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中国共産党大会に向けて激化する、「革命第6世代のホープ」“首相昇格”をめぐる駆け引き

이강기 2022. 8. 23. 13:40

 

 

中国共産党大会に向けて激化する、「革命第6世代のホープ」“首相昇格”をめぐる駆け引き

現代ビジネス, 2022.08.23

 

第20回中国共産党大会に向けて

8月1日から15日まで、ちょうど半月にわたって、「中南海」(北京の最高幹部の職住地)の面々の動向が、プッツリと消えていた。だが16日からは、トップの習近平主席が遼寧省の錦州と瀋陽を視察。ナンバー2の李克強首相は広東省深圳を視察したことなどが、次々と報じられた。

 

そんな中で、いま、ひときわ存在感が増しているのが、胡春華副首相である。「革命第5世代」の核心である習近平主席の次世代、すなわち「革命第6世代」のホープと言われる59歳だ。

                                                                                                                                     Gettyimages

 

 

8月16日、胡春華副首相が、いきなり二つの会議を取り仕切ったことが報じられた。第一は、「第3四半期(7月~9月)『三農』(農業・農村・農民)重点活動オンライン調度会」で、新華社通信は次のように報じた。

 

〈 中国共産党中央政治局委員(党トップ25)で国務院副総理(副首相)の胡春華は、16日に北京で、「第3四半期『三農』重点活動オンライン調度会」で、こう強調した。習近平総書記の重要指示の精神を深く貫徹実行するのだ。コロナは防ぎ切り、経済は安定させ、発展は安全にという要求を全面的に実行する必要がある。秋の食糧生産をしっかり行い、養豚などの食料産品の安定生産、提供確保にいささかも手を抜かずに努め、年間を通した食糧の豊作を奪取できるよう努力するのだ。

 

胡春華は指摘した。秋の食糧生産量は、年間の食糧総生産量の4分の3を占め、食糧生産の大きなヘッドだ。秋の食糧生産の各項目の政策措置をうまく実行し、化学肥料など農業資源の安定供給を強め、農業の時期を失しないよう管理するのだ。全力で災害の阻止に赴いて豊作を勝ち取り、秋の食糧と大豆油の安定した増産を確保し、通年の食糧生産6500万トン以上の保持を確保するのだ……(以下略)〉

 

続いて、胡春華副首相が同日、「中国国際サービス貿易交易会組織委員会全体会議」を主催したことを、新華社通信が報じた。

 

〈 2022年中国国際サービス貿易交易会組織委員会全体会議が、16日に北京で開かれた。国務院副総理、組織委員会主任委員の胡春華が会議を主催し、講話を述べた。

 

胡春華は強調した。習近平総書記の重要指示の精神を真摯に貫徹実行するのだ。しっかりと最後の段階の各項の準備活動を行い、安全で精彩のある忘れがたいサービス貿易交易会となるよう心を一つにして協力するのだ。

 

北京市共産党委員会書記で、組織委員会第一副主任委員の蔡奇が会議に出席した。

 

胡春華は指摘した。サービス貿易交易会はサービス貿易の分野で重要な総合的国際展示会だ。またわが国の対外開放の一枚の名刺であり、サービスを開放、提携していく重要なプラットフォームを拡大していくものだ。今回のサービス貿易会を粛々と行うことは、ハイレベルの開放を推進し、サービス貿易の動きを刺激し、経済の安定的な発展の促進に、頗る重要な意義を持つのだ。各成員、部署は前期の良好な活動の基礎の上に、重点を目立たせ、工期を前倒しし、ハイクオリティな後続の準備活動を行うのだ。

 

コロナの防止を最優先させ、万一の失敗がないようにするのだ。全世界のサービス貿易サミットなどの重要な活動の丹念に執り行い、サービス貿易会の国際的な影響力をさらに引き上げるのだ。展示の募集などの活動を全面的に推進し、さらに素晴らしい展覧展示と商談が成立するよう努力するのだ。活動の機構制度を改善し、宣伝・安全・サービス保障などの活動を真摯に行うのだ……(以下略)〉

