ロシア軍の弱さに青ざめる北朝鮮と中国
JB Press, 2022.4.18(月)
ロシアの戦車の天敵、無人攻撃機「MQ-9」
21世紀の今日、戦車という兵器はすでに「弱い者いじめ」の道具にしかなっていません。なぜか?
今日の「強者」、つまり高度に情報化された西側の兵器は、AIの指令誘導などで確実にターゲットを落とします。
象徴的だったケースとして2020年1月3日に米軍によって暗殺されたイランの特殊部隊を率いた智将・ガセム・ソレイマニ司令官のケースが挙げられます。
ソレイマニ暗殺に用いられたのは米空軍の軍事用ドローン「MQ-9リーパー」無人機でした。このドローン、巨大なミサイルを搭載して14時間、疲れを知らず飛び続けることができます。
米軍の対戦車ミサイル「ヘルファイア」など、20世紀後半に開発されたインテリジェントな誘導兵器は、GPSを筆頭に冷戦後に発展した情報システムで命中精度を上げました。
こうしたミサイルがMQ-9のような軍事用無人機に搭載されることで、冷戦後第2世代の爆砕精度は格段に上昇。
さらに2010年代以降の第3次AIブーム、民生では「自動運転車」と喧伝された機械学習技術を吸収して、冷戦後第3世代の「スマート兵器」は、ピンポイント攻撃力をケタ違いに強化した。
それを2020年の年頭に見せつけたのが隣国イラクのバクダード国際空港近郊を走行中の自動車をターゲットとしたソレイマニ司令官爆殺であったことは、リアルタイムで本連載にも記しました。
これに対して「戦車」にはどのようなイノベーションがあったのか?
実は、ほぼ、何もなかったんですね。後述する通り冷戦中期、1970年代で実質、軍事イノベーションがストップしていた。
今回のウクライナ戦争で、露軍のダメダメぶりが世界にはっきり露呈しました。特に戦車を中心とする陸軍力は「世界最強」というロシアのこけおどしが、完全に化けの皮を剝がされた。
でもこれ、ロシアだけが弱いということではないと考えるべきなのです。
すでに「戦車」という兵器が「軍馬」に近づいている。つまり、パレードで昔を懐かしむ退役軍人など、高齢者の目を楽しませる、郷愁の対象に変質しつつあるのです。
ナチスの模倣が大好きなプーチン
試みにプーチンが捏造した21世紀ロシア連邦の懐古趣味祝典「5月9日軍事パレード」(https://www.youtube.com/watch?v=0WTngzAyQhA)を見てみましょう。
前回稿にも記した「ナチス・ドイツに勝利した日」として祝われる「5月9日」。
これは「革命嫌い」のプーチンが11月7日の革命記念日廃止と共に、社会の実力者高齢層に受けるよう演出された、いわば「やくざの盃事」にも似た「クレムリン伝統風イベント」です。
上の動画リンク(https://www.youtube.com/watch?v=0WTngzAyQhA)で54分近辺以降、様々な戦車や軍用車両が登場します。
しかし、多くは「ナチスと戦った時期」の軍備、つまり第2次世界大戦モデルで、いまウクライナに投入しても使いものにはならない「クラシックカー」だそうです。
ちなみに1時間25分以降に映るプーチンの戦没者慰霊、献花のシーンは、ナチスドイツのニュルンベルク党大会でのヒトラーの慰霊シーンを思わず想起させます。
ご興味の方は、党大会を記録したレニ・リーフェンシュタール監督映画「意志の勝利」
(https://www.nicovideo.jp/watch/sm2579419)のリンク、12分近辺と比較されると、様々な異同が目に留まることでしょう。
プーチンはよほどナチスの手法に引っかかりがあるようです。
「ロシア映画」にはエイゼンシュタイン以下、こんなナチス「リーフェンシュタール」みたいな偽者と比較にならない真の伝統があるのに。
プーチンは大衆プロパガンダの成功先行事例を追いかけたいようです。それが同族嫌悪と独ソ戦の凄惨な記憶をないまぜにして、敵対者に「ネオナチ」のレッテルを貼る。
レッテル貼りにとどまらず、無差別殺人、民族浄化からプロパガンダまで、プーチンは徹頭徹尾ナチスの真似ばかりしています。
そんなプーチンもナチスに追随しないところがありました。「トイレ」です。
戦車とトイレの浅からぬ関係
2021年までロシアが配備を進めている戦車「T14アルマータ」(https://www.businessinsider.jp/post-34651)は(おそらく)「世界最強」だろう、と喧伝されていました。
