北韓, 南北關係

今、『トップガン・マーヴェリック』そっくりの作戦が進行していた? 米韓合同演習ヴィジラント・ストーム

이강기 2022. 11. 2. 07:19
 
 
 

今、『トップガン・マーヴェリック』そっくりの作戦が進行していた? 米韓合同演習ヴィジラント・ストーム

今年夏から、米海軍空母艦載機のパイロットに焦点を当てた映画『トップガン』の2作目『トップガン・マーヴェリック』が大ヒットを記録していると聞き、筆者も見に行った。この感想を伝えるべく、本記事の編集者に、「この映画はとてもリアルで、金正恩も“トップガン”を恐れていますよ」と言ったら、「どういうことですか?」ととても意外そうだったため、切迫度を増している現在の状況もふまえ、筆者の危惧しているところなどを含めて、緊急で報じたいと思う。

 

ミッションこそが「リアル」だった?

聞くところによると映画『トップガン・マーヴェリック』は、そのストーリーや俳優の演技の熱などの高評価はもちろんのことだが、主役のマーヴェリック(トム・クルーズ)が作品終盤に挑むミッションがあまりに難易度の高いもので、さらに敵国や敵勢力がぼかされていたため、「あいまいさが強く荒唐無稽な作戦なのでは?」などとよく指摘されていたのだという。しかし意外に思われるかもしれないが、私が特に同作がリアルだと感じ、「金正恩も恐れている」と思ったのは、まさにこの映画のようなミッション(作戦)についてなのだ。

 

それは、このミッションと同様の特徴、すなわち「非常に高いリスクをともなう」「成功のチャンスは一度きりしかない」「トップガンたちによって実行される」、そして「核開発を止めるものである」という性質を持った作戦が、現在米韓において実際に始まっているからであり、その作戦をいよいよ実行に移す緊急性が現在急激に高まっているからである。

 

 

その作戦とは何か。通称「斬首作戦」を実行する空軍主体の演習「ヴィジラント・ストーム(Vigilant Storm)」である。映画好きと、自ら操縦するほどの飛行機好きで有名な金正恩は『トップガン・マーヴェリック』を確実に見ているだろうし、その内容と「ヴィジラント・ストーム」を結び付けて考えないわけはないと思われる。どういうことなのか、最近の事象を振り返りながら順を追って説明しよう。

2017年12月6日、韓国と米空軍、最大規模の航空戦闘訓練を継続実施 。北朝鮮は11月29日に新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し、米本土への到達能力を示したとみられる。(写真:韓国国防省 via Getty Images)
 

北朝鮮は、今年に入ってから10月30日までに、日本海へ向けて28回(日)にわたり、日本を飛び越えた中距離弾道ミサイルを含め、すでに50発近いミサイルを発射している。

 

特に、米空母「ロナルド・レーガン」などが参加した米韓合同演習などが日本海で行われていた9月25日から10月14日までの21日間には、計15発の(主として短距離)弾道ミサイルを日本海へ向けて発射した。これは、10月16日付の拙稿『北朝鮮がなんと「米韓演習中海域」に弾道ミサイルを発射! 中ロとの軍事連携は第3次大戦へのカウントダウンか』で述べたように、「北朝鮮がエスカレーション・ラダー(軍事的緊張の烈度)を上げてきている」ということに他ならない。

 

また、10月24日には、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会による監視対象船舶である北朝鮮の商船「ムポ」が、朝鮮半島西方の黄海上の(実質的な)軍事境界線にあたる北方限界線(NLL:Northern Limit Line)を超えて韓国側に侵入した。

 

これに対して、韓国軍は音声通信による警告を行った後、警告射撃を実施したが、北朝鮮はこれに対して10発のロケット弾をNLL北側の自国領域に向けて発射した。これは、17日から28日までの間に実施された、韓国軍の陸・海・空軍及び海兵隊が参加する定例の野外機動訓練「護国訓練」に対抗した挑発行動と考えられる。

 

