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(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)
「どうしてこの時期に?!」
3月5日午後、日本政府が中国・韓国からの入国制限に踏み切るというニュースが流れたとき、まず思ったことだ。
私は入国制限自体は否定しない。だが、どうせやるなら、もっと早くやればよかったのにと思う。それに、中国にしても韓国にしても、全体的な感染者数は日本のデータからするとびっくりするような数値ではあるが、このところ1日当たりの感染者増加数はかなり抑えられている。あの巨大な中国でも100人台だし、韓国にしてもピーク時は900人増ということもあったが現在は急降下中で、3月8日は248人だった。
すでに報じられているように、日本政府の発表に対して、韓国政府が激怒している。康京和外相が発表の翌日に冨田浩司駐韓国大使を呼び出し、「対抗措置」という強い言葉を使って抗議したことからも、その激怒具合は計り知れよう。
韓国にとっては最悪のタイミング
韓国がなぜこれほどまでに怒っているかというと、その理由は主に2つある。
1つは、事前に何の通知もなかったこと、そしてもう1つは、日本のデータが信用できないのに、その国から入国制限をされるのは遺憾だということだ。
この2つの理由のうち、ともかく韓国政府が強調しているのは、1つ目の理由だ。これも康外相が富田大使に直接伝えたことだが、やはり、事前通知くらいは最低限でもやってほしかったのだろう(3月9日付の報道では、菅官房長官がこれに反論し、事前通知があったことを韓国側関係筋も認めている)。
その後の日本の報道で、今回の入国制限は発表前日の3月4日に官邸から指示があったと言われている。だからドタバタで決められて発表になったと推測できるわけだが、このタイミングは韓国の立場に立ってみると最悪である。なぜなら、日本政府が発表した3月5日は、韓国では「コロナウイルス拡散を防ぐこれまでの施策の効果が、そろそろ出る頃」という報道が見られるようになっていたからだ。私も韓国にいながらそう実感していたし、その後も確かに、感染者の増加率ははっきりと下がっているのだ。
そんな時に、突然日本側から出されたのが入国制限である。韓国政府の心象を害するのは、無理もない。
これが、10日ほど前から韓国政府に打診して2月25日を過ぎたあたりから入国制限に踏み切っていれば、まったくもめなかっただろうとは言わないが、こんな痴話げんかのようなことにはならなかったのではなかろうか。
外国人留学生にここまで配慮
今回の突然の発表で、私の在職する大学に留学に来ていた姉妹校からの日本人留学生が、慌てて帰っていった。日本の外務省が発表する海外安全度で「危険レベル2」以上になった地域からは帰国しなければいけないという規則が、相手の姉妹校にはあるのだという。
規則は規則だから、もちろん帰国するのは致し方ないのだが、3月6日には「先生や友だちに挨拶もできないまま帰ることになってしまい申し訳ありません」というメッセージが送られてきて、何とも複雑な気分になった。
また、日本の大学に留学予定の韓国人学生も、今回の措置のあおりをもろに受けて、留学は半年後に先延ばしするという。
韓国も新型コロナウイルスで大変な事態になったわけだが、それでも韓国政府は中国人をはじめとする諸外国からの留学生の入国を阻んだりするようなことはしなかった。たとえば中国からの留学生は入国後、例外なく政府によるモニタリングの対象とされた。2週間にわたる自宅での隔離も求められたが、それは入国してからであって入国自体が阻まれることはなかった。
また韓国では、3月2日に予定されていた大学の新学期開講を1~2週間延ばすという措置が、2月の初めに決定されていた。これは、新学期前に入国する留学生のことも念頭に置いた措置だった。つまり、外国人留学生が入国後2週間モニタリングされたあとでも授業に参加できるように、という配慮である。
こんな風に入国させるとウイルスがばらまかれるのではないかと心配する人もいたようだが、実際はそうではなかった。入国直後の中国人学生から入国直後に感染が確認されたが、モニタリングの成果があって、その学生からの感染の拡大は抑えられたのだ。
韓国政府はここまでやってきた。それは青瓦台も自負しているところだろう。一方で日本は、そういうことを一切やらないであっさりと中韓からの入国制限を決めてしまった。在韓日本人としても、まったくすっきりしない。
日本の感染者数データは信頼できるのか?
とはいえ、今回の日本政府による入国制限は、韓国にとってはある意味でありがたいのではないかと思えるところがある。
韓国での感染者数は今現在、合わせて7000人台だが、日本は400人台だという。この数値は、“少なくとも感染者はこれだけ確認されている”ということを示しているに過ぎない。つまり、実際はもっといるわけだ。
韓国の数値は、PCR検査の母集団が多い分、かなり信頼に値する。一方、日本の感染者数のデータは、どれだけ信頼できるのかはかなり疑わしい。米CNNは「10倍はいる」と報じているし、北海道の感染者数にしても、ある専門家はデータの10倍だろうというのだ。読者を煽るつもりはないが、そういった報道を見ていると、たぶん、10倍としていればほとんど間違いはないのだろう。
韓国としては、そういう日本へ観光に行ってもらっても困るだろう。この週末のソウルでは、2週間外出を我慢してきた市民たちが、マスクをしながら家の近所を歩く姿が多くみられた。韓国政府の発表では、国内は拡散抑制の「初期段階」に突入したのだそうだが、それがあと2週間ほどでだいぶ落ち着いたころ、日本での感染者数のデータは、果たしてどうなっているのだろうか。そのデータも、信頼できる域にまで達しているのだろうか。
「国内向け」かもしれない入国制限措置
中韓からの入国制限が発動した3月9日、安倍首相は参議院予算委員会で、今回の新型コロナ拡散について「歴史的緊急事態」に指定する考えを表明した。なるほど、やはり今回の日本への入国制限は、そういったことへの布石でもあるのだろう。
対策の遅れで批判を受けてきた安倍内閣だが、このところ、そうした遅れを実感しつつあったような節がある。そこで、国民の意識を政府批判にではなく、新型コロナ対策に集中させる必要があるのだ。これから懸念されるべきイタリアやイランが除外されているということからして不自然だ。だから、発表直後から国内向けの措置なのかもしれないと思っていたが、週が明けてますますそう思うようになってきた。
果たして、その効果はいかほどなのか。ともかく、日本で感染者や亡くなる方が増えないことを祈るばかりだ。
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