いま韓国の「財閥ランキング」に起きている「大きな異変」
目立つ、順位の入れ替わり
財閥ランキングの入れ替わり
少し前になるが、4月27日に韓国の公正取引委員会が財閥などの指定に関して公表し、2022年は47の企業集団が財閥に指定された。
一般的には財閥と呼ばれるが、正式には「相互出資制限企業集団」である。「企業集団」とは「同一人」が事実上、事業内容を支配している企業の集まりである。「同一人」が自然人であれば「総帥」、法人の場合の「同一人」は中核となる企業となる。
財閥は一定の要件を満たした企業集団であり、財閥に指定されると一般の企業集団とは異なり、様々な規制をかけられる。
財閥に指定されると、規制が課せられるようになるが、そのひとつが相互出資の禁止である。この規制により財閥に所属する企業は株式の持ち合いができなくなる。そのため多くの財閥は、A社→B社→C社→A社という形で出資することで、事実上財閥所属企業で株式を持ち合う循環出資を行ってきたが、現在は新規に循環出資を行うことは禁止されている。さらに財閥に所属する他の企業の債務を保証することもできない。
さて2022年には47の企業集団が財閥に指定されたが、2022年の財閥について昨年からの変化を2点あげてみよう。1点目は上位財閥のランキングが久しぶりに入れ替わったことである。2010年から、総資産を基準とした財閥のランキングは、1位は三星、2位は現代自動車、3位はSK、4位はLG、5位はロッテで変化がなかった。しかし2022年にはSKと現代自動車が入れ替わり、SKが初めて財閥ランキング2位となった。
2021年と2022年の総資産額を比較すると、現代自動車が11.8兆ウォン(ちなみに最近の円ウォンレートに鑑みればウォンを10で割れば円に換算可能である。この金額であれば約1.2兆円となる。よって以下では、円への換算額は記載しない)で前年から4.8%の増加にとどまった。
一方、SKは52.4兆ウォンの増加であり、21.9%も増加した。このような総資産増加額の差によって、2021年にはすでに現代自動車に肉薄していたSKの総資産額が現代自動車を追い越すこととなった。
なぜ資産が増えたのか
SKがここまで総資産額を増やした要因を、公正取引委員会の公表資料と報道からみると半導体の売上増加と事業引き受けが挙げられる。SKには、SKハイニックスという半導体メモリーを製造する会社がある。
この企業は三星電子には及ばないものの、世界的にも半導体メモリーでシェアを有する企業である。コロナ禍の下、ネット会議などの普及により半導体需要が伸びるなか売上高が伸び、収益もあげた。その結果、余剰金が大幅に増えこれが総資産額の増加に寄与した。そのほか、インテルのNAND事業の引き受けのため、大規模な資金調達を行ったことも大きかった。
韓国経済はもともと半導体が引っ張る構造であったが、コロナ禍でその状況に拍車がかかった。そのようななか、有力な半導体製造会社を持つ、三星とSKが財閥ランキングで1位と2位を占めるようになったことは、まさに半導体主導の経済構造を持つ韓国を象徴する出来事であろう。
IT企業の躍進
昨年からの変化の2点目はITを主力とした財閥の総資産額が大きく増加し、財閥ランキングが上昇したことである。2022年度に財閥に指定されたITを主力とした企業集団は4つあるが、そのうち3つの財閥ランキングが上昇している。
第一はカカオである。カカオはポータルおよびインターネット情報媒介サービス企業の(株)カカオを中核とした財閥である。(株)カカオは、韓国最大の無料メッセンジャーアプリであるカカオトークを提供している。そして傘下企業にはカカオペイやカカオバンクもある。
カカオの総資産額は昨年より12.2兆ウォン増加し、これは前年比61.5%増である。この結果、財閥ランキングは18位から15位に上昇した。報道によれば(以下、総資産額増加の要因は同じ)総資産額増加の要因は、カカオペイとカカオバンクが企業公開した際、公募資金が流入したことである。
第二はネイバーである。ネイバーは、ポータルおよびインターネット情報媒介サービス企業のネイバー(株)を中核とした財閥である。ネイバー(株)は、韓国で最も利用されているインターネット検索サービスであるネイバーを提供している。
ネイバーの総資産額は昨年より5.6兆ウォン増加し、これは前年比41.5%増である。この結果、財閥ランキングは27位から22位に上昇した。総資産額が増加した要因としては、利益増に伴い余剰金が増えこれが総資産額の増加に寄与したとともに、系列会社が有償増資したことが挙げられる。
第三はネットマーブルである。ネットマーブルはオンライン・モバイルゲームのソフトウェアを開発し供給する企業のネットマーブル(株)を中核とした財閥である。
ネットマーブルの総資産額は昨年より2.6兆ウォン増加し、これは前年比24.3%増である。この結果、財閥ランキングは36位から35位に上昇した。総資産額が増加した要因は、ソーシャルカジノゲーム企業であるスピンエックスを買収したことである。
2022年の財閥指定からは、半導体企業を持つ財閥が上位を占めるとともに、IT財閥がじわじわと順位を上げていることがわかった。韓国政府は、アジア通貨危機の直後に金大中政権が発足した際、韓国をIT大国にするとの目標を掲げた。半導体もITを支える産業であることに鑑みれば、韓国の財閥は着実にITシフトが進んでいるといえる。
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