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ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した

이강기 2022. 2. 20. 17:31

ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した

 

技術力がニコン・キヤノンの躓きの石

野口 悠紀雄
一橋大学名誉教授
現代 Business, 2022.2.20

 

1990年代中頃まで、半導体露光装置で、キヤノンとニコンは世界を制覇した。しかし、その後、オランダのASMLがシェアを伸ばし、現在では、EUVと呼ばれる半導体製造装置の生産をほぼ独占している。日本のメーカーは、なぜASMLに負けたのか?

ASMLとは何者?

 

オランダにASMLという会社がある。時価総額2642.2億ドル。これは、オランダの企業中でトップだ。オランダのトップ企業はフィリップスだと思っていた人にとっては驚きだ。「そんな会社、聞いたこともない」という人が多いだろう。

オランダ フェルトフォーヘン ASML本社  ASMLホームページより

 

 

実際、ASMLは、歴史の長い企業ではない。生まれたのは1984年。フィリップスの1部門とASM Internationalが出資する合弁会社として設立された。フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタートした。

 

しかし、いまの時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い。世界の時価総額ランキングで32位。29位のトヨタとほぼ並ぶ。

 

 

ASMLの2020年の売上は160億ドル(約1兆8000億円)、利益(EBIT)は46.3億ドルだ。トヨタの場合には、売上が2313.2 億ドル。利益(EBIT)は169.9億ドルだ。売上に対する利益の比率は、ASLMが遙かに高い。

 

 

しかも従業員数は28000人しかいない(2020年)。トヨタ自動車(37万人)の7.6%でしかない。

 

ASMLは、最先端の半導体製造装置を作っている。極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれる装置だ。この技術は、 ASMLがほぼ独占している。

 

年間の製造台数は50台ほどだ(2020年度は31台。2021年は約40台、2022年は約55台の見通し)。1台あたりの平均価格が3億4000万ドル(約390億円)にもなる。大型旅客機が1機180億円程度と言われるので、その2機分ということになる。

 

主なクライアントは、インテル、サムスン、TSMCなどだ。

 

 

かつてのニコン、キヤノンの優位をASMLが崩した

 

半導体露光装置は、もともとは、日本の得意分野だった。ニコンが1980年にはじめて国産化し、1990年にはシェアが世界一になった。

 

キヤノンも参入し、1995年ごろまで、ニコンとキヤノンで世界の70~75%のシェアを占めた。

 

 

ASMLの最初の製品は、やはり半導体露光装置だった。しかし、この時代、キヤノンやニコンは、ゴミ捨て場に誕生した会社のことなど、歯牙にも掛けなかっただろう。

 

しかし、ニコン・キヤノンのシェアは、90年代後半に低下していった。その半面で、1990年には10%にも満たなかったASMLのシェアは、1995年には14%にまで上昇、2000年には30%になった。

 

 

2010年頃には、ASMLのシェアが約8割、ニコンは約2割と逆転した。そして、キヤノンはEUV露光装置分野から撤退した。ニコンも、2010年代初頭に、EUV露光装置の開発から撤退した。

 

 

日本メーカーの自社主義がASMLの分業主義に負けた

 

ASMLとニコン、キヤノンの違いは何だったのか? それは、中核部品を外注するか、内製するかだ。

 

ASMLは中核部品を外注した。投影レンズと照明系はカールツァイスに、制御ステージはフィリップスに外注した。自社で担当しているのは、ソフトウェアだけだ。

 

 

製造機械なのに、なぜソフトウエアが必要なのか? 半導体露光装置は「史上最も精密な装置」と呼ばれるほど複雑な機械であり、安定したレンズ収差と高精度なレンズ制御が重要だ。装置として完成させるには、高度にシステム化されたソフトウエアが不可欠なのだ。

 

自動車の組み立てのように人間が手作業で作るのではなく、ロボットが作業するようなものだから、そのロボットを動かすためのソフトウェアが必要なのだと考えれば良いだろう。

 

 

それに対して、ニコンは、レンズはもちろんのこと、制御ステージ、ボディー、さらに、ソフトウェアまで自社で生産した。外部から調達したのは、光源だけだ。

 

このように、ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じたと言われる。

 

また、レンズをどう活用して全体の性能を上げるかというよりは、どうやってレンズの性能を引き出すかが優先されるというような問題が発生したといわれる。

 

結局、日本型縦割り組織を反映して全てを自社で内製化しようとする考えが、負けたということだ。

 

 

核になる技術を持っていたことで躓いた

 

キヤノンもニコンも核になる技術、つまり「レンズ」を持っていた。それに対してASMLは、部品については、核になる技術を持っていない。レンズすらも外注しているのだ。他社が作っているものを、ただ寄せ集めているだけのようにさえ見える。

 

しかし、それにもかかわらず、売上の3割という利益を稼ぎ出すことができるのだ。このことは、ビジネスモデルに関する従来の考えに反するものだろう。

 

 

いままでは、企業は核になる技術を持っていなければならず、その価値を発揮できるようなビジネスモデルを開発することが重要だと言われてきた。しかし、ASMLは、このルールには当てはまらない。

 

 

部品について、ASMLは製造者ではなく購入者であったため、品質評価が客観的であったと言われる。

 

また、多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながったと言われる。

 

それに対して、技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いたというのだ.

 

 

ASMLの時価総額は、キヤノンの10倍、ニコンの60倍

 

現在のキヤノン、ニコンはどのような状態か?

 

キヤノンは、時価総額が255.9億ドル、世界第759位だ。2007年には784 億ドルだったのだが、このように減少した。

ニコンは、時価総額が41.8億ドルで、 世界第 2593位だ。 2007年には126億ドルだった。

 

2007年には、ASMLの時価総額は126億ドル程度で、ニコンとほぼ同じ、キヤノンの6分の1だった。しかし、いまでは、キヤノンの10倍程度、ニコンの60倍程度になってしまったのだ。

 

こうした状態では、日本の賃金が上がらないのも、当然のことと言える。

 

 

もしデジタルカメラを生産しなかったら

 

日本企業敗退の原因は、自社主義だけではない。 もう一つは、ビジネスモデル選択の誤りだ。つまり、カメラという消費財に注力したことだ。

 

もし、2000年代の初めに、キヤノンやニコンがデジタルカメラに注力するのでなく、半導体製造装置に注力していたら、世界は大きく変っていただろう。

 

2010年頃、日本では、円高などが6重苦になっているといわれた。そして、「ボリュームゾーン」を目指した戦略を展開すべきだと言われた。これは、勃興してくる新興国の中間層をターゲットに、安価な製品を大量に供給しようというものだ。ASMLとは正反対のビジネスモデルだ。

 

そして、日本ではこの方向が受入れられ、企業の経営者もそれを目指した。その結果が、いまの日本の惨状なのだ。

 

 

日本企業が再逆転してほしいが、果たしてできるだろうか? 奇跡が起こることを祈る他はない。