「紙」の時代が終焉、米国の新聞はデジタル戦国時代に突入
韓国拠点に国際化のWポスト、ハリウッド特化のLAタイムズ
JB Press
2021.5.14(金)
ワシントン・ポストは韓国のソウルを拠点とした国際報道で巻き返しを図る(写真は光化門)
米主要紙は7年間で軒並み発行部数半減
米新聞業界がのたうち回っている。
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の台頭でカネとヒトと時間をかけて取材した獲物(ニュース)はほとんどタダ同然でもっていかれる。カネをかけて刷り、配る「紙」(新聞)は読者離れで部数は減る一方。
過去7年間で発行部数は軒並み半減している。
中小のブロック紙や地方紙はヘッジファンドに買収されては本体を吸い取られては捨てられるか、廃刊に追い込まれている。
ビッグ10の主要紙も軒並み発行部数が激減、デジタル版移行で延命策を模索しているが、明暗が分かれている。
発行部数の激減ぶりは以下の数字が如実に示している。
米主要紙の発行部数の変遷
2002年 2019年
USAトゥデイ 221万1400 162万1000
ウォールストリート・ジャーナル 182万0000 100万1200
ニューヨーク・タイムズ 111万0000 48万3000
ロサンゼルス・タイムズ 96万6000 41万8000
ワシントン・ポスト 81万2000 35万7000
*AMM(Alliance for Audited Media=米メディア監査協会)データ参考
米国外の英語圏読者が優勝劣敗決める
いち早く「紙」から「デジタル」に重点を置いたウォールストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストは安定経営路線に乗っている。
それぞれに経済金融報道、国際報道、ワシントン政治報道で多くの特ダネをものにしてきたピューリッツアー賞受賞の常連だ。
ニュース面だけではない。
著名なコラムニストによる論評や「米国の常識」を主張する社説は、米国内の知識層だけではなく、各国政府や知識層にとっては必読のメディアとして認められてきた。
「紙」の時代には国際版を海外の拠点で現地印刷してきた。しかし、デジタル版の本格化で、各紙とも国際通用語・英語であることを武器にサイバースペースでの「デジタル読者」を拡張している。
ニューヨーク・タイムズが今年2月に公表した2019年末のデジタル版契約者数は342万9000件。
これは2018年末(271万3000件)から26%も伸びたことを意味している。
ウォールストリート・ジャーナルは2021年2月時点で200万を超えたと発表している。
またワシントン・ポストは、アマゾンの最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏がオーナーだ。同氏はポストの株式を公開せず。AAMにもデジタル契約数は報告していない。
そうした中で、部外秘のメモによると、2017年のデジタル契約数は100万超、2018年には150万超と記されている。2021年現在は300万件にまで伸びていることが判明している。
ベゾス氏としては、デジタル版でも何とかニューヨーク・タイムズに追いつき、追い越したい一心のようだ。
ワシントン・ポストは初の女性編集主幹
5月11日、新しい編集主幹にAP通信のサリー・バズビー編集主幹(55)を迎え入れると発表した。
同紙はかってキャサリン・グラハム氏が女性オーナーとしてウォーターゲート報道で陣頭指揮に立ったことがある。しかし、編集部門のトップに女性がつくのは初めてのことだ。
バズビー氏は1988年にAP通信に入社、イラク戦争など国際報道の修羅場で活躍し、2016年にはワシントン支局長などを経て、編集主幹兼副社長という米女性ジャーナリストの輝ける星。
同氏の就任とともにワシントン・ポスト氏は国際報道の強化を進め、CNN やフォックスニュースに対抗して24時間速報体制を敷く。
そのためにロンドンとソウルを「ハブ」化し、欧州報道、アジア報道の一大拠点にするという。
「ワシントン・ポストは国際報道ではニューヨーク・タイムズに後れを取っていた。これをケーブル・テレビ並みのデジタルでの国際ニュース速報体制で追い越す戦略だ」(米新聞業界情報通)
「西海岸の雄」のLAタイムズは瀕死寸前
これまで発行部数競争では、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストと互角に戦ってきた政治経済の中心から遠く離れた西海岸の有力紙、ロサンゼルス・タイムズは瀕死寸前の状態に陥っている。
「紙」の購読者数が激減、それに伴う広告収入の減収。起死回生を狙ったデジタル版読者の獲得も空回りしている。
理由は山ほどある。
ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストに比べると地の利がないことに加え、これといった強みがないからだ。
2000年以降、トロンク(シカゴ・トリビューン紙の親会社)傘下で独自の経営・編集に制約があった面もある。
2018年、南アフリカ出身の中国系億万長者のパトリック・スーン・シオン医学博士(中国名:黄馨祥)が5億ドルを投じて買収した。
編集面では編集主幹にウォールストリート・ジャーナル編集主幹だったノーマン・パールステイン氏を迎え入れた。