 

翌17日、胡春華副首相が、「全国外国貿易安定・外国投資安定・消費拡大テレビ電話会議」に出席したことを、新華社通信が報じた。

 

〈 中国共産党中央政治局委員、国務院副総理の胡春華は17日、北京で、「全国外国貿易安定・外国投資安定・消費拡大テレビ電話会議」に出席、そこで強調した。習近平総書記の重要指示の精神の真摯な学習を貫徹するのだ。信念を固く持って困難を乗り越え、外国貿易安定・学国投資安定・消費拡大のさらなる成就を推進し、通年の商務発展の主要な目標の実現に向けて努力するのだ。

 

胡春華は指摘した。党中央、国務院が手配したことを実行し、国内消費の速やかな回復を推進するさらなる有効な措置を講じていくのだ。サービス消費の速やかな回復を後押しし、日用消費の持続的拡大を促進し、新たな消費が健全に発展していくよう導いていくのだ。生活必需品の安定的な供給を決然と保障し、商業貿易流通の企業が困難を克服し、安定的発展をしていけるよう後押ししていくのだ……(以下略)〉

 

2日後の19日には、胡春華副首相が「全国就業活動テレビ電話会議・国務院就業活動指導小グループ全体会議」に出席ことを、新華社通信が報じた。

 

〈 中国山東中央政治局委員、国務院副総理の胡春華は19日、北京で、「全国就業活動テレビ電話会議・国務院就業活動指導小グループ全体会議」に出席し、こう強調した。習近平総書記の重要指示の精神を深く学習貫徹するのだ。さらに大きな努力で、就業の状態を一層安定させて好転させるのだ。そして経済社会の発展の大局に、積極的な貢献を果たすのだ。

 

胡春華は指摘した。党中央、国務院が手配したことを実行し、就業優先政策のリードを強化するのだ。百策千策を弄して新たな就業の職場を開拓し、多くのルートで融通を利かせて就業を後押しし、創業が就業を導くよう督励していくのだ……(以下略)〉

 

さらに週明けの22日午前中には、政協第13期全国委員会常務委員会第23回会議に招待されて出席し、報告を行ったと、新華社が報じた。

 

〈 中国共産党中央政治局委員、国務院副総理の胡春華は、招待を受けて主鬱積し、報告を行った。また現場で政協常務委員たちの意見、嫌疑を聴取した。胡春華は指摘した。習近平同志を核心とする中国共産党中央委員会の堅強な指導の下、わが国の就業活動は、多くの不利な要素の影響を克服し、不断に新たな成果を挙げている。

 

さらに一層、就業活動をうまく行い、必ずや党の就業活動の指導を堅持、強化し、就業優先の鮮明な指導の方向を堅持するのだ。労働力の配置の中で市場が決定的な役割を果たすことを堅持し、政府の役割をさらにうまく発揮することを堅持し、わが国の制度の有利さをうまく用いることを堅持するのだ……(以下略)〉

 

22日にはもう一つ、江西省九江で開かれた「持続可能な市場の提唱」中国理事会の成立大会で、オンラインで祝辞を述べたと、新華社が報じた。

 

〈 胡春華は示した。習近平主席は全世界の発展を提議しており、中国政府は生態文明建設と持続可能な発展を高度に重視している。(習主席と中国政府は)国際社会がいち早く国連の2030年の持続可能な発展の過程を実行するよう呼びかけており、さらに強力、グリーン、健全な全世界の発展の実現を推進している。習近平主席の関心と支持の下、「持続可能な市場の提唱」中国理事会が、正式に成立した。必ずや、工商界が参与する全世界の持続可能な発展事業の重要な協力のプラットフォームにしていくのだ……(以下略)〉

 

このように胡春華副首相は、今年後半に開かれる第20回中国共産党大会という「ゴール」に向けて、競馬で言うなら最終コーナーを曲がって勝負の直線に入ったこの時期、猛然と「ラストスパート」をかけ始めたのである。

