韓国で「過去最高」を更新するコロナ感染、混迷する対策の行方は?
朝日新聞, 2021年12月08日
過去最高の陽性者数
韓国の疾病管理本部の発表によれば、12月2日に陽性者数が5266名、過去最高となった。韓国の1日の陽性者数が初めて5000人を突破したのは12月1日のこと、1カ月前の11月初めまでは最高でも2000人前後だったので、この1カ月で陽性者が急増したのは明らかである。
ただ同じく過去最高を更新し続けている欧州などに比べると、数字的には感染爆発といえるほどの規模ではないともいえる。例えばかつての「新型コロナ対策の優等生」ドイツの場合は、11月24日には7万9051人を記録したというから、人口比を考えれば韓国の10倍である。
ソウル市内の病院で=2021年11月30日、東亜日報提供
ドイツに限らず欧州の国々はどこも大変で、それに比べれば韓国はまだまだ大丈夫のようにも見える。実際のところ韓国政府の当局者は以前には「1日7000~1万人までは大丈夫」という発言を繰り返していた。その理由は「ワクチン接種目標が予定どおり完了したから」(10月23日に目標である国民の70%接種を達成)。ところが今はそんなことを言っている場合ではなくなった。陽性者数はともかく、重症者・死亡者が当初の想定以上に多くなってしまったからだ。
陽性者の増加にともない重症者数も連日「過去最高」を更新しており、12月3日には「736人」と発表されている。死亡者数も11月22日以降は連日30人を超えており(12月3日は過去最高の70名)、その中には自宅待機中に亡くなった方もいる。
病床逼迫をなんとかするために、韓国政府は「軽症者は原則として自宅治療」という方針転換を行ったが、症状が急変することもあり、こんどは在宅者への治療体制の構築が急務となっている。ソウル首都圏での重症患者の病床使用率は数字こそ80%台となっているが、病床があっても医療スタッフがいなければ回せない。そのため首都圏の患者を、まだ余裕がある他地域に移送することも行われている。
医療現場の悲鳴
「こんな重症患者がどうしてここまで運ばれてきたのかと……」(12月3日付「京郷新聞」、「病床増やすなら看護師も増やして」)
政府は各病院に「コロナ用の病床を増やすように」という指示を出しているが、この記事にある現場の声は悲痛である。
今、韓国の報道を見ていると、日本の夏のあの悪夢が蘇ってくる。オリンピックが終わった8月の中旬以降、全国で日に2万人を超える陽性者数が発表されていた。検査は全く足りず、たとえば当時の東京都では陽性率が20%を超えていた(ちなみに12月現在では0.3%ほど)。さらにピーク時には重症者数も全国で2000名以上となり、「救急車を呼んでも来ない」、「来ても行き場がない」、「待機中に亡くなる人もいる」……、連日の報道に人々は恐怖した。今も日本人の多くはあの時のトラウマがあるのだと思う。日々の陽性者数が全国で100人台になっても警戒を緩めない人は多い。
あのさなか、8月中旬に私は日本から韓国に移動した。ちょうど韓国が「ワクチンパスポート」で入国時の隔離免除を開始したためそれを利用したのだが、その時の韓国の防疫体制はとてもスマートだった。規制こそ厳しかったが、少なくとも検査体制は盤石であり、医療につながれないという不安もなかった。正直、韓国に到着してホッとした。それが今はどうなってしまったのだろうか?
