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BTSメンバー兵役延期、苦悩する韓国から読み解く「軍隊と国家」

이강기 2020. 12. 29. 23:29

BTSメンバー兵役延期、苦悩する韓国から読み解く「軍隊と国家」

 

『木村幹』

IRONNA

2020/12/24

木村幹(神戸大大学院国際協力研究科教授)

 

 「民主主義のためにこそ、徴兵制が必要だ」という議論がある。一部ではこれを「平和のための徴兵制」と名付ける向きもあるようだ。例えば、その主たる論者である国際政治学者の三浦瑠麗は、「論座」に掲載された対談記事で以下のように述べている。

 

日本自身も抑止力を持つと同時に、何を基準に反撃を踏みとどまるべきかという点も、十分考えなくてはいけない。そうした局面で徴兵制がどこまで効き目はあるかは分かりませんが、少なくとも、対立している国家との局地紛争は避けられる効果があるのではないかと思います。

                                                                                           - 論座

 

 

 なるほど、この議論は研究者による「思考実験」としては、興味深い。確かに自分が戦争に動員され、そこで傷つき、あるいは死亡する可能性があれば、人は戦争を避けるようになるのかもしれない。

 

 しかし、徴兵制が社会にもたらす効果はそれだけではなく、多様な面に及ぶ。そして世界では多くの国が実際に徴兵制を実施しており、われわれはこれらの国家の事例から、徴兵制が社会にどのような影響をもたらしているかを実際に観察できるはずだ。

 

 先に触れた対談記事で、三浦はこうも述べている。「例えば韓国では、少なくとも若者にとって、徴兵制の存在が戦争を思いとどまらせる効果は十分にある」。では、韓国では徴兵制はどのような役割を果たしているのだろうか。以下、簡単に見てみることにしたい。

 

 まず、韓国の徴兵制の歴史について見てみよう。今日の韓国軍は、米国軍政下にあった時代の南朝鮮国防警備隊を前身とし、1948年の大韓民国建国により、正式に「国軍」へと昇格した。

 

 徴兵制はこの翌年、49年8月に成立した「兵役法」により、20歳以上の男性を対象として導入され、50年1月に最初の徴兵検査が行われている。しかし、この時点での韓国政府は深刻な財政的困難の中にあり、同じ48年に成立した朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)との厳しい緊張下に置かれたにもかかわらず、大規模な軍隊を持つことができなかった。

 

 だからこそ当時の李承晩(イ・スンマン)政権は、50年3月、過大な財政的負担をもたらす徴兵制を、米国政府と協議した上でいったん廃止し、志願制へと移行することとなっている。このような韓国において、徴兵制が再び導入されたのは、言うまでもなく、50年6月における朝鮮戦争勃発がその理由である。

 

 開戦当初の韓国軍の敗走と、臨時首都釜山への政府移転、という大混乱の中、制度的な不透明な根拠しか持たなかった「強制招集」の時期を経て、徴兵制が公式に再導入されたのは、51年5月25日における兵役法の再改正によってであった。その後、北朝鮮との厳しい対立の下、幾度もの制度的変遷を経て、韓国においては徴兵制が維持され続けている。

板門店で南北軍事境界線を挟みにらみ合う北朝鮮の朝鮮人民軍将校(奥)と韓国軍兵士=2017年7月(共同)

 

 

 結果、2020年の現在に至るまで、韓国では実に69年間にわたって徴兵制が維持され続けており、現在の韓国に生きる80歳以下の男性はほぼ例外なく、この徴兵制度とそれを定めた兵役法の下、暮らしてきた。

 

 言い換えるなら、韓国の男性にとって徴兵制とそれによる兵役(あるいは制度的にそれに代わるもの)に関わる経験は、例えば小学校などの義務教育における経験がそうであるように、男性であれば世代を超えて共有されるものになっている。だからこそわれわれはこの事例から長期における徴兵制の実施が社会にどのような影響を与えるかを見ることができる。

 

韓国においては徴兵制とそれによる兵役は、多くの国民が共有できる話題であり、常に大きな関心の対象となる。言うまでもなくその代表的な事例が、5年に1回行われる大統領選に向けての各候補者、あるいはその家族の兵役を巡る問題である。

 

 例えば、1997年の大統領選では、当初、保守派(右派)の与党・新韓国党の前代表だった李会昌(イ・フェチャン)が圧倒的な支持率を誇っていたが、中途で子息の兵役逃れ問題が浮上したことにより支持率を急落させ、結果、進歩派(左派)の野党・新政治国民会議の金大中(キム・デジュン)に敗北する、という事態が起きている。

 

 つまり、韓国においては徴兵制を巡る問題は、大統領選の帰趨を決めるほどの巨大な影響力を持つものなのである。そしてこのような事態は、進歩派(左派)の文在寅(ムン・ジェイン)政権の下にある現在においても変わっていない。

 

 昨年秋に勃発した「曺国(チョ・グク)事態」では、当時の法務部長官であった曺国の米国生まれの息子が米韓両国の二重国籍状態にあり、これを理由により5度に渡って入営を延期していたことが大きな問題となった。そして曺国の後を受けて法務部長官に就任した秋美愛(チュ・ミエ)についてもまた、兵役中の息子に特別待遇を受けさせた疑惑が提起され、一時期、世論を大きくにぎわした。

 

 それではなぜに韓国では政治家やその家族の兵役に関わる問題が、常に大きな議論の対象となっているのか。それは何よりもこの徴兵制が実施されてきた69年間に、韓国人の多くが兵役を経験し、兵役とは苦役である、とする認識が深く浸透していることにある。

