済州島(チェジュ島)は「韓国のハワイ」と言われ、韓国随一のリゾート地である。
島全体がユネスコが指定した自然地質公園であり、世界文化遺産に登録された観光資源も多い島だ。
このような韓国人の憧れの土地は、2006年から済州特別自治道(「道」は日本の県に当たる)となり、観光特区としてさらに発展を遂げた。
観光産業活性化のため、外国人がノービザで30日間滞在できるノービザ滞在制度は2002年から施行している。
■ ノービザ制度を悪用する外国人
しかし、このノービザ滞在制度は現在、「諸刃の剣」となって済州島、さらには韓国全体までも苦しめている。
元々観光客を呼び寄せるためのノービザなのに、それを悪用する外国人が増えたからだ。
ノービザで入国した外国人は難民申請することによって、審査期間中は無制限で滞在できる外国人登録証を手に入れることができる。
難民申請は受け入れられなくても訴訟をすれば最長3年の滞在が可能だ。こうした盲点を突いて、海外からの外国人入国者が増えているという。
さて、米国では不法移民者のことで物議を醸しているが、韓国ではイエメンからの難民問題で大変なのである。
昨年まで42人だったイエメンからの難民申請者が今年はすでに561人(うち、男性504人、女性45人、17歳未満は26人と18歳以上は523人)となっている。
ちなみに2018年1月から5月24日まで済州島に難民申請をした外国人は計869人であり、このうちイエメン国籍者は476人だった。
なぜ、急にイエメンからの難民が済州島に押し寄せてきたのか――。
■ マレーシアを経由して済州島へ
実は彼らはイエメンから直接来たわけではない。欧州ではイエメンの難民たちが起こした事件などで問題になっていることもあり、あまり歓迎されない。
そこで、同じ宗教を信奉し、ノービザ滞在可能期間が90日もあるマレーシアに移動した。しかし、90日を過ぎる頃で次の行き先を探していたところにちょうどマレーシアからの格安の直行便ができ、ノービザ滞在期間が30日ある済州島に目をつけた。
さらに、韓国はアジアで唯一2013年に難民法を制定していることで、難民たちの間では「韓国は最終目的地」とさえ言われているという。こうした情報はSNSによって広められた。
しかし、韓国政府は1994年から2017年まで3万2733件の難民申請を受けつけたが、難民として認めたのは792人で、全体の2.4%に過ぎない。
世界の難民認定率が38%なのに比べると、韓国は難民に対して寛大な国とは言えない。
SNSの口コミによって大挙して入国したイエメンの難民たちに対して、韓国では賛否両論。意見が真っ二つに分かれている。
まず、反対派は青瓦台(韓国の大統領府)の掲示板に請願をしている状態である。韓国では、文在寅(ムン・ジェイン)政権になってから、何でもかんでも青瓦台に請願する傾向にある。
なぜなら、文政権になってから、請願に対して30日間20万人以上の人たちが署名すると政府関係者が何らかの答えをしなければならない仕組みになっているからだ。
請願のタイトルは「済州島不法難民申請問題による難民法、ノービザ入国、難民申請許可廃止・改憲に関する請願」で、6月13日に出されているので7月13日までに20万人以上の人たちが賛成すると政府が答えなければならない。
■ ソウルなど他地域へ行かないよう出頭制限措置
実際、6月28日現在すでに53万人を超えている。それだけ韓国の関心事と言えるのだ。
ちなみに、直近では6月27日に行われたW杯ドイツVS韓国戦でゴールを決めたソン・フンミン選手とゴールキーパーのチョ・ヒョンウ選手には、兵役免除をすべきだという請願が掲載されている。
さて、韓国法務部では、済州島に入国したイエメンの難民申請者たちが済州島以外での不法滞在することを防ぐため、4月30日に出島制限措置を取った。
6月1日からはノービザの悪用を防ぐため「済州特別自治島ノービザ入国不許可国」にイエメンを入れた。今後、イエメン人は在外公館で査証を取得しないと済州島に入国できなくなった。
韓国は単一民族国家であるため、イエメン人だけでなく外国人を排斥する雰囲気がある。3K産業の人手不足により研修生の名で東南アジアからの人々を受け入れているが、差別もまた激しい現状である。
都市部でない農村では青年たちが結婚できないため、東南アジア人の女性と国際結婚をしているが、その家族に対しての冷ややかな視線もいまだに続いている。つまり、外国人を嫌悪するゼノフォビアである。
だが、今度のイエメン人に対しては、それ以上の嫌悪感を示している人たちが多い。
イエメン難民たちが世界各国で引き起こした犯罪やイスラム教に対する不信感などが重なっている。特に、韓国の保守的なキリスト教では「暴力的で極端的なイスラム教」の流入を防ぐべきだと主張する。
また、社会的費用と機会の剥奪に対する憂慮だ。まず、難民を収容するには費用がかかり、雇用不足の韓国で難民たちに仕事を奪われると思っている。