「毎日毎日40人近くの人が亡くなるって、恐ろしいことです。私は年寄りなので、ものすごく怖いです。政府が日常生活への復帰を宣言したせいで、若者たちは街にあふれていますが、私は不安でたまりません」
別件でインタビューした会社社長は急いで3回目のワクチン接種を予約したという。韓国政府はブースター接種を「最後の接種から4カ月以降で可能」と早めており、この70代の社長は12月末に接種するのだという。
今、韓国ではワクチン接種済みの高齢者にブレークスルー感染が多く、なかでも高齢者施設での集団感染が問題となっている。韓国の場合、高齢者施設は最も初期の段階にアストラゼネカ製のワクチンによる集団接種が行われた。韓国ではアストラゼネカ、ファイザー、モデルナ、ヤンセンファーマと4種類のワクチンが使用されているが、その中でも接種者が計3割を超えるアストラゼネカとヤンセンのワクチンは抗体価の低下が早いという話もある。
世界で認められたコロナ対策」と大統領は言ったが
韓国政府としては11月までに70%の国民がワクチン接種を完了させ、それによって「日常を回復」させる予定だった。
ただ接種目標は達成したものの、10月末の時点で陽性者数は全国で3000人前後。当時としては「過去最高」であり、一気に規制を無くすのは危険だという判断から「段階的な緩和」となった。「段階的」とはいえ、厳しかった人数制限や飲食店の営業時間制限が緩和されたことで、人々は一気に街に繰り出した。
「それまで我慢していましたからね、一気に弾けたんだと思います」
ちなみに日本と違い韓国のルールは厳格であり、すべて罰金や営業停止などをともなう法的なものだ。日本のような「要請」や「お願い」ベースではない。
たとえば夏の頃にはソウル首都圏の飲食店では「18時までは4人、18時~21時は2人」という人数制限があったが、違反者は通報され、警察が駆けつける。同居家族やワクチン接種済みの人は2人まで追加可能とされたが、知らずに通報されるケースもあった。そこである飲食店では、店主がそれを明示する手書きのプレートを作っていた。
「通報されなくても、他のお客さんから文句が出るんです。いちいち説明するのも面倒だから、あらかじめ制限人数を超えている理由がわかるように個室に貼っておくのです」
日本よりも厳格なルールは他にもある。たとえば濃厚接触者の範囲は広いし、隔離義務も厳格だった。また検査体制なども徹底しており、たとえば高齢者施設や学習塾などの関係者は、2週間に一度のPCR検査が義務付けられている。地下鉄やバスなどのマスク着用も当然の義務であり、違反者は通報される。
韓国政府の対策は「感染症の予防」として合理的なのだろうが、全ての人がそれに従えるわけでもない。厳しすぎる政策は逆に違反者が地下に潜ってしまうこともある。そのことへの憂慮はこの「論座」で、最初に韓国の新型コロナ対策について書いたときにもふれた。
新型コロナウイルス対策で加速する韓国政府はコーナーを曲がりきれるか
その気持ちは2年近くたった今も同じだ。韓国の対策は学ぶところも多いが、これは違うだろうと思うこともある。当然ながら韓国の人々も異議申し立てはしており、プライバシー保護の面などは当初よりかなり改善された。
ただ現在、日本のテレビなどを見ていると、韓国の感染対策を失敗とみなしたり、あるいはその感染拡大を欧州などと同じレベルで扱う人がいるのはちょっと違うなと思う。現状、韓国的には「過去最高の数値」であっても、世界的にみたら韓国などは被害の少ない国の部類だ。
11月21日、2年ぶりに行われた文在寅大統領の「国民との対話」でも、その部分は繰り返し語られていた。「世界からK防疫が認められたのは大統領のおかげ」と語る参加者に大統領は次のように返答していた。
「K防疫の成果は全ての国民によって成し遂げられた。医療関係者にも感謝したい」
とはいえ、これを現場の医療者が素直に受け止められたかは疑問である。先に紹介した京郷新聞の記事のように、実際の医療現場からは現在進行形で悲鳴が聞こえてくるのだ。
コロナ対策の優等生」ドイツと韓国の共通点と相違点
たしかにドイツと韓国はパンデミックの初期には「優等生」ともいわれていた。規模は違うとはいえ、その2国がここにきて苦戦しているのは偶然の一致だろうか? 実は両国には共通点がある。それは指導者の交代、あるいはそれが間近に迫っているという点だ。カリスマ的ともいえるリーダーシップを発揮してきたメルケル首相は12月8日に退任し、「ろうそく革命」後の2017年春に政権の座についた文在寅大統領は来年3月で任期を終える。
いわゆる「レームダック」は新型コロナ対策にも影響を与えずにはいられない。特にドイツなど影響は大きいようで、過去にはより大きな被害を出したフランスやイタリアなどに比べても、今回は対応に遅れがあるという。また、政権への求心力の低下は「ワクチン接種の伸び悩み」などにもあらわれているという声もある(ただドイツの接種完了率は68.2%(12月2日)であり、それだけが感染爆発の原因というわけでもないだろう)。
同じく政権交代という意味では韓国もすでに、事実上の「次期大統領選」が始まっており、当然ながらその影響はある。政治的なポジションが重要な人々にとっては「どちらにつくか」という具体的な選択も必要だし、政府機関などもソワソワした気持ちになるのは仕方がない。
「ろうそく革命」を引き継ぎ、「みんなで団結して頑張ろうー」とやってきた文在寅政権の求心力が、厳しい新型コロナ対策に対する国民の自発的な協力を促したことは間違いない。果たしてそのふんばりが政権交代後にも持続するか?