このT14アルマータ、2015年に発表されたものでした。ただ前年のクリミア略奪併合以降、西側の先端情報部品が入らなくなってしまい、計画が頓挫。現状では量産できていません。
(https://www.meta-defense.fr/ja/2021/07/05)
いまだ実戦投入されたことのない「幻の最強モデル」という下馬評、当然ながらウクライナ戦争にも投入はされていません。
試作品しかないので、作戦配備とか言う話にならないようです。ちなみに「2015年」に発表された「T14」第4世代主力戦車という触れ込み。
そしてこの「T14」最大の売りの一つは、なんと「トイレが装備されていること」(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/03/t14ga.php)だったのです。
「大」は無理な兵器内用便事情
実は「戦車」という兵器には、他の米露最新鋭機を含め「便所」は、原則一切装備されていません。戦闘機のコックピットも同様とのこと。
戦う上で必要なものが人間工学的に配置されている。そこに「便所」の立ち入る隙間はなかった。
見た目にはかっこいいブルーインパルスにもトイレはなく、一度搭乗したら「締まりよく」我慢するしかない。便所は基地にあります。
これは西側も同じことで、米軍の主力戦車M1エイブラムズは、1980年に正式採用された戦後「第3世代」主力戦車ですが、これにもトイレはついていません。戦車乗りは多くの時間を、微妙にモジモジしながら戦闘しているわけですね。
ナチス時代、ドイツの天才的智将として敵からも称賛された「砂漠のキツネ」エルヴィン・ロンメル(1891-1944)は、戦車部隊の凄まじい高速電撃作戦でフランスを瞬時に落としましたが、彼はトイレに行きたかっただけなのかもしれません。
戦車というのは60トンほどもある鉄の塊をディーゼルエンジンで動かす、もともとは1916年に英国で発明された兵器。
何しろ重いので、速度は時速40キロほど、燃費は凄まじく悪く、リッター200メートルとか400メートル、2000リッターからの燃料を積んでいても航続距離はせいぜい400~500キロ。補給なしの航続時間は半日程度。
でも考えてみてください。長距離トラックの運転でも10時間運転しっぱなしでは参ってしまいます。高速道路で400キロ、パーキングエリアがなかったら・・・。東京から大垣までトイレに行けない状態。
皮肉な話ですが、英国で秘密開発中は暗号で「水運搬車(Water Carrige)」つまりWCで聴こえが悪いので「タンク」と呼ばれるようになったのは有名な話。
でも戦車自体の中にはトイレ用のポリ「タンク」は持っていなかった。戦隊壊滅の有効な方法として、下剤をばら撒く戦法が可能かもしれません。
前線の兵士たちは常にトイレを我慢しながら戦っており、前近代的な装備しか持たないウクライナ戦争のロシア軍は、第2次大戦さながらの非人間的な戦闘環境を強いられているわけです。
現在ウクライナ戦争にも主力投入されているロシアの「T72(ウラル)」なども、トイレは配備されていません。1台3人の乗組員は、戦車の中で飲食はできても、用便は原則、不可能。
実際には「小」の方は、ペットボトルでも何でも持ち込んで凌ぐ工夫もできるでしょう。しかし、飲食もする狭い空間に3人配備の中で「大便」の余地はない。
つまり、戦車の乗員が大便するためには、車内の配備位置を離れ、外に出、野原などで用を足すことになります。
こう考えると、まだ実践投入されたことのない「T14」へのトイレ装備は「画期的」です。「大便休憩中」に襲われたら、戦車はひとたまりもありません。
ロシア兵はこの環境、いつまでもつ?
ちなみに前稿(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69717)にも記しましたが、私の父は関東軍に配備された学徒出陣の二等兵でソ連戦車と戦っており、タンクの上蓋を開けて出てきたソ連兵を狙って撃った、と生前話していました。
用便のために出てきて、狙撃されたソ連兵も間違いなくいたはずです。ところがそういう「意外な弱点」を放置するのが、全体主義の盲点でもあり、弱点でもあり得たわけです。
ちなみに現在のウクライナ戦争の主力戦車「T72」は、なぜ「72」と呼ばれるのか?
