韓国新政権は「手ごわいライバル」 神戸大大学院・木村幹教授が指摘する、日本がすべきこと
木村幹 (神戸大大学院国際協力研究科 教授)
神戸新聞社
2022/6/4 22:00 (JST)
韓国の新大統領に、保守派の尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が就任し、早々とバイデン米大統領との首脳会談を実現させました。尹政権には、対北朝鮮政策の転換や、冷え込んだ日韓関係の改善が期待されていますが、韓国研究で知られる神戸大大学院教授の木村幹氏(56)は「新政権が気にするのは、北朝鮮や日本ではなく中国」と強調します。30年にわたり韓国をウオッチしてきた同氏が「手ごわいライバル」と語る尹新政権。安全保障政策を加速させる韓国の現状を、解説してもらいました。(聞き手・霍見真一郎)
■北朝鮮は緩衝地帯
<> 得票率の差が憲政史上最も小さい0.73ポイントと、大統領選は大接戦でした。尹氏は検事出身で政治経験がなく、所属政党「国民の力」が持つ国会の議席は過半数を大きく割っていますが、なぜ勝てたのですか。
「勝因は明確で、所得格差の拡大です。実は格差の幅自体は、日本と韓国でそれほど違いません。ただ韓国の問題は、ひずみが20代に集中しているところにあります。失業率のデータを見れば一目瞭然。韓国全体の失業率は4%と先進国の中でも良い方ですが、20代だけで見ると9%にもなります。若年層を中心に、非正規雇用の人も多くいます」
<> 改革左派の支持者が多い20代で、男性の一部が保守に流れたそうですね。少子化を補おうと政府が55歳だった定年を65歳に伸ばしたことで、なかなか雇用に空きが出ず、若い世代の就職は厳しいとも聞きます。
「福祉の向上を訴える革新系『共に民主党』でさえ格差の拡大を止められず、失望感が広がりました。そもそも定年延長の背景には、選挙で票田となるベビーブーマーにこびる心理があり、若者の反発につながりました。後期高齢者になろうとしている日本のベビーブーマーと違って、韓国では朝鮮戦争後に生まれているため、10歳ほど若いのです。定年延長のあおりで、日本における東大に当たるソウル大学でも、就職率は70%程度しかありません」
「アカデミー賞を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』でも話題になりましたが、格差は住まいにも広がっています。ソウル市内のマンション売買価格が投資ビジネスの加熱を受けて上昇を続け、2021年10月には平均12億1639万ウォン、日本円にして1億2000万円を超えました。これは韓国人1人当たりの年間国民所得の約32.5倍に当たる異常な値です。売買価格が上がると賃貸価格も上昇し、部屋を借りられなくなった人がソウルを出て行かなくてはならない事態も起きています」
<> 尹氏は対北朝鮮外交について、革新系の文在寅前大統領が進めた融和路線から政策を大きく転換させると話しています。一方で北朝鮮はミサイル発射実験の頻度を高めており、朝鮮半島情勢の今後を懸念する声も出ています。
「新政権は、中国に対して強硬姿勢であるのは間違いありませんが、対北朝鮮では強硬姿勢とは思いません。実際、過去の政権で北朝鮮との交渉経験がある人を要職に起用しています。それに、文氏は対北朝鮮と同様、対中国でも融和的だったと見る人が多いですが、それは違います。文氏は頻繁に北京訪問などしませんでしたし、朴槿恵元大統領が中国ともめた米軍の最新鋭迎撃システム『高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)』を、本格運用したのは文氏なのです」
「実は、今回の大統領選の結果が朝鮮半島情勢に与える影響はほとんどありません。北朝鮮は韓国にとって、軍事的バッファーゾーン(緩衝地帯)の位置づけです。北朝鮮があることで、中露両国から直接攻め入られることはない。もし北朝鮮自体が攻撃してきても、端的に言えば『勝てる』ということなんです。核は別として、通常兵器であれば、圧倒しています。もし深刻な危機感があれば(南北のラブストーリーである)『愛の不時着』みたいなドラマはできませんよ」