習近平総書記への忠誠を猛アピール

こうした様子は、いまからちょうど10年前の李克強副首相(当時)の姿を髣髴させる。

 

当時、温家宝首相は、意図的に自らの仕事の一部を、忠臣だった李克強副首相に任せるようになった。特に国務院総理(首相)は、「中国経済の司令塔」と言うべき立場にあるが、温首相は中国経済の分野を、李副首相にバトンタッチしていく傾向があった。

 

今回も李克強首相は、自らが先端的な経済特区(彼らが崇める鄧小平元中央軍事委主席が1980年に最初に定めた経済特区)の深圳を視察しながら、胡春華副首相をバックアップし、かつ少しずつ胡副首相に仕事を委ねていこうという配慮が感じられるのである。

 

さらに、上記の6つの胡春華副首相の活動で共通する、彼が発言の冒頭で強調した「枕詞」がある。それぞれ順番に番号をつけて再出すると、以下の通りだ。

 

1)習近平総書記の重要指示の精神を深く貫徹実行するのだ。
2)習近平総書記の重要指示の精神を真摯に貫徹実行するのだ。
3)習近平総書記の重要指示の精神の真摯な学習を貫徹するのだ。
4)習近平総書記の重要指示の精神を深く学習貫徹するのだ。
5)習近平同志を核心とする中国共産党中央委員会の堅強な指導の下、わが国の就業活動は、多くの不利な要素の影響を克服し、不断に新たな成果を挙げている。

6)習近平主席は全世界の発展を提議しており、中国政府は生態文明建設と持続可能な発展を高度に重視している。

 

 

これでお分かりだろうか。「自分は習近平総書記に忠誠を誓います」ということを、わざわざ6回とも「枕詞」のように強調しているのだ。

 

これが何を意味するのかは、5年に一度の共産党大会前というタイミング、首相になれるかなれないかという胡春華副首相の立場を勘案すれば、自明の理である。すなわち、「自分が来年3月に首相の座に就いても、習近平総書記の地位を脅かさないし、絶対忠誠を誓いますので、どうか首相にして下さい」と、習近平総書記に対して間接的に懇請しているのだ。

 

胡春華副首相に関しては、8月前半の「空白の半月」を前にした7月27日、中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』の6面に、長文の署名記事を掲載したことが、「中南海」で大いに話題を呼んだ。タイトルは、「習近平総書記の『三農』活動に関する重要論述を指導のもととして、農村振興の新局面を奮闘して切り拓き全面的に推進する」。

 

その署名記事は、副首相として担当する農業問題について総括したものだった。紙面の5分の3を割いた長文だが、冒頭部分のみを訳出すると、以下の通りだ。

 

〈 第18回共産党大会(2012年11月に開催し習近平総書記を選出)以来、習近平総書記は大きな歴史観を用いて農業・農村・農民問題を見ることを堅持してきた。また中華民族の偉大なる復興の戦略の全局と、世界の100年間未曽有の大変局を統制する高みに立ってきた。そして「三農」の活動をうまく行うための一連の重要論述を発表し、農村改革発展の一連の重大な理論と実践の問題に対して科学的に回答してきた。そのことが農業農村の発展に歴史的な成就をもたらし、歴史的な変革を生んだ。

 

習近平総書記の『「三農」活動を論ず』の出版発行は、「三農」分野の一大事であり、重要なマイルストーンの意義を持っていた。私たちに完全、正確、全面的に、習近平総書記の「三農」活動に関する重要な論述の貫徹を実行させるためのもので、理論の手引きと行動の指南を提供してくれた。

 

「両会の確立」(両会は今年3月に開かれた全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)の決定的な意義を深く理解し、「4つの意識」(政治意識・大局意識・核心意識・一致意識)を強化し、「4つの自信」(中国の特色ある社会主義の道の自信・理論の自信・制度の自信・文化の自信)を堅持し、「2つの維持保護」(習近平総書記の党中央及び全党での核心的地位の維持保護・党中央の権威と集中統一指導の維持保護)を行うのだ。

