『鬼滅の刃』で炭治郎の耳飾りにも憤慨した韓国人、『スラムダンク』には熱狂
JB Press, 2023.2.26(日)
30年前の韓国で一世を風靡した漫画「スラムダンク」だが、その劇場版アニメ「ザ・ファースト・スラムダンク」が韓国で爆発的ヒットを続けていることはすでに日本でもニュースになっているだろう。
1月第1週の劇場公開以来、第4週からは興行収入トップとなり、観客動員数は瞬く間に300万人を突破した。これで日本アニメ映画の興行収入で歴代2位となっただけでなく、今年韓国で公開された映画で初めて観客300万人を突破した作品になった。
韓国内のスラムダンクの人気の凄まじさは、単に映画のヒットだけにとどまらず、もはや一つの社会現象となっている。
もはやシンドローム
映画公開に合わせてリニューアル発売された単行本の発行部数はすでに100万部を超え、コンビニから発売された「スラムダンクワイン」も人気を集めている。全国各地にオープンした期間限定のポップアップストアは、朝早くから長い行列ができ、若者の間ではバスケットボールが大流行している。
さらには、テレビアニメの中に登場する湘北高校近くの江ノ電の踏切の風景にそっくりだとして、釜山海雲台(プサン・ヘウンデ)の青沙浦(チョンサポ)は、時ならぬ聖地巡礼客が押し寄せ賑わっている。スラムダンクに熱狂する若者たちを指して、「スラチンジャ(スラ狂者=スラムダンクに狂った者)」という流行語まで誕生するなど、まさにシンドロームの様相なのだ。
有名人も続々と、スラムダンクのファンであることをカミングアウトしている。歌手や俳優、アナウンサーなどの芸能人はもとより、なんと政治家までもがファンであると告白しだし、世間の注目を集めている。
現在、与党の「国民の力」党代表選挙に出馬し、連日広報に熱を上げている安哲秀(アン・チョルス)元大統領候補は、SNS上で、スラムダンクの長年のファンだと告白し、漫画全巻を所蔵している証拠写真をアップした。彼は、自分が湘北高校バスケットボールチームの監督である安西光義(韓国版での名前は安ハンス)と同じ安氏であることを強調しつつ、「ザ・ファースト・スラムダンク」をもじりながら「ファースト名品政党『国民の力』を作るために努力する」と抱負を語った(「名品政党」は安氏の造語で「一流の政党」の意)。
検事総長が「左手はそえるだけ」
李在明(イ・ジェミョン)共に民主党代表や文在寅前政権関係者らの捜査で、巨大野党から集中攻撃を受けている韓国検察を率いているイ・ウォンソク検察総長は今年初め、最高検察庁で開かれた検事転出申告式に出席したとき、このように語り、スラムダンクのあの名言に触れた。
「『左手はそえるだけ』という言葉があるように、検察の仕事は真実が満天下に本来の姿を現すように助けることだ(韓国語では「左手は助けるだけ」という翻訳になっている)。根拠のない外部からの攻撃と非難に振り回されたりせず、原則と手続きを守り証拠と法理に従って真実を明らかにしよう!」
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の支持層から絶対的な人気を得て、早くも次期大統領候補にまで挙げられている韓東勲(ハン・ドンフン)法務部長官の執務室に桜木花道や流川楓などのフィギュアが置かれている写真が公開されたことも話題を集めた。73年生まれの韓長官はまさに漫画「スラムダンク」が流行した90年代に青少年時代を過ごした「スラムダンク世代」ともいえるだろう。
こういった予想をはるかに上回るスラムダンク旋風の発生には、韓国メディアが果たした役割も大きかった。各種メディアを賑わせるスラムダンク関連記事は、単に興行に対するニュースに限らず、スラムダンク人気の要因や背景を分析したり、スラムダンクを通じて韓国社会を眺めたりする特集記事も目を引く。
例えば、『韓国日報』は「失敗はスラムダンクのように」(2月14日記事)という記者コラムの中で、スラムダンクの失敗の教訓をもって韓国社会を次のように論じている。
「色々な興行要因があるだろうが、漫画であれアニメーションであれスラムダンクが輝く理由は『失敗の価値』を語るためだ。人間は失敗する。何度か転ばないと立てない存在だ。だからこそ、失敗そのものより失敗に対する私たちの姿勢がもっと重要だ。個人はもちろん社会もそうだ。失敗を私たちにとって『必要な経験』にするために、韓国社会がどれだけ努力しているかを振り返ってみると、(恥ずかしくて)顔を上げられない」
「大邱地下鉄惨事がいつのまにか20周忌(2月18日)を迎えた。災害安全対応の失敗で192人が死亡した人災にあれほど憤ったが、私たちは(梨泰院惨事で)また大切な159人を失った。まったく同じ失敗を繰り返した。いや、もしかしたらもっと後退した」
「スラムダンク」大ヒットの陰で、お得意だった「反日映画」は不振
『朝鮮日報』は、スラムダンクの成功と反日映画の失敗に触れ、「最近の若い観客たちは過去に縛られていない」と指摘した(「『何が何でも反日』にNO…韓国で興行不振続く抗日映画」2月19日付インターネット版記事)。
同紙は、「商業映画がよく使っていた従来の抗日テーマは、今後の市場をリードする20~30代の観客たちには訴える力があまりない」「最近の観客は特定の国の商品やサービスを無条件に排除することなく、効用や価値に応じて消費している」「『クッポン(過剰な愛国主義)』も『新派(メロドラマ)』も洗練された美しさや面白さの裏付けがなく、以前のように無条件に民族主義を強調するスタイルでは限界が見えている」などの専門家の分析を引用し、既存の慣性に嵌って新しい風向きを読めない韓国の映画製作者の問題点を指摘した。
そしてこう付け加えた。
「『オールド』だと考えられてきた素材が『ニュートロ(Newtro=new+retro)』という新たな解釈で受け入れられたり、その時代を一度も経験できなかった世代にとっては全く新しいものとして受け止められたりしている」
ヒットと同時に反日論争も巻き起こした『鬼滅の刃』
筆者は最近、韓国社会で起きているスラムダンク・シンドロームを眺めながら、文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2021年に韓国で公開された「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のことを思い出した。
当時はノージャパン運動が猛威を振るっていた時期で、鬼滅の刃に対する韓国メディアの報道は「旭日旗イヤリング論争」「右翼の漫画」「歴史歪曲」等の否定的な記事が多かった。記事のコメントにも「日本のアニメを見るやつらは土着倭寇」という非難が飛び交った。むろん、映画を見たとかファンであることを自認する有名人は皆無だった。
配給会社もこれを意識してか、メジャーメディアでの露出を極度に減らし、SNSを利用した宣伝に重点を置き、公開から28週間で218万人の観客を動員し幕を閉じた。それでも当時は「反日感情が高い韓国でおさめた意外な興行」と評価されたのだが、スラムダンクはこの記録を一気に跳び越えた。公開4週間で鬼滅の刃の記録を上回り、公開6週間で観客300万人を突破したのである。
この勢いが続けば、3月中には歴代興行1位である「君の名は」の記録(379万人)を上回るだろう。
「反日」の旗を掲げて韓国人の根深い「反日感情」を煽っていた文在寅政権が崩壊した後、韓国社会の雰囲気が一変したことこそがスラムダンク・シンドロームに一役買ったとも考えられる。実に久しぶりに訪れた日韓国民の間の「雪解けムード」が政治にも波及することを期待している。
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