中國, 韓.中關係

ダライ・ラマ後継に介入する中国 チベット支配強化狙う

이강기 2022. 9. 15. 16:47

ダライ・ラマ後継に介入する中国 チベット支配強化狙う【解説委員室から】

 

杉山文彦

2022年09月11日11時00分

インド・ラダック地方のモスクを訪問したチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世=2022年8月16日、インド・レー【AFP時事】

 

 

 チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が87歳になった。なお精力的に活動しているが、高齢を気遣う声も強まっている。信者から一身に敬愛を集めるチベット社会の精神的支柱にもし万一のことがあれば、その衝撃は計り知れない。とりわけ懸念されているのは、中国政府が自分たちの意のままになる人物を一方的にダライ・ラマの後継者に選び、チベット支配の強化に利用しかねない問題だ。(時事通信解説委員 杉山文彦)

 

 

【写真特集】ダライ・ラマ14世

ひざに問題も健在誇示

 ダライ・ラマの半生はまさに波乱万丈だ。2歳で13世の生まれ変わりの「輪廻(りんね)転生者」に認定され、4歳で即位、標高4000メートル級の世界の屋根チベットに君臨した。ところが平穏だったチベット高原は1950年、中国共産党政権の軍靴に踏み荒らされた。1959年3月の民衆蜂起も鎮圧される中、命からがらインドに亡命。非暴力によるチベット解放を訴え続け、1989年にノーベル平和賞を受賞した。

インドの初代首相ネルー氏にチベットの伝統的な帯を手渡すダライ・ラマ14世=1959年9月7日、インド・ニューデリー【AFP時事】

 

 ダライ・ラマ法王日本代表部事務所のアリヤ・ツェワン・ギャルポ代表(57)は、筆者のインタビューに応じ、「法王は今もお元気です。ひざに少し問題があり、立ち上がるときに二人がかりで支えられるようになりましたが、散歩などもしています」と明かす。

 

 7月6日に87歳の誕生日を迎えた後も、ダライ・ラマは亡命政府があるインド北部ダラムサラからカシミール地方の仏教徒が多いラダックへ出掛け、信者と交流を重ね続けてきた。コロナ禍のこの2年間、ずっとダラムサラにとどまり、人と会うことも少なかったが、久々の旅行で健在ぶりを示した格好だ。

 
 
 

インドで転生者発見も

 だが、中国は早々と後継者問題で圧力をかけ始めた。すでに中国国家宗教事務局は2007年、「チベット仏教活仏転生管理弁法」を制定、転生者決定に当たっては歴史的な慣例・宗教上の規則・中央政府の認可という三つの原則および国家の関連法規を守る必要があるとして、あくまで中国政府主導で後継者を決める方針を打ち出している。

 

 これに対してダライ・ラマは、「自身の後継者を選ぶ権利は中国にはない」とたびたび強く反論してきた。

 その第1の理由は、チベットが歴史的に中国とは異なる文化圏に属し、長く独立した地域だった点にある。

日本外国特派員協会で記者会見するダライ・ラマ法王日本代表部事務所のアリヤ代表=2021年5月17日、東京都千代田区【時事通信社】

 

 17世紀以降は、歴代ダライ・ラマがチベットの政教一致社会の頂点に立った。その後継者の選定方法も独特の仏教教義に基づくものだ。観音菩薩の化身とされるダライ・ラマは、人々を救済するために輪廻転生を繰り返すといわれる。1933年に13世が亡くなったときには、生まれ変わりを僧たちが探し歩き、「聖なる湖」の湖面の相などから、チベット東北部の村の農家にいたラモ・トゥンドゥプという2歳の男児を認定した。それが現在の14世だ。このようにチベットは、中国の伝統文化とは相いれない部分が多い。

 

 第2の理由としてダライ・ラマは、中国共産党が無神論を掲げている問題を挙げる。

 
 
 