 

習近平総書記の「三農」活動に関する重要論述の学習貫徹を、重大な政治任務としてしっかり実行していくのだ。習近平総書記の『「三農」活動を論ず』をよく学習し、よく用いて、「三農」活動の思想的武装を不断に強化していくのだ……(以下略)〉

 

このように、冒頭から「習近平総書記に全身全霊で忠誠を尽くします」と宣言しているのだ。

 

ちなみに数えてみたら、この長い署名記事には、「習近平」が51回(!)も登場していた。「習近平総書記の『深い知恵と切々たる愛情』に根づいて……」などと述べ、習近平総書記をまるで神のように崇めているのである。

 

実際に草稿を書いたのは、胡春華副首相の秘書だろうから、もしかしたら「習近平総書記の名前を50回以上出して崇め奉る文章を作れ」と指示したのかもしれない。

 

「現代版周恩来」を目指すのか

この長文を読んで、似たような文章をどこかで読んだことがあると思ったら、漢の武帝(紀元前156年~紀元前87年)の時代に活躍した司馬遷が書いた『史記』の一巻である。『史記』の人物・事物描写はどれも圧巻だが、全130巻の中で、同時代の武帝の治世を書いた「本紀第12巻」だけは、珍妙な内容だ。

 

武帝がどれほど偉大で聡明な賢帝であるかということが、これでもかというほど書かれている。今時の言葉で言うなら「ホメ殺し」の文章だ。

 

司馬遷は武帝の圧政によって、「宮刑」(男性器を切り取る刑罰)に処せられたほどで、心から尊敬する上司だったとは到底思えない。それでも圧政の実態を書くことなど許されるはずもないので、「ホメ殺し」して、後世の読者の判断に委ねようとしたと思えるのだ。

 

ともかく、7月27日の「胡春華論文」を読むと、この『史記』の武帝の一巻を思わせる。昨今の『人民日報』は、「習近平日報」と揶揄されるほど個人崇拝がかっているが、それでもこれほど「崇め奉る記事」は稀有である。しかも筆者は、『人民日報』の記者ではなく、副首相なのだ。

 

この記事に関して、もう一つ感じたことがある。それは胡春華副首相が、「自分は『現代版周恩来』になれます」と、習近平総書記にアピールしたかったのではないかということだ。

 

周恩来は、もともとは毛沢東の上司だったが、共産党軍が国民党軍に追われて逃亡中(共産党は『長征』と呼んでいる)だった1935年1月、貴州省遵義で行われた「遵義会議」で、立場が逆転した。「毛が謀り、周が動く」という両者の性格に合った上下関係が、この時から以後、41年間にわたって構築された。

 

毛沢東が、1976年に82歳で死ぬまで共産党主席(党トップ)の地位を31年間も維持できたのは、ひとえに「不動のナンバー2」周恩来首相の卓越した実務能力と行動力のおかげである。本人もそのことは重々承知しているから、あれだけ非情な幹部の粛清を繰り返したにもかかわらず、周恩来首相だけは一度も失脚させなかった。

 

その毛沢東主席を心底、崇め奉っているのが、現在の習近平主席(総書記)である。ところがこの10年近く、習近平主席がどれだけ「毛沢東主席のマネゴト」をやっても、何となく中途半端で空回りしていた。

 

その最大の理由は、習主席にとっての「周恩来首相」がいなかったからである。一応、李克強首相がいるが、習主席にとって李首相は、部下というよりライバルで、考え方も「水と油」だった。

 

「革命第2世代」の中心である鄧小平軍事委主席には、胡耀邦首相と趙紫陽首相がいた。「革命第3世代」の中心である江沢民主席には、朱鎔基首相がいた。「革命第4世代」の中心である胡錦濤主席には、温家宝首相がいた。

 

いずれも毛沢東主席と周恩来首相の関係に通じるものだ。というより、中国は2000年以上の長きにわたって、皇帝と宰相の二人三脚によって大国の政(まつりごと)を行ってきたのだ。

