K-POPシーンから政界に波及した「文化」
韓国で今月1日に行われた統一地方選挙では与党「国民の力」が圧勝。朴槿恵元大統領の弾劾以来、2017年の大統領選挙、2018年の地方選挙、2020年の総選挙で圧勝を収め、依然として国会で過半数の議席を占める「共に民主党」は、今年3月の大統領選挙に続く敗北の原因分析で党内部が連日対立している。
党内で選挙を陣頭指揮した李在明(イ・ジェミョン)議員の責任を巡る攻防が続く中、韓国メディアは、共に民主党が国民世論ではなく強硬な支持層に振り回されてきた、いわゆる「ファンダム政治」が敗因だったと指摘している。
「ファンダム(fandom)」とは、K‐POPアイドルをはじめ、スポーツのスター選手や文学作品、消費財に至るまで特定の対象を盲目的に追従する人々(熱狂的ファン)を指す言葉だ。韓国では「ファンの集団」、または「ファン文化」まで含めた用語として広く使われている。
K‐POP生態系ではファンダムが非常に重要な役割を果たす。K-POPファンダムは、所属会社が管理運営する公式ファンカフェ(ネット上のファンクラブ)を中心に強力な組織を形成し、一糸乱れぬ動きでアイドルのために献身的かつ積極的な活動をする。
つまり、最近のK‐POPシーンでは真の大衆性より、どれほど強固なファンダムを保有しているかが収入と直結するだけでなく、彼らの活動の成績表となっているのだ。
例えば、K‐POP曲の順位を算定する方法はファンダムの強いアーティストに絶対的に有利だ。アーティストの新しいアルバムが発表されるとファンダムは「チョンゴン(総攻勢)」に入る。アルバム購買、音源サイトでのストリーミング、放送局に有料メール送信など、アイドルの新曲の成績を上げるためにお金と時間を惜しまない。
ツイッターなどのSNSにはこのような組織的な活動のための「チョンゴン」アカウントがあるほどだ。結局、忠誠度の高いファンダムを多く確保したアイドルほどアルバム販売量、音源順位、メディア露出の順位が上がり、大衆に人気のあるアイドルのような錯覚が起きかねない。
そして、今、まさにこのようなK‐POPシーンのファンダム文化が政治へと波及し、韓国政界に暗い影を落としている。
20代30代の女性たちが熱心に活動
現在、韓国メディアから最も注目を集めているのは、共に民主党の大統領候補だった李在明議員のファンダムだ。
2022年3月の大統領選挙で、「国民の力」は戦略的に、イデナム(20代男性)の「反フェミニズム情緒」に乗った。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補は「女性家族部廃止」「誣告罪強化(女性たちの性犯罪関連誣告によって苦痛を受けているというイデナムのインターネットイシューから生まれた公約)」などを公約に掲げ、李俊錫(イ・ジュンソク)党代表は「20代女性たちは抽象的な話ばかりする」「女性の投票意向が男性より劣る」などの発言で女性たちを刺激した。
この反動から女性の間で「反・国民の力」情緒が広まり、特に若い女性たちが大挙して、李在明候補支持に転じた。韓国メディアによると、李在明候補の落選後、1週間で11万人を超える人々が共に民主党に加入したというが、そのほとんどが20代30代の女性たちだった。
彼女らは、「在明の村」というファンサイトを開き、自らを「ケタル」(改革の娘)と自任し、李議員の強硬支持層になった。李在明議員を「ケアッパ」(改革の父)と呼び、李在明議員を応援するグッズを作り、オンライン上で李議員に友好的な世論を作るために熱心に活動する。
たとえば、李議員を批判する記事がインターネットに掲載されると、ファンサイトは該当記事のリンクを載せ、会員たちに「チョンゴン」を命令。会員たちは友好的なコメントを上位に引き上げるために猛烈に動く。好きなアイドルのためにお金と時間を惜しまないK‐POPファンダムとよく似た行動様式を見せるのだ。
それだけではない。李議員のライバルたちに対しては、危なっかしいまでの攻撃性を見せる。地方選挙敗北の要因として李議員を名指しし、李議員の共に民主党の党代表選挙出馬を公開反対した同党の洪永杓(ホン・ヨンピョ)議員の地方事務室の出入り口に「認知症老人」等の卑下文が書かれた約3メートルの大型脅迫文を貼り付け、呪いの言葉を書いたファックスを毎日数百通ずつ送ったという。
