大統領起訴、窮地のベネズエラ
- 日本經濟新聞
- 2020/4/7 0:00
新型コロナウイルスの感染が世界中で拡大し、原油価格が急落する中、米司法省は3月26日、有数の産油国であるベネズエラのマドゥロ大統領とその側近らを麻薬密輸罪で起訴した。バー米司法長官は「(起訴するには)いいタイミングだ」と強調した。
バー氏は、マドゥロ政権を単に無能力で腐敗しているだけでなく、政府の仮面を被った麻薬組織だと公式に断定したのだ。米国務省は、マドゥロ氏の拘束につながる情報提供に報奨金1500万ドル(約16億3000万円)を、ベネズエラの政権派だけで構成されている制憲議会の議長を務め、悪党として知られるディオスダド・カベジョ氏に関する情報提供に報奨金1000万ドルを提供するとした。
米国がマドゥロ大統領(前列中央)を麻薬密輸罪で起訴したため同大統領が態度を硬化、ベネズエラでは与野党が協力して新型コロナ感染拡大防止に取り組む機運が失われると懸念されている=ロイター
トランプ政権はベネズエラ政権に昨年初めから厳しい経済制裁を課しており、この起訴で同政権が崩壊するのを期待しているようだが、マドゥロ氏を犯罪者扱いしたことで、同氏が権力を手放す可能性は減る。そのため米政権は31日に姿勢を少し軟化させ、マドゥロ政権もある程度加わって「民主主義的な政権に移行するための枠組み」を作るよう提案した。
ベネズエラは今、恐ろしい状況にある。1999年以降のチャベス大統領時代は、政府の経済無策のコストを原油高でカバーできたが、13年にチャベス氏死去に伴いマドゥロ氏が大統領に就いて以降、経済は7割近く縮小した。国民の7分の1が国外に流出し、今や人口は約2800万人にまで減った。今後、新型コロナウイルスの感染拡大で事態はさらに悪化するだろう。
3月17日に政府が導入した全土での外出禁止は、既に原油価格の下落に苦しむ同国の経済に追い打ちをかける。在外ベネズエラ人からの送金は減り、金の輸出だけでなく麻薬の密輸すら停滞している。首都カラカスで活動する経済学者ルイス・オリベロス氏は、今年のベネズエラ経済は15%縮小すると予測する。これは新型コロナ感染拡大が起きる前の予想縮小幅の2倍だ。
同国は他の南米諸国のように、危機による打撃緩和のための資金借り入れ余地が少ない。昨年10月に債務不履行を起こしているからだ。3月15日にマドゥロ氏は長年非難してきた国際通貨基金(IMF)に50億ドルの支援を要請したが、IMFの一部加盟国が現政権を正当な政府と認めていないのを理由に拒否された。
これまでベネズエラでは新型コロナウイルスへの感染者は14人しか確認されていない。経済の停滞と国際的な孤立から航空各社が同国への路線を減らしていることがパンデミック(世界的大流行)の到来を遅らせた。だが検査や感染経路を特定できなければウイルスはまん延する。医療制度はほぼ機能していない。本誌(The Economist)の調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの世界健康安全保障指数では、ベネズエラの感染症への備えは195カ国中176位だ。また非営利組織「メディコス・ポル・ラ・サルー」によると、同国の306の公立病院の半分にはマスクの備蓄がない。
「水道は一日の半分しか使えない」と同国北部ヤラクイ州の州都サンフェリペの主要な公立病院に勤める医師は語る。中国から送られてくる予定の個人防護具もまだ届かないと言う。また同市では設備が整っている方だとされる国営エルアルゴドナル病院ですら救急車もX線装置、利用できる遺体安置所もなく、週の半分は水道も電気も止まる。3月30日時点で同病院は2人の感染者を治療していた。
■危機を前に政府と野党、協力し始めていたが