 

だが、重ねて言うが、この9年半近くというもの、習近平主席にとって「周恩来首相」はいなかったのである。20回党大会で「総書記3選」を目指す習近平としては、この点を何とかしたいと、切に思っているはずだ。

 

 

胡錦濤が胡春華を「氷漬け」にした理由

信頼できるナンバー2を置けなかったことは、習近平体制の成り立ちから見て、致し方のないことだった。

 

10年前の第18回共産党大会において、習近平副主席(当時)を総書記に推す江沢民グループと、李克強副首相を推す胡錦濤グループ(中国共産主義青年団派=団派)が激しく対立。妥協の産物として、習近平をトップの総書記・国家主席に、李克強をナンバー2の首相にしたのだ。「あとは二人でうまくやれよ」と、政略結婚させたようなものだ。

 

だが9年半近く経ったいまでも、両雄は傍目に見ても「仮面夫婦」の関係が続いている。本当に「水と油」だ。

 

いまからちょうど30年前の1992年に開いた第14回共産党大会で、最高実力者だった鄧小平は、「社会主義市場経済」の道を定めた。政治は社会主義(共産党の一党独裁)を貫くが、経済は資本主義社会のような市場経済で進んでいくということだ。このことは翌年、憲法15条にも明記した。

 

ところがその後の「中南海」は、「社会主義」を重視するグループと、「市場経済」を重視するグループとに分かれた。前者は「太子党」(革命元老の子弟)に多く、現在の代表格は習近平主席だ。後者は「団派」に多く、現在の代表格は李克強首相だ。

 

どちらが正しいのかは、容易に言えない。それぞれ長短があるからだ。例えば、前者が強くなりすぎれば中国経済が悪化し、後者が強くなりすぎれば腐敗が横行するし、対外的に弱腰になる。

 

そのような矛盾を抱えた「中南海」で、いま「我こそは『周恩来首相』になります」と名乗りを挙げたのが、胡春華副首相というわけだ。

 

胡春華副首相は、1963年4月に湖北省・五峰の農家に生まれた。「湖北の神童」と謳われ、16歳で中国最難関の北京大学中国文学学部に合格。首席で卒業した。

 

卒業後、14年にわたって「最果ての地」チベット自治区に勤務し、チベット自治区党委書記を務めていた胡錦濤が、自分の息子のようにかわいがった。1997年から4年間の共青団本部勤務を経て、2001年から2006年まで、再びチベット勤務。2006年に共青団トップの中央書記処第一書記に就任した。

 

なぜ胡錦濤は、これだけ長期間にわたって、標高3600m(富士山山頂と同じ標高!)のラサに、息子のような胡春華を「氷漬け」にしたのか。それはある時、中国共産党の関係者が教えてくれた。

 

「『革命第4世代』の中心である胡錦濤総書記は、自分の権力基盤が固まり、『革命第6世代』の中心に据えようとする胡春華が、『革命第3世代』の中心である江沢民一派に蹴落とされることがないと見極めるまで、胡春華を北京に戻さなかったのだ。胡春華がチベットにいる限り、江沢民は手を出してこないからだ」

 

この言葉を聞いて、「中南海」の権力闘争のすさまじさの一端に触れた気がした。

だが、胡錦濤政権が北京オリンピックを成功させた2008年、胡春華は名前の通り「春の華」を開かせた。河北省党委副書記を命じられ、2009年にはバブル経済に沸く内モンゴル自治区党委書記となった。

 

2012年に習近平に総書記をバトンタッチした時、胡錦濤は胡春華を、中央政治局委員(党トップ25)兼広東省党委書記に据えた。広東省は中国最大の経済力を誇る省であると同時に、北京から2200kmも離れた広州に置けば、習近平総書記に失脚させられるリスクも減らせると考えたのだろう。いわば「親心」だ。

 

実際、団派の兄貴分である李克強首相が、胡春華広東省党委書記を守った。

 