国民の支持や協力がなければ、さまざまな強制力を伴う韓国の新型コロナ対策は、国民を管理統制する抑圧的な制度に変質する危険がある。
ただ韓国は欧米と違って「ワクチン接種やマスクの着用に反対する人」はほとんどいない。たとえばドイツなどでも反ワクチン派の集会やデモが起きているようだが、韓国ではそういう話は聞かない。それが世界トップクラスの高いワクチン接種率や、さらにはブースター接種の早さとなって表れている。
したがって韓国政府の政策は、これまでと同じく現状でも「ワクチン」に強く依存したものとなっている。今後は「防疫パス」(ワクチンの接種証明かPCR検査の陰性証明)が日常生活を回復する鍵として定義づけられている。
「日常回復」政策の中断と、防疫パスの強化
韓国政府は11月から段階的に実施するとした「日常の回復」を、わずか1カ月で中断した。国内での感染の広がりに加えてオミクロン株の出現もあり、多くの国民も「仕方ない」と思っているようだ。
ただ友人たちを見ていても、「来週から人数制限が厳しくなるから、今のうちに宴会を~」というツワモノたちもいて、良くも悪くも「メリハリ」がある。あくまでも個人の判断に委ねられ、お互いの顔色を伺っているような日本とは少し違った風景だ。
12月6日から4週間は「集まりは首都圏で6名、それ以外では8名」となり、また映画館、劇場、学習塾、ネットカフェ、図書館など室内施設の大半で「防疫パス」という名のワクチンパスポート(ワクチン未接種者はPCR検査による陰性証明書)の提示が必要になる。驚いたのは、来年2月にはこれが「12歳~18歳」の未成年にも適用されるということだ。現在韓国で未成年者のワクチン接種完了者は26%に過ぎず、こちらは少々物議を醸し出している。
「子どもが接種すべきなのか、本当に悩むところです」
「副反応が心配です。でも塾にも図書館にも行けなくなるなら接種するしかないし……」
テレビニュースなどでも困惑する親たちの様子が映し出されていた。
最後になるが、オミクロン株に関していえば、韓国では12月7日に36名が確認されている。オミクロン株の感染者の中には宗教関係者が含まれており、クラスターの疑いも出ている。なんとも「ふりだしに戻る」感がある。この新型コロナのパンデミックが始まった2年前、韓国が最初にパニックとなったのは大邱市における宗教団体のクラスターだったからだ。この件は近日中に詳細がわかってくると思うので、また別の機会に報告できればと思っている。
また、ここであえて日韓の比較をしなかったのは、世界的にみれば両国ともに「うまくいっている部類」であるにもかかわらず、両国のメディアはそこに「勝敗」をつけようとする傾向が少なからずあるからだ。両国は2国間での競争や勝敗にこだわるよりも、互いの経験を生かした共同研究や専門家の交流を推進させるべきである。それは両国の国民はもとより、新型コロナの被害に苦しむ全世界への貢献となるはずだ。
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