<> 同じ民族なのに南北に分断されている北朝鮮と韓国。長年の懸案である南北統一が実現する日は来ることはあるのですか。
「タテマエでは統一を求める人が多いですが、近い将来での実現可能性を考える韓国人はほとんどいません。大統領選を左右したように、韓国では失業率が深刻な問題となっています。もし国境がなくなれば、北朝鮮から大量の労働者が来る可能性があるのです」
■ウクライナの衝撃
<> ロシアのウクライナ侵攻が起きた後、東アジア地域の安全保障環境には何が起こっているのですか。
「少し前まで、世界の関心の中心は、中国の脅威でした。アメリカの目もそこに向いていましたが、ウクライナ後は、地球の裏側に移りました。国際社会はヨーロッパ中心で動いているのだなと改めて痛感しています。韓国はロシアと国境を接しておらず、侵攻に対する関心は、日本と違ってそれほど高くありません」
「ロシアと中国の違いは、その国力にあります。ロシアは人口減少局面で所得水準が下がりつつあり、中国は現時点は経済的に拡大していっています。ウクライナにロシアが軍事侵攻したのは、経済的に力がないからです。もし経済が強ければ、中国と同じように、武力に頼ることなく影響力に組み込もうとしただろうと思います」
<> 北朝鮮は、ミサイルの発射実験を繰り返し、核開発の兆候も見られます。一方、軍備増強を進める中国には、台湾侵攻の可能性を指摘する声があります。両国の軍事政策はどう向かっていくと予測しますか。
「安全保障環境が中国中心に回っていたのは、国力が上昇局面にあったからですが、その成長が止まりつつあります。北朝鮮は、中国の国力が陰りを見せて周辺状況が不安定化する中、ウクライナ侵攻で苦戦するロシアもあてにならず、自衛のための核戦力に傾注していくと思います。核兵器と弾道ミサイルのセットを持っておけば国を守れると考えるでしょう。いざとなったらワシントンでも北京でも東京でも核ミサイルを撃ち込むぞ、という脅迫はものすごく強力なのです」
「中国は、北大西洋条約機構(NATO)が後方支援するだけでウクライナが善戦している様子を見ています。台湾有事の可能性を考えた場合、日米などがバックアップすることに加え、台湾自体の強い経済力を考えると、リスクが高すぎて、現時点では中国がとても侵攻できる状態ではないと思います」
<> ウクライナ侵攻後、ヨーロッパでは安全保障の枠組みが激変しています。ドイツのショルツ首相は、防衛費を国内総生産(GDP)の2%超に増額すると表明しました。
「これは劇的な変化です。ドイツの軍事費がロシアを抜いてしまうことを意味します。核を除けば、これまでの軍事的均衡を変え、ドイツ単独でロシアを圧倒できることになるのです。ドイツは、見方によってはウクライナ侵攻によって(第二次世界大戦の)『戦後』を終わらせたわけです。ロシアの脅威がある中、軍事力を持って何が悪いと。むしろヨーロッパの盾になるのはドイツだと。ウクライナというのは、ドイツ人にとって、まさに『裏庭』といった感覚の場所であり、国民一致でこの方針転換が承認されました。戦後タブーであったものがタブーでなくなりつつあると感じます。これは、日本にも大きな影響をもたらす可能性があります」
<> 日米豪印の協力枠組み「クアッド」など、覇権主義的な動きを見せる中国に対抗する連携に、韓国はどう動くと考えますか。
「韓国にとって、中国は、北朝鮮問題をめぐるライバルです。中国の影響力が強くなれば、北朝鮮は中国の衛星国となってしまい、朝鮮統一は遠ざかる。一方、中国市場は韓国企業にとって魅力的です。そこで朴槿恵氏は米中どちらとも関係を築こうとしましたが、サードの配備をめぐって実質的な経済制裁を受け、中国との関係は冷え込みました。中国に対する強硬姿勢を鮮明にしている尹新政権は、クアッドに入る方針を明らかにしており、米国提唱の新たな経済圏構想『インド太平洋経済枠組み(IPEF)』には、先日の発足時から加入しています」