習総書記の巻き返しはあるか

それから5年後、2017年に第19回共産党大会を迎えた時、胡春華が党常務委員(党トップ7)に上がれるかどうかが焦点となった。上がれば、次の2022年の第20回党大会で、習近平総書記に代わり党総書記(党トップ)を射止める道が開けてくる。

 

この時、胡春華を党常務委員に引き上げたくない習近平総書記の方が、先に「勝負」に出た。19回党大会を3ヵ月後に控えた2017年7月、胡春華広東省党委書記と並んで「革命第6世代」のホープと言われていた孫政才党中央政治局委員兼重慶市党委書記を失脚させ、監獄にぶち込んだのである。いわゆる「見せしめ人事」だった。

 

これに震え上がった胡春華は、一計を案じる。前出の党関係者は、こう語った。

 

「19回党大会を2ヵ月後に控えた2017年8月、胡春華は習近平に手紙を書いた。それは、『自分はまだ未熟者だから、党常務委員になる資格はない。それよりも地方や農村の仕事に邁進させてほしい』という内容だ。だが一つだけ条件をつけて、『「人民日報」に、この4年数ヵ月の広東省の経済の発展ぶりについて署名で書かせてほしい』というものだった。習近平総書記はこれを承諾した」

 

つまり19回党大会は、胡春華の「不戦敗」だったのだ。胡春華は、同年8月30日付の『人民日報』で、広東省の経済成長ぶりを綴った署名記事を書いた。そして同年10月の19回党大会で、習近平総書記は長期政権を示唆する3時間20分に及ぶ大演説をぶった。かつ「革命第6世代」を党常務委員に引き上げなかった。

 

胡春華は翌2018年3月、農村担当の副首相に任命された。4人いる副首相の3番手である。そこからまた4年以上、雌伏の時を経て、今回満を持して「勝負」に出たというわけだ。そのセールスポイントは、重ねて言うが、「自分は習近平総書記にとっての『周恩来首相』になれます」ということだ。

 

胡春華副首相にとって、最大のライバルは、習近平総書記の浙江省時代からの側近である李強党中央政治局委員兼上海市党委書記である。李強書記こそは、習近平総書記が次期首相に抜擢したい「意中の人」だからだ。

 

冒頭で述べたように、「中南海」は、8月前半に「空白の15日間」があった。毎年この時期は、河北省北戴河の海岸で「北戴河会議」を開くのだが、今年は習近平総書記が、「中台有事」を理由に北戴河に行っていない可能性がある。そのことは、先々週のこのコラムで詳述した通りだ。

 

⇒「ペロシ氏訪台劇」で見せつけた習近平総書記の「老獪な誘導戦術」〜これで「3選」の可能性は高まった

 

だがその場合も、習近平総書記お得意の「オンライン会議」は開けたはずである。すなわち、現職の最高幹部は北京の「中南海」から、長老(引退した元幹部)たちは北戴河から参加するという具合だ。そこで来たる20回党大会の主要人事や方針を内定させたということだ。

 

その後の展開から見て、「二つの重要事項」を内定させたのではないか。すなわち、第一に習近平総書記の続投、第二に胡春華副首相の首相昇進である。

 

それとともに、中国経済の足を引っ張る悪名高い「ゼロコロナ政策」も消えていく可能性がある。習近平総書記にとって、「総書記3選」が内定すれば、経済政策は李克強グループに任せても構わないからだ。

 

習近平総書記は8月16日、遼寧省錦州を視察し、真っ先に遼瀋戦役記念館を訪れた。そこで幹部たちを前に、国共内戦の「3大戦役」(1948年9月から1949年1月にかけて行われた「遼瀋戦役」「淮海戦役」「平津戦役」)で、いかに毛沢東主席が偉大な勝利を収めて新中国建国に導いたかを強調した。

 

だが「3大戦役」で毛沢東主席は一度も出征しておらず、人民解放軍を実際に率いたのは、林彪や鄧小平だった。習総書記は、もしかしたら20回党大会までに、「李強首相」を誕生させるべく、再度巻き返しを図るかもしれない。

 
 

 

 

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