日本, 韓.日 關係

中国で「無名」の菅官房長官、にわかに高まる注目度

이강기 2020. 9. 1. 14:52

中国で「無名」の菅官房長官、にわかに高まる注目度

 

東アジア「深層取材ノート」

 

 

2020.9.1(火) 近藤 大介

JB Press

菅義偉官房長官(写真:ロイター/アフロ)

 

 

「えっ、日本で民主党の菅直人政権が復活するのか!?」

 

 週明けの月曜日、北京に住む中国人の友人が、WeChat(中国版LINE)で聞いてきた。そこで、こう返信した。

「菅直人ではなく、菅義偉。いま、安倍晋三政権で官房長官をしている人。あなたは『菅(かん)違い』をしている」

 

 実はこの話、かつて敏腕北京特派員として鳴らした大手新聞の記者が、私に教えてくれた体験談だ。

 

 だが、このエピソードは、図らずもいまの「中南海」(中国要人の職住地)の雰囲気を的確に伝えている。つまり中国では、「菅是誰?」(Who is Suga?)の状態なのだ。

 

 菅氏は、安倍晋三政権ナンバー2の官房長官として、7年8カ月にわたって君臨している。だが、記者会見を一日2回もやっているのに、例の訥々ボソボソした口調で、「常識の範囲内」のことしか言わない。中国の外交部報道官のように、毎日各国に対して吠えていれば、海外のテレビも放映してくれるというものだが、「戦狼(せんろう)報道官」とは対照的に地味な存在なのだ。

 

「無名」の政治家が主役に躍り出て来たことへの驚き

 

 とうわけで、中国人からすると「顔と名前が一致しない政治家」、というより「名前を聞いたこともない政治家」なのである。私は過去30年ほど、日中関係を注視しているが、これほど中国で無名の政治家が、日本の首相に就く可能性があるというのは、例を見ないことだ。

 

 それだけに、中国では連日、菅官房長官の動向や発言、それに付随した岸田文雄政調会長や石破茂元幹事長といったライバルたちの一挙手一投足が、ニュースになっている。

 

 中国で降って湧いたように、隣国の与党党首(自民党総裁)選挙の話題が盛り上がるのは、7年8カ月という歴代最長の安倍長期政権の後に来る政権という意味合いが大きいだろう。だがもう一つは、菅義偉という中国ではまったくもって「無名の政治家」が、「主役」を張っているからなのだ。まさに「菅是誰?」の状態だ。

 

 ちなみに、「菅義偉」で「百度」(バイドゥ)で検索してみると、561万件もヒットする(9月1日現在)。中には、「菅義偉は実は中国人か?」といったキテレツなものも含まれているが。

 

菅氏をクローズアップするテレビ局も

 

 新華社通信など北京の官製メディアは、いまのところ、「日本メディアの報道によると菅氏は・・・」と枕詞をつけて、慎重な報道をしている。

 

 だが、北京から2000㎞も離れた深圳の衛星テレビは、8月30日、「菅が総裁選出馬に意欲 彼の勝算はどこにあるのか?」と題した独自の報道を行った。そこでは、「石破は安倍と敵対していてダメ、岸田は弱々しくてダメ・・・というわけで消去法で浮上してきたのが菅だった」、「同盟国のアメリカへもすでに顔見世訪問を済ませていて、異例の厚遇を受けたから有力候補だ」などと解説していた。全体的に少しピンボケの気もしたが、「令和オジサン」の写真も使ったりして、なかなか興味深い内容だった。

 

 ところで、冒頭の話に戻すと、「菅違い」された菅直人元首相の方は、中国で有名である。それは、「東アジア全体を崩壊させるかもしれなかった福島原発事故を起こした首相」として、悪名が高いからだ。

 

 私は当時、北京で暮らしていたが、日々憔悴していき、やがて退陣に追い込まれた菅直人首相は、明らかに中国メディアでは「悪役」だった。菅直人氏からすれば、「別にオレが事故を起こしたわけではない」と言いたいだろうが、ともかく中国ではそういうことになっている。

 

 だから、菅義偉氏が菅直人氏に「菅違い」されり、親戚だとか思われたとしたら、菅義偉氏の中国におけるイメージも、決してよいものとは言えなくなる。日本語では「かん」「すが」と、両者の名前はそもそも発音が違うが、中国語(漢字)に直せば「同姓」なのである。

 

 しかも、「菅」という漢字のイメージ自体が、甚だよろしくない。現代中国語において「菅」という漢字は、「草菅人命」という四字熟語でしか、ほぼ使われない。

 

 その意味するところは、「草木を刈るように人命(人間)を殺戮していく(暴君)」というものだ。別に菅義偉氏の責任ではないのだが、「菅」という姓が醸し出す中国語のイメージは、最悪と言ってよい。

 

 歴代の首相で言うなら、2009年に就任した鳩山由紀夫氏の姓も悪かった。日本では、ご本人そのものの「ハト派」のイメージがする。

 

 だが中国では、文化大革命が吹き荒れる1970年に、毛沢東主席の肝入りで創られた革命京劇『紅灯記』に登場する、中国人を苛烈に拷問する日本人憲兵隊長の名前が「鳩山」だったのだ。文化大革命の時代は、「八大革命劇」しか娯楽がなかったのだから、「鳩山」という名前が中国人に残した印象は鮮烈だ。いまでも一定年齢以上の中国人は、この名前を聞くと震え上がってしまう。

 

 鳩山由紀夫氏は、首相に就任後、「米中同等外交論」をブチ上げたり、143人もの民主党政治家を大挙して「北京詣で」に派遣したりして、その名にそぐわぬ(?)親中派ぶりを発揮した。

 

「菅氏が首相になれば、親中派・二階幹事長の声を無視するわけにはいくまい」

 

 菅氏がもし首相に就任したなら、日中関係はどうなっていくのか? 中国の外交関係者に聞いてみると、「あくまでも個人的見解」と断った上で、こう答えた。

 

「菅義偉新首相というよりも、菅新政権になれば、二階俊博幹事長が留任し、後見人となる可能性が高いことが大きい。二階幹事長は、日本政界の親中派筆頭で、わが王毅・国務委員兼外交部長(外相)も、二階幹事長と会った時だけは、まるで旧友と再会した時のように、頬を崩すほどだ。習近平国家主席にも面会してもらっている。

 

 いまの安倍首相は、二階幹事長の進言を聞かず、対中強硬外交に走った。だが菅氏が首相になれば、二階幹事長の声を無視するわけにはいかないだろう。

 

 ただ、そうかといって、4月の『桜が咲く頃』に予定し、延期になってしまった習近平主席の国賓来日が、すぐに実現することはない。なぜなら、たとえ菅政権ができたとしても、自民党総裁としての任期が切れる来年9月までの『短命政権』に終わる可能性もあるからだ。『短命政権』に対して、習近平主席を日本へ国賓訪問させるという選択肢は、中国側にはない。だから、まずはお手並み拝見だ」

 

 いまのところ「永田町の論理」だけで自民党総裁選が進んでいるが、菅氏を始めとする各候補者の「外交姿勢」も、大いに議論してほしいものだ。