 「前世・来世の存在すらも認めない政治権力者たちが、ラマの化身転生者、さらにはダライ・ラマと(チベット仏教第2の高僧)パンチェン・ラマの化身認定に強制的に介入するのは極めて不相応なことで、彼ら自らの政治信条も偽るような恥知らずの虚言的謀略にすぎません」。ダライ・ラマは2011年の時点でこう述べている。

 

 第3に、観音菩薩の化身として人々を救い導くべきダライ・ラマは、「その目標を達成できるような、自由な国の中で生まれ変わらなければならない」という思いがある。

 

 アリヤ氏は「中国が今のように弾圧を繰り返し、法王が何もできない状況をつくるのなら、輪廻転生には何の意味もない」と憤る。その上で、「自由な国」として「例えばインドが考えられる」と語った。ダライ・ラマも、亡命した自分を追ってインドへ逃れた人々の子孫ら約10万人が暮らすインドで、転生者が見つかる可能性を示唆している。

 

失踪したパンチェン・ラマ

 しかし、たとえ後継者を亡命政府が認定しても、中国側がそのまま受け入れる見込みはほとんどない。ダライ・ラマ14世のことを共産党政権は独立を目指す「分裂主義者」と見なし、敵視しているからだ。

 

 実際、中国がチベット仏教界の後継問題に介入した前例がすでにある。

 
 
 

 1995年5月、ダライ・ラマは当時6歳のゲンドゥン・チューキ・ニマというチベットに住む少年を、阿弥陀如来の化身とされるパンチェン・ラマの11世に認定した。ところがそのわずか3日後、この少年は両親とともに拉致された。そして中国政府は同年11月、別のギャルツェン・ノルブという6歳の少年を一方的に「パンチェン・ラマ11世」にまつり上げた。

ダライ・ラマ14世からパンチェン・ラマの転生者と認定された数日後、拉致されたゲンドゥン・チューキ・ニマの写真を掲げるチベットの人々=1995年11月8日、インド・ニューデリー【AFP時事】

 

 

 それから四半世紀が過ぎても、ダライ・ラマが認定したパンチェン・ラマ11世は失踪したまま。米国務省は今年4月25日、声明を出し、中国に対して「きょうはパンチェン・ラマ11世であるゲンドゥン・チューキ・ニマの33回目の誕生日だ。その居場所と生活状況を直ちに説明し、彼に完全な人権と基本的自由の行使を認めるよう求める」と迫った。

 

 アリヤ氏は「中国側の『パンチェン・ラマ11世』は、皆の前で仏教に中国政府のプロパガンダを混ぜたようなことを無理やり言わされています」と嘆く。「彼もかわいそうです。これは宗教ではないし、道徳でもない。長くは続かないですよ」

「国際社会は抗議の声を」

 ダライ・ラマの後継者も、中国が選定に介入すれば、操り人形にされる恐れがある。

 

 ダライ・ラマ14世は2011年、首相職を亡命政府に設け、政治指導者の立場からは退いた。とはいえ、その存在はチベット人社会で圧倒的であり、一方、中国にとってはなお大きな壁と映っている。

 
 
 

中国の全国人民代表大会で拍手をする中国政府公認の「パンチェン・ラマ11世」(中央)=2019年3月10日、北京【AFP時事】

 

 

 共産党政権はチベットで中国への同化政策を推進し、政教一致社会の転換を図ってきた。多くの仏教寺院を破壊し、中国語教育を強制した。中国人の移住者も増やし、チベット人600万人に対して中国人が750万人と、人口も逆転した。だがアリヤ氏は「中国はチベットを侵略してからもう70年になるけれど、いまだに完全に支配できていない。私たちは土地を奪われたものの、チベットの文化、宗教のアイデンティティーはとても強く、ナショナリズムを守ることができたのです」と話す。

 

 その中核にいるのがダライ・ラマ14世だ。だからこそ中国は後継者選定を主導しようと動いている。アリヤ氏は危機感を募らせ、「中国が自分勝手なことばかりするのに対して、国際社会も沈黙せず、抗議の声を上げてほしい」と訴えている。

 

(2022年9月11日掲載)

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