮捕状を持っての通常逮捕に切り替えようとしたのだろう。だが、その途端、反動が襲ってきた。その日の午後、法務部の秋長官が、突然尹総長の懲戒請求、職務停止を発表したのである。

 

 朝鮮日報は、「検察の捜査で何か『決定的証拠』が見つかった可能性がある。文大統領が捜査を中断させるには、尹総長を解任し、大田地検の捜査チームを空中分解させるほかない」と判断したのだろうと指摘している。

 

 驚かされるのはそればかりではない。その翌日には、丁世均首相が、関連資料444件を隠滅した産業資源部の原発産業政策課を自ら訪問、「つらい仕事を処理して、苦労が多かった」と慰労し表彰したという。地検が逮捕しようとしていた役人を、すぐさま首相が直々に表彰したのだから異様と言うほかない。同紙は「犯罪組織の幹部がメンバーを集めて激励し、捜査機関に屈するなと背中を押す場面を見るようだ」とまで酷評している。

 

 これらはすべて偶然が重なった結果と捉える人はいないだろう。そもそもは、「脱原発」をアピールしたい文大統領が「月城原発1号機はいつ廃炉にするのか」と発言し、暗に廃炉を急ぐよう指示したことがきっかけとなっている。

 

役人は、大統領が望む姿に事態が進むよう、事実を歪曲させて政策をゴリ押ししようとした。その不正を追及しようとした検察のトップを、法務部長官が排除しようとした。誰が一番の「悪者」なのかは、すでに明らかだろう。

 

 尹総長への懲戒請求と職務停止は、月城原発1号機の経済性評価を捏造した産業資源部と文大統領の意向を受け、これを指示した文政権幹部への捜査の手が伸びないようもみ消しをはかったものと考えることは、果たして不自然なのだろうか?

 

 元革新系で文大統領に幻滅して、文批判を繰り返す東洋大学の陳重権(チン・ジュングォン)前教授は「そろそろ本性をあらわすでしょう? これがタク・ヒョンミン(青瓦台儀典秘書官)の化粧に隠されていた彼(文大統領)の素顔です」と自身のフェイスブックに書き込んだ。

 

 

秋法務部長官がゴリ押しする尹総長への懲戒請求と職務停止

 

 秋長官は尹総長への懲戒請求・職務停止への根拠として6点を挙げている。しかし、法曹界の多くの有力者は、秋長官の指摘は根拠が乏しいと否定的にとらえている。

 

 

(参考記事)韓国、不正追及の検事総長を政権ぐるみで排除の異常
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63049

 

 そこで秋長官は、現在は焦点を判事に対する査察に絞って追及しているが、その点についても、公判を進めるにあたって判事の過去の判例など調べるのは弁護士も同じとされているし、日本でも決して珍しいことではない。しかも、秋長官は尹総長に対する懲戒を行うと発表してから、その後に懲戒事由を探そうとして家宅捜索を行った。そこからも慌てている様子がうかがえるし、「尹総長排除」の目的ありきの強引な懲戒請求だったと受け止められても仕方がない。

 

 

行政裁判所も法務部監察委も、秋長官の行動を非難

 

 ソウルの行政裁判所は12月1日、尹検事総長が秋長官による職務停止命令を不服として執行停止を求めていた裁判で、尹総長の申し立てを認めた。行政裁判所の決定を受け、尹総長は同日午後5時過ぎに最高検に出勤した。

 

 また法務部監察委員会も、満場一致で尹総長に対する懲戒請求と職務排除措置、捜査依頼がすべて不適切だと議決した。法務部監察委員会は法務部の諮問機関で、委員11人のうち3分の2以上が外部の人物で構成され、外部委員の相当数は秋長官の措置に批判的だ。

 

 というのも、秋長官が今月初め、監察委の規定を突然改訂し、監察委の開催を「義務」ではなく「開催することができる」と改めたことがあったからだ。そして、尹総長の懲戒請求前に監察委を開かなかったことへの世論の批判が高まったため、急遽臨時委員会が招集されたものである。

 

 秋長官は懲戒請求者なので審議と議決には関与できない。ただ監察委に出席している検事は沈戴哲(シム・ジェチョル)監査局長、申成植(シン・ソンシク)最高検反腐敗部長、李種根(イ・ジョングン)最高検刑事部長など、少数派ではあるもののゴリゴリの「秋長官派」の人物である。それでも監察委の決定は、秋長官に反旗を翻すものとなった。

 

 

 尹総長への懲戒の是非を最終的に決めるのは法務部の懲戒委員会だ。この懲戒委は12月2日に開催される予定だったが、急遽4日に延期された。

 

 というのも、秋長官に代わってこの懲戒委員会を担当するはずだった高基栄(コ・ギヨン)法務部次官が、尹総長の懲戒に反対し、辞表を提出したからだ。文大統領はすぐさま、後任の法務部次官に弁護士の李容九(イ・ヨング)氏を充てる人事を決めた。

 

 行政裁判所も、法務部監察委員会も、そして直属の部下である次官も、尹総長の懲戒に反対している。それでも秋長官は、新たな法務部次官を前面に押し出しながら、尹総長の懲戒を強行しようとするだろう。もはや文在寅大統領を守るために、法律も関係機関の決定も無視して、ただただ尹総長を排除しようとしているようにしか見えない。