答えは1971年に開発されたから。つまり第2次世界大戦後、ブレジネフ書記長体制下のソ連で開発された「第2世代」戦車が今でもロシア軍備の中核としてウクライナ戦争に投入されている。
さらに戦法がクラシックなのが致命的です。
戦車軍団と歩兵中心、ほとんど1940年代ナチス。ロンメル元帥と変わらない「電撃」戦法を、2022年の今日に至ってもロシア軍は採用している。
よほどナチス~対ナチス戦が好きなのですね。
というか独ソ戦以降、ソ連~ロシアはまともな先進国同士の間で戦火を交えたことが実はなかった。
フルシチョフ体制下、キューバ危機などの米ソ冷戦が「冷戦」で止まってくれたから今の人類があるわけです。ただし全面戦争がなかった代わりに東西ベルリンの間に壁が作られもし、「冷戦後期」無数の悲劇も生まれてしまいました。
過去の戦勝体験を神格化するという「失敗の本質」に、プーチンのみならずゲラシモフ以下のプロ軍人も足元を掬われていた。それが今回、もろに露呈した。
ロシア「陸軍最強」の風説は、単なるこけおどしでしかないとばれてしまった。
「巡洋艦モスクワ」轟沈が象徴するもの
ロシア軍の連戦連敗はまた、北朝鮮にとっては悪夢と映っていることでしょう。兵器の威力という点ではおそらく中国も同じだと思われます。
建国以来一貫して兵器をソ連~ロシアに頼る北朝鮮にとって、ウクライナのロ軍敗退は、もし本当に開戦してしまったら、平壌で何が起きるかの近未来地獄絵図と見えるはずで、「火星17」ロケット花火なぞ打ち上げて見せている(https://www.bbc.com/japanese/60871358)。
原理的にこの戦争でロシアに勝ち目はないと私は思います。また北朝鮮は仮に本当に戦端が開かれてしまえば「電撃戦」で終わる可能性が高いでしょう。これはあくまで、私の「主観」です
。
しかし、合理的な根拠があります。正味で「冷戦ど真ん中」1970年代の戦車でウクライナに侵攻し、ブチャやキーウ、マリウポリの市民を蹂躙。見せしめに殺した市民の遺体を街路に放置する占領地の恐怖統治など「弱い者いじめ」しかできていません。国連も戦争犯罪摘発に動き始めました。
これに対して、ウクライナ軍が米国ほか西側から供与される武器は「冷戦崩壊後第3世代」2010年代のAI制御「ドローン搭載ミサイル」ですから、最初から歯が立つわけがありません。
片や1.7トンの対戦車ミサイルを搭載して14時間、不眠不休で飛び続ける「MQ-9リーパー無人機」。
対する側は、数時間に1回は「大便休憩」でハッチを開け、持ち場を離れ兵士が無防備にパンツを下ろし野原にしゃがみこまねばならないプレジネフ・モデルの「T72 」ソ連戦車。
両者が5~6時間も戦闘を続ければ、生身の兵隊はお腹がゴロゴロ言い始めますし、疲れを知らないAIは一瞬のスキも見逃しません。
何が起きるかは火を見るより明らか。
その結果は「キーウ近郊」に累々と放置されたままになっている、まる焼けになった無残なソ連戦車残骸を、どなたもご覧になったでしょう。あれです。
また焼け焦げた戦車の数の3倍、哀れなロシア兵の若者が命を落としている。こんな必敗状況で、命からがら現地から引き揚げてきたロシア将兵は、一部始終を見、かろうじて生還できたわけで、再出撃の命令を拒否するロシア兵続出との報も聞かれます。
旧ソ連軍のミニチュア「チビ太」状態の北朝鮮については言及の必要もないでしょう。
さて、そんな中4月14日、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」沈没(https://www.asahi.com/articles/ASQ4H2520Q4GUHBI044.html)という象徴的なニュースが飛び込んで来ました。
ロシア側は「火災」といい、米~ウクライナ側は対艦ミサイル「ネプチューン」2発で沈めたと主張。どちらが正しいにせよ「モスクワ」が沈んだ事実は間違いありません。
この「モスクワ」も1976年竣工、79年進水式の後「アンドロポフ体制」のソ連海軍巡洋艦として83年1月に就役、90年に退役していた典型的な「冷戦期モデル」の軍艦でした。
静かに余生を送っていた旧世代巡洋艦、プーチンが権力を掌握した2000年に「再就役」し、老骨に鞭打って黒海艦隊のこけおどし武力を象徴していたわけですが、そういう弱点を見落とす米軍ではありませんでした。で一発轟沈。
こんな具合で、プーチンが楽しみにしている(?)5月9日の戦勝記念日に向け、米~西側がバックについたウクライナ軍は、ロシア全人民が戦意を喪失するような「最大級の屈辱的敗戦」を、まだいくつも準備しているでしょう。
それが至る所で可能なのは、現ロシア軍備の大半が「ブレジネフ体制下」ソ連で開発されたクラシック・モデルで、こけおどしには使えても「第2次湾岸戦争以降」のAI兵器の前では、ガタイだけ大きな赤ん坊と大差ない場合が多いから。
5月9日をロシアの「敗戦記念日」化する米~西側とウクライナの作戦は、着々と準備が進んでいると考えるべきでしょう。推移を見守りたいと思います。
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