中国系が米主要紙のオーナーになるのは、2000年に台湾系のフローレンス・ファング氏(中国名・方李邦琴)が「サンフランシスコ・エグザミナー」を買収して以来のことだ。
反中国気運の最中、中国系が米メディアの一角を乗っ取ったとの批判もあったが、その後、中国寄りの報道がなされたことはない。
シオン氏は南アフリカに移民した客家の2代目で、政治的に中国を支持する親中国系米国人とは一線を画している。
シオン氏は、肝臓、肺、すい臓癌の治療薬「アブラキサン」を開発、その特許で巨万の富を得た。
ヘルスケア、バイオテク、AI開発のスーパーコンピューター・ネットワーク、「ナントワークス」を設立し、多角的な医療経営や社会福祉活動を続けるかたわら、「社会の木鐸であるメディアの再生」に積極的に乗り出した。
ジョー・バイデン氏とは副大統領時代からの付き合いで、現在政府諮問機関の「健康情報テクノロジー・アドバイザリー委員会」のメンバーを務めている。
シオン氏の最大の狙いは、赤字体質の経営の立て直し。その原動力は、デジタル版契約数の拡張だった。
当初150万から200万件の契約を目標に掲げたが、2021年現在の契約数は25万3000件。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストに大きく水をあけられている。
ロサンゼルスの中心にあった本社ビルを売却し、ロサンゼルス国際空港近くのエル・スグンドに移転。徹底した経費改善を行ったが、記者の解雇などは一切せず、むしろ待遇改善に努め、労組結成を認めた。
カリフォルニア報道に重点をおくことで国際報道網は大幅カット。その反動として米政治・経済報道は弱体化している。コラムニストの数は多いが全米レベルで名の通った者はわずかとあって、売り物は手薄になっている。
デジタルで成功した編集者起用の狙い
そのシオン氏が5月3日、ついに動いた。
黒人のケビン・メリダ元ワシントン・ポスト編集局長(64)で、スポーツ・エンターテインメント・メディア「ESPN」(Entertainment and Sports Programming Network)副社長を編集主幹に引っこ抜いたのだ。
ESPNはディズニー傘下のテレビ12局、デジタル・コミュニケーションを運営する、自称「世界規模のスポーツのリーダー」。
米国内だけでなく、英国、オーストラリア、ブラジルでも国別のテレビチャンネルを保有している。
メリダ氏はそのESPNの超人気ブログ「ジ・アンディフィーテッド」(The Undefeated)の編集主幹だった。
このブログは、人種、カルチャー、スポーツ関連の特ダネを流すデジタル・プラットフォームだ。まさに今の米国の「縮図」のような存在だ。
メリダ氏のこの「交差点」の編集・運営の采配ぶりは、米メディアのオーナーたちから注目されてきた。
前述のワシントン・ポストの編集主幹選びでもメリダ氏は候補者の一人に上っていたという。
シオン氏はメリダ氏を選んだ理由についてこう述べている。
「メリダ氏は記者としてメディアの最前線で活躍し、その後、大新聞の編集トップにまで上り詰めた。そして人種、カルチャー、スポーツがクロスするデジタル・スタートアップを立ち上げ、育て上げてきた」
「メディアとは何かに精通した一級のジャーナリストとして、ロサンゼルス・タイムズのこれからの生きる道を切り開いてほしいからだ」
一方、快諾したメリダ氏はこう語っている。
「私は住んだことはないが、ロサンゼルスが大好きだ。豊かで、文化的多様性に富み、活気に満ちている」
「まさに『人種の坩堝』、しかもグローバルだ。今回、編集主幹をお受けしたのは、チャレンジ精神、負けじ魂が私を揺り動かしたからだ」
「シオン夫妻のジャーナリズムへのコミットメントにも共感した」
「私はミュージックが好きだし、スポーツが好きだ。本も映画も大好きだ。音楽は通勤する車の中でいつも聞いていた。私にとっては一種のメディテーションのようなものだ」
ロサンゼルス・タイムズのベテラン記者は、メリダ編集主幹が始める路線についてこう予測する。
「エンターテインメントのメッカであるハリウッドやメジャーリーグのドジャース、エンジェルスといったグローバルな『商品』の報道に記者をもっと投入し、充実させ、独占ニュースをデジタルで流すのではないのか」
「この分野ならニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストには負けやしない」
「まさにメリダ氏がやってきた人種、カルチャー、スポーツの交差点のような新聞にすればいい」
「ロサンゼルス・タイムズ紙しか書けないハリウッド・インサイド・ストーリーを速報すれば世界中の読者がデジタル契約するはずだ」
ワシントン・ポストはニューヨーク・タイムズに勝つために国際報道の拡充で勝負する。
3番手のロサンゼルス・タイムズは、地の利を生かしてこれまで以上に『ハリウッド・ペーパー』に徹することでグローバルなデジタル戦争での生き残りを目指す。
米国の新聞は今や「紙」(発行部数)には関心がない。デジタル契約の拡張を目指して独自路線を走り出している。
日本の新聞業界が置かれた状況も米国とほぼ同じだ。
デジタルへの移行は急務だが、いざグローバル読者を獲得するとなると言語の壁が立ちふさがっている。
そうした中で「Japan Times」や「Nikkei Asia」は筆者の知る米国人の間では好評だ。
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