 

 しかもそれは必ずしも軍隊における経験が、彼らにとって大きな肉体的あるいは精神的負担をもたらしたからだけではない。20代における、兵役の経験は、すなわち、教育や実務で経験を積むことができる貴重な時期における経歴の断絶を意味しており、これを回避できるか否かにより、その後のキャリアパスが大きく違ってくるからである。

 

 結局そのことは、多くの韓国人、とりわけ男性にとって兵役が、できるなら「避けたい」あるいは「避けたかった」ものと認識されていることを意味している。

 

 ゆえに、この自らが「避けたい」「避けたかった」行為を、何かしらの方法に回避した人々には、強い怒りと、何よりも妬(ねた)みの感情がぶつけられる。すなわち、それはこういうことだ。兵役は苦役であり、貴重な若い時期のキャリアを断絶される辛いものだ。

 

 だからこそ、自分が経験せざるを得なかったこの苦難を、他人がこれを回避することは許さない。こうしてすでに兵役を終えた人々が自らよりも若い人たちに、同じように兵役に就くことを要求する、というスパイラルが誕生する。つまり、徴兵制はいったん長く施行されると、それにより仮にその制度が不必要になってからも、これを容易に撤廃できない状況を作り上げるのである。

 

 加えてこのような状況は、徴兵制の対象となっている今の若年層にとっては、新たな意味合いをもって現れている。

※写真はゲッティイメージズ

 

 

 今日の韓国では経済的格差が急速に拡大し、若年層の就職難が続いている。格差に苦しむ彼らの怒りは、時に、格差の中で利益を貪る「特権層」へと向かう。彼らにとって、恵まれた社会的背景を持つ人々による、例えば外国籍の取得や大学院進学、さらには徴兵に代わる専門的業務に就くに足る知識の獲得の結果としての兵役回避は、階層拡大が進む韓国社会の象徴として映っている。だからこそ、彼らはこのような機会を得た人々に激しい憎悪をぶつけることになる。そこにあるのも再び深い怒りと妬みの感情に他ならない。

 

 こうした感情は容易に、社会に対する不満と結びつく。朴槿惠(パク・クネ)政権下では大統領と特殊な繋がりを持つ人物の娘に対するさまざまな優遇措置が、同政権下における「特権層の不正」を象徴するものとして、若年層の大きな怒りを呼んだ。そこには分かりやすい「特権」があり、その「特権」への批判が存在した。

 

 そして、現在の文在寅政権下においては、彼らが怒りをぶつける「特権」の一つが、兵役との関連で理解されている。つまり、ここでは徴兵制の下での、政府関係者子息への優遇が、やはり同様の「特権層の不正」の表れである、と見なされている。

 

 これは、この社会においては兵役が一種の「ペナルティー」として理解されてしまっており、ペナルティーの回避が「利益」だと見なされていることを意味している。だからこそ実際人々は、これを回避するために努力する。

 

 グローバル化が進み、国際社会での競争が激化する中、兵役の負担はさらに大きなものとなって表れる。兵役の義務は、これを有さない他国の人々との競争において、ハンディキャップとしてしか現れないからである。

 

 だからこそ、彼らは時に外国国籍を取得し、進んで韓国国籍を離脱する行為をすら選択する。なぜなら「韓国人である事を放棄する」ことこそが、苦役であり、ハンディキャップである兵役を逃れる最も確実な手段だからである。

 

 これらの点を理解して初めて、韓国におけるオリンピックのメダリストへの兵役免除や、最近の法改正で新たに導入された、韓国の男性音楽グループ「BTS(防弾少年団)」のメンバーらを念頭に置いた「文化勲章などを受けたアーティスト」に対する兵役延期制度の意味が分かる。韓国において兵役は大きな「ペナルティー」として認識されている。それゆえ「ペナルティー」の免除が、大きな「褒賞」として機能することになっているのである。

BTSのメンバー=2019年12月、米カリフォルニア州(AP=共同)

 もちろん、韓国にとって徴兵制は北朝鮮との間の軍事的緊張関係に対応し、自衛隊の2倍を大きく超える60万人以上もの軍隊を維持するための重要な制度的柱となっている。

 

 しかしながら、これは徴兵制が、この社会において兵役への肯定的な感情を広めることに寄与しているか、といえばそうではない。徴兵制は、戦時における死傷の可能性を大きく超えた、キャリアパス上の大きな負担として現れており、国際的競争が激化する中この負担はますます大きなものとなっている。

 

 だからこそ人々は時にこれを回避するために、国籍離脱、つまり「国を捨てる」ことすら選択する。それは韓国社会において、徴兵制が社会からエリート層を離脱させ、「韓国国民」であることへの否定的認識を広める役割を果たしていると言える。それは徴兵制がこの国において、国民としての団結をむしろ妨げる方向で機能していることを意味している。

 

 「思考実験」として徴兵制について考えるのは、確かに興味深い。しかしながら、その「実験」を真摯に行うためには、現実に実施されている徴兵制の下で、各国でどのような事態が進行しているかについて、より真摯な検討が行われなければならない。

 

 そうでなければ、その議論はどこまでも「興味本位」で、「学者の思い付き」のレベルを出ることはない。そして何よりもそれこそが、真に軍隊、そして国家や国民について真剣に考えることだと思うのだが、いかがだろうか。(文中敬称略)