重要拠点数百ヵ所を短時間で一挙に攻撃して無力化する

このように、朝鮮半島が緊張する中、米韓両軍が10月31日から11月4日までの予定で、大規模な空軍を主体とした合同演習である「戦闘準備態勢総合訓練」を実施している。これは、中国共産党の党大会終了後、11月8日の米中間選挙開始までの間に、北朝鮮が7回目の核実験に踏み切る可能性が高いとの予想に対応する演習と見られ、大規模な空軍主体の合同訓練を実施することで、北朝鮮に対して警告のメッセージを送る意味合いがあるものと思われる。

 

この演習は、2015年に米韓両国によって策定された「作戦計画5015」に基づき、同年より実施されていた「ヴィジラント・エース(Vigilant Ace)」と呼ばれる空軍主体の合同演習を、名称を一部変更して復活させたものである。北朝鮮による6回目の核実験(2017.9.3)及び長距離弾道ミサイルの発射(2017.11.29)が行われた2017年12月には、米韓8つの空軍基地から24機のステルス戦闘機(F-22×6機、F-35A×6機、F-35B×12機)及び2機の超音速戦略爆撃機(B-1B)を含む、230機の作戦機と約12,000人の兵員が参加して最大規模で実施された。

2017年12月04日-韓国・オサン軍事空軍基地で行われたVIGILANT ACE18演習で空軍基地付近を飛行するアメリカ空軍のF-16(写真:Seung-il Ryu/NurPhoto via Getty Images)
 

その後、当時のトランプ米大統領と金正恩委員長による電撃的な米朝首脳会談などが行われるなどして朝鮮半島の緊張が緩和したことから、実質的に同演習は中止されていたが、今回これが再び復活して2017年と同規模で実施されている。この具体的な内容としては、全天候の状況下で昼夜を通じ、「北朝鮮の重要拠点数百か所を至短時間で一挙に攻撃して無力化する」というものである。

 

韓国は、年々増大する北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対抗するため、2017年以降「韓国型3軸体系」と名付けた戦略システムの構築に取り組んでいる。これは、

 

 

1.ミサイルなどによる迅速な先制攻撃を行うためのキル・チェーンと呼ばれるシステム

2.韓国型ミサイル防衛システム(KAMD:Korea Air and Missile Defense)

3.大量反撃報復概念(KMPR:Korea Massive Punishment & Retaliation)

 

の3本の軸からなっている。前の文在寅(ムン・ジェイン)政権時代には、北朝鮮との緊張緩和を意図して、2019年以来この「韓国型3軸体系」については公言しなくなっていたが、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権になって再びこの戦略システムが前面に打ち出され、「韓国型3軸体系」関連の戦力確保のため、2023年~2027年の5年間で約30兆5242億ウォン(約3兆1900億円)の予算を編成する計画であることが、韓国メディアによって報じられている。

前述の「ヴィジラント・エース」は、まさしくこの1本目の軸である「キル・チェーン」と、3本目の軸である「KMPR」の一部を実行するための演習といえよう。

 

この3本目の軸である「KMPR」については、韓国国防部HPによると「韓国型の大規模な報復概念であり、北朝鮮が核兵器によって脅威または攻撃を加えた場合、北朝鮮の戦争指導本部を含む指揮中枢を直接狙って反撃報復するシステム」であり、「同時かつ大量の精密打撃が可能なミサイルなどの打撃戦力や、精鋭化された専門の特殊作戦部隊などを投入する」とされている。

 

これに関連して、2017年12月には、北朝鮮指導部の除去任務などを遂行する、1,000人規模の「特殊任務旅団」が新たに編成され、「KMPR」の主要な戦力となることが韓国メディアなどによって報じられた。いわゆる「斬首作戦」を実行する部隊である。現在、この旅団は2,000人規模にまで増強されているとも伝えられている。

 

 

備える米韓と焦る北朝鮮

本年5月には、米陸軍デルタフォース(Delta Force)や同海軍ネイビーシールズ(Navy SEALs)などの特殊作戦部隊が輸送訓練などを行う「(米ミズーリ州のローズクランス空軍基地内の)上級航空輸送戦術訓練センター:AATTC(Advanced Airlift Tactics Training Center)」において、初めてとなる米韓合同特殊任務訓練が行われ、韓国空軍の特殊作戦用輸送機MC-130Kと前述の「特殊任務旅団」の兵員がこれに参加したことが公表された。