「東アジアには、東西冷戦期にNATOにあたるものができませんでした。それでもアメリカが強く中国が弱かった時代には、なんとなく両陣営の勢力ラインが決まっていたんです。それが中国の国力が上がり、緩衝地帯で拡大を始めました。もう一度、陣営のエリアを明確にすることが、地域安定化への一歩になるのではないかと思います」
■日本の取るべき道
<> 日韓関係の現状を、どう見ていますか。テレビで韓流アイドルをよく見るのに、政治面では最近、日韓関係は最悪と言われます。
「最悪なのは最悪でしょう。両国政府とも対話の意志を失って、お互いが『ボールは相手にある』と何もしない。世論もこの状態で別に構わないと思っている。例えるなら、夫婦げんかしている時より深刻化し、離婚寸前の家庭内別居状態のような感じです」
「気付かないといけないのは、日本側が強気の姿勢でいったら、向こうが頭を下げてくるという状況は、もはやアジアにおいてはないということ。アジア諸国が20世紀とは比べられないほど大きな力をつけたのです。かつての列強の一番下位にいたのが日本で、かつての植民地の一番上位にいたのが韓国なんです。両者の地位は、昔と違って対等になりつつある。たとえば1981年から2020年の40年間の経済成長率は、1998年を除いた全ての年で韓国が日本を上回っています。物価を勘案した国民1人あたりの国内総生産(GDP)の世界ランキングでは、韓国が28位で27位のイギリスに次ぐのに対し、日本は31位です。日本側が『対話しない』と言うと、圧力をかけているように思うかもしれませんが、実は韓国側にとっては痛くもかゆくもありません」
<> 尹大統領は、日韓関係改善に努力すると公言していますが、その狙いはどこにあるのですか。
「関係を改善しようとしているのは事実ですが、日本そのものが重要なのではありません。あくまでアメリカの同盟国として考え、安全保障上の価値をはかっています。韓国が真剣にアメリカと組もうとしているのに、日本が韓国に対して歴史認識問題を理由に協力を渋れば、孤立するのは日本の方かもしれません」
「結局、歴史認識問題というのは、1965年に結ばれた日韓請求権協定の解釈問題です。日本側が完全に解決したと考えているのに対して、韓国側は『例外』と主張する範囲を増やし、日本には韓国側がゴールを動かしているように見えるのです。でも、韓国の行政府は、徴用工をめぐる判決のように、自国の裁判所が出した結論に異を唱えることはできません。今度は自分が訴えられる可能性があるからです。請求権協定には、外交交渉がうまくいかない場合は3人による仲裁委員会を立てると書かれています。これまで日韓1人ずつの委員が決める3人目の委員が決まらず、実現可能性は低いと見られてきました。しかし、ここにきて韓国側は、日本側が嫌とは言えないアメリカを提案してくるのではないかという観測も流れています」
<> ウクライナ侵攻でアメリカの関心がヨーロッパに向き、中国の経済成長も陰りをみせている今、日本は何をすべきと考えますか。
「インドは日本よりはるかに大きくなり、韓国は互角、インドネシアは急成長中です。日本は人口が減り、経済成長率も伸び悩むなど、自国の国力が弱まっている現状を認識しなければなりません。その上で、東アジアのナンバーツーとして、各国をまとめていけるかどうかが重要です。韓国側は対話をする準備があるというパフォーマンスで、日本にある種の圧力をかけてくるでしょう。アメリカがいない留守を預かり、韓国とうまく関係をつくらないと、サブリーダーは務まりません。その様子は東南アジア諸国も見ています。感情論に流されず、冷静に国益を踏まえて対処することが大切だと思います」
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