「プーチン常勝神話」崩壊…ついに有力プロパガンディストも“現実”を認めはじめた
プーチンの時代は終わりに近づいている
ロシアによるウクライナ侵攻開始から、まもなく3ヵ月が経とうとしている。
プーチンは当初、首都キーウを短期間で陥落させることを狙っていた。しかし、キーウは落ちなかった。そこで仕方なく、ルガンスク、ドネツクに戦力を集中させ、東部支配を確立しようと考えた。そして、5月9日の対ドイツ戦勝記念日に、「勝利宣言」をするつもりでいた。
しかし、ウクライナ軍の健闘により、この目標も達成できず、勝利宣言も出せていない。いわゆる「特別軍事作戦」が長期化することで、「軍神」プーチンの「常勝神話」が揺らいでいるーー。
プーチン常勝神話の終わり
プーチンは、国際社会で異常に目立っている。しかし、国内を見ると、これといった実績はない。
確かに彼の1期目2期目(2000~2008年)、ロシア経済は、年平均7%の成長をつづけていた。原油価格が右肩上がりで上昇しつづけていたからだ。
だが、2014年のクリミア併合以降、欧米日の制裁により、ロシア経済はまったく成長しなくなった。2014年~2020年のGDP成長率は、年平均0.38%に過ぎない。
結果、1億4600万人の人口を持つロシアのGDPは、2021年時点で世界11位。一人当たりGDPを見ると、ロシアは2021年度、12198ドル(約156万円)で世界64位。
ロシアのGDPは2013年、2兆2884億ドルだった。それが2021年には、1兆7755億ドルまで23%減少している。22年間ロシアを統治しているプーチンが、「国民を豊かにできなかった」のは間違いない。
それは「戦争によって」だ。
プーチンは1999年8月16日、首相に任命された。その10日後、ロシアからの独立を目指すチェチェン共和国との内戦がはじまった(第2次チェチェン戦争)。
プーチンは、チェチェンに対し、容赦ない強気の姿勢を示すことで支持率を上げ、大統領に昇り詰めたのだった.
次の戦争は、2008年8月のロシアージョージア戦争だ。ロシア軍は、この戦争に短期間で勝利している。そして、ロシアは、ジョージアからの独立を目指す南オセチア、アプハジアを国家承認し、事実上の属国とした。
プーチンは、2011年にはじまったシリア内戦にも介入している。ロシアはアサド大統領を支援し、欧米は反アサド派を助けた。アサドは、現在に至るまで失脚していない。つまり、プーチンは、シリア内戦で欧米に勝利したことになる。
2014年3月、プーチンは、ウクライナからクリミアをほぼ無血で奪うことに成功した。2014年4月、ルガンスク州、ドネツク州の親ロシア派がウクライナからの独立を宣言。ウクライナ政府はこれを認めず、内戦が勃発した。
欧米は、ウクライナ政府を、ロシアはドネツク、ルガンスクの親ロシア派を支援している。ルガンスク、ドネツクは、事実上の独立を保っているので、ここでもプーチンが勝利したといえる。
このように、プーチンはこれまで「常勝将軍」だった。ロシア国民が経済音痴の大統領を支持しつづける理由は、彼が戦争に勝ちつづけてきたからだ。
しかし、ご存じの通り、今回のウクライナ戦争は、うまく進んでいない。
42ヵ国の反露同盟「彼らはロシアに勝てる」
4月26日、ドイツのラムシュタイン米空軍基地に、42ヵ国の代表が集結した。
42ヵ国とは、アイスランド、アメリカ合衆国、イタリア、英国、オランダ、カナダ、デンマーク、ノルウェー、フランス、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルク、ギリシャ、トルコ、ドイツ、スペイン、チェコ、ハンガリー、ポーランド、エストニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、アルバニア、クロアチア、モンテネグロ、北マケドニア。
ここまでは、NATO加盟国だ。
そして、ウクライナからは、レズニコフ国防相が出席した。
この42ヵ国は、「新たな反ロシア同盟」の参加国だ。ここでは、「ウクライナへの大規模な軍事支援について」協議された。具体的には、「支援する武器の質を変えること」だ。