 

また、10月20日には、駐韓米軍特殊戦司令部(SOCKR:U.S.Special Operations Command-Korea)が、米韓特殊部隊と米攻撃ヘリ部隊が合同で「斬首作戦」に基づく夜間演習を10月12日に実施していたことを夜間訓練時の写真などとともに公表した。

 

 

以上に述べたような米韓の動きが、金総書記にとっては極めて脅威となっているであろうことは疑いようがない。最近の度重なるミサイル発射やNLLにおける挑発なども、金総書記の焦りの裏返しのようにも見える。だからこそ、核・ミサイルの開発を加速し、核戦力の強化を図ろうとしているのだろう。7回目の核実験を強行しようとしているのも、未だ(短距離ミサイルなどに搭載するほどの)核弾頭の小型化に技術的課題を残しているからなのではないか。

 

 

おそらく、北朝鮮は、このような米韓による圧力の下でも、時期を見計らって核実験を強行するだろう。このように、現在北朝鮮が強気に出ている背景には、前述の拙稿でも触れたように、現在のウクライナ情勢や台湾情勢を背景に、米国をはじめとするNATO諸国とロシア・中国・北朝鮮との対決姿勢が鮮明になり、現在の北朝鮮には「中ロによる後ろ盾がある」という強い意識が働いているからだと考えられる。

2022年2月4日、中国・北京で会談するロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席(Photo by Kremlin Press Office/Handout/Anadolu Agency via Getty Images)
 

しかし、これはある意味北朝鮮にとって危険な博打でもある。

 

今までのような成功体験で、このままチキンレースを続ければ、取り返しのつかない結果を招くことになるだろう。現在のように、ロシアがウクライナへの侵攻に失敗し、引くに引けず、核使用をちらつかせているような状況において、米・韓が北朝鮮の核・ミサイルを背景とした挑発を実力(武力)で叩き潰すことに成功すれば、中・ロに対してこれ以上効果的な見せしめはなく、強い抑止力が働くだろうからだ。米国は、当然このような戦略を念頭に置いているであろう。何よりも、戦いの原則は最も弱いところ(国)から叩くことであるから。

 

偉大な映画は戦争抑止にも…?

金総書記は『トップガン・マーヴェリック』を見て、あくまで、これは映画の世界だと彼は割り切ることができなかったのではないか。あそこまでサーカスじみた芸当に頼らなくとも、最新式のレーダ・システムもSAM(対空ミサイル)システムも保有せず第5世代戦闘機もない北朝鮮ならば、米軍の第5世代機を駆使すれば、その重要拠点がいともたやすく破壊されるであろうことは、自らが一番よく知っているであろうから。

                                      Photo by API Gamma-Rapho via Getty Images
 

今こそ、日米韓が強気に出る局面であろう。さらに、圧力を強めるべきだ。バイデン米大統領は、ロシアのプーチン大統領に対して「核兵器を使えば、途方もない深刻な過ちを犯すことになる」と再三にわたり警告している。これは、北朝鮮に対しても同様であることは、金委員長も重々承知しているであろう

北朝鮮が本年9月行われた最高人民会議で定めた「核武力政策法」によると、「核または非核攻撃が差し迫っている」と判断される場合には、核による先制攻撃が可能とされている。つまり、これはロシアと同様に核使用をちらつかせた脅しに他ならない。しかし、米国がこのような脅しに屈することは最早あり得ず、この法が抑止力とはならない。

 

「核兵器使用の兆候」を察知できる能力は北朝鮮にはないが、日米韓にはある。北朝鮮が下手な動きをすれば、練られた作戦とそれを行使する練度の高い連合部隊によって、たちまちの内に金政権は崩壊することになろう。こうした背景があるからこそ、今、金正恩への軍事的圧力を高めることが、再び交渉のテーブルに着かせるための大きな原動力となると考えられるのである。

 

『トップガン・マーヴェリック』は映画というフィクションであるにもかかわらず、飛行機好きで空軍びいきの金正恩への大きなプレッシャーとなっていることを考えると、やはりアメリカという国は娯楽映画さえ武器として使う、恐ろしい国なのだとつくづく思う