(社説)文在寅政権 自由の原則貫いてこそ
朝日新聞
2020年12月21日
2020年5月31日に脱北者団体が北朝鮮に向けて飛ばしたビラ。核弾頭や弾道ミサイルのイラスト、金正恩朝鮮労働党委員長の写真とともに「偽善者 金正恩」とのメッセージが書かれている=団体提供
韓国で最近、憂慮せざるをえない政治の動きが続いている。
文在寅(ムンジェイン)政権が国会での与党多数を背景に、世論が二分する法を強引に成立させている。
そこには、市民の自由や民主主義の原則を傷つけかねない内容も含まれている。
民主政治のあり方は国情により様々ではあるが、普遍的な価値の懸案については国際社会も見過ごすことはできない。文政権に慎重な対応を求める。
まず問題は、北朝鮮の政治体制を批判するビラの散布などを禁じる改正法である。違反すれば、3年以下の懲役や罰金が科されるという。
ビラ散布は韓国の脱北者団体などが繰り返している。反発する北朝鮮が韓国側に法で禁じることなどを要求してきた。
これまで韓国政府は、できるだけ強制的な禁止措置を避け、団体側への説得を続けてきた。韓国の憲法が保障する表現の自由を踏まえたためだった。
今回の法改正をめぐっては、米国などからも次々に懸念が表明されている。韓国政府は、表現の自由は重要だとしつつも、軍事境界線近くの住民の生命と安全を守るためだと主張する。
確かに北朝鮮は6月、散布を理由に、境界線近くにあった南北共同連絡事務所を爆破した。だが、散布は口実に過ぎず、交渉戦術の一環として挑発に踏み切ったに過ぎないとみられる。
北朝鮮の理不尽な要求に折れて、市民の権利に制限を加えるような措置は再考すべきだ。
韓国では検察のあり方をめぐっても混乱をきたしている。
文大統領は政治的な中立性が損なわれたなどとして、現職の検事総長を懲戒処分した。
検事総長は就任前、朴槿恵(パククネ)・前大統領の訴追に貢献したが、最近では政府与党関係者に対する捜査が目立ち、政権側から反発が出ていた。
対立の根にあるのは文政権が進める検察改革とされる。
政府高官の不正を調べる独立機関を新設する代わりに、検察の権限を大幅に縮小する構想を立て、この法改正も野党が反発するなか、可決された。
政府与党に有利な捜査を求めているとの懸念は拭えず、司法の独立を脅かしかねない。
前大統領の弾劾(だんがい)を受けて誕生した文政権は、軍事独裁と闘った民主化勢力の流れをくむ。
だが当然ながら弾劾を実現した民意が、そのまま文政権を支持しているわけではない。北朝鮮にどう向き合うかも、国内の意見は大きく分かれる。
南北に分断した朝鮮半島の平和体制の構築を考えても、自由や民主主義の尊さを放棄するわけにはいくまい。文政権は独善的な手法を改めねばならない。
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