これまで欧米は主に、携帯式対戦車ミサイル「ジャベリン」、携帯式地対空ミサイル「スティンガー」、軍事ドローンなどを供与してきた。ウクライナ軍は、欧米から提供された武器によって、ロシア軍のキーウ侵攻を阻止できた。
参加国は4月26日、戦車、ヘリコプター、155ミリ榴弾砲、地対空ミサイルシステムなどをウクライナに提供していく方針を固めた。
この場で、米国のオースティン国防長官は、こう語った。
「本物の軍備と適切な支援があれば、彼ら(ウクライナ)は勝てるはずだ」
欧米は今、「ウクライナはロシアに勝てる」と思い始めている。
追い詰められ核の恫喝に出るロシア
ロシアメディア(特にテレビ)は現在、国民を洗脳するプロパガンダマシーンと化している。
国民を洗脳する主要な役割を果たしているのは、ニュースの人気キャスターや、政治討論番組の有名司会者たちだ。彼らのことを、反プーチン勢力は、「プロパガンディスト」と呼ぶ。
そして今、ロシアの国営テレビを見ていると、プロパガンディストたちの論調に変化がみられる。
2月21日前、彼らは、「ロシアはウクライナを攻めない。米国が煽っているだけだ」と発言していた。侵攻が始まった2月24日直後は、「すぐにキーウを陥落させることができる」と楽観的だった。
ところが、戦闘が長引くにつれ、彼らは苦戦の理由を、「ロシアが戦っているのはウクライナではない。実質NATOと戦っているのだから、簡単にはいかない」と言い訳しはじめた。
そして、歴史的「ラムシュタイン会議」の前後、焦ったロシア政府高官やメディアは、「核による恫喝」をはじめた。
2022年4月25日、ラブロフ外相は、「核戦争が起こる可能性は十分あり、過小評価すべきではない」と発言。
4月26日、国営テレビ局「ロシア1」の人気番組「ヴェーチェル・ス・ソロヴィヨヴィム」で、別の国営メディアRTの編集長マルガリータ・シモニャンが、他の番組出演者に質問した。
「ウクライナで負けるか、それとも第3次世界大戦か?」と。
そして彼女は、自分の質問に、自分で答えた。
「個人的には、第3次世界大戦の方がありえると思う」
「最終的に核攻撃で終わる方が、ウクライナで負けるよりは、ありえると思う」
「恐ろしいことだけど、仕方ない」
これを聞いて、司会のソロヴィヨフがいう。
「俺たちは、天国にいくからね。やつら(敵)は、ただくたばるだけだ」
(筆者註:核戦争が起これば、善なるロシア国民は天国に行くが、欧米、ウクライナ人は地獄に落ちる)
4月27日、プーチン自身が核兵器使用の可能性を示唆した。
〈 ロシアのプーチン大統領は27日、ウクライナへの軍事作戦に介入する国に対し「電光石火の対抗措置を受けることになる」と述べ、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米諸国をけん制した。DPA通信などが伝えた。また「(ロシアは)他国にない兵器を保有しており、必要な時に使う」とも強調 〉(毎日新聞4月28日)
4月28日、「ロシア1」の人気番組「60ミヌート」では、ロシアのカリーニングラードから、大陸間弾道ミサイル「サルマト」を発射すると、欧州の主要都市を破壊するまでどのくらい時間がかかるかという話で盛り上がっていた。ベルリンまで106秒、パリまで200秒、ロンドンまで202秒だ、と。
ロシア自民党のジラヴィリョフ議員は、「サルマト一発でイギリスは消滅する。何か問題があるのか?」と発言していた。
4月29日、「ロシア1」の「ヴェスティ・ニデーリ」で、司会のキシリョフは、「1回ボタンを押すだけで、イギリスは消滅する」と得意気に語った。
これらの発言を見ると、プーチン政権は、欧米からの事実上無限の支援により、「ロシアは負けかもしれない」と考えはじめていることがわかる。彼らは、核を前面に押し出すしかないほど、追い詰められているのだ。
プーチンのさえない「言い訳」演説
5月9日は、ロシアの対ドイツ戦勝記念日だ。これは、ロシアで最大の祝日である。
プーチンは、ここで勝利宣言をするのではないか? あるいは、戦争宣言をするのでは? など、さまざまな憶測がなされた。しかし、プーチンは5月9日、勝利宣言も戦争宣言もしなかった。
なぜ、勝利宣言をしなかったのかといえば、「勝利していないから」だ。首都キーウを制圧できず、ルガンスク、ドネツクの戦いでも勝利していない。
なぜ、戦争宣言をしなかったのか? そもそも戦争宣言とは何か?
