旅路

おいしい朝ごはんと猫の街、イスタンブール

이강기 2021. 6. 15. 20:22

鈴木博美

Asahi Shinbun Digital Magazine

2021.5.14 

 

 

  • 鈴木博美旅行家: 旅行業界で15年間の勤務を経てフリーの旅行家に。旅を通じて食や文化、風土を執筆。日本航空機内誌の …

古来、文化の交差点として発展してきたトルコ。そのトルコの中心都市・イスタンブールで注目したいキーワードは「朝食」と「猫」。実はトルコでは、たくさんの朝食をゆっくりといただく習慣が根付いていたり、イスタンブールは猫好きにとってのパラダイスだったり。2020年2月に降り立ったイスタンブールで見た、朝食と猫がたたずむ街の様子をご紹介する。

トルコ式朝食「カフヴァルトゥ」を召し上がれ

素晴らしい朝食がいただけると聞いて訪れたのが、イスタンブールの新市街側にある朝食メニュー専門店「Dogaciyiz Gourmet(ドーアジュイズ・グルメ)」。カフェ風の店内は雰囲気も良く、観光名所のガラタ橋から1キロほどなので旅行客でも気軽に訪れることができる。

 

 

トルコでは伝統的に朝食「カフヴァルトゥ」を大事にする習慣があり、テーブルに乗りきらないほどの料理を、時間をかけて食する文化が残る。特に日曜日の朝は家族や友人などと、テーブルを埋め尽くす色とりどりの料理を前に、おしゃべりと食事を楽しむ。「カフヴァルトゥ」を体験せずにトルコ料理を語ることはできないというくらいこの国の大切な食文化だ。

 

フェタチーズにフレッシュチーズ、オリーブと焼きたてのパン、フルーツやバラのジャムに蜂蜜、濃厚なクリームの乳製品・カイマック、そしてたくさんの手の込んだ料理と紅茶が定番のメニューだ。ちなみに、この習慣はトルコ共和国の前、オスマン帝国時代に1日2食だった食生活で、朝を重視していたことが現代に受け継がれたものだという。

着席して間もなく、おいしそうな匂いとともに大きなトレーに目にも鮮やかな野菜料理やチーズが運ばれてきた。乾燥ひきわり小麦の一種でトルコの国民食のひとつでもあるクスクスのような形状の「ブルグル」。このブルグルにオリーブオイルとサルチャ(トマトペースト)、青ねぎや西洋パセリなどの細かく刻んだ野菜、レモン汁、ザクロソースを加えてあえた「クスル」、ほかにも焼いたナスを細かく刻み、オリーブオイルとにんにく、レモン汁、ヨーグルトなどであえたサラダ「パトゥルジャン・サラタス」など、大変手の込んだ丁寧なもの。しかし、これらはほんの前菜。

 

次に運ばれてきたのは朝食の定番とも呼べるユニークな卵料理「メネメン」。玉ねぎ、パプリカ、ピーマン、トマトが入ったスパイシーでジューシーかつトロトロなスクランブルエッグと言ったところ。ひよこ豆のペースト「フムス」、白い棒状のチーズは、マイルドでクセがなく無限に食べられそうだ。またもう一つトルコの朝食に欠かせないものといえばスパイシーな柔らかいサラミソーセージの「スジュック」。スパイスが複雑に絡み合い食欲をそそる。

トルコはパンがおいしく種類が多いことでも知られている。伝統的なピタパンからごまパンのシミット、ピザのようなピデにインドのナンのようなもの等々、諸国のパンと共通するものも複数ある。パンだけでアジアとヨーロッパにまたがる帝国としての歴史がうかがえる。ちなみにトルコは世界で一番パンを食べる国とも言われ、2000年には国民1人当たりの年間パン消費量が、ギネス記録に認定されているほど。

合計20種類もの料理がテーブルをにぎわせる光景に、テンションが上がらずにはいられない。日本ではクセのある料理という印象を持たれることもあるトルコ料理だが、「カフヴァルトゥ」はどれを食べても口に合うものばかり。朝からそのボリュームにびっくりするが、イスタンブールを訪れたらぜひ一度は体験したい。

 

街を歩けば猫に当たる

猫にやさしい国として知られているトルコでは、「街を歩けば猫に当たる」と言われるほど多くのストリートキャットたちに出会える。猫もまた「イスタンブールの住民だ」との認識をしているかのような振る舞いが、世界中の猫好きのハートをわしづかみにする。最近ではストリートキャットが主役のドキュメンタリー映画が制作されるなど、この街の人々と猫とのあたたかい関係が注目を集めている。

地元住民の多くは、路上で暮らす猫のために、公園、店舗や家の玄関先に餌と水を入れた二つの容器を置いている。住民が野良猫の世話をする理由の一つに、イスラム教の伝統が関わっているという。預言者ムハンマドが猫を大切にしたとされていることから、猫は神聖な生き物として大切に扱われているからだ。人通りの多い繁華街や店頭でも自由にくつろぐ猫たちの姿が見られるし、レストランやカフェなどでは野良猫が椅子に座り客の相手をしてくれることも。

カフェテラスのクッションでちゃっかりお昼寝するストリートキャット。追い払おうとする人はいない。旅行者もそんな無防備な猫の姿に心が和み、何でもない日常が旅の記憶として刻まれる

ミュージカル「キャッツ」のキャラクターにも引けを取らない、誇り高い雰囲気を醸し出しているストリートキャットも

そんな猫に優しい街イスタンブールでは、当然猫の殺処分は行われていないし、エサ代、予防接種や避妊・去勢の面倒を自治体がみている。また公園には自治体の管理のもとに、ネコの住居用のシェルターも設置されている。昨今のコロナ禍でのロックダウンの中でも、自治体の職員へ餌やりや猫の健康状態の見回りをお願いする通達がトルコ内務省から出されたそうだ。

観光名所や市民公園、路地裏のレストラン、港、博物館……街中で自由気ままに暮らすストリートキャットは、もはやイスタンブール名物のひとつとも言える。街全体がネコの家といった感じだ。 アフターコロナには、アジアとヨーロッパ、そして猫の暮らしが交差する街イスタンブールで、仲間とたっぷりの朝食を楽しみ、猫たちと触れ合いながら、ゆっくりと街の雰囲気に浸るのもいいかもしれない。

 

【取材協力】
トルコ共和国大使館 文化広報参事官室
http://www.tourismturkey.jp/