日本が「韓国とアメリカ」に取り残される…「核問題」を避け続ける岸田政権への絶望
いつまで能天気でいるつもりか?
週刊現代, 2023.01.27
米シンクタンクの報告書を読み解くと…
韓国の核武装問題が急速に動いている。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が政府の会議で核武装を検討する発言をしたかと思うと、米国の有力シンクタンクは「米国は韓国に核兵器を再配備する準備を始めるべきだ」と提言した。日本の岸田文雄政権は大丈夫か。
私は先週1月20日公開のコラムで、尹大統領が1月11日、核武装の可能性に言及した発言を紹介した。この発言について、日本のマスコミはなぜか、ほとんど無視してしまったが、韓国内では大きな議論を呼んでいる。米国でも、直ちに報道された。
すると、今度は米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が19日、米軍の核の韓国再配備を訴える報告書を発表した。尹大統領発言の直後というタイミングだ。時間からみて、大統領発言の前から準備していたのは間違いないが、米国の「抜かりのなさ」をうかがわせる。彼らはいったい、何を提言したのか。
報告書は全部で30ページ。CSISのジョン・ヘイムリ所長とハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が共同議長として全体をとりまとめた。要点を紹介すると、次のようだ。
〈韓国との政策協議では、核と通常兵器の両方に使える戦略的資産(注・爆撃機など)の活用や朝鮮半島に対する米国の戦術核兵器の再配備、北大西洋条約機構(NATO)のような核共有(シェアリング)の導入といった韓国の脆弱性を克服する方策が焦点になる〉
〈現在の情勢下では、同盟国は米国の戦術核を朝鮮半島に再配備すべきではないし、韓国の核保有を認めるべきでもない。こうした議論は、米国の拡大抑止に対する韓国内の疑念から生じている。これらは、別の方策によって対応可能だ〉
ここで「再配備すべきではない」と言っているのは、あくまで「現在の情勢下では」という条件付きだ。言ってみれば、建前を書いた注釈のようなものであり、本当に訴えたかったのは、ここではない。提言の本論部分では、次のように書いている。
〈米国の拡大抑止政策は「抑止と核の不拡散」という2つの目的に合致し、韓国民や他国の国民が米国に疑念を抱かせるような心理的、物理的な条件を認識していなければならない。たとえば、抑止に進めるためだからといって、核不拡散を犠牲にしてはならない〉
〈米国がどうやって核抑止政策に対する(注・韓国や他国の)信頼を構築するか、という心理的な問題が議論の出発点になる。そのために、次の6つが必要だ。広報と共同の計画立案・実行、日米韓3極の対話と作戦、米軍の調整、米軍の戦術核を将来、再配備する可能性に備えた準備の枠組み作り、中国との調整である〉
5番目にあるように、報告書は慎重な書きぶりながら「戦術核の再配備」を提言している。それだけではない。続けて、こう書いている。
先に見たように、前段で「NATOのような核共有導入といった方策が焦点になる」と書いている。米軍の核再配備は単に「米軍の核を持ち込む」という話にとどまらず、米韓、さらには日本も加えた3国による「核共有」に発展する可能性を見据えているのだ。
さらに、こうも書いている。
多国間の核による拡大抑止とは、事実上「NATOの太平洋への拡大」に匹敵するような大胆な提案だ。日本については「核アレルギーが強いが、米国に対する疑念は韓国と共有しているだろう。それなら韓国と足並みを揃えたらどうか」と言っている。
米国が先手を打った
以上は、けっして言いっぱなしの夢物語を語っているのではない。それが証拠に、報告書は韓国に戦術核を再配備するなら「保管場所の選択や安全対策、合同訓練、数年後の完成を目指した保管施設の建設も具体的に検討すべきだ」とまで提言している。
バイデン政権は公式には、いまも「朝鮮半島の非核化」を訴えている。だが、CSISのような有力シンクタンクが具体的に「韓国への戦術核の再配備」を提言した動きは無視できない。
この報告書を執筆したメンバーは国務省や国家安全保障会議、国防総省などで実際に政策を担ってきた元政府高官たちである。つまり、政府とつながりがあるどころか、政権と事実上、二人三脚で「政権が表で語りにくいホンネを語っている」とみていい。
先週のコラムで紹介したように、韓国民の間では、米国核の再配備よりも「独自に核開発すべきだ」という意見が強い。別の米シンクタンクが実施した世論調査では、回答者の71%が「独自の核開発」に賛成していたのだ。
つまり、今回のCSIS報告は韓国が核の独自開発に動き出す前に、先手を打って「米国は核の再配備を前向きに考えてますよ、というサインを送った」とも読めるのだ。
韓国は米と共同歩調、一方の日本は…
もしも独自開発するとなると、韓国は核不拡散条約(NPT)から脱退する話になる。NPT脱退となれば、韓国は米欧などから経済制裁を受ける可能性も覚悟しなければならない。北朝鮮は脱退を表明したが、西側の一員である国がNPTから脱退すれば、初めての事態だ。NPTの崩壊につながりかねない大事になる。
さすがに、それを理解しているのか、尹大統領は1月19日付のウォール・ストリート・ジャーナルとの会見で「NPT体制を尊重することが現実的かつ合理的だ」と語り、独自開発には慎重な姿勢を見せている。結果として、CSIS報告は尹政権と歩調をそろえる形にもなった。
いずれにせよ、韓国の核武装問題をめぐって、米韓の間で議論が急ピッチで進んでいるのは間違いない。しかも、議論の方向は「米韓の核共有」が落とし所になりそうな気配だ。
私は昨年12月23日公開コラムで書いて以来、繰り返し、核抑止問題を素通りしている岸田政権の能天気ぶりを批判してきたが、いよいよ米韓に取り残されている事態がはっきりしてきた。この調子では、5月の広島サミット(先進7カ国首脳会議)までに、米韓でさらなる進展があるかもしれない。
核廃絶一本槍の岸田政権、そして日本は、いよいよ正念場を迎えている。
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