プーチンは、今回のウクライナ侵攻のことを、「戦争」ではなく、「特別軍事作戦」と呼んでいる。つまり、ロシアは現在、「戦争をしていない」のだ。
では、「戦争宣言」をするとどうなるのか? オフィシャルに戦争が開始されるだけではない。戦争宣言は、「動員令」とセットなのだ。つまり、18歳から50歳の男性が、ウクライナの戦場に送られる可能性が出てくる。
自宅でテレビを見ながら、「ロシア軍がんばれ!」と応援するのは簡単だ。しかし、自分や自分の父親、夫、子供たちが戦場に送られることを容認することは困難だ。
実際、ロシアでも若い層は、ネット経由で、ウクライナ戦争が国際社会でどう見られているのか知っている。それで若い世代の多くは、「プーチンのバカげた戦争のために死ねるか」と考えている。
「動員令が出て戦場に送られる前に逃げよう」と考え、ロシアから脱出するケースも多い。ちなみに、今年1月から3月、ロシアから脱出した人の数は388万人だという。
〈 ウクライナに侵攻中のロシアで、国民が国外に出る動きが急増している。独立系メディアが6日、連邦保安局(FSB)の統計として、今年1~3月に約388万人が国外に出たと伝えた 〉(朝日新聞DIGITAL 2022年5月6日)
〈 米国とその取り巻きの息がかかったネオナチ、バンデラ主義者との衝突は避けられないと、あらゆることが示唆していた。
繰り返すが、軍事インフラが配備され、何百人もの外国人顧問が動き始め、NATO加盟国から最新鋭の兵器が定期的に届けられる様子を、われわれは目の当たりにしていた。危険は日増しに高まっていた。
ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。それは必要で、タイミングを得た、唯一の正しい判断だった 〉
要するにプーチンは、「ウクライナがロシアへの侵略準備をしていたので、先手を打ってウクライナを攻撃した」と主張しているのだ。「歴史に残る大フェイク」といえるだろう。
しかし、ロシアに住むロシア人に聞くと、プーチン演説を信じている人が驚くほど多い。ある知人のロシア人ジャーナリストは、「国民のだいたい7割ぐらいは、プーチン演説の内容を信じている」と語っていた。
ロシアは、国際社会における情報戦で、完敗の様相だ。しかし、国内における情報戦においては、相変わらず有利な戦いをつづけている。
有力プロパガンディストも終わりを予見
とはいえ、5月9日のプーチン「言い訳」演説は、タカ派のエリート達を失望させているようだ。
タカ派は、9日に「戦争宣言」が出され、大動員令が発せられ、戦術核を使ってでも、ウクライナに勝利することを願っていた。
その一方で、一般国民とは違い、彼らは実際に何が起きているのかを知っている。それで、5月9日以降、弱気な発言が多くなった。
たとえば、前述「ウクライナに負けるより、核ですべてを終わらせる」発言のマルガリータ・シモニャンは5月12日、以下のようなツイートをしている。
Нет никаких сомнений, что Ургант вернется. И в страну, и в эфир.
— Маргарита Симоньян (@M_Simonyan) May 12, 2022
А мы - уйдем.
За ненадобностью. Точнее, в связи с завершением периода надобности.
Знать об этом и делать свое дело несмотря на это знание - отдельное изысканное и слегка мазохистское удовольствие.
〈 私たちは去ります。
必要とされなくなるから。もっと正確には、必要とされた期間が終わるから。
そのことを知って、自分の仕事をするのは、特殊な、少しマゾ的な喜びです 〉
この発言の前に彼女は、戦争に反対して外国に逃げた芸能人が、将来ロシアに戻り、再びロシアの番組に出始めることは間違いないとツイートしていた。
エリートプロパガンディストも、ついにロシアの悲惨な現実を認め始めた。
プーチンの時代は、確実に終わりに近づいている。
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