危機が迫るなか、政府と民主的に選ばれた国会のグアイド議長が率いる野党勢力は協力する交渉を始めていた。3月25日には野党の市長3人がミランダ州(カラカスの一部を含む)の政府支持派のロドリゲス知事と共に公衆衛生の取り組み促進イベントに出席した。13年の大統領選挙でマドゥロ氏と争ったエンリケ・カプリレス氏は、政府と野党の双方に事実を直視するよう求めた。大統領が国を掌握する一方、グアイド氏は米国など多くの民主主義国に暫定大統領として認められ国際的支持を得ているという事実だ。
「パンデミックを現政権と野党が合意にこぎ着ける機会とすべきだ」とカプリレス氏は指摘した。マドゥロ氏は野党を迫害しつつも「対話」の意思はあるし、野党が自分を大統領と認めないなら「一個人」として対話に参加するとしていた。感染拡大に対処すべく、挙国一致政府を設立する話もあった。
しかし、バー氏はこれらの動きを台無しにしたかもしれない。起訴状によると90年代後半、マドゥロ、カベジョ両氏はカルバハル元軍情報機関長官や元軍人のクリベル・アントニオ・アルカラ氏と共に、ベネズエラ将校らの軍服の記章に由来する「太陽のカルテル」という麻薬組織を設立し、左翼ゲリラのコロンビア革命軍(FARC)と組んで米国にコカインを「あふれさせようと」した。
■トランプ氏がフロリダで勝利するのが真の狙い
08年にエクアドルのFARCの拠点で押収されたコンピューターディスクには、FARCとチャベス政権(マドゥロ氏は当時外相)との通信が記録されていたという。別の起訴状では、現政権のパドリノ国防相が、航空機で中米へのコカイン密輸を画策したとされている。その航空機の最終目的地は米国だった。
「ベネズエラには汚職がまん延し、麻薬の密輸など組織犯罪が巣くっている」とシンクタンク「ラテンアメリカに関するワシントンDCオフィス」のジェフ・ラムジー氏は指摘するが、全ての罪状を裁判で立証できるかには懐疑的な見方を示した。「証拠の一部は検察側につくことで利益を得られる証人から出ている」。コカイン密輸ではベネズエラの存在は比較的小さい。18年に同国経由で密輸されたコカインの6倍がグアテマラ経由で密輸された。トランプ政権が今回、起訴に踏み切ったのはマドゥロ氏を退任させるというより、大統領選挙でベネズエラやキューバから逃れてきた住民が多いフロリダ州で勝利するのが狙いと多くの専門家はみている。
マドゥロ氏らに対する主たる起訴は何年も見送られてきたが、起訴に踏み切ったのはフロリダ州選出のルビオ上院議員(共和党)など強硬派がトランプ氏に強く進言したからだ。一方、米国務省は起訴に反対していた。起訴すれば、パドリノ国防相などマドゥロ氏側近に寝返るよう勧めてきた動きに水を差すことになるとの判断だ。米国では大規模な麻薬密輸で有罪になれば刑務所に入ることになる。ベネズエラ憲法は犯罪者の外国への引き渡しを禁じているが、政権が交代すれば「(起訴された者は)米フロリダ州マイアミの刑務所に収監される可能性があると知っている」(ラムジー氏)。
■自由選挙実施となればマドゥロ氏敗北は確実
米国務省は、起訴という厳しい対応だけでは現政権を打倒できないと考え、選挙という融和策を提案したのだろう。国会が任命する移行政府にチャベス支持者(つまりマドゥロ派)の議員も参加させて自由選挙実施の準備を進めさせる狙いだ。マドゥロ氏もグアイド氏も移行政府を率いることはできないが、移行政府が樹立されれば米国は経済制裁を解除し、ベネズエラは感染拡大に対応できるというわけだ。もし、この米国務省の提案が実行され自由選挙が実施されたら、マドゥロ氏は敗北するため、米国に引き渡されることになる。
マドゥロ氏は現在、パンデミックを統制強化に利用している。公共の場での集会を禁じ、全土で燃料が不足するなか軍にガソリン分配の権限を与えた。軍は食料の闇取引で利益を得てきたが、ガソリンでも同じことをするだろう。またグアイド氏への脅しも強めている。30日には名指しは避けつつ政府がもうすぐ「お前を捕まえにいく」と警告した。マドゥロ氏もバー氏も脅し文句で強気な姿勢を見せるが、感染拡大の脅威は高まるばかりだ。
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