 

 

文大統領は沈黙から立ち上がるのか

 

 では、秋長官が必死に守ろうとしている文在寅大統領はどのような態度をとっているのか。

 

 秋長官から、尹総長の懲戒請求、職務停止命令する際、事前に報告を受けた文在寅大統領は、これに反応せず黙っていたと青瓦台の広報は伝えている。しかし、秋長官、尹総長をそれぞれ任命したのは文大統領である。自分で任命した2人が対立しているならば、文大統領が乗り出して仲介するのが筋である。しかし、文大統領には尹総長の捜査指揮を何としても止めたい動機があった。そして、その意を汲んで動く秋長官をかばいたい思いが強いようだ。

 

 文在寅大統領は11月30日、青瓦台首席秘書官・補佐官会議において、「所属部署や集団の利益でなく共同体の利益を敬う『先公後私』の姿勢で危機を乗り越え、激変の時代を切り開いていくべきだ」、「陣痛が伴われて困難を強いられても、改革と革新で古いものと果敢に決別して変化しようとする意志を持ってこそ新しい未来が開かれるだろう」と述べた。

 

 大統領は24日の尹総長職務停止以降、これに言及していない。この日も秋長官や尹総長に対する直接の言及はなかった。だが、この「先公後私」発言の真意は、自身に従わない検察に向けられた批判であると受け止められている。

 

 

文大統領に従わない検察

 だが、検察も文政権との対峙に怯む様子はなさそうだ。

 

 というのも、法曹界から強力な援軍が現れているからだ。実は、多くの検事が立ち上がっているのだ。6つの高検の長、18の地検長のうち親文のソウル中央地検長など3つの地検長を除く15地検長、部長検事、そして何よりも98%の平検事が一斉に声明を出して、集団行動で秋長官に抗議した。このようなことは韓国の歴史上、初めてである。

 

 中央日報によれば、ある元検事総長は、「検事の抗議声明は尹総長の勝利でなく秋長官の敗北」と分析しているという。声明の主旨は、尹総長個人に対する支持ではない。秋長官の職務停止と懲戒請求は行き過ぎた措置であるため、これを再考してほしいと強調している。

 

「政治的にあらかじめ解任を決めておいて、人事権・懲戒権を振りかざして無理に強行したところ、検事らの抵抗を受けたのだ。検事の間では、今後、政権が気に入らない捜査をすれば職務排除、人事不利益、懲戒の3セットを食らうという危機意識が広がるしかない」(中央日報12月1日)

 

 

 もしも尹総長が文大統領によって解任されれば、抗議の矛先は文大統領に向かうのは必至だ。

 

 

文大統領は尹総長「解任」に突っ走るのか

 

 先ほど紹介した、文大統領「陣痛が伴われて困難を強いられても、改革と革新で古いものと果敢に決別」しようと述べた発言の主旨は、「検察が反対しても、検察改革の名目で尹総長の解任を押し切ろう」という意思表示なのだろう。

 

 だが事態はここまで膠着してしまった。今後、尹総長や検察に譲歩すれば、文政権はレームダック化していくだろう。したがって文大統領に引き返す道は残されていないように思う。

 

 そうした中で、行政裁判所と法務部監察委で相次いで秋長官の強引な手法を否定する決定が出されたのは誤算だったに違いない。ここで尹総長の懲戒を強行すれば、支持率に影響するのは必至だ。

 

 青瓦台は「世論調査に一喜一憂しない」という。しかし、それはあくまで建前だ。中央日報のコラムによれば、これまで国政支持率が40%に迫るたびに重要な決断が生まれてきた。

 

 昨年10月14日に国政支持率が41%に落ちると、1カ月後に、曺国(チョ・グク)法務部長官を辞任させた。今年8月、不動産価格の暴騰によって支持率が40%に迫った時は、複数住宅所有者を中心に青瓦台主席秘書官らを交代させた。今回もリアルメーターによれば国政支持率は40%にまで下がってきている。

 

 そこで浮上してきているのが、尹総長と秋長官の「二人切り」という見方だ。この状況下でも尹総長を解任するのであれば、同時に秋長官の退任カードも切らざるを得ないというのである。

 

 一部報道によれば、丁世均首相は11月30日、文大統領との会合の中で、尹氏の辞任と秋長官の同時辞任が不可避であることを示唆する発言をしたとされる。これに対し文大統領は「私も悩みが多い」と答えたという。

 

 朝鮮日報は、「文在寅氏は丁首相との面会で何らかの結論を出したと見られている」と報じている。丁首相が国務会議の直前、秋長官を呼び出し、「前日、文大統領との午餐会で行われた議論の結果」を伝達したようである。秋長官はその後、午前11時45分に文大統領と面談した。これは文大統領の公式日程には入っていなかったものである。青瓦台関係者は「この日の面談で議論の内容を確認することはできなかった」という。

 

 この面会で秋長官の処遇についても話がされた可能性は排除できない。その場合、年末の内閣改造の一環になる可能性もあるが、今の世論動向、検察の反発をみれば、「そこまで待てない」という状況ではなかろうか。

 

 いずれにせよ4日の懲戒委員会が大きなヤマ場となる。そこから始まる動きからは目が離せない。