「ウクライナ侵攻」の背後で、プーチンと習近平が抱えている「独裁者のジレンマ」
だからこそ、動きが制限されている
現代 Business, 2022.02.25
予想通り、五輪後に事態が動いた
ロシアがついに、ウクライナに対する軍事侵攻を開始した。事態は流動的だが、もう1つの焦点は中国だ。中国はどう動くのか。本音では、ロシアを応援しているとはいえ、表立って支援もできない。中国は「本音と建前のジレンマ」に直面している。
ウクライナ問題について、私は昨年12月から一貫して「ロシアは北京冬季五輪が閉幕する2月20日直後に侵攻する」という見立てを書いてきた。
「現代ビジネス」では、昨年12月10日付の「習近平の“笑顔”が消える…『台湾侵攻』後の中国を待ち受ける米『逆襲の経済制裁』」、ことし1月14日付の「習近平とプーチンが、台湾とウクライナで起こしうる『最悪のシナリオ』」、さらに先週2月18日付の「プーチンが『世界中を油断』させたウラで進めている『ウクライナ侵攻準備』の実情」、「夕刊フジ」や「四国新聞」のコラムも同様だ。
なぜ、そう見たかと言えば、ウラジーミル・プーチン大統領の意図は、初めから明らかだったからだ。
最初のコラムで指摘したように、プーチン氏は、かねて「ロシアとウクライナは1つ」と主張していた。加えて、将来の話とはいえ、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟によって、NATOの勢力圏がロシア国境に迫るのを容認できなかった。
一言で言えば、彼の主張は「もともとオレの縄張りであるウクライナを取り戻したいだけだ。遠く離れた米国は邪魔するな」である。米国の軍事力が圧倒的で、戦う意思も十分だったなら、侵攻を躊躇したかもしれないが、米国は昨年8月、アフガニスタンから撤退したばかりで、戦争疲れしている。
プーチン氏にとっては「いまが絶好のチャンス」だったのだ。そのうえで、いざ侵攻するとすれば、いつだったか。
何度も指摘してきたように、第1に、中国が威信を賭けて開いた北京五輪の開会中に事を起こして、迷惑をかけるわけにはいかない。次が気象条件。2月後半なら、地面が凍結して、戦車などが進軍しやすくなる。2014年のクリミア侵攻もソチ五輪の直後だった。
以上を考えれば、おのずと、Xデーは「北京五輪閉幕後の2月20日直後」に絞られる。実際、その通りになった。
日本では、一部に「ウクライナ侵攻はディスインフォメーション(偽情報)」とか「侵攻はありえない」といった声も出ていた。だが、私に言わせれば、そんな意見こそが「偽情報」である。「経済的に合理性がない」という見方もあるが「どんなに非合理であっても、やるときはやる」のが独裁者である。
たとえば、これで核戦争にでもなったら、まったく合理的とは言えない。だが、プーチン氏はクリミア侵攻の1年後に「いざとなったら、核兵器を使ってでも戦うつもりだった」と告白している。ロシアや中国を語るときに、独裁者の立場になって考えなければ、今後も判断を誤るだろう。
中ロが抱えている「ジレンマ」
以上を指摘したうえで、本題の中国だ。
中国は内心、ロシアのウクライナ侵攻を歓迎している。なぜなら、これは台湾侵攻のテストケースになる。いまの米国の実力と判断の仕方が分かるのだ。共通の敵である米国は当面、ウクライナ問題への対応に追われ、中国封じ込めに振り向ける資源も小さくなる。
後者については、米国自身が認識している。ウクライナ問題で、米国の一部保守派からは「バイデン政権は欧州に米軍を派遣するな」という意見が出た。「ウクライナより中国に専念せよ」と言うのだ。
米国自身が気がついているくらいだから、中国はほくそ笑んでいるはずだ。だからといって、中国が直ちに台湾侵攻に踏み切るか、と言えば、そこはなんとも言えない。やるとすれば「東沙諸島や金門島、太平島、馬祖島のような離れ小島」を狙うのではないか。
中国は内心、侵攻を歓迎する一方、だからといって、表立って「ロシアはよくやった」とも言えない。建前にすぎなくても、中国は他国への侵略を容認していないからだ。あの中国も「自由と民主主義、国家の主権を尊重する」という原則を、声高に唱えているのだ。
「まさか」と思われる読者がいるかも知れないが、本当である。侵攻に先立って、北京五輪が開幕した2月4日に開かれた中ロ首脳会談でも、この点は確認された。習近平総書記とプーチン大統領は共同声明を発表し、次のように宣言した。
〈民主主義を構築するのに「すべての国に当てはまる1つの形式」のようなものはない。どの国も社会的、政治的、歴史的背景、伝統、文化的特性に基づいて、もっとも適切な民主主義を実現する形式と方法を選ぶことができる。…ある国が他国に自分の民主主義的基準を押し付けようとするのは、民主主義を汚し、その真の価値と精神に対する背信にほかならない〉
〈どの国も他国の安全を犠牲にして、かつ世界の他の地域の安全と切り離して、自国の安全を追求することはできず、また、してはならない。国際社会はどこでも通用し、包括的で…永続する安全保障を確実にするために、積極的に世界のガバナンスに関わるべきだ。中ロ両国は自国の核心的利益と主権を守り、領土を保全し、それぞれの国内問題に対する外国勢力の介入に反対するために、相互に強く支え合うことを確認する〉
中国とロシアは、国連の役割も否定していない。
これでお分かりだろう。中国とロシアは「彼ら流の自由と民主主義、人権、法の支配」尊重を訴えているのだ。私たちからみれば、茶番だが、こういう建前を掲げてくれるのは、悪い話でもない。きれいな建前に縛られて、対応が制限されるからだ。
それは、中国の張軍国連大使が2月22日、緊急に開かれた国連の安全保障理事会で述べた、次のような発言にも表れた。
この発言は、中ロ共同声明と整合的だ。あくまで「平和的手段による解決」を求めざるをえず、あからさまなロシア支持を口にできないのである。そうだとすると、今後、経済制裁を避けられないロシアが中国の支援を期待しても、中国は動きにくい可能性がある。
一方、中ロ両国は共同声明で、次のような本音も語っている。
中国は、NATO拡大反対をロシアを支援するロジックの中心に据えるのだろう。
アメリカは台湾も守れない…
米国とウクライナ、台湾問題の共通点にも触れておきたい。まず、ウクライナはロシアに近く、台湾は中国に近く、両方とも米国からは遠い。
そんな地理的事情から、ロシアが自国の平和と安全にとって、ウクライナ奪取は不可欠、と考えたとしても、おかしくない。中国にとっての台湾も似たようなものだ。目と鼻の先に、米国と親密な「国」があるのは都合が悪い。加えて、台湾併合は歴史的課題でもある。
米国はウクライナ、台湾と親密だが、いずれも同盟関係にはない。つまり、米国に防衛義務はない。
ロシアがウクライナを奪うのは、あからさまな「主権侵害」であると同時に、米国には広い意味で「勢力圏の毀損」になる。中国による台湾奪取は「自由と民主主義の敗北」であるだけでなく、太平洋に進出する拠点を確保する形になり、米国にはウクライナ以上に、大きな痛手になる。
米国はウクライナに派兵することなく、経済制裁だけで対応している。では、台湾が中国に侵攻されたら、米国はどうするのか。中国が「ロシアの戦争」に学ぼうとしている最重要課題も、そこにある。私は米国の台湾派兵に悲観的だ。
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