「逆さ地図」が映す日本のリアル 列島が「ミサイル要塞」になる日【政界Web】
時事通信
2021年8月27日
迫る中国、加熱するミサイル競争
富山県作成の「環日本海・東アジア諸国図」【時事通信社】
中国大陸の上方に覆いかぶさるように位置する日本列島―。東京・市ケ谷の防衛省庁舎内を歩くと、至る所でこんな「逆さ地図」が目に入る。これを見ると、太平洋進出をうかがう中国と、その行く手を阻む日本との地理的関係、それに伴う安全保障環境の厳しさを実感せざるを得ない。日本と同盟関係にある米国は、急速な経済発展と軍備増強を進める中国への対決姿勢を強め、かねて取り沙汰される地上発射型ミサイルの日本配備も現実味を帯びつつある。近い将来、日本列島は「ミサイル要塞(ようさい)」のようになるのだろうか。(時事通信政治部 梅崎勇介)
中ロのスコープ
取材で防衛省幹部の部屋を訪ねると、朝鮮半島や中東ホルムズ海峡の地図と並んで、北東アジア地域を反対方向から眺めた「逆さ地図」が飾られていることに気付く。
もともとは富山県が作成したもので、正式名称は「環日本海・東アジア諸国図」という。1994年に初版がつくられ、2012年に改訂された。「中国、ロシアなどの対岸諸国に対し、日本の重心が富山県沖の日本海にあることを強調する」(同県)のが目的だったが、防衛省・自衛隊では20年ほど前から、日本列島が大陸側からどう映るかを視覚的に理解するため使われるようになった。
当初は「対ロシア」の文脈で用いられることが多かったが、中国の海洋進出が目立つようになるにつれて徐々に変化。今年7月に公表された防衛白書では、中国軍の艦艇や航空機の動向を解説する中で掲載された。
急速な経済成長に伴い海上交通路(シーレーン)の安全確保を重視するようになった中国は、「海洋強国」を掲げて太平洋への進出を進めてきた。中国軍艦艇が太平洋に出るには、
①北海道と本州の間の津軽海峡
②九州南端の佐多岬と種子島の間の大隅海峡
③沖縄本島と宮古島をつなぐ宮古海峡
―などのルートがある。16年末には中国海軍の空母「遼寧」が初めて宮古海峡を通過。南西諸島からフィリピン以南をつなぐ「第1列島線」を越えるなど、西太平洋方面に向けた活動を活発化させている。
膨張を続ける中国にとり、太平洋進出は経済・資源的な権益だけでなく、軍事上の拠点を確保する意味合いがある。米国防総省は20年9月の報告書で、中国が南太平洋のバヌアツとソロモン諸島に対し、補給のための軍事拠点設置を提案した可能性が高いと指摘した。
太平洋を2分割?
第1、第2列島線【時事通信社】
海軍司令官などを歴任して「中国近代海軍の父」と呼ばれる劉華清氏はかつて、2010年までに「第1列島線」の内側(つまり東シナ海と南シナ海)で、20年には伊豆諸島から小笠原諸島、米領グアムなどを結ぶ「第2列島線」の内側で、それぞれ制海権を確保するとの構想を掲げたとされる。
ただ、太平洋への進出は、この海域に艦隊を展開する米国との衝突を引き起こすリスクと隣り合わせだ。17年11月、北京で開かれた米中首脳会談で、習近平国家主席はトランプ大統領(当時)に「太平洋は十分に広く、中米両国を受け入れられる」と語り、太平洋における権益の「分割」を呼び掛けた。
しかし、米側がこの取り引きに応じることはなかった。当初は中国に歩み寄る姿勢を見せていたトランプ政権だったが、ハイテク技術やインフラ投資を武器に世界経済への影響力を強める中国を警戒。中国が起源とされる新型コロナウイルスの世界的流行をきっかけに、対決路線へ明確に舵を切った。
台湾有事の現実味
東シナ海を航行する中国軍の空母「遼寧」=2021年4月3日(統合幕僚監部提供)【時事通信社】
今年1月に発足したバイデン米政権も、国家安全保障戦略策定に向けて3月に公表した暫定指針の中で中国を「唯一の競争相手」と位置付け、トランプ前政権が敷いた対決路線を引き継ぐ姿勢を鮮明にした。
米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)は3月、中国が「6年以内」に台湾を攻撃する恐れがあると警告。さらに、26年までに西太平洋における軍事力で中国が米国を上回る可能性があると指摘した。