洪議員の他にも李在明議員と対立している議員たちが携帯電話で毎日数百通の脅迫メールを受け取っていることもメディアを通じて明らかになった。多くのメディアが「ケタル」たちの横暴を懸念すると、李議員は彼女らに自制を促したほどだ。
気に障ると「ジュンパ」が来る…
一方、国民の力の李俊錫代表も、李在明議員に劣らない強力なファンダムを持っている。
李代表のファンダムは、「FM Korea」(ペムコ)というインターネットサイトで活動するイデナムが中心のインターネットユーザーたちだ。李俊錫代表は政治入門初期からSNSを通じて若いインターネットユーザーとのコミュニケーションを続け、彼らの悩みを自分の政治イシューにしてきた。
イデナムたちが最も「敵対視」するフェミニズムに対する批判をはばからないほぼ唯一の政治家で、イデナムの偶像になり、彼らの絶対的な支持のおかげで保守党代表の座までのし上がった。
李俊錫氏が党代表になった後、国民の力は20代と30代の党員が2倍以上増え、世論調査でも20代〜30代男性から圧倒的な支持を得ている。
だが、俗称「ジュンパ」(俊派)と呼ばれる李代表の政治ファンダムは、李代表を批判する政治家に向かってオンラインを中心に荒々しい攻撃をためらわず、度々メディアの非難を受けている。
日刊紙「中央日報」の取材によると、国民の力内で李代表と対立したことで、オンラインを中心に激しい攻撃を受けている政治家が増えており、国民の力内では「李俊錫・フォビア(恐怖症)が広がっているのではないか」という懸念が出ているという(〈裵賢鎮(ベ・ヒョンジン)氏に「ゴキブリ」…気に障ると「ジュンパ」が来る、「李俊錫注意報」〉 中央日報・6月15日記事)。
強硬なファンダムに頼った政治家の末路
韓国政治に蔓延している政治家ファンダムの起源は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領だ。
2000年4月の総選挙で故郷の釜山から出馬したが、地域感情の壁を越えることができなかった政治家・盧武鉉を支持する人々がオンラインで「ノサモ(盧武鉉を愛する人々)」を自発的に組織して始まった。ノサモは2002年大統領選挙で盧武鉉候補が当選することに大きな功績を挙げ、盧武鉉大統領就任後に解体された。
盧武鉉元大統領の死後、ノサモは文在寅(ムン・ジェイン)ファンダムへと変化した。盧武鉉大統領を守ることができなかったという罪悪感から、盧武鉉の後継者を自任して政治の道に入った盧武鉉の友人・文在寅氏を無条件に支持してきた。
文在寅政権が発足すると、「イニ(文氏の愛称)がやりたいようにやれ!」というスローガンを作り、政権に対する無知性支持を続けた。俗称「ムンパ」(文派)と呼ばれる彼らは、文在寅政権を非難する政治家はもちろん、時には記者まで躊躇なく攻撃した。
2019年3月に国会で「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の首席スポークスマン」というブルムバーグ通信の記事が話題になると、これに憤慨した文大統領のファンダムがブルームバーグ記者の個人情報を暴いてインターネット上に流し、Eメールや携帯メールを大量に送って脅迫。該当記者が精神的な打撃から会社を休職する状況にまで発展した。
他にも政権に不利な判決を下した判事、政権に批判的な保守言論の記者たちも彼らの攻撃対象になった。度を超える横暴がメディアと世論から非難されたが、文在寅大統領は「政治の味を生かす味付け」と肩を持ち、問題意識を示さなかった。
こうやって任期中ずっと、強硬なファンダムに囲まれて国民世論をうかがうことができなかった文在寅政権は、5年ぶりに保守政権への交代を許してしまった。退任後、青瓦台から慶尚南道梁山(ヤンサン)へ降りた文前大統領を待っていたのは、反対派の暴言デモだった。
国民世論ではなく、強硬なファンダムに頼る韓国の政治家たちは、文在寅前大統領の失敗を反面教師にすべきであろう。
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