■ イエメン難民は本物の難民なのか
そして、本当の難民であれば人情にほだされる可能性もあるけれど今回のイエメンから来た人たちは偽の難民だという説がある。
なぜなら、韓国人も1950年代朝鮮戦争という内戦を経験したが、その時女子や老人、子供以外の男性はみな自国を守るため戦ったのに、それを逃れて遠い韓国まで来たのは難民と言い難いというわけである。
すでにSNSでは、フェイクニュースが横行していて、韓国人の気持ちを逆なでしている。
特に、韓国政府がイエメン難民たちに1人当たり138万ウォンを支援しているというのは、韓国人たちの税金を無駄なところに使っているようで気分を害する人たちが多い。
そこで、6月28日、法務部では、済州島にいるイエメン難民の約360人が生計費支援を申請したが、支給された事例は1件もないと発表した。もし、生計費支援が決定しても1人が受けられる最大金額は43万ウォンと断言している。
現在、済州島のイエメン難民は自費でゲストハウスや旅館などの宿舎を求めて生活している。一部は、お金が底を尽き野宿したりもしている。
こうしたことから済州島出入国・外国人庁は、2回に分けて説明会を開き、島内の人手不足が激しい漁業、養殖業の雇用主と難民支援者が出会える場を設けた。
原則的に難民申請後、6か月以内に就職はできないが、済州島イエメン難民申請者たちは緊迫した状況だということを考慮して、出入国管理法第20条に基づき就職活動を許可した。
済州島内の宗教・社会団体・進歩政党など、33の団体は「済州難民人権のための凡島民委員会を結成し、イエメン難民申請者たちのための支援と連帯活動を繰り広げる予定であると27日に明らかにした。
■ 難民に一役買うマスコミ
凡島民委員会は、「文在寅政府は、迫害の危険を避けて韓国に来た難民に関して国際人権基準に応じた立場を表明し、難民政策と人種差別、嫌悪防止に対する中長期計画を樹立しなければならない」とし、
「さらに、これと関連した透明な情報提供によって国民の一部の憂慮を解消し、迅速な難民審査を通じて脆弱な難民たちが不安定な状況の中で長期待機することがないようにしなければならない」と促した。
済州島のウォン・ヒリョン道知事に対しては、「平和を求めて済州島にやって来た難民たちの人権に基づいた保護方策と難民も共にする島民社会統合に関して真摯で責任ある行政をしなければならない」と要求した。
凡島民委員会は、今後難民に対する法律的な検討と医療支援、労働相談などを進める計画だ。
マスコミも難民たちのために一役買っている。例えば、「イエメン難民がバスで拾った現金67万ウォン(約6万7千円)入りの財布を警察に届けた」の美談をインタビュー写真つきで掲載している。
だが、それにもかかわらず30日には済州難民対策島民連帯が「イエメン難民収容反対のためのロウソク集会」を開催した。これに参加した人たちは、難民法の改正と済州ノービザ滞在制度廃止などを促す予定で、警察に申告された人数は100人だ。
済州難民対策島民連帯の関係者は、「今回のイエメン難民問題により、不必要な行政力が消費されている」とし、
「難民申請をすると無条件に受け入れる難民法を改正し、事実上最初の意図から外れてしまっている不法滞在者問題と難民事態を触発させるノービザ制度を即刻廃止しなければならない」と主張した。
6月20日世界難民の日に、韓国のイケメン大物俳優チョン・ウソンは、国連難民機構(UNHCR)の親善大使としてSNSで難民を擁護する意見を述べたが、それに反発する人たちも多かった。
■ 受け入れ賛成だが自分の裏庭では困る!
「自分は大金持ちだから難民と向かい合うのは公式的な立場の時だけであって、実際に彼らの犯罪に会うのは一般の人たちである」という意見である。
特に、話題の渦中にある済州フォーラムに呼ばれたチョン・ウソンは所信通りに「難民に対する認識を変えてほしい」と述べたが、それに対しても賛否両論あった。
今回のイエメン難民収容問題において、賛否両論あるだけでなく、実は法務部がイエメン難民たちを出島禁止にしたことによって、済州島だけが難民問題を全面的にカバーしなければならないという負担ができた。
済州島以外にいる人たちは、今回の難民問題は済州島が外国人を受け入れるために作ったノービザ滞在制度に問題があるのだし、済州島は自治道でもあることだし、そこで何とか解決してほしいと思っている節がある。
しかし、済州島の島民たちは、これは韓国の問題であり、なぜ実際の被害は済州島が被るのかという理不尽さがある。
こうした思惑がお互いぶつかり合い、難民に対する理解不足も重なり、問題解決には長い時間がかかりそうだ。
韓国は現在自分たちの地域だけはだめだというニンビー現象 (NIMBY: “Not In My Back Yard”(我が家の裏には御免)の略語)がさらに目立っているといえる。
アン・ヨンヒ