中国軍機は台湾海峡の中間線を越えて進入を繰り返す一方、米側は台湾に対して武器の売却を続ける。台湾は米中対立の最前線となり、「台湾有事」が現実味を持って語られるようになっている。
「空母キラー」に対抗
中国にとっては、台湾有事などの際に米軍の介入をいかに排除するかが最大の戦略目標となる。その際に重要なのが「接近阻止・領域拒否(A2AD)」と呼ばれる能力の構築だ。台湾周辺の海・空域への米軍の接近を阻止し、米軍が自由に行動できないよう主導権を握ることを意味する。
中国軍はこうした能力を着実に強化してきた。沿岸から1500~4000キロ圏を射程に入れ、「空母キラー」「グアムキラー」などと呼ばれる弾道ミサイルの配備がその一例だ。
対する米軍は今年3月、地上発射型の中距離ミサイル網を「第1列島線」上に構築するための予算を議会に要望した。従来は中距離核戦力(INF)全廃条約に縛られ、射程500~5500キロのミサイルを持てなかったが、19年8月に同条約が失効したことを受け、開発を急いでいる。
では、そのミサイルは「第1列島線」のどこに置くのか―。今のところ日本政府は米側から配備を打診されたことはないと説明している。しかし、ある防衛省幹部は、地政学的・軍事戦略的観点から「日本列島は当然、有力な候補地だ」と打ち明ける。
「相手の立場に立って考えないといけない。(中国から見た時に)日本列島は邪魔で仕方がない存在のはずだ」。元陸上自衛官で、自民党外交部会長を務める佐藤正久参院議員は7月、佐賀市内で講演した際、「逆さ地図」を示しながら聴衆に訴えた。中国が「核心的利益」と位置付ける台湾を併合しようとする場合、その阻害要因となっているのが自衛隊と在日米軍の存在だというわけだ。
台湾から、日本最西端の沖縄・与那国島まではわずか110キロしか離れていない。尖閣諸島までの距離も170キロで、防衛省幹部は「中国が台湾に侵攻すれば、日本も無事では済まない」と危機感を強める。
例えば、もし中国軍が台湾を東西から挟み撃ちにしようとするならば、それに先立って沖縄の島々を占領し、拠点にする可能性もある。
にもかかわらず、九州南端から与那国まで1200キロにわたって連なる南西諸島には、長らく陸上自衛隊の拠点がほとんどなく、防衛力の「空白地帯」となっていた。政府が与那国や宮古、奄美大島に警備隊やミサイル部隊を新設し、体制強化を図るようになったのは、ここ5年ほどのことだ。
「最後のとりで」
陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」(陸自HPより)【時事通信社】
仮に米軍が日本列島に中距離ミサイルを配備するとしても、核弾頭は搭載されない見込みだ。それでも受け入れには大きな反発が予想される。米軍絡みの事故・事件に苦しんできた沖縄県が対象となれば、なおさらだ。
政府は20年末、地上から艦艇を狙う射程約200キロの国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」を改修する方針を決めた。①1000キロ超への長射程化、②艦艇や航空機に載せる「ファミリー化」ーを実施する。
将来的には地上の目標を攻撃する「対地ミサイル」への改修もあり得ると明言する自衛隊幹部もいるが、敵基地攻撃能力の保有には「専守防衛の原則を逸脱する」として、与党内にも慎重論が根強い。
改修の狙いについて、自民党の防衛相経験者は「米側からミサイル配備で無理な要求があったとき、それを抑えるには日本自身が能力を持っていることが大事だ」と解説。防衛省の制服組も「『最後のとりで』となる力を持つことが、専守防衛につながる。手段は重層的である方がいい」と力説した。
「⽇本列島を不沈空⺟のようにする」。冷戦時代 の1983年、⾸相就任後の訪⽶でそう発⾔したと報じられ、国内で猛烈な批判を浴びたのは故中曽根康弘元⾸相だ。それから約40年。冷戦が終結し、ソ連は解体されたが、⽇本を取り巻く安全保障環境は当時と⽐べようがないほど緊迫の度を増している。
「ポスト冷戦」時代に現れた中国という巨⼤な国家とどう向き合うべきか。⼤陸側から ⽇本列島の先に広がる太平洋を眺めた「逆さ地図」は、私たちにそんな難題を突き付けているようだ。
(2021年8月27日掲載)
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